もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


電波 ◆Oa7bLA.9Wg氏

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 月面都市フォン・ブラウン。其処は宇宙世紀0027年に完成した初の恒久型月面都市であり、同時に月面最大規模を持つ中心都市。
 コロニー建設の資材を採掘させる為の施設として設けられた基地として始まり、月面のマスドライバーから多くの資材を打ち上げ、サイ
ド3を除く全てのコロニーに資源を補給している基地の近傍に建設されたフォン・ブラウンにはある一つの会社がある。
 アナハイム・エレクトロニクス。過去に電子・電気機器の製造販売を中心とする複合産業企業体だった会社は次第に宇宙戦艦、モビルス
ーツにまで手を広げ、地球連邦軍の半分以上はこの会社に頼っていると言っていい。そのアナハイムのフォン・ブラウン工場の一つのドッ
グでは台座に寝かされたような体勢のモビルスーツの前で二人の男女が言い争っていた。
「だからってどうして重量が3kgも減るんですか!?」
 連邦軍の制服に短いスカートを履いている女性がアナハイムの作業服を着た男に今にも飛び掛らん勢いで息巻いている。男の方はうんざ
りした顔をしながらも丁寧な言葉遣いで返す。
「さっきも説明した通り、材料開発部から流れてきて私もよく知らないんです。ですがその性能は信頼出来ますよ」
「素材が良くても何処から来たのかわからないなら危険じゃないですか!」
「機体の追従性も上がりましたしサイコミュの運動性も増しましたよ!」
「だからって勝手に組み込むなんて―――ッ!!」
 二人の言い争いに段々と熱を帯びていく中で他の開発スタッフは近づけずに遠巻きに作業を行なっている。その為か、誰も止めるの者が
居ないので段々と子供の喧嘩のようになっていく。他の開発スタッフは作業を行いながらも、さっさと終われよ、という風な顔になる。し
かしその時、彼等にとって救いが現れた。
 ドッグの扉を開けて入ってきたアムロはモビルスーツの前に居る二人を見ると、床を蹴って二人の下へ宙を進む。二人もそれに気付いて
女性の方も同じようにアムロへと駆け寄った。
「大尉!」
「チェーン……っと、どうしたんだ?」
 アムロはチェーン・アギを受け止めると疑問の表情を浮かべた。チェーンは先程とは違って子供のような顔でアムロに拗ねた表情を見せ
る。
「私が真剣なのにオクトバーさんが人をからかうんですよ」
 アムロはその意味がわからなかったが、その後ろに居るオクトバー・サランが疲れた顔をしているのを見て理解して内心で労いの言葉を
掛けた。
「チェーンがチャーミングだからさ」
「もうっ……大尉まで」
 アムロがからかうように言うとチェーンも満更でもない顔で恥ずかしがる。そんなチェーンを横目で見て、アムロはチェーンの後ろに居
るオクトバーに真面目な表情で問い掛けた。
「それで本当に3kgも減った理由はなんなんだ?」
 このフォン・ブラウン工場に着く前にチェーンから報告されたデータには機体の重量が設計の時と違って減っているとあった。アムロ自
身、何か理由があっての事だとすぐに理解出来ていたが重要視していた。本来、モビルスーツに限らず兵器というのは設計段階で全高、重
量、部品等が決められている。それら一つでも狂いがあれば原因究明による解体が必要となり、遅ければ原因を探すだけでも数ヶ月も掛か
る。それはアムロにとっては許されない。シャアの宣言によって予断を許さない状況になった以上、これ以上の時間の経過は不利になる。
その為にアムロはわざわざラー・カイラムから離れて月にまで来たのだから。


