もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


その他    984氏(2007/12/12)

最初からクライマックス。

「どうしたのかね、こんなところで惚けて」
後からクルーゼが話しかけてきた。MSの前で思考に深く沈み込んでいたアムロは
今の時まで気がついていなかった。
「確かにこれが最後の出撃だろうから、感慨深くなるのは理解できるがね…」
アムロは苦笑しながら首を振る。
「いや、そんなことではないよ。今更ながらなんだが、自分がこの世界で戦争に参加する意味があるのかと
つい深く考えてしまってな」
クルーゼは面白いことを聞いたとでも言うように唇を大きく歪めた。
「ク、ククク。そんなこと、本当に今更ではないか。君が戦技教官としてMS機動の基礎を築いたのだ。
君はもう既にこの世界の、多くの人類を手にかけていることになるではないかね?」
「確かに。本当に今更だったな…」
四年前。戦争が始まる前にこの世界にνと共に墜ちてきた。
プラント評議会議員のパトリック・ザラに拾われたアムロは、請われるままMSの技術開発から
戦闘機動まで協力してきた。これも全てスペースノイドとコーディネイターの相似点に引かれたせいだと思う。
「それにだ。今更止まれないのだろう?言っていたではないか。この世界の人類にも人の心の光を見せるのだ、と。
かつて私たちに見せてくれたように」
そうだ。自分のやることはあれから変わっていない。戦争が起きたのならばもう起こさせないための行動を。
「目は覚めたかね。君がだらけていては、なんのために私は復讐をやめたのかわからなくなるからな」
アムロは、何かを振り払うかのように頭を振った。
「ああ、すまなかったクルーゼ。もう大丈夫だ」
「そうか。…っと、そういえば。ギルとタリアの二人が君にまた会いたいと言っていたぞ。レイも楽しみしているそうだ」
それを聞いて、アムロは不可思議な顔をする。
「ん、あぁ、そう、か。そうだな、この戦争が終わってからでも会いに行こうか」
その反応を見たクルーゼが仮面の上からでもわかるほどに不思議そうな顔をした。
「そういえば君はあの二人と話すときに、何となく随意があるように感じるのだがね」
「いや。あの二人に何かがある訳じゃないんだ。トラウマというか。あの二人の声を聞くとどうもな…」
クルーゼはそれを聞き、ますます不思議そうな顔をする。
「何を意味のわからないことを…。私は先にコックピットで待機している」
クル−ゼはコックピットへ向かっていく。

「ああ」
生返事をしながら、アムロは再び目の前のMS−ずいぶんと形は変わっているがνガンダムである−へと目を向ける。
「しかし、よくここまで組み上げたものだ…」
「フン。当たり前だろう、我らコーディネーターはナチュラルに技術で負けられないのだ。
たとえ異世界で、我らより進歩していようとな」
と、後ろから、不機嫌そうな、それでいて知っているものにはいつもと変わらない声が聞こえてきた。


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「ザラ議長閣下」
アムロは敬礼をする。
「君に固くされるとこちらも調子が狂う。楽にしてくれ」
そう言われ、敬礼を解いた。
「大西洋連邦との講和はうまくいっている。ブルーコスモスの穏健派とは休戦も取り付けた。
強硬派の兵力をどうにかすれば、独立も認められる。まったく、一年前には考えられなかった」
「私自身には政治の話はよくわかりませんが」
「聞いてくれるだけでいい。ただの愚痴だよ。このような立場ではおいそれと口に出せんからな」
疲れが溜まっているような顔色をしいてはいるが、楽しそうな雰囲気だった。

「君がきてから、もう四年かね」
「はい。それぐらいになりますか」
アムロとアスランが並び。その前にパトリックが仏頂面で座り、レノアが紅茶を入れる。
二人は、家族だった頃を思い返して、遠くを見ていた。
「君に殴られなければ」
「えっ?」
「君が殴ってくれなければ。私は戦争を終わらせようとはしていなかっただろう。感謝している」
不機嫌そうな顔はしているが、真摯に礼を述べていた。
「いえ。私はレノアさんがそんなあなたを望んでいないことぐらいはわかりましたから」
「そうか」
それだけで分かり合えた。しばらく二人は黙っていたが、アムロから話を切り出した。
「それにしても。本当に四年でよくここまで組み上げましたね、驚いています」
「まったくだ。ゼロからの試行錯誤でデッドコピーが限界だった。思念波で誘導できる兵器などオカルトの域だ。
自前で作り上げて実用化までいったのは数少ない。これ−νガンダム−とプロヴィデンス、後は数えるほどのテスト機だ」
νガンダムに至っては装甲も再現できなかった。間接部もアムロの操縦で一戦持つかどうかといったところだ。
まさにデチューン状態。しかしこんなざまでもアムロ・レイが乗るのはこの機体だけ。この機体でなければ全力が出せないのだ。
「しかし完璧に動かせる。安心して乗ってくれたまえ」
「それは信じています。コーディネーターの技術力の高さは確かですから」
それを聞いたパトリックは心底楽しそうに口元を歪める。そして誇りながらこう言った。
「コーディネーターはあらゆる面でナチュラルを超えねばならんのだよ」
そこに。暗い感情は見られなかった。

