もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


その他    631氏(2006/11/05)

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「私は完全に負けたのだな・・・」
シャアは、自嘲気味に呟いた。
アムロとの最終決戦と望んだ今回の戦い。あらゆる面で、シャアは負けてしまった。
モビルスーツでの戦い。アナハイムからの情報では、νガンダムは未完成だったと聞いていた。しかし、それを倒すことは叶わなかった。
さらには、アクシズ落下の阻止。ブライトにしてやられたとはいえ、アクシズの後ろ半分は地球に落ちるはずだった。しかし、それも叶わなかった。
またしてもアムロに、そして、自分が信じることのできなかった人の心の温かさによって、アクシズは落下コースを外れていった。
「ふっ、まったく、どこまでも私の邪魔をする男だな、貴様は」
シャアは、笑いながら通信越しにアムロに言う。
完全な敗北というものは、こうまで人の心を落ち着かせるものだというのを、シャアは初めて実感した。
例え、アクシズの落下は防がれようとも、自分たちはすでに本隊からあまりにも離れすぎていた。通信も届く距離でではないし、νガンダムのエネルギーも底をついており、帰るのはほぼ不可能な状況であろう。
ならば、アムロと最後の一時を共有するのも一興だとシャアは思った。
「さぞや愉快だろうな、貴様は。しかし、もはや私も貴様も帰ることは出来ぬだろう。残念だったな」
しかし、アムロからの返事がない。
シャアは、怪訝に感じアムロに、呼びかける。
「アムロ、どうしたのだ」
しかし、依然としてアムロは何の反応も示さない。
「ちっ、気絶しているのか」
アムロは、νガンダムの中で、意識を失っていた。
ただでさえ、サイコフレームとのリンクにより、自分のNTとしての能力を限界まで高めているのに、さらにはアクシズを押し返すという暴挙によって必要以上のNT能力を使ったアムロが、意識を失うのは当然のことであった。
「ふっ、私は最後まで一人ということか」
シートに深く座りなおし、シャアはごちた。
シャアは、ずっと一人だった。一年戦争でララァを失って以来、ずっと、一人で戦ってきた。近づいてくるものは、たくさんいた。ある者は、シャアのカリスマに引かれて。そして、ある者は政治力に、また、ある者はシャアという“男”に引かれて。
しかし、それを一度として受け入れたことはなかった。上辺だけの付き合いはいくらでもあった。しかし、本当の意味でのシャアを知るものは、ララァと、皮肉にも敵であるアムロだけであった。


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「まあ、私にふさわしい末路といったところか」
自虐的に呟く。人を拒絶して生きてきたのだ。こういう結末は想定の範囲だし、なにより自分の死に際をみっともなく飾りたくはなかった。
“そんなことありませんよ、大佐”
突然、女性の声が聞こえた。いや、聞こえたという表現は的確ではない。頭の中に入ってきた、もしくは、感じられたといったほうが正確か。
「ララァなのか」
“お久しぶりです、大佐”
「ああ、久しぶりだ。また、君を感じることが出来るとは」
シャアは、目を閉じる。ララァをより明確に感じられるような気がしたからだ。
「だが、ララァもせっかちだな。今、会いに来なくても、私はすぐにララァの元に行くのに」
シャアの顔に笑みが浮かぶ。
自分が死んでも、ララァに会える。ララァがいてくれるということが、シャアの死への恐怖を和らげてくれた。
しかし、ララァはそれをやんわりと、しかし明確に拒否した。
“いいえ、大佐。こちらで私と会うことは出来ませんよ。もちろん、アムロもね”
「なっ、何故だ、ララァ」
“だって、大佐もアムロもこちらには来ませんもの”
「こちらには来ない、だと?私はララァの元へは行けないのか!」
“そう言う意味ではありませんよ、大佐。大佐とアムロは死なないから、こちらの世界に来れないと言っているんです”


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「死なないだと?しかし、私にはもう助かる手段がない。無論、それはアムロも同じことだ」
シャアが、声を荒げて反論する。いったい、どうすればこの状況を好転できるというのか。
“二人はまだこの世界に必要とされています。だから、死なせるわけにはいきません”
「私たちが、必要とされているだと?いったい、どういうことだ、ララァ」
“あなた方は、この世界の行く末を見届ける義務があります”
「義務だと」
“はい”
「だが、私が何を見届ければいいというのだ。一年戦争及びグリプス戦役時、確かに私は人の
革新に期待を寄せた。そして、革新の象徴とも言うべき少年も現れた。人類がNTになれることを期待させた。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。人は、依然として重力に魂を引かれ、地球を食いつぶす。
だからこそ、私はアクシズを落とそうとしたのだ。地球からの人類を排除しようとしたのだ。しかし、またしても
人は、奇跡を見せ付ける。いったい、これ以上私にどうしろというのだ」
シャアが、自分の心情をこれでもかと吐露した。
“だから、私が来たのよ”
しかし、そんなシャアの葛藤をやさしく包み込むように、ララァは言った。
“今から、あなたたちにある世界を見せてあげる”
「ある世界だと」
シャアは怪訝そうに問いかける。
“ええ、もうひとつの地球。もしかしたらあったかも知れない世界。そこに、連れて行ってあげる”
「もうひとつの地球?君はいったい何を言っているんだ、ララァ」
“そこは、NTとは違った進化を見せた世界よ。そこで、もう一度、感じ取って。人の在り方を、地球の在り方を・・・”
そう言って、静かに消えていくララァ。
「おい、ララァ。どういうことなんだ、ララァ」
すでに、ララァを感じることは出来なくなっていたが、かまわず、シャアは呼び続けた。
しかし、そう長く呼び続けることは出来なかった。
突然、シャアの頭の中に何かが入ってきた。それは、光だったのだろうか。シャアの頭の中が真っ白になり、シャアは意識を失った。


