「な、なにやってんの?あんた達…」
ミリアリア・ハウは目の前の光景に眩暈を覚えずには居られなかった。なぜなら・・・・
「や〜あ、誰かと思えば」
「あら、ミリアリアじゃない」
「・・・・(ムスッ)」
行方を眩ませた<アークエンジェル>のクルーと、誘拐された筈のオーブの国家元首がザフト基地の目前の浜辺で、暢気に店を開いているのだ。
正直、我が目を疑った。
「じつは、『かくかくしかじか』…というわけなのよ。世知辛いわね、世の中って…」
「あの、私が聞きたいのは…」
「いや〜、始めてみるといいもんだねぇ。客商売っていうのも」
「あの〜」
「お前は嵌まり過ぎだ。全然違和感がないぞ」
「聞いてる?」
「実を言うとねぇ、昔から憧れていたんだよ?自分の店を開く、って。でもほら、戦場でそんなこと言っちゃったら死んじゃうからねぇ」
「わかるわぁ、馬鹿に出来ないものね、ジンクスって」
「私にはさっぱりだ」
「・・・・こっちはもっとサッパリよ」
結局、すったもんだの末になんとか理解はした(納得はしてないが)ミリアリアは辺りを見回す。
「そういえば、キラは?マードックさん達もいないようだけど…」
「ああ、彼にはちょっと軍のコンピューターにハッキングしてもらってるの。あの子、得意だから」
「技師長なら自分の発明品を向こうで売りつけてるよ、他のクルーも似たようなもんさ」
「……最初のは聞かなかったことにしとく。それで?ラク…」
「ああ<お姫様>かい?彼女ならコンサート見に行ってるよ。そろそろ帰ってくると思うが…」
「私もお姫様なんだぞ・・・・ブツブツ」
「ちょっと、本気なんですか?いくらなんでも・・・・」
「だ〜いじょうぶ、ばれやしないわよ。ちゃんと変装させてるし、世の中にはアイマスク付けるだけで正体を看過されない偉人がたくさんいたのよ?」
「世の中そういうもんさ」
ちょっと不安になったのかミリアリアはカガ…失礼、<リオンヌ>に耳打ちする。
「・・・・・ねぇ、大丈夫?暑さで頭が…」
「さあな。大体、それを言うなら私はどうなるんだ?全っ然ばれないんだぞ」
「まぁ、誰も一国のトップが焼きそば売ってるなんて思わないし…(それに凄く手馴れてるし)」
「あらあら?もしかして、ミリアリアさんじゃありませんか?」
噂をすればなんとやら、当の本人がノンノンっと、日傘にハロの形をした帽子を被って現れた。
「ひ、久し振りね」
なんでばれてないの?なんて思いつつ挨拶を交わす。
「あら?あらあら?」
何を思ったのか、ラク…<お姫様>はミリアリアの周りをぐるぐると回りながら眺める。
「な、なに?」
それには答えず、背後に回った<お姫様>はおもむろにミリアリアの腰を両手でさわさわ撫で始めた。
「ひゃっ!?な、なんなの?」
「ミリアリアさん…なんだか腰周りが豊かになられたような…」
「なっ!なによ急にぃ…」
「そうそう!私もそう思ったわ。なんていうかこう…カラダがオトナっぽくなったわね」
「ああ、それならボクも同意見。いやはや、これはもしかして…」
<マリア・ベルネス>と<タイガー>がニヤニヤ笑いつつ顔を見合わせる。
「い、言っときますけどっ、アイツとはもう別れたんですからね!?」
顔を赤らめながら必死に誤魔化そうとするが・・・・・
「ほぉ〜〜、ならば新しい恋を見つけたってことかい?いやいや実に結構だね」
「そうよ、ミリィ。若いんだし、恋愛はシタ者勝ちなんだから」
「だ、だから」
訳知り顔でウンウン頷く二人に反論しようとするも所詮年季が違うのか良いようにあしらわれてしまう。それに…
「うらやましいですわ、ミリアリアさん。きっと、素敵な殿方なのでしょうね」
「う〜ん、言われてみれば…。少し尻が大きくなったか?」
と<お姫様>に<リオンヌ>まで参戦するからミリアリアはまな板の鯉状態である。そこへ・・・・・
「フーー、やっと終わった」
とキラが何か『ひと仕事やり終えた』って感じの爽やかな顔で現れた。このチャンスを逃すミリアリアではない。
すかさず・・・・・・・・・
「あ!キラっ!!」
「…あれ?ミリアリア?」
やあ久し振り、ってな具合に話題変更を試みて、ことのついでとばかりに皆で記念撮影を撮りましょう!?と提案する。
これには全員が賛成の意向を示し、即座に浜茶屋をバックに記念撮影と相成った。
「はぁ〜い、それじゃあ撮るわよぉ」なんて言いつつファインダーを覗き込む。
(う〜ん…『不沈艦アークエンジェルの艦長』に『砂漠の虎』、『プラントの歌姫』、『オーブの国家元首』、おまけに今や伝説となった『フリーダムのパイロット』…か。
カメラのレンズがヒビ割れそうな凄い構成よね、考えてみたら…)
そんな集団がザフト軍基地を背景に、にこやかにポーズを取ってるんだから恐ろしい。この写真をザフト軍に見せたら・・・・宣戦布告以外の何者でもない。
ぶるっ
自分の想像に寒気を感じたのか、早く終わらせようとシャッターを切った・・・・瞬間!!
