もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


98 ◆TSElPlu4zM氏  『機動戦士ガンダムSEED bloom 』

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 プラント船籍の民間船シルバーウインドの脱出ポットを回収したアークエンジェルは、ユニウスセブンの宙域を最大船速で離脱し、再び月基地に向かってサイレント・ランを行っていた。
 アークエンジェルの一室で、脱出ポットから出て来た少女を前にマリュー、ナタル、ムウの三人が難しい顔をして立っている。

「ポットを拾っていただいて、ありがとうございました。私はラクス・クラインですわ」
「ハロ!ラクス、ハロー」
「これは友達のハロです」
「ハロハロ。オモエモナー。ハロハロ?」

 ラクスと名乗る少女はニコニコと自己紹介を済ますと、手に載せたピンク色のハロを、目の前のマリュー達に紹介した。その緊張感のないラクスの姿に、マリュー達、三人は気が抜けるような思いだった。

「……ハァ」
「……やれやれ。クラインねぇー。彼のプラント現最高評議会議長も、シーゲル・クラインといったが……」
「……あっ……」

 マリューが溜息を吐くと、ムウも呆れながら思い出したように口を開いた。
 ムウの言葉に、マリューも思い出したように驚いたような顔をすると、ラクスも同様に父の名が出て来た事を驚いているようだった。

「あら〜?シーゲル・クラインは父ですわぁ。御存知ですの?」
「……おっ!……ハァ……」
「……」
「……あっ!……ハァ……。そんな方が、どうしてこんなところに?」

 ラクスののほほんとした口調に、ムウもナタルも「この少女は状況を読めないのか」とばかりにも呆れ返る。
 マリューもムウ達と同様に溜息を吐き、ラクスに聞き返すと、ラクスは民間船がユニウスセブン宙域に来ていた理由を話し始めた。
 
「私、ユニウスセブンの追悼慰霊の為の事前調査に来ておりましたの。そうしましたら、地球軍の船と、私共の船が出会ってしまいまして……。臨検するとおっしゃるので、お請けしたのですが……」

 ラクスは、そこで一度言葉を止めると、悲しそうな表情を浮かべ、再び口を開く。

「地球軍の方々には、私共の船の目的が、どうやらお気に障られたようで……些細ないさかいから、船内は酷い揉め事になってしまいましたの。そうしましたら、私は周りの者達にポットで脱出させられたのですわ」
「なんてことを……」
「そう言う事だったのか……」

 ムウとマリューはユーラシア所属艦がシルバーウインドを攻撃気した経緯を聞き、苦々しい顔をした。

「あの後、地球軍の方々も、お気を沈めて静めて下さっていれば良いのですが……」
「……」

 シルバーウインドの生き残りが誰もいないのを知らないラクスは、まだ船が無事と思い船員達の心配を口にすると、真実を知るマリュー達は言葉を失う。


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 その様子をキラとアムロは、壁にもたれ掛かりながら話を聞いていた。

「……アムロさん、どうしたんですか?」
「ああ、キラ。いや……」
「あのラクスって子、知ってるんですか?」

 難しそうな表情をしているアムロにキラが心配そうに声をかけると、アムロは組んでいた片手を顎に持っていき、言葉を濁すように答える。

「……いや、俺が知ってるのは、彼女が手に載せているハロの方さ」
「……ハロ?……あの子が持っているピンク色のロボットですか?」

 キラは、アムロの言葉に目線をハロに向け、不思議そうな表情をする。
 アムロは親指と人差し指で自分の顎先を挟むようになぞると、眉を顰めながら言葉を続ける。

「……俺は、あれと色や大きさは違うが、同じ物を一年戦争前に作った事がある」
「えっ!それって……」
「何の因果か知らないが、キラ同様、あの子も引き合ったと言う事なのかもしれない……」
「……あの子が……」

 アムロの言葉にキラは驚きながら、ラクスの顔を見つめる。
 ラクスの表情は泣きそうな顔になっていて、どうやらマリューによって、シルバーウインドの生存者がいない事を告げられたようだった。
 キラは同じコーディネイターとして、悲しそうな表情をするラクスを見るのは忍びなかった。
 マリューはやり切れない表情をしながら、ラクスが落ち着くのを待ち、キラに声をかけた。

「ねえ、キラ君。ラクスさんを部屋に送ってもらえるかしら?」
「あっ、はい!分かりました。……えっと、僕について来てもらえますか?」
「……はい……よろしくお願いします」

 キラは、涙目のラクスに気を使うように部屋から連れて出ていった。
 沈んだ空気を吹き飛ばすように茶化した口調でムウが言う。
 
「しっかし、まぁ、ユーラシア艦との問題が解決したと思ったら、今度はピンクの髪のお姫様か。悩みの種が尽きませんなぁ。艦長殿!」
「……あの子もこのまま、月本部へ連れて行くしかないでしょうね……」
「……仕方ないだろうな。月以外に帰港予定がある訳でもないんだ。どこかで降ろす訳にもいかなだろう」

