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ヽ( # ゚Д゚)ノ それでは、機動戦士ガンダムSEED side A
| 个 | 第4話を開始する!
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≪ハロ、ハロ≫
「・・・・・・何ですか?これは」
部屋を訪ねて先ず目に入った緑色の奇妙な物体の製作者――アムロをジト目で見つめながらアズラエルは尋ねた。
「正直暇を持て余していたんでな、一体作ってみたんだ。ハロって呼んでくれ」
「君が色々と部品を調達していたと聞いてはいましたが、まさかコレを・・・」
「ああ。殆ど一からの手作りなんだぜ。その割にはいい出来だろ?」
「まあ、よく出来ているとは思いますが・・・ね」
合成音を発しながら跳ねまわるハロを得意げな表情で見つめるアムロが妙に可笑しく思え
アズラエルは肩をすくめながらもそれと気づかぬうちに自然と表情を緩ませていた。
この半月の間にアズラエルは幾度もアムロとの会談の場を設けた。
多忙な中で無理矢理にスケジュールを調整してまでの事だったが
アムロ・レイを引き込む為、アズラエルは骨身を惜しむつもりなどさらさら無かった。
幾度目かの会話の中でアムロがモビルスーツの設計等の機械的な専門知識を
有することを知った事も、アズラエルをさらに意欲的に動かす結果となった。
それに加え、最近ではアズラエルは個人的にも"異世界から来た男"と
交流がもつ事を楽しんでいた。
アムロの存在がアズラエルの内面にも新鮮な刺激を与えていたのだろう。
それがムルタ・アズラエルを待ち受ける未来にどう影響を及ぼすかは
この時点ではまだ誰も知り様も無い事だが。
「今日はいい酒を持ってきたんです。まあ、接待というには少々心寂しいですが今日は飲み明かしましょう」
そう言って片手で持ったボトルをアムロに手渡す。
「それは構わないが・・・しかし随分とマメじゃないか?」
「チャンスを物にする為なら幾らでも・・・といった所です。僕はビジネスマンですからね」
「冗談か本気か分からない所が怖いな」
アズラエルの台詞を聞きながらアムロは慣れた手つきでボトルを開ける。
琥珀の液体が用意された2つのグラスに並々と注がれる。
上質のアルコールが喉を焼く感触を楽しみながらアムロはアズラエルと談笑を続けた。
今日までのアズラエルの努力は個人的な付き合いというレベルにおいては
確実に身を結んでいると考えていいだろう。
半月前のアムロならアズラエルの持ってきた酒には手を出さなかったはずなのだから。
アズラエルはアムロにモビルスーツの技術面、運用面での協力を要請していた。
今は連合内のつまらないしがらみで本格的なGOサインは出されていないものの
いずれは太平洋連邦単独でもモビルスーツの開発に乗り出すであろう事を見越してのことである。
その見返りとしては、アムロの身分の保証と多額の報酬。
そして、もし軍に加わるのであれば出来うる限りの便宜を図るといった内容である。
条件としては申し分ない内容ではあったがアムロは未だに返答を避けていた。
私人としてのアズラエルにアムロは気を許しつつあったが
だからといってブルーコスモスの盟主としての活動を容認したわけではない。
さらにこの世界に本来ありえなかったはずの影響を
もたらしてしまう結果につながりかねないといった懸念が
アムロに答えを出す事を躊躇わせていた。
「たしか今日は4月1日だったな。万愚節か・・・」
ボトルの酒も残り半分程になった時、唐突にアムロはそのような事をつぶやいた。
アムロの妙に古風じみた言い回しに苦笑しながらもアズラエルは話を合わせる。
「万愚節――エイプリルフールですね。
ふむ、それでしたら試しに僕に協力すると言ってもらえますか?」
「何だか、後が怖そうだな。止めておくよ」
「やれやれ、それは残念・・・」
アズラエルは大袈裟なジェスチャーを交えながらアムロの返事にそう答える。
焦る必要は無いとアズラエルは思っている。
そう遠くないうちにアムロは回答を出すだろう。
その時に備え、今はアムロの心の天秤を少しずつこちらに傾かせておけばよいのだ。
アズラエルはその様に考えていたので殊更に答えを求めるような真似をするつもりは無かった。
「しかし、日付が俺のいた世界と違うのには未だに慣れないな・・・」
アムロは、グラスの琥珀色の液体を舐めて言った。
「まあ、いきなり何ヶ月も飛んでしまってはしょうがない事でしょう」
「確かにそうなんだけどな。――ん?」
アムロは眉をひそめ、天井に目を向ける。
そして、急に立ち上がるとベランダに向かった。
「どうかしたんですか?」
その様子に酔い覚ましの為に風にでも当たるのかと思いアズラエルは後に続きながらアムロに尋ねる。
「ざわめいている・・・のか。これは?」
アムロは空を見やりながら呟いた。
「ざわめく?一体何を言って――」
「空・・・違う。宇宙が・・・なのか?」
アズラエルはアムロの発する気配からその言葉が酔いから来ているものなどでは無い事を悟る。
多少アルコールが回っていたもののその程度の機微が見抜けないほど
アズラエルの洞察力は落ち込んではいなかった。
―――これは・・・僕には解らない何かを察知しているとでもいうのか?・・・ニュータイプの直感が?
