メテオブレイカーが爆発し、落下物が分散する。
ほとんどが小さな破片となり、落下しているが大気圏で燃え尽きてくれるだろう。
νガンダムも地球の重力に引かれ始めていた。
シールドなしに大気圏に突入する事はできない。何か手立てを考えなければ、
そう考えているアムロは戦艦と思しき影をレーダーに捉えた。
どこの船かはわからないが連邦軍なら拾ってくれるかもしれない。そう思い、
アムロは戦艦へと近づいた。
その戦艦は落下物をさらに細かく砕くため、船首の主砲を放っていた。
あらかた大きな破片がなくなると主砲を格納し大気圏突入準備に入る。
こんな船は見たこと無い。しかしほかに頼る者は無く、アムロはその船に全周波通信で呼びかけた。
「こちらは地球連邦軍、ロンド・ベル隊のアムロ・レイだ。聞こえているなら応答を頼む。繰り返す…」
その呼びかけをキャッチした戦艦のオペレータは艦長席に座る女性に呼びかけた。
「艦長、接近中のMSより全周波にて通信がはいっています。」
艦長席に座る女性、タリア・グラディスは少し考えた後に答えた。
「解ったわ、メイリン。こっちに回してちょうだい。」
無線をとり、呼びかけに答えた。
「こちら、ザフト軍所属、ミネルヴァ艦長のタリア・グラディスです。連合の方が本艦にどのような
ご用で?」
少し皮肉らしく聞こえるように言った。
アムロはそのザフトという聞いたことも無い組織に一瞬混乱したが、もうほかに手段は無い。
この船を頼るしかないのだ。
「応答に感謝する。こちら地球連邦軍、ロンド・ベル隊のアムロ・レイだ。偶発的に戦闘に巻き込まれ、
破砕作業に参加していたが、地球の重力に引かれている。できれば一緒に降下させてほしいのだが。」
タリアはまた少し考えた。考えを邪魔するように副艦長が口をはさんだ。
「まずいですよ!艦長!連合の人間を艦内に入れるなんて!」
「解っているわよ、アーサー。でも条約がまだ生きてる限り、無視するわけにもいかないでしょう!」
そういうと再びMSに通信する。
「解りました。破砕作業を手伝っていただいたということと人道的配慮から、申し出を認めます。
ただし、MSを艦橋に着艦させ大気圏突入。その後艦内にて何点か尋問を行います。よろしくて?」
「了解した。艦橋に着艦させその後は指示を待つ。」
そういうとアムロは通信を切り、νガンダムをミネルヴァの艦橋に着艦させ、片膝をついた状態で固定した。
数分後、ミネルヴァは大気圏に突入を開始した。摩擦熱で赤くなる周囲。だんだんと地球の重力を、自分の
体の重みを実感する。アムロはこの感触がたまらなく嫌いだった。また、魂を地球に引かれているようで。
自分が駄目になりそうで。アムロは
「ララァ…」
とつぶやくと、紺色の空を見上げた。
だが、アムロはその時はまだ気づいていなかった。
その宇宙(そら)にはララァがいない事に…
無事に大気圏を抜け、ザクと共にミネルヴァに戻ってきたシン・アスカは格納庫にインパルスを収め、
コックピットを降りた。視線を上げると格納庫にさきほどユニウス7でみたMSが立っていた。
シンは整備士のヨウランを見つけ聞いた。
「ヨウラン!何なんだ?あのMS!誰の?」
「なんか知らないけどさ、連合の奴らしいぜ。降下直前にミネルヴァに乗っけてくれって頼んできたらしい。」
「はぁ!?何で連合の奴なんか艦に入れるんだよ!!」
「俺に言うなよ。艦長に言えよ。政治の問題とかおまえの頭じゃパンクすることが絡んできてんだろ?」
「なんだよ、それ」
ブスっとした表情のままシンはパイロットスーツを脱ぎ、デブリーフィングに向かった。
そのころミネルヴァの一室ではタリア、アーサーがアムロに尋問をしていた。
「ごめんなさい、もう一度いいかしら?」
「?…俺は地球”連邦”軍所属、ロンド・ベル隊のアムロ・レイ大尉だ。」