 マリューはラクスを憐れんでか、沈んだ顔になるが、そこに壁際にいたアムロが歩み寄りながら言った。


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 アムロの言葉にマリューはラクスの事を考えると苦い表情になる。

「でも、軍本部へ連れて行けば彼女は、いくら民間人と言っても……」
「そりゃー大歓迎されるだろう。なんたって、クラインの娘だ。いろいろと利用価値はある」
「……利用価値か……」

 ムウは真顔で軍人としての意見をマリューに言うが、その表情は苦々しい。
 アムロはムウの言葉に、顎に手を当て考え込むように呟くと、マリューが重そうな口調で言う。

「……出来れば、そんな目には遭わせたくないんです。民間人の、まだあんな少女を……」

「そう、おっしゃる事は分かりますが、彼らは?こうして操艦に協力し、戦場で戦ってきた彼らだって、まだ子供の民間人ですよ」
「バジルール少尉、それは……」

 ナタルが少し現実を見るようにと、少しきつい感じで言うと、マリューは戸惑うが、ナタルはそのまま言葉を続けた。

「キラ・ヤマトや彼らを、やむを得ぬとはいえ戦争に参加させておいて、あの少女だけは巻き込みたくない、とでもおっしゃるのですか?」
「……」
「……彼女はクラインの娘です。と言うことは、その時点で既に、ただの民間人ではない、と言う事ですよ……」
「……」

 ナタルの言葉に、元々、キラ達をアークエンジェルに乗せたのはマリュー自身だったのを思い出すと、何も言えなくなり、さらに表情を暗くした。
 そのやり取りを見ているアムロの心中は穏やかではなかった。
 ――利用価値、ただの民間人ではないか……。νガンダム、ニュータイプ……。俺の事も、事情を知らない軍からすれば同じだろうな……。

「おいおい、今、そんな事言っても仕方ないだろ。どの道、俺達は月に行かなきゃならないんだ。まだ時間はある。それまで、じっくり考えればいいじゃないか」

 ムウが見兼ねて、マリューとナタルの間に入るよう形で言うと、この話は終わりと言わんばかりに解散を提案する。全員が頷き、それぞれが部屋を出て行こうとする。


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 その中、アムロは考え込むような表情をしていると、ムウ達に続くように部屋を出て行こうとしていたナタルがアムロの元へと戻って来た。
 
「……アムロ大尉、どうかしましたか?」
「ん?……いや」

 アムロはナタルの声に首を振るが、ナタルはそう取らなかったようで心配そうな表情で口を開いた。

「あの……前にも言いましたが、何かあれば私にご相談いただければ……」
「……ああ、そうだったな。すまない」
「いいえ!それで、どういった事でお悩みなんですか?」

 アムロは以前、ブリッジでのやり取りを思い出し謝罪をすると、ナタルは首を振り聞き返しす。
 ナタルの表情を気にしながらも、アムロは言って良い物かと思案を廻らし、躊躇いがちに口を開く。

「……悩みと言う程でもないんだが……フラガ大尉が彼女に利用価値があると言っただろう」
「ええ、ラクス・クラインの事ですね。それがどうか……?」
「……俺も……地球軍に取っては、彼女と同じなのではないかと思ったのさ」
「――!?」

 ナタルはアムロの言葉に驚き、必死に否定の為の言葉を思いつくだけの並べる。

「――どうしてですか!?アムロ大尉は、こうしてアークエンジェルを守ってくれてるではありませんか!軍もアムロ大尉の貢献を考えれば、受け入れるはずです!それに艦のクルー達の信頼を得ています!私だって――!……私も……」

 ナタルは最初こそ勢い良く言ってたが「私だって――!」と、言ったところで自分が何を言おうとしていたのかと言葉を止め、少し俯き、恥ずかしそうに、おずおずと呟いた。

「……ありがとう。君達は見ず知らずの俺をこうして受け入れてくれたが、軍上層部は、そう簡単に俺を信用するとは思えない。ましてや、俺は核で動くνガンダムを動かしているんだ……」

 アムロは、ナタルの必死な姿に素直に礼を言いつつも、真剣な面持ちで言葉を続ける。

「……恐らく、このまま月基地に着けば、νガンダムは取り上げられ、俺は拘束されるだろう。良くても尋問。悪ければ……」
「……そんな」
「軍とは、そう言う所なのは君も知っているだろう。肥大化した組織なら尚更だ……」

 アムロの言う事に表情を暗くするナタルに、組織の現実を解いた。
 現実に月基地に到着すれば、どう言う形であれ、一度はアムロが拘束されるのをナタルも分かっている。
 ナタルは必死に考えるが、早々良い考えなど浮かぶ訳もなく、途切れ途切れの言葉を出すのが精一杯だった。

「……その時は、私が……及ばずながら、軍上層部に上申し、説得します!それに艦長やフラガ大尉だって、きっと――!」
「……ああ、ありがとう……。すまなかった。今、するべき話ではなかったな。……フラガ大尉の言う通り、まだ時間はある。それまでに、どうするか考えるさ」

