短い平穏は終わりを告げ、アムロ達は戦場へと戻ることとなる。
ミネルヴァに転属となったハイネ・ヴェステンフルスはプロトセイバーと戦闘訓練を行っていた。
「流石フェイスだな…MSの性能をうまく引き出している…グフの動きもいい。だいぶOSのカスタマイズがされているようだな。
しかしまだっ!」
「チイッ…避けきれない?」
プロトセイバーに後ろを取られたグフはそのまま背後からペイント弾を打ち込まれた。
「くっそ〜完敗かよっ…」
「いい腕をしているな。だがまだ回避に隙が多い。相手に漬け込まれてしまうぞ。」
「いや〜完敗です。アムロ隊長。ここまで負けると逆にすっきりするな…俺が勝ったら『MS隊隊長は俺だっ』て言おうとしてたんだがこれでは
引き続きアムロ隊長がやってもらうしかないっすね。」
「お世辞はいい。さあミネルヴァに帰ろうか。君の機体の問題点をとことん説明してやる。」
「うわっ…お手柔らかに…」
そう言うと二機はミネルヴァへと帰還した。程なくしてミネルヴァはディオキアを出港することとなった。黒海を進行中スエズから通信が入る。
どうやら地球軍に待ち伏せされているらしい。そこにアムロ、アスラン、ハイネの三人がブリッジへと入ってくる。
「まちぶせか?」
アムロが聞くとすぐにハイネが続ける。
「スエズの戦力は?増援とあわすとどのぐらいの規模になるんです?」
タリアが答える。
「そうね、数はさほど無いと思うけど…例の強奪部隊もいるみたいなの。」
「強奪って…アーモリーワンの?」
「そうよ。厄介なことに。ともかく、本艦は戦闘態勢へと移行します。コンディションレッド発令。アムロ、アスラン。頼むわ。それとあなたもいい?」
「もちろん!任せてくださいよ!」
そう言うと三人はブリッジから出ようとする。
そこにタリアが付け加える。
「あ、アスラン、今回の地球軍の増援はオーブ軍と言う話よ。あなたにはつらいでしょうけどいまはあれも地球軍なの。覚悟は良いわね。」
アスランは少し悩んだあと無言でブリッジを出た。デッキに向かう中ハイネがアスランに話し掛ける。
「おまえ、オーブにいたのか?」
「ええ、まあ。」
「いい国らしいよな…戦いたくないか?やっぱ。」
「そうですね。今の自分があるのもオーブのおかげだと思うこともありますし…」
そこにアムロが話に入ってくる。
「昨日までの味方が今日は敵になる。そんな世界に自ら何かしたい、何かをすべきだと思って帰ってきたのは君自身だろう、アスラン。
討ちたくないのはわかる。しかしやらないとやられるぞ。割り切るんだ。」
ハイネがそれに乗ってくる。
「そうそう。それが出来ないと死ぬのはお前だぞ、アスラン?」
アスランが迷っているのは明白だった。しかし他人が出来るのはここまでだ。あとは自分で気持ちの整理を付けて貰うしかない。
三人はMSデッキへと着いた。すでにシン、ルナマリア、レイは準備が整っている。少しシンの様子がおかしいのにアムロは気付く。
そういえばオーブはシンの出身国でもある。しかしアスランとは対照的に鬼気迫る表情をしていた。
「シン、大丈夫か。少し入れ込みすぎだぞ。少し頭を冷やせ…」
「大丈夫ですよ!俺は冷静です!あんな国…あんな奴らはとっとと帰らせてやる!」
”倒す”ではなく”帰らせる”と言うところにシンの本音がポロッと出ていた。
(そうか…そう言うことか…シン、君は本当はオーブのことが…)
そう思っているとオーブ軍艦からMSが発進したとの放送があり、パイロットは各機に登場後発進することとなった。
「ハイネ、初陣だからって気負う必要は無いぞ。まだ機体の調整もOSの改修も中途半端な状態だからな。」
「大丈夫ですよ、隊長さんは心配性?」
「そう言うことじゃない。功をあせって落とされるなよと言ってるんだ。」
「はっはっは、冗談ですよ、隊長♪死に急ぐ真似はしません。ではお先に。…ハイネ・ヴェステンフルス、グフ!出る!」
グフがカタパルトから射出される。
「アムロ・レイ、プロトセイバー!行きます!」
続いてセイバー、インパルスとザクが発進する。ザクは先日の戦闘のようにミネルヴァの左舷、右舷に着艦させ砲台としての
役割となる。飛行できる四機で敵に向かう。アムロは三機に向かって通信を入れた。
「いいか。俺たち飛行能力があるMSは敵をなるだけ前で叩く。ミネルヴァには一機も近づけるなよ。フォーメーションは機体の性質上
ハイネが前衛、それと一緒に俺が前に出る。シン、アスランは後方支援してくれ。」
シンが反発する。
「なんで俺が後ろなんですか!俺はオーブを打つことにためらいなんか無いですよ!」
「そう言うわけじゃないんだがな。来るぞ!一機も通すな!」
そう言うとアムロはグフと共に敵の真っ只中へ突っ込んだ。
「敵はMSと戦闘機!?いや!可変MSか!」
そういった刹那戦闘機がMSへと変形した。変形するや否やこっちに向かってビームライフルを撃ってくる。
「Zガンダム!?…違うな性能が低すぎる。模造品か!」
変形機構はZガンダム、Z+にそっくりだった。Z+に乗っていた経験のあるアムロはその性能を隅々まで知っている。
それに比べて目の前にいるMSはお世辞にもその性能に引けを取らないとはいえない動きをしていた。
次々に迫ってくる可変MS、ムラサメを落として行く。しかし数が減ったようには見えない。
艦載機の絶対数が少ないミネルヴァは物量作戦を取られるとひどく分が悪くなる。それを見越しているんだろう。
そのとき剛を煮やしたタリアが叫んだ
「タンホイザーでなぎ払う!!アーサー!!」
「は、はぃぃっ!タンホイザー起動!照準、敵護衛艦群。プライマリ兵装バンクコンタクト。出力定格。セーフティ解除!」
タリアが号令をかける。
「よし!!てええぇぇぇ!!!」
その瞬間、タンホイザーは発射されること無くビームに撃たれ爆発した。
そのとき一瞬戦場の時間が止まった。そこに飛来する一機のMS。青い翼を持ったガンダムが戦場へと舞い降りた。