そう考えたアズラエルは思い当たる可能性を提示する。
「・・・たしか今日、軌道上でザフトと連合艦隊の接触が予測されています。その事と関係が?」
「違う・・・それじゃあ無い。これは・・・"悪意そのもの"!?」
アムロはアズラエルの言葉を否定しながら宇宙を睨む。
アズラエルはアムロのただならぬ様子から何事かと思い宇宙に目を向けた。
「一体何が――あれは・・・流星?」
空に突如幾つもの流星が流れ始めたのをアズラエルの目は捉えた。
最初はただの流星かもしくはデブリかともアズラエルは思ったが
その不自然な程の量の多さに流石に違和感を覚える。
「あれは――な!?」
いきなりアズラエルの周囲が闇に覆われる。
目が慣れていなかったこともあり視界は完全にゼロとなった。
すぐさまボディ・ガードが数人室内に押し入りアズラエルとアムロをガードする。
部屋の電気。それだけではなく目に映る光の全てが消失していた。
それから程なくホテルの緊急用の自家発電が動き部屋は明かりを取り戻すが
先程まで美しく光輝いていた夜景は見る影もなく月明かりだけが街並を照らしていた。
どう見てもただの停電などではない事は明白である。
アズラエルは事態の把握の為に直ちに連絡を試みるが何処とも回線が全く繋がらなかった。
いや、正確には"何らかの電波妨害"を受けているのだ。
―――これは一体・・・まさかザフトの!?
「こっちは生きている。これを使え!!」
「わ、解りました!!」
アムロが起動させたパーソナル・コンピュータを操作し
アズラエルは彼専用のホットラインに接続する。
―――後にエイプリルフール・クライシスと呼ばれる凶事がその産声をあげたのだ。
ローラシア級戦艦カルバーニ
モビルスーツの運用を前提に建造されたザフトの戦闘艦である。
その艦内で一人の男が若干ウェーブがかったブロンドの髪を片手ですくいつつ口元に薄い笑みを浮かべていた。
男の顔は普段から仮面で隠されておりその素顔を知るものは数えるほどしか存在しない。
「・・・艦長」
「何でしょうか?クルーゼ隊長」
急に呼ばれたこの艦の艦長は若干焦りながらも返事をする。
彼はこの何を考えているのか解らない男が正直苦手だった。
しかし、この男――ラウ・ル・クルーゼこそ先の"世界樹攻防戦"において
多大な功績を挙げたザフトの"英雄"だった。
「"ウロボロス"、なかなかうまくやれているみたいじゃないか」
「はっ!!順調に進行中とのことです」
「しかしこうも事がうまく運び過ぎるとかえって恐怖を感じてしまうものだな・・・。そうは思わないか?」
「ええ・・・まったく・・・」
艦長はどう答えていいか解らずにとりあえず生返事を返した。
彼のこういった所がクルーゼに何時まで経っても名を覚えられない要因の一つだった。
といっても、この時のクルーゼが投げかけた台詞の本質は全く別のところにあった。
今回の作戦で使用されるニュートロンジャマーは全世界にばら撒かれこそするものの
本来、その中でも敵対国に投下されたものだけが効果範囲を限定された形で起動するはずであった。
そうする事で先の"報復"と他の国家への"恫喝"を同時に行うというのが
"オペレーション・ウロボロス"その柱の1つだったのだ。
だが、実際には地球に投下されたニュートロンジャマーは"その全てが最大の力をもって起動する"ことになる。
なぜならばクルーゼが既に"正義感に溢れた立派な勇者たち"に
ニュートロンジャマーの設定コードを秘密裏にリークしていたのだ。
彼らは"設定コード"を自分達の不断の努力によって入手したものと錯覚している事であろう。
そして彼らは地球にとっての"最悪"を引き起こす事をまったく躊躇しないだろう。
ザフトの情報の管理および収集能力の"見事さ"についても彼はすでに見切っている。
恐らくは兵の士気に影響するとでも理由付けられてこの"不祥事"は闇に葬られる事になる。
調査も大々的には行われず、とりあえずの実行犯を逮捕。それで手打ちだ。
それ故、自身に嫌疑の目が向けられる事は絶対に無いとクルーゼは確信していた。
いつの時代でも短慮な人種というのは実に御しやすいものだとクルーゼは思う。
事が終われば今回の実行犯の中の幾人かは正義という名の信仰を胸に殉教を遂げ
血のバレンタインで喪った家族の下へと旅立つのだろう。
―――達成感と悲壮美に酔いしれながら・・・か。いい話じゃないか。さて、それではいよいよ開幕といこうか!!