 アムロはナタルが信頼してくれているのを感じ、この話をするのではなかったと思い、礼と謝罪をした。

「……はい……私もお力になれるよう、努力しますから……」

 軍の現実を知るナタルからは弱々しくも、アムロを助けようと感じさせる言葉が溢れるのだった。


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 ラクスはキラに案内された、アークエンジェルの一室で佇んでいた。シルバーウインドが沈んだ事で表情は明るい物ではなかった。

「ハロ、ゲンキ?ハロ?」
「……」
「オマエ、ゲンキカ?」

 ハロは、ラクスの気持ちを知る訳でもなく、機械合成音からなる声を上げた。
 ラクスは出航する前にアスランと話した事を思い出す。ハロを作った本人であるアスランが、ハロに感情は無いと否定したが、ラクスはそうは思わなかった。
 ――ハロはこんなにも優しいのだから……。
 ラクスは元気づけてくれるハロを見つめ、少し微笑む。

「ハロ……」
「マイド!マイド!アカンデェ〜」

 ハロは間抜けな声を上げつつ、ラクスの手の中で跳ねる。その姿にラクスは心が暖まる感じがした。

「……祈りましょうね、ハロ。どの人の魂も、安らぐことの出来るようにと……」

 ラクスは、今は亡きシルバーウインドの船員や命を投げ打って脱出させてくれた従者達の為に祈りを捧げるのだった。


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 握手をした日から、また数日が経ち、アスラン達はフレイと過ごす事に慣れ始めていた。いつも通り共に食事を取り、食後のお茶を楽しんでいた。
 アスランは食事を終えフォークを置くと、フレイに声をかける。

「すまない、ポットを取ってもらえるか」
「うん、はい」
「ありがとう」

 紅茶を飲んでいたフレイがポットを差し出すと、アスランは礼を言って受け取った。

「アスラン、砂糖かミルクは要りますか?レモンもありますけど?」
「いや、俺はストレートでいただくよ」

 ニコルがアスランに何か入れるかを聞いて来ると、アスランはそれを断り、一口、紅茶を口に含んだ。
 アスランとニコルは、軍人になってからは、こんなにゆっくりとした過ごす日々など、ここ最近ではあまり無かった。実感するようにニコルが口を開く。

「それにしても本当にのんびりしてますね」
「そうだな」
「こんなに纏まった休暇は、なかなか取れないですからね」

 アスランが頷くのを見ると、ニコルはニコニコしながら言った。
 プラントでは十五で成人となるが、戦争さえ起こらなければ、まだまだ遊んでいたい年頃なのだから仕方がない。
 プラントとザフト軍の事情を詳しく知らないフレイは二人に聞く。

「どのくらい、お休み貰ったの?」
「……ん、とりあえずはモビルスーツの修理が終わるまでだな」
「だから、いつ休暇が終わるのか分からないんですよ」
「……お休みが終わったら、また……地球と戦うの?」


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 二人の言葉をを聞くとフレイは俯き加減に言葉尻を濁しながら言った。

「……そう言う事になるな……」
「そうですね……」

 アスランとニコルは気まずそうに答えと少しの沈黙が支配する。
 アスランが真剣な表情でフレイを見つめながら、沈黙を破るように口を開いた。

「……フレイ。頼みがある」
「……なに?」
「君が地球に戻ったら……軍には入らないでほしい」

 アスランの言葉にニコルもフレイも驚きながらも、その表情に見入った。
 アスランはそのまま言葉を続ける。

「こうして、知り合った……友達、なのか、な?……俺は、そんな人達と戦いたくないんだ」

 アスランは途中、自分の言った事に照れる素振りをしながらも、最後には、真剣な表情で言い終える。その心の中では、キラの顔が浮かんでいた。
 ニコルもアスランと同じ気持ちだったのか、フレイに向き直り口を開く。

「僕からもお願いします。フレイ、地球に戻ったら、絶対に軍には入らないでください。僕もフレイと戦いたくありませんから……」

 フレイは二人の真剣さに優しさを感じた。
 ――アスラン、ニコル……。

「……うん」

 元より軍に志願するつもりの無いフレイは真剣な表情で頷く。

「……フレイ、ありがとう……」
「ありがとうございます!フレイ!」

 アスランもニコルも、フレイの返答に表情が緩み、うれしそうに礼を言った。
 それぞれが笑みを浮かべ、この約束が破られる日が来ない事を願った。


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 アークエンジェルの中ではラクスを救助してから一晩が明けた。昨日行われた戦闘の喧噪も無くなり、艦内は穏やかな物だった。
 少年達は非番なのか、食堂に集まり雑談を楽しんでいた。

「あのぉー」
「?」

 どこからか、かけられた声に全員が不思議そうな表情をになる。

「ハーロー。ゲンキ!オマエモナ!」
「――あっ!」
「……驚かせてしまったのならすみません。私、喉が渇いて……それに笑わないで下さいね。大分、お腹も空いてしまいましたの。こちらは食堂ですか?なにか頂けると嬉しいのですけど……」

 ハロの声に全員が食堂の入り口に視線を向けると一様に驚いた。
 ラクスは、みんなを驚かせてしまったのを悪いと思ってか、謝ると食堂に出向いた理由に恥ずかしそうな表情をしながら伝えた。その側では、ハロがピョンピョンと楽しそうに飛び跳ねている。
 キラが慌てるように口を開く。

