「君たち…特にフレイとキラ、二人には期待している。これから大変だろうが、頑張ってほしい」
出撃前の最後のミーティングで、アムロはそんなことを言い出した。
「わかってます、この…えぇと、まぁ、これ…ですよね」
「ちょっとキラ、そんな言い方じゃわからないわよ。まぁ、これとしか云いようがないのはわかるけど…」
力、というほどのものではないことと自分達は思っている。
相手のことが何となくわかる等、何とも言い難い、他人には説明しにくい概念だと思う。
「何言ってるんだ?あの二人」
「さぁ?よくわからないですけど。二人ともちょっと天然入ってますから、それじゃないですか?」
『そこ、うるさい!』
トールとシンが本当によくわかんねぇ、と言った不思議な顔をしている。
しかし怒った二人がいうように何とも曰く言い難い話なのだ。
そこに、苦笑しながらアムロが言う。
「君たちには僕のように間違ってほしくないからな。わからない話だろうが
あきらめて聞いてくれ」
その話を聞いた二人は過剰に反応してくる。
「そんなことありませんよ!戦争を終わらせる努力をしているアムロ大尉が
間違ってるわけないじゃないですか!」
「そうです、トールさんの言うとおりです!オーブの防衛隊より多くの住民を助けてくれたんですよ!?
そんなあなたが間違ってるなんて…!二人も何か言ってください!」
しかしキラとフレイの二人は真面目な顔をして言う。
「アムロさんが言いたいのはそういう間違いじゃないんですよね?」
「うん…なんていうか、アムロさんこれの使い方間違ったのよ…
後は…わからない人たちの無理解って言うか…そんな所ですよね?」
歯切れの悪い言い方をしているが、自分の言いたいことを理解している二人に驚き、
やはり二人には間違ってほしくないと改めて思った。
「それなら、何をすればいいかわかっているんだろう?」
「ええ、幸い僕にもアズラエルさんって言う繋ぎができましたし、フレイは財閥の娘ですからね。
言い方は悪いですけど最大限に利用させてもらいます」
他人を理解しやすいからこそ相手との関係を繋ぐ、つまりコーディネーターとナチュラル
を結ぶ人間になるにはニュータイプ、この能力は有用だ。利用しない手はない。
「ホントに言い方が悪いわね。なに?私にはそれだけの価値しかないってわけ?」
怒ったような言い方はしているが、からかっているのは明白だ。
アムロはそれがわかってにやにやしているが女性経験がほとんどないキラはあたふたし始める。
「イヤ…違うよフレイ、だから真面目にうけとんないでって!」
これにうんざりし始めたのは横にいた二人だ。両思いになったこいつらはところかまわず
のろけ始めるからたちが悪いと常日頃から思っている。
「んで?俺らは結局なんだってのよ?」
「仲がいいのはわかりましたから、いったいどういう事でこんな話になってるんですか」
不満そうな顔を隠そうとしない二人に苦笑しながら話しかける。
「トールは僕と今でも友達だよね?」
「当たり前だろ?何でそんなこと聞くんだよ?」
「シンは私のこと嫌いかしら?」
「そんなわけないじゃないですか、あんなに必死で守ってくれたんです、好きですよ」
くすくすと二人にしかわからないわからないことで笑いあってから言う
『それでいいんだよ』
そこにアムロが眩しそうに、もう遠くに行ってしまったものを見るように言う。
もう会えない自分の友人達を思い出して。
「まあ、まずはこの戦争に生き残ることが先決だ。隊列を確認をする」
「よし、それでは格納庫に行くか。アズラエル理事がデータ取りのために新機体を用意しているらしい」
アムロがうんざりしながら言う。
「またですか、あの人新型ばかりこっちに回してくるからマードックさん大変そうでしたよ」
「新型よりも整備性だってわかってくれないのかしら…」
「俺なんかお前らについて行くのに精一杯なのに新型ってのもなぁ…」
「俺あの人との付き合い短いんですけど、ブルーコスモスってだけでイヤです」
実験部隊の位置にいるためアークエンジェルには試験機から渡される。
パイロットの腕はいいのだが、なにぶん最前線。損傷は避けられない。
整備性が最悪な試験機を回されここまで持ってきたのはマードック曹長の腕に寄るところである。
「ここまで生き残れたのはあいつが補給最優先の取り決めをしてくれたからだ。
そんなに嫌ってやらなくてもいいだろう?」