クルーゼはこれから生まれ出でるであろう悲劇と憎しみの連鎖を予感し秘かに身を震わせていた。
アムロはソファに腰掛けながらアズラエルの情報収集が完了するのを待ち続けていた。
不意にアズラエルが席を立つ気配がしたので顔を向ける。
「―――!!」
アムロはアズラエルの有様に驚いた。
顔面は蒼白で何処かやつれてしまった様に見え、その瞳は酷く濁っている。
完全に思惟を混濁させていたのだ。
そのただならぬ様子からやはり何か深刻な事態が発生したのだとアムロは察する。
「アズラエル!!しっかりしろ。おい!?」
そう言いながらアムロはアズラエルの肩を揺さぶり、埒が明かないと頬を平手で二、三度叩いた。
ボディ・ガード達がアムロを咎める様に睨んできたが今は構ってなどいられない。
「あ・・・アムロ・・・君」
「良かった、"戻ってきた"様だな。教えてくれ。一体何が起こったというんだ?」
アズラエルは痛みで徐々に正気を取り戻していった。
そして、少し間を空けた後、ぽつりぽつりと
今、世界で起こっている事態について語り始めた。
「・・・ザフトが、先の戦いで使用した兵器・・・ニュートロンジャマーを世界中に向けて投下し・・・ました。
投下と同時に起動したと思われ・・・今後、世界規模で深刻なエネルギー危機が起こると・・・予測されています」
アズラエルの発した言葉にその場にいた全ての人間が沈黙する。
今、ここにアズラエルの言葉の意味を理解できない人間など一人もおらず
全員がこれから起こりうる被害の規模の大きさを頭に過ぎらせてしまったのだ。
「世界中って・・・全ての国が彼らと戦争してるわけじゃない。
それに地球にも彼らの親が・・・同じコーディネイターだって沢山いるんだぞ!!」
沈黙を破る様にアムロが言葉を発する。
「そんな事・・・そんな事!!僕が知るかよ!!大方、奴等はプラント以外の事なんてもうどうで・・・も・・・」
「・・・・・・・・・」
激高しかかっていたアズラエルはアムロの方を振り向いたとたんに言葉を飲み込んでしまった。
アムロの苦渋に満ちた表情。そして彼が発する圧力――プレッシャーとでもいうべきものが
アズラエルにこれ以上言葉を発す事を許さなかったのだ。
アムロがゆっくりと目を閉じると瞼の裏に『彼』の姿が徐々に浮かんできた。
いつしかアムロの意識も『肉体』という名の器を離れ、光の渦の中で『彼』と向き合う。
―――結局、人々というものはどの世界でも大差無いのだといういい証左だな。そうは思わないか。アムロ。
『貴様の主観だけで人類全てをそうだと決め付けるな!!』
―――そして結局は、お前はまた才能を利用されようとしているのだからな。つくづく・・・
『違う!!俺はそんなものじゃあ無い』
―――しかし、お前はもう決めてしまっているのではないか?
『当たり前だろう。こんなものを見せられて放っておけるほど俺は・・・』
―――やはりお前も私同様にニュータイプにはなりきれそうもないな。生の感情が多すぎる。
『ああ、そうなんだろうな。そんなだから俺達は・・・』
―――結局、争ってしまったということか。
その台詞を口にすると同時にネオジオンの総帥としての『彼』の輪郭が滲んで
次の瞬間にはかつて共に戦っていた頃の姿となっていた。
しばらく場を沈黙が支配していたが『彼』の方から口火を切った。
―――アムロ。私はお前との決着を望み、そして地球に固執し続ける人々を粛清するためにあのような事をした。
『・・・・・・・・・』
―――そのことを私は微塵も後悔してはいない。このような結果となった今でもな。だが・・・
サングラスを片手ではずし『彼』は目を伏せつつ言葉を再開する。
―――お前は・・・私のようにはなるなよ。アムロ。それでは余りに救いが無さ過ぎる。
『・・・・・・大丈夫さ。そんなあなたの"敵"だったんだぜ。俺は』
『彼』の言葉にアムロはそう返答した。
自分にとっても『彼』の"好敵手"であり続けた事は決して悪いことだけでは無かったはずなのだから。
―――そうか・・・そうだったな。
最後にそう言うと『彼』は笑みを浮かべながら粒子の粒となり消えていった。
『―――じゃあな。シャア』
アムロの意識が現実に戻る。
時間を確認するが実際には一分程も経っていなかったらしい。
「アズラエル・・・」
アズラエルの名を口にしつつアムロは考える。
死ななくて済んだ人間を殺してしまうのかもしれない。
自分の介入はこの戦争になんらの影響も与えないのかもしれない。
逆に深刻な事態を招来させてしまう結果になるのかもしれない。
この世界の人間ですらない己が戦いに身を投じること自体が
もしかしたら救いがたい暴挙なのかもしれない。
だが、アムロ・レイは結局は一人の人間に過ぎないのだ。
賢しげに『世界全体』の影響などを考え、行動を怠ることこそ驕りといえるのではないだろうか。
アムロに一片の迷いも無いといえば嘘になる。
―――だが、決断はすでに済ませている。
「―――連合軍に参加する。手配をよろしく頼む」
CE70.4月1日――
地球に未曾有の悪意が降り注いだこの日アムロ・レイは再び戦火に身を投じる事を決意した。