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 オクトバーはアムロの質問に言葉をたどたどしい口調で答えた。
「それが私もよく知らないんですが材料開発部から流れてきたサイコフレームの影響だと思います」
「サイコフレーム?」
 聞き慣れない単語にアムロは鸚鵡返しをした。その様子にオクトバーが頷く。
「はい、機体の追従性を上げる素材なのですが、コクピットや駆動系に組み込む事でサイコミュの小型化、感応度が上がって機体自体の運
動性能も上がっています。そのお陰で全体の重量が減りました」
 オクトバーも説明はしているが本人自身も何故こんな物が来たのか解らないという風だった。
 アムロは彼は本当に知らないようだなと思うと、いつの間にか後ろに居たチェーンが背中越しに文句を言った。
「でもサイコフレームが何処から来たのか解らないって言うんですよ。それにアナハイムはジオニック社の人も居るからネオ・ジオンにも
機体の開発や補給の提供をしているって噂です」
「そんな……っ!!確かにウチは色々噂がありますが此処の開発スタッフは情報をリークなんてしませんよ!」
「じゃあなんで急にサイコフレームなんて物を組み込んだんですか!!」
「私だって上司に命令されたので知りませんよ!!」
 二人はまた子供のように言い争う。そんな光景に頭を抱えたくなったが、アムロは溜め息を吐いて諌める。
「チェーンもオクトバーも止めろ。それよりオクトバー、νガンダムの作業はどうだ?」
 アムロは視線を横に向ける。そこには一機のモビルスーツが眠るように鎮座している。
 人間の目に似たデュアルセンサー、角のように額に掲げられた二つに伸びたアンテナ、白を基調としたカラーリング。かつてアムロが愛
機として共に戦い、その名を受け継ぐ『ガンダム』だった。父が設計したモビルスーツは、時を経てその子供に設計された。
「後は調整だけですが完全に仕上げるには三日は掛かりますよ」
「三日ァッ?」
 オクトバーの言葉にアムロではなくチェーンが代わりに不満も露わに答えた。
「長いな……もう少しなんとかならないか?」
「全力でやってこれですよ………これ以上なんとかしようとしたらスタッフが倒れますよ」
「そうか……」
 疲れたように言うオクトバーの目の下にクマがある。恐らく開発当初から寝ずに勤しんでいたのだろう、彼の他の開発スタッフも気だる
にしているが不満も言わずに作業を行なっている。アムロも彼等には感謝してもし足りないが状況は待ってくれない。三日も待てば確実に
シャアは事を成してしまう。だからアムロはすぐに決断した。
「わかった。νガンダムはこのまま持って行ってラー・カイラムで調整する」
「えぇっ!?」
「本気ですかっ!?」
 オクトバーとチェーンが声を揃えて驚いた。特にオクトバーの方は反対の意思を見せている。
「もう少し待ってください!不完全な調整じゃガンダムの性能が発揮出来ませんよ!!」
「時間がないんだ。此処の開発スタッフには感謝しているが、やはりネオ・ジオンの動きが気掛かりだ」
 一刻の猶予もない、それは誰もがわかっているがオクトバーは技術者としてそんな事を許せない。造ったからには完全な状態で動いて貰
い、パイロットにも満足がいくモビルスールであって欲しいのだ。
 だが、アムロの意思は固い。オクトバーはその意思を確かめるように見つめる。
「……本気なんですね?」
「すまない……」
「ハァ……わかりました。ですが二時間待ってください。せめてフィン・ファンネルとハイパーバズーカを持たせますんで」
「ああ、ありがとう」
 アムロは心から感謝をする。オクトバーはそんなアムロを見て苦笑を漏らしながら答えた。
「いえ、あのアムロ・レイに乗ってもらうんです。技術者冥利に尽きますよ」
 そう言ってオクトバーは背を向けて作業をしているスタッフの下に歩いていく。その背中を見ながらポツリとチェーンが呟いた。
「……オクトバーさんに悪いことしましたね」
「ああ、だが時間は待ってはくれないからな」
 νガンダムを見つめるアムロの表情は真剣そのものだった。チェーンは横目で伺いながら、そうですね、と言って黙った。


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「それでアレからボギーワンは見つかったかね?」
 ミネルバのブリッジ、ギルバート・デュランダルはシートに腰掛けながら艦長席に座っているタリア・グラディスに問う。タリアは艦長
席を回して振り返ると横に首を振る。
「いいえ、あの戦闘以降は姿を現していません」
「そうか……やはりあの時に叩けなかったのが痛いな」
 あの時。その言葉に反応してタリアは僅かに表情を曇らせた。
 アーモリーワンでの新型のモビルスーツ、カオス、ガイア、アビスの三機を強奪された事件は、同時に現れた所属不明の戦艦の奇襲によ
って思わぬ打撃を喰らった。迎撃部隊のほとんどは潜んでいたモビルスーツにやられ、ドッグも出航しようとした戦艦の撃沈の爆発で無残
に破壊された。又、三機の新型もコロニー内部で迎撃に出たモビルスーツから逃れて強奪された。ザフトがたった一艦の奇襲によって良い
ようにあしらわれたのだ。これが無様でなくてなんと言う。そしてつい先程の戦闘もそうだ。
「すみません……」
「ん?ああ、すまない。別に君達を責めているわけではないよ」
「ですが、あの時チャンスだったのは確かです」
「なに、それを言ったら我々の情報漏洩が問題だ。情報管理は上層部の責任だからね」
 デュランダルは今更だ、と暗に言ってタリアはそれを理解してそれ以上は何も言わなかった。
「しかし問題だね。アレはどう見ても連合製のモビルスーツだ」
「議長は連合がやったと?」
 タリアの言葉にデュランダルは横に首を振る。
「あくまで憶測だよ。確たる証拠もないし海賊がやったとも考えられる……どちらにせよ、今はボギーワンを追いかけるしかないな」
 デュランダルが渋い顔をして言うと、ブリッジは一時沈黙となった。それも当然だ。もし、これが連合の仕業であれば国際問題どころか
世界中を巻き込む戦争になりかねないのだ。それもたった二年という最短の月日で。