「――っで、ってちょっと待って!」
「鍵とかってしてないわけ……?」
「あら?勝手にではありませんわ。私、ちゃんとお部屋で聞きましたのよ。出かけても良いですかー?って。それも三度も……」
「そう言う問題じゃないと思うけど……」

 カズイが艦内の警備が行き届いてないのに不安そうにな表情をすると、ラクスは空気が読めないのか、ニコニコとしながら言った。
 ラクスの言葉にカズイが呆れたようだった。
 そのやり取りを見兼ねたのか、ミリアリアが口を開く。

「でも、彼女も民間人なんだし、それに食事をしたいって言ってるんだから、少しくらいは、いいんじゃないの?」
「……いや、俺達が良くてもさ……とにかく、勝手に出歩かれるのは、まずいんじゃないか?」
「……ああ。アークエンジェルも軍艦だし……許可、貰わないと出歩くのヤバイよな?」

 サイとトールが、その場にいる全員を見ながら渋そうな顔で言った。


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 少しの沈黙が流れると、カズイが口を開く。

「……あのさ、とりあえず、部屋に戻ってもらったら?」
「モシモシ〜?モシモシ〜?」

 再び沈黙が支配する。空気が読めないハロが、元気よく飛び跳ねていた。
 ひとまずの意見が一致したのか、ミリアリアが申し訳なさそうな表情をラクスに向けた。

「……えっと……ゴメンね。食事、届けるから……」
「それなら、用意して貰っちゃえよ」
「そうだな。その方が早いし」
「――それなら、頼んでくるよ」

 サイとトールが、ラクスの食事をすぐに用意する事を提案すると、カズイはカウンターへと食事を頼みに行った。
 カズイが頼みに行くのを見送ると、トールがラクスに少しカッコつけるように言う。

「ゴメンな!俺達は良くても、ここ軍艦だからさ」
「ほんとゴメンね。……トール、鼻の下伸ばさないの!」

 ミリアリアもラクスに謝りながらも、自分の彼氏であるトールが、他の女性に気を取られているのが気に食わないのか、片足が思いっきりトールの足を踏んづけていた。

「――っ!いてっー!ミ、ミリアリア――あ、足踏んでる!」

 そのやり取りに、みんなが笑う。
 少年達には、ナチュラル、コーディネイターの人種など関係無いとばかりに、その場の空気は明るかった。


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 約束をした後もアスラン達は、お茶を和やかに楽しんでいた。そこに家政婦がアスラン宛ての電話が掛かって来ているのを伝えると、コードレスの受話器を渡して退室していった。
 アスランは受話器に耳を押し当てると、口を開いた。

「はい、アスラン・ザラです」
「アスランか。お前、ニュースは見ていないのか?」
「――えっ、父上!?どうしたんですか、父上自ら電話なんて……」

 滅多に電話などして来ない父が連絡をして来ているのに驚いた。

「アスラン、とにかくニュースを見ろ」
「あ、はい!」

 パトリックは、驚きを隠せないアスランを気にしていないようで、ニュースを見ろと促す。
 アスランは慌てたようにTVモニターのリモコンスイッチを入れる。ニコルもフレイもアスランの様子を気にしながらも、同じようにTVモニターに目を向けた。
 TVモニターの中では、ニュースキャスターが、その内容を淡々と伝えていた。

「――この船には、今回の追悼式代表を務める、ラクス・クライン嬢も乗っており――」
「――えっ!?」

 アスランは、ラクスの名前が出て来たのに何事かと驚くが、ニュースキャスターはアスランの驚きなど気にする訳が無く、伝える事を淡々と口にしていく。

「――安否が気遣われています。――繰り返しお伝えします。追悼一年式典の慰霊団派遣準備のため、ユニウスセブンへ向かっていた視察船、シルバーウインドが、昨夜、消息を絶ちました」
「……な!あぁ……ラクス……」

 アスランはニュースの内容に思わず椅子から腰を上げていた。顔色は、段々青くなってゆく。
 ニコルはアスランのように青くはなってはいないが、驚きようはアスランに負けない物だった。プラントの事情に詳しくないフレイだけが、何事があったのかと、二人を心配するように見つめていた。
 電話の向こうにいるパトリックが察したのか、アスランに命令口調で言った。

「事情は飲み込めたな。のんびりしている暇はないぞ。お前は、すぐに軍本部に出頭しろ!」
「――はっ!」


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 アスランはパトリックが電話の向こうにも関わらず、背筋を伸ばし返答をすると、電話を切り、ニコルに向かって言った。

「ニコル!正面に車を回してくれ!」
「軍本部からですか?!僕も――」
「いや、呼ばれているのは俺だけだ。ニコルはフレイの警護を頼む!」
「分かりました!」

 ニコルは頷くと、慌てながら部屋を出て行く。アスランも同様に、二階の自分に宛てがわれた部屋へと駆けて行く。
 その場にはフレイのみが残され、どうすればいいのか分からず、とりあえずアスランの部屋へと向かう。
 半開きの扉を開けると、アスランは軍服に着替え終えて、扉に背を向け、アルミ鞄の中を整理しているようだった。
 フレイは躊躇いがちに声をかける。

