もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


125氏  『メビウス・リンク』

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三時間前・・・
プシュー
後ろで自動ドアが閉まる音を聞きつつ、疲れが澱のように溜まっている首筋を労わるように揉み解していると後ろから唐突に声を掛けられた。
「あ、アムロ大尉」
「ん?…アスランか」
声を掛けてきたアスランを振り返り見たアムロは、彼の顔に浮かぶ苦悩が見て取れ、軽く眉をひそませた。
「どうかしたのかい?」
「いえ、ハイネを見舞おうと思ったのですが…」
「大したことはないそうだ。軽い脳震盪と胸に打ち身を負ったくらいで、今は寝ているよ」
「そうですか…」
アムロの話を聞いてもアスランの表情は曇ったままで、どことなく覇気がない。
内心、彼にはもっと隊長らしく毅然としてほしいとは思うが、あまり面と向かって言うわけにはいかない。
「少し、話さないか?」
「え?」
「どうやらお互い、胸に溜まっているモノがありそうだからね。そういったモノは早めに吐き出してしまったほうがいい」
そう言うと、笑いつつ、少し先のほうにある休憩所を顎で示す。

自販機からコーヒーが入ったカップを取り出すと、片方をソファに腰掛けたアスランに手渡す。
「ありがとうございます」
「いや。……今日の戦闘のことだろう?」
自分はソファに座らずに、壁際に寄りかかる。
「……アムロ大尉はご存知ですか?ワタシがオーブの…」
「ああ、グラディス艦長からおおまかな話は聞いている。君が途中で割って入ったあの戦艦(アークエンジェルといったか?)とともに前大戦を戦ったことも」
「あの戦艦――いえ、フリーダムのパイロットとオレは――親友なんです。名前はキラ・ヤマト」
そして、アスランはポツポツと語り始めた……前大戦からのその親友との、血で血を洗う戦いの記憶を。
そしてその中で、自分はカガリ・ユラ・アスハと恋仲になり、戦後において彼女の役に立とうと決心したことを訥々と。

どことなく懺悔を思わせるアスランの独白を聞いているうちに、アムロは軽いデジャヴに襲われた。
かつての自分の境遇に似通った部分が、その少年――キラ・ヤマトと重ねあわされたからだ。
しかし、そんなことはおくびにも出さずにアムロはじっと聞き入っていた。
それから暫く後・・・
「大体の事情は飲み込めた」
おそらくアスランにしても全てを語ったわけではないのだろうが、それをするには時間が足りなかった。
「正直、アムロ大尉がキラを――フリーダムを抑えなければ、事態はどうなっていたかわかりません。あの最初の一撃だってそうです。チャージ中の主砲に直撃を受ければ最悪、撃沈だったことも」
まるで他人事のように言ってくれる……とアムロは思わないでもなかったが、押し隠しつつ洩らした。
「結局、彼らがもたらしたものは破壊と混乱だけだったな、意図はどうあれ」
「………」
そのアムロの言葉にクッと唇を噛み締めるアスラン。
「ひとつ、聞きたいんだが」
「はい」
「彼…そのキラ・ヤマトだが、いつもあんな戦いをするのかい?」
「それは、あの、敵機を落とさずにいることですか?」
「ああ、ああいう風にしているのはあの場だけなのか、それとも」
「キラは殆んど、ああしている筈です。もともと争い自体好みませんでしたし、戦場でも出来得る限り殺したくないと」
アスランのその答えにアムロは目を細めると、冷徹ともとれる声音で呟いた。

「サディストだな」


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「アムロさん?」

「ん?」
ハッとして声を掛けられた方に目をやると、息を嗅げるほど至近距離に立つルナマリアがこちらを窺っていた。

(しまったな、ぼーっとしてしまった)

つい二時間ほど前のことを反芻していたら、隣から掛けられた声に反応できなかったようだ。
「あ、ああ済まない。来たかい?」
「いいえ、まだです。まっっっったく余計な手間かけさせて!今度はウメボシじゃ済まさないわ!!」
そう言いつつ、自分の胸の前でぐりぐりと拳を突き合わせるように動かすルナマリア。
その血気盛んに、ある意味ハイになっているルナマリアからそっと目を離すと、反対側に座ってるシンと目が合った。