「まあ、そうなんですけど…」
キラとシンはコーディネーターとしてブルーコスモスを好きになれない。
随意があるのは確かだが利用価値があるうちは裏切らないのは知っているため、
とことん利用してやろうとはしている二人だった。
トールとフレイは無理な注文をつけてくる上司として気に入らないだけであるが。
「アムロさんもブルーコスモスでしたっけ?アズラエル理事とも仲良いそうですし。
どうも主義者には見えないんですけど」
「そうなんですか!?」
ラミアス艦長からアムロ大尉には近づくな、と言う言葉と共に理由を聞いたが、
キラを嫌悪する様子がないため良く解らず、面と向かって聞けなかった。
初めて聞いたシンは驚いている。
「イヤ、あいつとは友人なだけなんだが。なぜみんなあいつと友人というと
ブルーコスモスだと思うんだろうな?」
ブルーコスモスの人間と近いだけで同じだとされる理由がアムロにはわからなかった。
しかしモルゲンレーテではアムロはブルーコスモス一派から派遣された技術者
と言うのがアムロへの見方だった。実際はMSの開発をしていたのが、地球側では
ヘリオポリスしか無く、ブルーコスモス側でも実績がない計画を新たに立てるよりは
派閥を越えてでも共同研究にした方が安上がりというのが真実だった。
「さて。そんな話は後にして、さっさと機体を見に行くぞ」
『はい』
「や、皆さん来てくれましたか」
全員が踵を返したい気持ちを抑えて新たに配備されたMSへと向かう。
この人のニヤけた面は戦場で見ると倍はむかつくのだ。
「なぜここにいるんですか?アズラエル理事」
「この間忙しいっていたじゃないですか」
不満を隠そうとしないのはキラとフレイの二人だ。
さんざんやりこめられてきているのでいろいろ恨み辛みが溜まっている。
トールとシンの二人は何も言わない。かなり偉い人だとわかっているため
無用な反感は買いたくないからだ。内心ではもっと言ってくれと思っている。
「イヤ、最後くらい最前線というものを見ておこうと思いまして。
アークエンジェルに同乗させてもらいますよ」
これに驚いたのはアムロだ。オブザーバーなどというものが乗った艦がどうなるのか
グリプス時代に何度か経験しているため、ろくな事にならないと思ったのだ。
「君の仕事は後方で金を稼ぐことだろう?アズラエル。
ここには友人も少ないんだ、これ以上減らしたくはないんだがな?」
こちらに来て三年。最初に拾われ、恩義を感じている事以上に友人として好意は持っているアムロ。
オブザーバーとして乗ることに反対する以外にも、死んでほしくないというのも確かな希望だった。
面と向かって友人と言われなれていないアズラエルは、少し恥ずかしそうに言う。
「少し、気になる話があったんですよ。僕らの過激派がね、核ミサイル持ち込んでるとかなんとか。
せっかく確保できそうな工業施設壊されちゃたまんないですから。父の代から結構投資してますし。
…全く、今回ので受けた不利益を回収できそうなのにどうしてわかってくれないのか」
ま、僕がいれば止まりそうですしね。と、軽い様子で話すが出た言葉はとてつもなく重い。
その話を聞いて疑問が浮かんだ様子のキラは言う。
「でも、NJがあるから核分裂はできないんじゃないんですか…!?」
静かに言っているが困惑している。その疑問ももっともだったようでアズラエルは言葉を返す。
「どうも過激派だけにNJキャンセラー…とでも言いましょうか、まあそんな装置が渡ったそうでして。
そんなのがあれば電力確保に有用なのに彼らは戦争にしか使わない。非道いものです。
と言うかザフトも彼らだけに渡すようにしたとしか思えないんですよ。何考えてんでしょう?」
遠回しな自殺でも考えているのか、とつぶやくがまさか人類絶滅させるために
自分たちの軍まで滅ぼそうとしているヤツがいるなどとは誰も思えなかったのだ。
人命を考えるような発言は出ないが、こんな人だったとキラは思い直し
不快感を押しつけるように言った。
「わかりました。それで、新型のMSはこれですか?なんか見たことあるような…」
よくぞ聞いてくれたと顔に喜色を浮かべ説明してくるアズラエル。
自分の商品を説明する際にはウザさが倍になるのが武器商人だ。
「ええ、アムロ君の参加でG計画はかなりの前倒しが可能となりましたから。
君たちに回しに回した試験機のデータと相手側の交戦データから割り出したXシリーズのスペック。