「……ねえ、アスラン……」
「ん?フレイ……どうしたんだ?」

 アスランは顔だけ向けると、再び整理を続ける。
 ニュースの内容から大事故が起こったのはフレイにも分かったが、なぜアスランやニコルが、そこまで慌てているのか分からなかった。

「さっきのニュース見て、慌ててたけど……」
「ああ……あの船にはラクスが……婚約者が乗っているんだ……」
「……」

 フレイはアスランの言葉に、どう言っていいのか分からず言葉を返す事が出来なかった。ただ、二人の慌てぶりやニュースからして、ラクスと言う子がアスランやプラントに取って、とても重要なのは感じ取れた。
 アスランは鞄を閉じると立ち上がり、フレイヘと向き直る。

「突然の事ですまないが、俺は軍に呼ばれている。恐らく、このままラクスの捜索に向かう事になると思う」

 アスランは一度、言葉を区切ると、フレイに右手を差し出した。

「……短い間だったが、君と話せて良かったと思っている……ありがとう、フレイ」
「……うん。……ラクス、さん、無事に見つかるといいわね……」
「ああ」

 フレイはアスランの右手を取り、握手をすると頷きながら微笑む。
 アスランも同じ様に頷き、握手をしたまま、真剣な表情になる。

「……フレイ、さっきした約束を忘れないでほしい……」
「……うん……約束する」

 フレイの言葉を聞くと、お互いに握手をしていた手を解く。


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 アスランは鞄を手に持つと、思い出したように口を開いた。

「それから、一つ聞きたい事があるんだ……。君の通っていたカレッジに、キラ・ヤマトと言う学生がいたはずなんだが、知っているか?」
「……キラ・ヤマト……。カトーゼミにいる、あのボーっとした感じの男の子でしょ?何回か話した事があるから……」
「……あまり変わらないんだな、キラは……」

 フレイはアスランの問いに思い出しながら、答える。フレイの言い様に、アスランは少し苦笑する。
 そんなアスランの表情にフレイは不思議そうに聞き返した。

「知り合いなの?」
「ああ、友達なんだ……。もしも、キラに会う事があれば伝えてほしい。頼まれてくれるか?」
「……うん。もしも、会えたらだけれど……それで良ければ……」

 フレイは、地球に帰っても、キラに会う事があるとは思えなかったが、アスランの頼み事を無下に断る事はできなかった。
 アスランは真剣な表情で頷くと、キラへの伝言を口にする。

「キラとは……お前とは戦いたくない。って……伝えてほしいんだ」
「――えっ!?……戦いたくないって……どう言う事……?」

 フレイはアスランの口から吐き出される言葉に驚き、聞き返した。
 アスランは悲しそうな表情をしながら、理由を言う。

「キラは、何故だか知らないが、地球軍のモビルスーツに乗っている。多分、いいように使われているんだと思う」
「モビルスーツって……地球には……」
「地球軍も開発したんだ。事情聴取で君も聞いたと思ってたが……。キラは戦う事が嫌いなのに……そのモビルスーツにキラが乗っているんだ……」
「……友達……同士で……戦ってるの……?」
「……そう……なる……な……」


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 地球軍のモビルスーツの存在を信じられなかったフレイは反論しようとしたが、アスランは、あった事をそのまま伝える。
 苦しそうな表情で話す、アスランの言葉に愕然としながらも、フレイは聞き返す。
 アスランは事実を認めたくないと言わんばかりだが、悔しそうに途切れながらも肯定の言葉を繋ぐしかなかった。
 フレイは、友達同士が戦うなんて認めたくなかったし、仲の良い者同士が殺し合いをする事を願いたくもなかった。

「そんなのおかしい……おかしいわよ……。友達なんでしょう……どうして戦わなくちゃいけないのよ!?」

 フレイの口から自然と感情むき出しの言葉が漏れるた。その目は微かに潤んでいた。
 アスランもフレイにつられて、涙目になりながら、感情的に言葉を吐き出す。

「……俺も戦いたくないさ!だから、君に伝言を頼むんだ……頼む、キラに伝えて欲しい」
「……うん……必ず伝える」

 フレイは、そんなアスランの姿から想いを感じ取ったのか、キラにこの伝言を絶対に伝えなければと思い頷いた。

「……ありがとう。……それじゃ、元気で……。次に会う時には、戦争が終わっている事を願うよ」
「……うん、アスランも元気で……」

 アスランはフレイの言葉に心から感謝すると、微笑みながら別れの言葉を言うと、フレイも潤んだ瞳を擦りながら、アスランがキラと戦う事がないよう、祈る想いで別れの言葉を送った。
 フレイの別れを済ませたアスランは、部屋を後にする。
 丁度、扉を出た所にニコルが苦々しい表情で立っていた。