「はぁ…」

こっちは早く開放されたい、と表情にアリアリと浮かばせてながら溜息を吐く。
「それで、なんだってこんな物が本部から送られてくるんです?」
胡乱げにピラピラとそのミョーチキリンなモノが描かれた紙を振るシン。
「ばっかねぇ、聞いてなかったの?シン」
「聞いてないよ」
「だ・か・ら、よりにもよってこのワタシが、こんなモノを本部に書いて寄越したんじゃないかって副長に疑われたのよっっ!!」
更にヒートアップしたのか、ガーーッといきりたつルナマリアを少し引きながら見つつ、アムロは再び回想し始めた。



あれからアスランと別れて軽く腹ごしらえしようと食堂に立ち寄ったアムロは、ルナマリアが副長のアーサーに食って掛かるのを見つけた。
ほかに居た者が遠巻きに見つめる中、
「・・・・・!!」
「・・・・・!?」
「?」
気にはなったが、まずは空腹を満たそうと思い至ったのか、トレーに適当に盛り付けてテーブルに着く。
そして、栄養ドリンクに口を含んだところで…、
「だから知りませんってば!大体なんですか、この『ゾゴジュアッジュ』って!!」

ブゥーーー!!

思わず飲み込みかけたものを霧状に吐き出してしまったアムロは激しくむせた。
「ゲホッ、カッホ、ゲホッ!」
その挙動不振なアムロに食堂全員の視線が集中し、ルナマリアとアーサーも口論(といってもルナマリアが一方的に食って掛かってアーサーは防戦一方だったが)をやめてアムロを見つめる。
己に視線が集中しているのを自覚しつつ、アムロは器官に入った液体にむせる呼吸を涙ながらに必死に整えていった。
「だ、大丈夫ですか?アムロさん」
すかさずルナマリアが布巾を持ってきてテーブルを拭いながら、アムロの背を擦ってやる。
「(ゲホゲホ)…す、すまない、ルナマリア。もう大丈夫だ、ありがとう」
手を挙げてもう大丈夫だと言うと、こちらをポカンと見つめているアーサーを見やる。


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「副長、よかったらちょっと見せてくれないか?」
「え、ああこれですか」
アムロが近付き、そのプリントされた用紙を受けとると…其処には、

ほぼ胴体の前面を覆うモノアイ(睫毛装備)に、その下部にどう見ても口紅をつけた唇にしか見えない物体
その左右には三対の触手状のモノが生え、脇にはご丁寧に<必殺三段突き!>と書かれてあった
なにより、ニョキっとがに股風に生えた足にハイヒール装備
しかも、赤くてつの付き

といったなんとも奇妙な、子供が書くより下手なMSもどきが描かれてあった。
しかも親切なことに、それはCGで描かれ、内蔵火器の詳細なデータまでもが付けられていた。

幻通でもなくキリキリと痛むコメカミを指で押さえつつ、アムロはゆっくりと、噛み締めるようにアーサーにいった。
「すまない、副長。ぼくの方に心当たりがある。責任もって当事者にはお灸を据えるからこの件は任せてもらえないだろうか?」
「え?あ、ああ別に構いませんが。報告だけはしてくださいよ」
「了解だ」
そう返事すると、
「え、ちょ、アムロさん?」
傍にいたルナマリアの腕をぐぃっと掴むと戸惑う彼女に構うことなく食堂を連れ立って後にした。