それを元に再設計したものがこの三機です」
さんざん煮え湯を飲まされ、また自身達も乗り慣れたXシリーズに似た機体がそこにはあった。
「ま、ホントのワンオフ機ですよ。スペックはかなり上げてみました。
それぞれブルデュエル、ヴェルデバスター、そしてストライクEにノワールストライカーをつけた
ストライクノワール、と言ったところですか」
さらに、と急かすようにアズラエルは言う。
「ちょっと奥まで来てください。こっちの機体もデータとってほしいんですよ」
五人がついて行くとピンク色のストライクにゴテゴテした何かを背負わせた機体、
それに所々金色の装甲版が張ってあるストライクに似た機体があった。
「あれがオーブのモルゲンレーテから出てきた二機です。
仕様書ではストライクルージュI.W.S.P.となってるのがこっちで」
そして大仰にためてから言う。
「工場の奥深く、しかも二重のパスワードブロックがあった場所に隠されていたアカツキ。あっちの機体です!」
楽しそうに、本心は何処にあるのかわからない笑顔で続ける。
「どちらも調整しておきましたが、なかなかのスペックで。捨て置くには惜しい性能してるんですよ。
動かせる人がいないぐらいのじゃじゃ馬性能でして、まあここの人なら誰でも動かせるんでしょうが」
データを取るにも動かせなければただのゴミ。ここでしか使えないために持ち込んだのがありありとわかる。
そこにいた全員がため息をついた。
その空気にめげることなく解説をつづけるアズラエル。
「イヤ凄いんですってこの機体!あの金色のところなんかビームを反射するそうで。ま、実験してませんが。
ホントは全身にあの装甲を張る予定だったんですが、何せ見つけたのはフレームが組み立てられる前だったもので
大急ぎで組み立てて、いくつかあった装甲板を貼り付けて、半分組み立ててあった
ストライカーパックみたいなのをくっつけて完成した突貫機体でして。スペックは高いですが一度も動かしていないんですよ」
五人が沈んでいく様子を見て、もう一声上げるべきだと確信する。
「ピンク色の方も凄いんですよ?あのバックパックはあらゆる局面を戦えるように
全てのバックパックの特徴を兼ね備えているそうです。
バッテリーの増設も兼ねてるので稼働時間を増やしていますし。
まあ問題は決定力不足とか、バランスがものすごく取りにくいとか、そこら辺なんですが」
誰もが心を一つにする、この二機には乗りたくないと。
「いいか、一回勝負だ」
「わかっています、本気で行きます」
「こんな機体乗ってたら目立って落とされるわよ!絶対イヤ!」
「俺こんな機体乗ってたらすぐ死ねる自信あるわぁ…」
「何作ってんでしょうオーブって…だからアスハはイヤなんだ…」
五人を包む殺気にも似た何かがふくらむ。
『じゃーんけーん!』
「まあ仕方ないさ、確かに信用のおけない機体を君たちに回す気もないしな、
キラの機体はこれよりも大丈夫だろうさ」
「そうなんですけどね…ピンク色かぁ…」
向こうで三人は飛び跳ねるように喜んでいる。そんなに乗りたくなかったのか。
そんなところであることを思い出したキラはアズラエルにたずねる。
「あの、カガリって子知りませんか?ウズミ様の娘なんですけど…」
「ああ、彼女ならウズミさんが亡くなった後のアスハ派を率いて大西洋連邦に
協力的な政権作りに協力してもらう予定ですよ?」
なぜかはわからないが、彼女は生きていてほしい人だったため少し安心した。
「良かった…生きてたんだ。彼女アフリカでレジスタンスに参加するくらい無鉄砲でしたから
どうしているのか、もう不安でしょうがなくて…」
それを聞いたアズラエルの目が怪しく光った。
「へぇ…裏付け取らなきゃいけませんが…面白い話ですねそれ、もっと聞かせてくださいよ」
直後、まずいことを言ったことに気がついたキラは何とか誤魔化そうとする。
「嘘ですよ、冗談ですって」
「ふうん。ま、いいですけど」
こんなものでは誤魔化しきれなかっただろう。キラは自国の植民地化に王手をかけてしまった。
もう何もかもダメなことを悟ったキラはなかば自棄になったように言う。
「それで、次の出発はいつなんですか?機体の習熟訓練ができる余裕ありますか?」
それに答えてアズラエルが言うには。
「ありませんね、今夜にも出発です。早く行かないとヤキンに間に合いませんから」
最後の決戦はすぐそこだった。