「――ニコル!……もしかして、今の話、聞いていたのか?」
「――!……いいえ、今、来たとこですから。それよりも車の準備が出来ていますから急いでください!」

 アスランは驚き、強ばった表情になる。明らかにニコルはフレイとの会話を聞いていたような表情だった。
 ニコルもアスランが出て来たのに驚いたのか、誤魔化しながらも真剣な面持ちで、アスランを急かした。

「……分かった」

 アスランは仕方なく頷き、階段を駆け下りて行った。


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 ラクスはキラとサイに連れられ、宛がわれた部屋に戻って来た。サイは扉の向こう側で護衛代わりにキラが出て来るのを待っていた。
 ラクスは椅子に腰を下ろすと、寂しそうに溜息を吐いた。

「……ハァ。またここに居なくてはいけませんの?」
「……ええ、すみません」
「テヤンデー!」

 キラは、ラクスの食事を載せたトレイをサイドテーブルに置くと謝罪をした。
 ハロがラクスの気持ちを代弁するかのように、飛び跳ねながら抗議をする。

「つまりませんわー。……ずーっと一人で。私も向こうで皆さんとお話しながら頂きたいのに……」
「これは地球軍の船ですから……。それに今は、プラントとは戦争状態だし……」
「残念ですわねぇ」

 キラの言葉に、ラクスは本当に残念そうな顔をすると、キラを見上げ、たちまち笑顔に変わった。

「でも!あなたも、皆さんも、優しいんですのね!気を使って頂いて、ありがとう」
「……僕も……コーディネイターですから……」

 ラクスの感謝の言葉に戸惑いながら、キラは自分もコーディネイターである事を告げると、ラクスは不思議そうに首を傾げた。
 キラは、ラクスの表情を見て、そのまま言葉を続ける。

「それに、みんなはナチュラルだけど友達だから……。みんな、いい人ばかりです」
「……そうですか。うらやましいですわ。そんなに良いお友達に囲まれて……」

 キラの優しくも友達を称える言葉に、ラクスは目を丸くしながらキラを見上げ、そして微笑む。
 キラ達は知らないが、ラクスはアイドルと最高評議会議長の娘と言う二つの顔を持つ為か、周りは大人ばかりで、ラクスには友人と呼べる人達は殆どいなかった。
 ラクスは友達を称えるキラの姿を目の当たりにして、心からキラが羨ましいと思っていた。

「お名前を教えていただけます?」

 キラは、ラクスの微笑みに見とれていた為か、突然、名前を聞かれ慌てるように答える。キラの心臓はドキドキと音を立てる。

「――キ、キラです……。キラ・ヤマト……」
「……そう。ありがとう、キラ様。お友達にも、よろしくお伝えください」

 ラクスはキラの名を聞くと、穏やかにいった微笑んだ。
 キラはドキドキを抑えながら、色々と注意事項を伝えると部屋を出てロックを掛ける。すると、中から美しく胸に染み入るような歌声が聞こえてきた。
 
「……あの子が歌ってるのか?……綺麗な声だな……」
「うん……」

 サイが微笑みながら言うとキラは頷き、二人共、しばしの間、ラクスの歌声に聴き入る。
 ――この女の子は、僕やアムロさんと、どんな因果があるんだろう……?
 キラは歌声に聴き入りながらも思うのだった。


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 アスランが出て行った後、フレイとニコルは一階に下りてニュースを見ていた。二人共、どうなっているのか気が気ではなかった。

「……あの、フレイ」
「なに、ニコル?」
「……さっき、アスランとフレイが言ってた事なんですが……」

 TVモニターを見つめながら、ニコルが声をかけると、フレイは不思議そうに聞き返した。
 ニコルは言い難い面持ちで口を開いた。その言葉に、二階でのやり取りを思い出しす。

「……聞いていたの?」
「……はい。聞くつもりはなかったんですが……聞こえてしましました……」
「……」

 ニコルは申し訳なさそうに顔を歪める。
 立ち聞きなど、本来なら許される事ではないのだが、ニコルの表情を見て、フレイは何も言い返せなかった。
 ニコルはTVモニターからフレイに向き直ると、真剣な表情で聞いてくる。

「その、アスランの友達の……キラさんって……どんな……人なんですか?」
「……私の友達が同じゼミにいるってだけで、何回か話した事があるだけで、良くは知らないの……」
「そう……ですか」

 フレイが困ったように答えると、ニコルは落胆したような表情になった。
 ニコルは、アスランがあそこまで信じている、キラ・ヤマトと言う人物の事を純粋に知りたかった。頭の中では、ヘリオポリスでの戦闘で、イージスに対峙していたストライクの姿を思い出す。
 ――あれにアスランの友達が……。

「……アスランに取っては大切な友達なんですよね……。今なら、戦闘中にアスランの様子がおかしかったのも頷けます」

 ニコルは苦々しい表情で呟く。心中では複雑に入り組みながらも、一つの決意が固まりつつあった。
 ――アスランとキラさんを戦わせてはいけない……。その時は……例えアスランに恨まれても、僕が……彼を討てばいいんだ……。
 ニコルは決意を固めると、少年らしからぬ険しい表情で口を開く。
 