「と、まあこういうわけよ」
「……」
シンにしてみれば、なんでそれだけであのペットロボットがやったと分かるのか、何より何時になったら自分は解放されるのか等、聞きたいことはまだあったが怒りに燃えながらもどこか嬉しそうににやけているルナマリアを見てると言う気も失せようというものだった。
ふうぅと若干あきらめながらシンがこっそり廊下を窺うと・・・、
「あ…」
「来た!?」
「……」
下から、シン、ルナマリア、アムロといった順でそ〜〜っと廊下を覗く。
トラップ(笑)を挟んで反対側からこちらにトコトコ向かってくる、例の『赤いハロ』と…メイリン・ホークの姿があった。
「メイリンじゃん」
「あっちゃ〜、あの子ったら相変わらず間の悪いところに…」
「そうなのかい?」
アムロがどことなく愉快そうにルナマリアを見下ろすと、
「そうなんですよ。あの子、昔っから間の悪いタインミングで転んだり、喧嘩に巻き込まれたりしてたんです。だから、そのうち事故に巻き込まれないかと心配で……」
まるでお母さんみたいに妹のことをぼやくルナマリアを優しげに見つめるアムロだったが、
「ルナマリア、まるでメイリンのお袋みたいだな」
と悪戯っぽく言うシンに対し、
「……どういう意味よ」
と目下のシンのどたまに拳骨を振り下ろすのを見て「言わなくてよかった」と思った。
そうする内に、むこうからなにやら話し声が聞き取れるようになってきたのでシンもルナマリアも押し黙った。


『ライラ〜♪ ライラ〜〜♪ ライリ〜リラ〜〜♪』


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ヘンテコな歌?を唄いながらテーンテーンと跳ねるハロを横目で見ながらメイリン・ホークは、
(このコって時々ミョ〜にオジン臭いのよねぇ)と、本人?が聞いたら落ち込みそうなことを考えつつ一緒にテクテク歩いていた。
「ねえねえ、さっきの件だけど……って、あら?」
『ハロ?』
二人してやっと目の前のブービートラップ(笑)に気付いたのか、ピタリと足を止める。
「な、なにこれ?」
と奇しくも先ほどのシンと同じことを言いつつ、ソレに近付こうとしたら…。

『ハローーーーー♪』

ザルの中の小瓶に気付いたのか、赤いハロが猛然と飛び跳ねながらソレに近付いていった。
「あ、ちょっと!まってよっ!」
慌てて追おうとするが、時すでに遅し。

『ゲッチュウッ♂』――とその小瓶にパックリ。
そして、待ってましたと言わんばかりに倒れるザル―――『ハロ!?』――まさに飛んで火にいるナントヤラ。

「(ガッツポーズ)やったわっ!」
「(驚愕の顔)フツーかかるか?」
「(大いに落胆した表情)…ふぅ」
三者三様、感情を露にしつつ呆気にとられるメイリンの前に集まる三人。
「お、お姉ちゃん?」
「メイリン、話は後よ。さあてどうしてくれようかしら」
と爛々と目を輝かせつつ、指をこきこきと鳴らすルナマリアに、
「小瓶ってなんだったんすか?」
とさっきから気になっていたことをアムロに訊ねるシン。
「何考えてるんだ、貴様は」
と逃がさないように慎重にザルの中からハロを掴み出すアムロ。

『ナ、ナメラレタモノダナッッ!! ッツカザルノジテンデッッ!!!!』

などと掌のなかでもがく赤いハロだったが、「引っかかっておいて偉そうなこと言ってんじゃないの」とビシッ!とルナマリアからデコピンされ沈黙。
「ん?」
一歩離れた位置のシンが床に転がっている小瓶に気付いてソレを拾い上げる。
「………プラカラー:赤(半光沢)」
「ああ、すまないシン。それはヨウランから借りたモノなんだ」
「あ、じゃあオレが返しておきますよ。用事もあるし」
「そうか、すまないな……さて、話は食堂でゆっくり聞こう。まだ食事の途中だったし、今はそんなに人もいないだろう」
「そうですね♪んみっちりと聞かせてもらわないと」
「ねぇ、お姉ちゃんってば。どういうことか説明してよ」
『・・・・・』

歩き去る三人を見送りつつ、シンにはふと疑問に思うことがあった。
「・・・オレたちって、いま戦争してるんだよな」
こんなことでいいのか、と疑問に思いはするが不思議と不愉快ではなかった。
むしろこういったドタバタが、戦場でささくれ立ったシンたちの心をほんの少し癒していることに本人たちが気付くのは、もう少しさきの話だった。

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