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「まて、ララァ」
何もない真っ暗な世界で、アムロはララァを追いかけていた。
これは、たぶん夢だろう。いや、夢以外にはありえない。
なにしろ、自分の目の前にララァ・スンがいるのだ。
そのララァが自分のから逃げていく。アムロは必死で追いかけた。
「どこに行く。何故、僕から逃げるんだ、ララァ?」
「アムロ、今からあなたをもう一つの地球に連れて行ってあげる」
走りながら、ララァは言った。
「もう一つの地球だと?どういうことだ、ララァ」
アムロは、全力でララァを追いかけるが、全然距離が縮まらないことに苛立ちを感じていた。ララァは、跳ぶように軽やかに、アムロから逃げていく。
「あなたは、まだこっちには来てはいけない人なの。だから、私が生かしてあげる」
そういって、ララァは飛び上がる。
すると、ララァの身体が見る見ると、白鳥へと変わっていった。
“さあ、アムロ。こっちに来て”
白鳥になったララァが言う。
ララァが飛んでいった先のほうが、ぼんやりと明らんでいた。まるで、真っ暗なトンネルの出口から光が漏れているように。
“この光の先が、あなたの新しい世界よ”
ララァはそういい残すと、光の先へと消えていった。
「まっ、待ってくれ、ララァ。僕はまだ君に聞きたいことがあるんだ」
アムロはララァを追いかけて光の中へと入っていった。


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「ララァ」
急に意識が覚醒する。布団を跳ね上げ、身体を起こす。
以前、ラー・カイラムでもこんなことがあった。
「夢・・・・・・だったのか?」
アムロは朦朧とした感覚が薄れるにつれて、今のララァとの邂逅が夢であることを実感した。
それと、同時に意識が周りに向けられる。
「ここは・・・どこだ?」
アムロは見慣れない風景に困惑した。
自分が寝ていたベッド、すぐそばには簡素はテーブルと椅子が置いてあるだけの質素な部屋。
窓の外に目を向けると、青々と茂る木々の向こうには、光を受けてきらめく海が広がっていた。
「ここは・・・地球・・・なのか」
アムロは窓際で呆然と立ち尽くしていた。
「確か・・・俺は宇宙にいて、シャアとアクシズで戦っていて・・・助かったのか」
アムロは、自分の立場が飲み込めず、困惑仕切りであった。この、状況を鑑みるに、助かったと考えるのが妥当だろう。
しかし、なぜ自分が地球にいるのかが理解できなかった。
「海があるコロニーってわけじゃないよな」
そんなことを考えるが、すぐに一蹴した。海があるコロニーなんて聞いたことがないし、もしあったとしても、所詮は人工的に作られるもの。この、潮風と潮騒は出せまい。
なにより、空があることが地球である何よりの証拠なのだが、今のアムロにはそこまでの頭が回らなかった。
「まあ、お気づきになったのですね」
景色に気をとられていたアムロに、突然、声がかかる。
アムロは、すぐさま声の主に振り返った。
ドアの元には、洗面器を抱えたピンクの髪の上品そうな女性が立っていた。
「よかったですわ、すっかり回復なさったようで」
女性は部屋に入り、テーブルの上に洗面器を置いた。中には、水が張っており、タオルがぬれている。アムロは、この女性が自分を看病していてくれたのだと感じた。


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「すまない、君は・・・?」
「私はラクス・クラインと申します、アムロ・レイさん」
ラクスと名乗った少女が、自分の名を言ってくることに驚いた。
「どうして、俺の名を」
「あなたをここに連れてきた人が教えてくれました」
「俺を連れてきた人・・・?」
そう言われ、しばらく考え込む。
(俺をここに連れてきた人?いったい誰だ。確かにアクシズを押し返すとき、連邦軍の兵士やギラドーガも手伝ってくれたが、全員アクシズから離れてしまったはずだ)
考え込むアムロをよそに、ラクスはアムロに話しかける。
「まあ、こんなところでは何なので、下に行きましょう。お話はお茶でも飲みながらにいたしましょう」
「あっ、ああ、そうだな」
急に世界に引き戻される。
「でも、その前にこれだけは教えてくれ。ここは地球なのか?」
アムロはどうしても確認したいことを問いかける。
すると、ラクスの形のいい唇が真実を告げた。
「はい、ここは地球です」
やはり、地球なのか。聞きたいことは山ほどあったが、とりあえず、アムロはこの事実を素直に喜んだ。
窓から見えていた景色は、地球なのだ。それは、きれいなものであり、アクシズが落下した影響は、微塵も感じさせなかった。
最後の最後で気絶してしまい、結果が分からなかったが、この様子からするとアクシズの落下は回避されたのだろう。
つまりは、シャアとの戦いに勝ったのだ。
アムロはラクスの後について、階段を下りた。
1階は広く、ゆったりとした空間が広がっていた。
テーブルには、3人の男性が着いていた。この家の住人なのかと、アムロは思い、全員の顔に目を向ける。しかし、その中には信じられない顔が見られた。
「なっ、シャア!!」
その顔をアムロが見間違えるはずもない。それは、まごうことなきアムロのライバル、シャア・アズナブルその人であった。

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