「それは”連合”軍の間違えじゃ無いわよね。」
「自分の所属している軍を間違える軍人はいないと思うが…」
タリアはアーサーと顔を見合わせる。あらかじめアムロにつけておいたポリグラフ(嘘発見器)
は何の反応も示さない。それは次にアムロがこれまでの経緯を説明した時も変わらなかった。
どうも嘘をついてる様子は無い。日常的に嘘をついたり、妄想を真実と思い込んでるなら話は
別だが、アムロの話は妙にリアリティにあふれていた。
不思議な表情をしている二人に今度はアムロが尋ねた。
「あなたたちの所属している組織、ザフトとか言ったかと思うが、何者なんだ?」
これを聞いたアーサーは
「えええええっ!!!知らないのか!!?」
と派手に驚いた。説明しても良いが逆に自分が何者かと聞かれたら非常に答えづらい。
結局タリアとアーサーではアムロが連合の兵士ではないということしか解らなかった。
ブリッジに帰りながらアーサーはタリアに話し掛けた。
「どうします?艦長。あのアムロとか言う男…」
「どうもこうもないわ。私たちではどう判断して良いかすらわからないんだもの。
報告書をまとめて議会に提出して、上の判断を待つしかないわ。」
「そうですよねぇ…」
情けなくアーサーが言った。とりあえずの措置として、アムロはミネルヴァ内に拘留、監視つきではあるが
拘置部屋とトイレ、食堂と休憩室位は歩き回れるような判断が下った。
拘置部屋で今までのこと、これからのことを考えているとドアの向こうから女の声が聞こえた。
「あの〜、私この艦のパイロットのルナマリアって言うんですけどぉ、ちょっとお話聞かせてもらえませんか?」
と更に男の声がした。
「やめろよ!ルナ。連合の奴なんかに教えて貰う事無いって。」
「助けてもらっといて何その言い方。あんたも興味あるからついてきたんでしょうが。」
「んな事無いっての!!」
ドアの向こうから聞こえてくるやり取りに吹き出しそうになりながらアムロはドアを開けた。
そこには年頃16〜17の少年と少女が立っていた。
休憩室に向かい、飲み物を取りルナマリアはアムロに聞いた。
「あの〜、正直、あなた何者なんですか?」
この手の質問は先ほどうんざりするほど答えた。
「ただの連邦の軍人だよ…」
「その連邦ってのが、何なのかわかんないんですけど…」
やっぱり連邦を知らないのはこの子達も一緒らしい。アムロは先ほどタリア達に答えてもらえなかった
質問をしてみた。
「君たちの所属してるザフトって何なんだ?」
「え〜!!知らないんですか〜!?あなた、もしかして別の世界の人じゃないんですか!?」
そういわれたときアムロははっとした。知らない組織、連邦を知らない人たち、見たこと無いMS、戦艦、全ての
疑問がそれだけで説明できる。
「そうなのかもしれないな…」
と答えることしかできなかった。ちょっとまずいことを聞いちゃったかなと思ったルナマリアは話を変えるため
違う質問をした。乗ってきたMSのことから彼女はいるの?とかくだらない事も聞かれたがそれは
なんとか元気付けようとしたルナマリアの優しさだったのかもしれない。
「あ、もうこんな時間。そろそろ訓練に行かなくちゃ。」
「そういえばパイロットだといっていたな…君たちみたいな子供が」
「ええ。私たちこれでもザフト軍のトップエリート、通称 赤服 なんです。」
といってルナマリアとシンは立ち上がった。
部屋を出て行くとき今まで黙っていたシンが口を開いた。
「あんた、記憶喪失だか別の世界の人だか知んないし、これからどうすんのかも知らないけど、
オーブにだけは身を寄せない方が良いですよ。」
そういって部屋を出て行った。
最後のシンの言葉が気になったが、何もわからないアムロには考えても無駄だった。