「それでは。行ってきます」
コックピットに乗り込もうとする。出撃の時間は迫ってきている。
「アムロ」
後ろからパトリックが呼び止めた。振り返るアムロ。
「帰ってきたら墓参りに行こう。アスランと君と。三人一緒にだ。あいつも喜ぶだろう」
「喜んで」
アムロは本当に嬉しそうに言った。
そして、ヘルメットをかぶるZ.A.F.Tエース『白い悪魔』。
その目に、もう迷いはなかった。


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「おい、ザラ議長閣下がきてるぜ」
出撃前で緊張していたアスランの思考は、ディアッカのその一言で現実に引き戻された。
「あ、ホントですね。教官と一緒です。仲良さそうですね、あの二人」
ブリッツ改修機のカメラアイを二人に向けて、意外そうにニコルが言う。
「ああ、厳格な閣下とプライベートでは接点がなさそうだが。何しろナチュラルでもあるんだしな」
幾ばくかの随意を込めてイザークが言う。一時期より酷くはないが、未だにナチュラルには括っている。
「確かに。プライベートは軽いしね、教官。共通点は仕事が趣味って所くらいじゃない?」
教務員室ではいっつも機械いじってたし、とラスティが言う。彼が五人の中では一番
アムロと話をしている。戦争後のコネを作れと父親に言われたためだ。
「いや。一緒に暮らしていたぞ、俺たち。母上がまだ生きていた頃の話だけど」
『はぁ!?』
一斉に聞こえてきた声にビクリとする。そんなに意外なことだったろうか?
「あの二人がかぁ?なんっか全然想像できねぇ」
『うん』
そんなに違和感を感じるだろうか?一緒に暮らしていた者としては、別になんでもないことなのだが。
「そうか?休みの日なんかは全員で基盤眺めてたしな。AIの確立の仕方とか討論しあったり」
畑は違うが全員が工学の知識を持っている。生命と機械の境界線の話は面白かった。
「楽しいのかい?それ。全然理解できなんだけど」
『確かに』
変だったんだろうか、うちの家族。アスランは少し自信をなくした。


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「でも教官がプラントに来てくれて助かりましたよ。未だにMSの機動について学ぶところはまだまだありますからね。
いったいどこからあんなにアイディアが湧いてくるんですかね?」
鋭いニコルの一言に身を固くする。初めから知っていたことなどと言えるわけもない。
「たしかにな。アカデミーでの教官のMS機動講座を受けてパイロットになっている者の生存率は七割を超える。
教官がいなければ未だに戦争が続いていたかも怪しいものだ」
それだけ生き残っているのに、独立を勝ち取るためにはギリギリの戦いだったというのが現状だ。
国力の差はそれだけ厳しかった。
「スパルタだったからなぁ。教官の〈修正〉受けてねぇのニコルとラスティぐらいじゃねえの?」
二人以外のMSパイロットは例外なく奥歯が外れやすくなっている。
「いうこと聞いて、真面目やればいいんですよ。ナチュラルだからとかで甘く見るのは論外です」
「そうそう。上司の言うことはしっかりと聞けってよく言われてたからねぇ、俺は。」
「ぐっ…貴様らぁ…」
別に誰に向かってというわけではないが、顔色が悪くなっている者がいる。
「仕方ないだろうが!俺たちコーディネーターはナチュラルには負けていられんのだ!
いつも優位に立たねばならないんだ!」
そのために真面目に練習に打ち込んだ。しかしまだ一対一ではビームを掠らせることすらできない。
「だからって甘く見るのは違うと思います」
ぼそりとつぶやかれるニコルの一言。
「貴様ぁ!」
「そんくらいにしといてやってくんない?出撃前に熱くなられたら困るのこっちだし」
「おまえ達出撃前なんだ。もうちょっと落ち着いてくれ」
ディアッカとアスランがたしなめる。このようなやりとりができるくらいには仲良くなった。
「お前らはぁ!」
後少しで爆発しそうになったとき。
「どうした。もうすぐ出撃だぞ」
いつの間に乗り込んだのか。νガンダムから通信が入ってきた。
『いえ、なんでもないです!』
「仲がいいことはわかったがね。最後の出撃なのだ、もう少し静かにできないかね?」
プロヴィデンスからも入ってくる。楽しそうな様子を見ると、ずっと聞かれていたらしい。
「後五分だ。気を引き締めていけ」
νガンダムから聞こえてくる声に緊張感を高める。もうなんども経験した実戦の感覚が自分を切り替えさせた。

ボアズからの通信が入った。
「発進シークエンス。全防衛部隊は発進してください。第十三独立部隊、進路クリアー、発進どうぞ」
懐かしい部隊コードに一瞬ほほをゆるめるが、しっかりと引き締めた。
「第十三独立部隊ロンド・ベル所属、アムロ・レイ。νガンダム、出るぞ!」


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