「……決めました。キラさんがアスランと戦うと言うのなら、その時は、僕が彼を討ちます」

 フレイは、この状況に置かれ、キラが直接的な友達でないにしても、知らない人間よりは遥かに身近な人間なのに気付き、ニコルの言葉に複雑な気持ちになる。
 彼らを止める術を持たないフレイは、自らの無力さを感じる他なかった。


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 ラクスを部屋に送り届けた後に、キラ達は食事をする事となった。席に座り話始めてみれば、やはり出て来るのはラクスの話だった。
 ラクスが同じ女の子と言うのもあり、ミリアリアが不満げに口を開く。

「あれじゃ、いくらなんでも可哀想よ……」
「って言ってもな……」
「何とかしてあげたいけれど、仕方ないよ、軍艦なんだから」
「そうよねぇ……私達じゃ、どうにもならないかぁ」

 トールがミリアリアの言い分に困り果てると、サイがいつも通りにこやかに答え、ミリアリアは無念そうに肩を落とした。
 そこへ、少年達と同様に食事を取りに来たムウが声をかけた。

「よ!お前ら、何話してんだよ?」

 キラは、ムウとは別に少し遅れてやって来たアムロを見つけ、声をかけた。

「あ、フラガ大尉!アムロさんも!食事、今からですよね?席、空いてるんで一緒にどうですか?」
「いいのか?」
「勿論です!俺、話、色々聞いてみたかったんですよ!」

 アムロが聞くと、トールが身を乗り出し喜々とした表情で答えた。
 ムウが苦笑いをすると、アムロに声をかけた。

「オッケ!んじゃ、席、頼むわ。メシ、取りに行ってきましょうや」
「ああ、そうしよう」

 アムロは頷くと、ムウと共に食事を取りに行く。
 アムロとムウは席に座り、食事を始める。ムウは、早速とばかりに、少年達が話していた会話の内容を聞いてみた。

「んで、お前ら、何の話してたんだ?」
「民間船の彼女の事ですよ」
「ラクス・クラインの事か?」
「ええ、そうです」

 ムウの問いにトールが答え、ラクスの名前を出して聞き返すとキラが頷いた。
 ミリアリアがムウにラクスの待遇の事で不満を漏らす。

「彼女、部屋に閉じ込めっぱなしじゃないですか。なんだか可哀想で……」
「ここは軍艦だからな……」
「でも、彼女は民間人なんですよね?」
「ああ。そりゃ、そうなんだが……」
「せめて、居住区くらいは自由に出入り出来るようにしてもいいんじゃないですか……?」


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 ムウは、ミリアリアの一方的な言い分に参った感じで、ミリアリアの隣に座るトールに向かって渋い顔をしながら言う。

「お前の聞きたい話って、これかぁ?」
「フラガ大尉、違いますって!」
「して、やられたな」

 トールが慌てたように大きく顔を左右に振ると、アムロがムウに向かって茶化すように笑った。

「ったく!分かったよ、艦長に掛け合ってやるよ。但し、期待はするな。なんせ、怖い副官がいるからな」
「……フラガ大尉、副官が何でしょうか?」

 ムウは頭を掻き毟ると、仕方ないと言う顔つきでミリアリアに答えると、運が良いのか悪いのか、ムウの背後にはアークエンジェルの副官様、ナタルが明らかに怒っていると分かる表情で立っていた。

「……。いや、別に……」
「……そうですか。後からたっぷりとお話を聞かせて頂きます」

 ムウの背中に冷たい物が流れる。人の悪口は言う物ではないと後悔を少しした。
 それを見かねて、アムロが助け舟を出した。

「バジルール少尉、そこまでにして、食事を取ってきたらどうだ?席なら僕の前が空いているから、取っておくが……」
「あ、はい!ありがとうございます!」

 ナタルは一瞬、キョトンとした表情になるが、慌てて、礼を言うと食事を取りに行く。
 ムウは息を吐くと、片手でアムロに助かったと、礼を伝えた。


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 ナタルはアムロの前の席に座ると、ムウと同様に会話の内容を聞く為に口を開く。

「それで、何の話をしていたのですか?」
「ああ、お姫様の事だよ」
「彼女、部屋に閉じ込めっぱなしで、可哀想じゃないですか」
「そうは言われても、彼女はプラントの……」

 ムウがうんざりとした表情で答えると、ミリアリアが再びラクスの待遇の事で不満を言った。
 ナタルはアムロとのやり取りを思い出し、言葉を言いかけて止めた。
 ――俺も……地球軍に取っては、彼女と同じなのではないかと思ったのさ。
 ナタルはアムロに視線を向けると、躊躇いがちに口を開いた。
 
「……アムロ大尉は……どう思われます?」
「ん!?……民間人だからな。……精々、許可出来て、居住ブロックまでだろうな」
「……分かりました」

 アムロは口の中に入っていた物を飲み込むと、真面目な顔で答えた。
 ナタルは頷き、少し考えるとミリアリアに視線を向ける。

「私も出来る限り、許可が下りるよう艦長に掛け合ってみよう。これでいいか、ミリアリア・ハウ?」
「「「「「――!?」」」」」
「――あ、はい!ありがとうございます!」
「――?……みんな、どうした?それにフラガ大尉も?」