パシャっ!!!
「え、アムロさん!?」
慌てて顔を上げて見る。
ほんの一瞬だが、背後の人混みの中にアムロ・レイの姿を見たような・・・・
「気の・・・せいかな」
と、ちょっとがっかりしながら視線を感じると…。
「あ…」
先ほどの面々が(事情のわからないキラを除いて)、にやにやしながら自分を見つめていた。
「あっええっと、じゃ、じゃあ、私はこれで…」
ガシッ!
「おおっと水臭いじゃないか。折角会えたんだ、この後打ち上げ会をやるから是非参加してくれたまえ」
「そうよ、ミリィ。ふふっ、今日は徹夜で騒ぐわよぉ」
「あらあら、まあまあ」
「いったいどういうこと?」
「まったく…これで今日の稼ぎは全て消えるな」
(う、恨むわ、アムロさん・・・)
自分のホテルの部屋に戻ったアムロはソファにドッカと座り込む。
「ふう」
あの後、ラクスをザクからステージに降ろしたアムロは落ちたハロを探した。
落下した衝撃か、不規則に飛び跳ねて回るハロを捕まえるのは人でごった返す会場では困難だった。
結局捕まえたのは夕方近くである。
コンサートを終えたラクスに、故障しているかもしれないから修理したほうがいいと告げたら、その場にいたサラに
「あら、それでしたら直していただけません?」
と言われて…彼女らも自分たちと同じホテルに泊まると聞かされたので引き受けたのだが…。
ちらりと赤いハロに目をやるも、先ほど電源を切ったのでうんともすんとも言わない。
(色々と確かめたいこともあるが、約束もあるし…明日にしよう。ラクス嬢も明後日までは滞在するそうだし)
洗面所に向かい顔を洗って身だしなみを整えると、アムロは部屋を後にする。
ブンッ……カチ…カチッ…
『・・・・・・・・・・・・』
「今日はご苦労様…疲れたでしょう?」
「そうでもないさ。普段に比べれば楽なもんだよ」
タリア・グラディスの泊まってる部屋をノックすると、軍服を少しはだけさせたタリアが出迎えてくれた。
「軍服を着てないとなんだか落ち着かなくて…」
と言いながら微笑むタリアの締まった腰を抱き寄せ、軽く唇を被せる。
「…アムロ」
「駄目かい?」
そうじゃないけど、と言葉を濁すタリアだったが、その様子がいつもと違うようにアムロは感じた。
「座って話しましょう」
とアムロをソファに誘い、腰掛ける。
「・・・・正直、戸惑ってるわ。自分に・・・」
「自惚れて言えば、僕のせい…かい」
アムロの言葉にくすっと笑うと彼の額をチョンと突っつく。
「ふふ、そうよ。その自惚れ屋のせいよ。・・・隠さずいうわね、私は・・・ここまでの関係になるなんて全然思ってなかったわ」
「・・・・・」
「貴方と初めて過ごした夜は、同情を多分に含んでたと思う・・・今思い返すと、ね・・・。それからも何度か肌を重ねて、貴方を知るほど…自分の定めた境界が曖昧になっていったわ」
「…駄目なのかい、それじゃ」
「そうね、駄目なのかもしれないわね…。公私の両方に貴方が深く関わっている以上、線引きは必要だわ。私は艦長、貴方はパイロット。本来ならそれだけの間柄だった。
でもね、最近になって…いえ、違うわね…今日、気付いたわ。貴方が艦を離れてからほんの半日のあいだよ?ふと気を抜くと貴方のことを考えてしまう私がいたわ。
まるで…昔の恋を知ったばかりの頃みたいに、ね」
その頃を思い出したのか、遠い目をするタリアをアムロはじっと見つめる。
やがて、覚悟を決めたのか・・・目に力を込めてタリアはアムロの膝に置かれた手を握る。
「今日で、終わりにしましょう?」