 ナタルの意外な言葉に、アムロを除く全員が驚いた表情になっていた。ミリアリアも驚きながらだが、うれしそうに礼を言う。
 ナタルは少年達とムウの表情が気になったのか、不思議そうな顔をした。
 すると、ムウが立ち上がり、ナタルに賞賛の声を上げる。

「いやー、見直した!流石、アークエンジェルの副長だ!」
「俺も感動しました!」
「バジルール少尉って、冷たい人なんだと思ってましたけど、そんな事なかったんですね……」
「僕も勝手に苦手だと思い込んでいたけど、人って分かり合えるんだ……」

 ムウに続くようにトールも立ち上がり瞳を煌かすと、サイとキラがしみじみとしながら口を開いた。

「み、みんな……」
「お前達……」

 この突拍子もないノリに付いていけなかったのか、カズイは驚いていた。
 アムロは呆れながらも苦笑をするのだった。


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 アスランは本部に向かった後に、命令で軍港にある待機所の一室にいた。
 今は、こうして待つしかないアスランは焦る気持ちを抑えながらも、ラクスとの別れ間際の事を思い出し、後悔をしていた。
 扉が開く音がすると、パトリックとクルーゼが入って来た。

「あっ」

 父が息子を見送るような人ではないのを知っている。アスランは驚きを隠せなかった。
 パトリックは、アスランの前まで来ると口を開く。

「アスラン、ラクス嬢のことは聞いておろうな」
「はい!しかし隊長……まさかヴェサリウスが?」
「いや、ヴェサリウスは出ない。我々も、彼女の捜索に向かいたい処だが、生憎とモビルスーツの予備パーツ造りと修理に手間取っていてな」

 アスランは頷くと、クルーゼに視線を向けた。クルーゼは首を振り、仕方ないとばかりの様子で答えると、パトリックが再び口を開く。

「公表はされてないが、既に捜索に向かった、ユン・ロー隊をの偵察型ジンを出しているが、未だに発見されておらんのだ」
「ユニウスセブンは地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ガモフはアルテミス付近で足つきをロストしたままだ」
「まさか、あの戦艦ですか?」

 クルーゼはパトリックが言い終えると、続ける言葉を続けた。
 アスランは、クルーゼの言葉にアークエンジェルとキラの姿を思い出す。ユニウスセブンが地球に近い位置にあるとは言え、余程の事がない限り民間船に攻撃するとは思えなかった。
 アスランの思考を遮るようにパトリックが口を開く。

「ラクス嬢とお前が、定められた者同士ということは、プラント中が知っておる。だが、お前の居るクルーゼ隊は出られんと来た。そこで、お前は一時、クルーゼ隊を離れ、捜索隊に加わってもらう」
「――あ……、です……が……」
「婚約者のお前を出さん訳にはいかんからな。彼女はアイドルなんだ。頼むぞ、アスラン」
「――は!」

 下された命令にアスランは敬礼をすると、パトリックは踵を返し、部屋を後にする。
 パトリックに取ってはラクスの事など、さして関係はないのだろう。体面さえ取り繕えれば良いように感じ、残されたアスランは、クルーゼに父の言葉の意味を嫌悪を込めて聞いた。

「彼女を助けてヒーローの様に戻れと言うことですか?」
「もしくはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かな」
「……」

 クルーゼは無神経にも、アスランの心を皮肉るように言うと、アスランは、信じられないと言うように、無言になった。
 クルーゼは冷淡に微笑みながら、言葉を続ける。

「どちらにしろ、君が行かなくては話にならないとお考えなのさ、ザラ委員長はな――。モビルスーツの修理が終わり次第、私も追いかける事になる。その間、君にはジンを使ってもらう事になる。いいか?」
「――はい!」

 アスランは敬礼をすると踵を返し、捜索隊の船に乗艦する為に部屋を後にした。


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 食事を終えたアムロ、ムウ、ナタルはブリッジに向かう為、通路を歩いていた。
 
「ま、待ってください!」
「どうしたキラ?」

 慌てて追いかけてきたキラにアムロが答える。
 ナタルがさっきの食堂での事を思い出し、眉を顰める。

「私をまたからかうつもりか……」
「まあ、愛される副長って事でいいじゃなの?」
「……フラガ大尉!」
「ぼ、僕は、そんなつもり、ありませんよ」

 ムウは茶化しながら言うと、ナタルはジト目でムウの事を睨む。
 キラも必死にナタルをからかう気などない事を主張した。
 アムロは仕方ないとばかりに、どうしてキラが追って来たかを聞く。

「キラ、どうしたんだ?」
「あ、はい。アムロさんとフラガ大尉にお願いがあって……」

 キラは真剣な顔でアムロとムウを見つめる。その表情にムウも顔を引き締めると聞き返した。

「俺とアムロ大尉にか?」
「はい!――僕に戦い方を教えてください!」

 キラは力強く頷く。その目には、戦いを生き抜き、何としても、みんなを守る為に、その術を身に付けようとする意思を感じさせる物だった。

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