「戦争、か……」

 誰かがそう呟く。伝染するようにブリッジクルーはそれを噛み締めていた。デュランダルは重くなった空気を軽くするために話題を変え
る。
「……ところでアスハ代表は?」
 戦闘が終わった時、カガリはそのままアスランに連れられてブリッジから出ていった。それから数時間経っても一度も見ていない事にデ
ュランダルは少なからず気にしていた。アクシデント続きとは言え、オーブの代表をこんなところまで連れてきたのだ。それもザフトの軍
艦に乗せてだ。
「アスラ……アレックス・ディノと共に部屋に戻られました」
 タリアがカガリの手を取って連れていったアスランを思い出して訂正する。
 デュランダルは律儀だと思うが、戦闘中にアスランの正体を伝えたのは他でもないデュランダルなのだ。それ以降、クルーのアスランを
見る目が変わった。まるで腫れ物にでも触るような扱いだったのにはデュランダルも表情を濁すしかなかった。

 まあ、そんな扱いになるのも当然ではあるがな……。

 デュランダルが口には出さずに思うとタリアが自分を呼んだのに気付いた。


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「なんだ艦長?」
「議長もお休みください。後は我々がやっておきますので」
「ふむ……」
 デュランダルは顎に手を当てて一瞬逡巡する。
 確かにこれ以上は何もする事はない。それに自分が居てもボギーワンは見つからないだろうし、此処に居て時間を潰すだけなら今後の対
策を考える必要がある。
「そうだな……なら後を頼めるかね?」
「はい、お任せください」
「では、私は休むとしよう」
 タリアが頷いて応じるとデュランダルもシートから立ち上がって背を向ける。ブリッジクルー全員が立って敬礼するのを横目にデュラン
ダルはブリッジから退出し、通路を歩いて考え事をした。三機の新型モビルスーツの強奪、ボギーワンの行方、そして今回の事件の真の狙
い、考えればキリがない。だからだろうか、つい注意を疎かにして十字路の横から来た誰かに気付くのに遅れた。
「ん………?」
「えっ………」
 二人は避けきれずにぶつかったが軽い衝突だった為にデュランダルはすぐに体勢を整えた。
「すまない、大丈夫かね?」
「ああ、大丈―――デュランダル議長……」
「ん?君は……シン・アスカ君だったね」
「あっ、はい!申し訳ありません!」
 デュランダルの問い掛けにシンは慌てて敬礼する。シンのそんな様子にデュランダルは思わず笑みを浮かべた。
「いや、気にしなくていい。私も注意不足だった」
「いえ!自分が前方不注意だったせいです!」
 語気を強めて否定するシンの様子をデュランダルは値踏みをするように見つめる。
 戦闘前のあの時より印象が違って見える。格納庫でカガリに相手に噛み付いた怒りは一切なく、今のシンは少年らしい顔と目上の人に敬
意を示している。


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「ふむ……」
 こんな少年がオーブで家族を失い、そしてザフトの赤服を着て兵士となった。レイからの報告ではそこに至るまでの努力が並みのコーデ
ィネイターでは及ばないほどのものだったらしい。元々才能はあったのだろうが、それを上回る努力を以って彼はインパルスのパイロット
となった。本来、レイをパイロットとする予定にしていたデュランダルの意思を変えるほどに。
「あの、議長……?」
 シンはデュランダルが黙ったままなのがおかしく思ったのか怪訝な表情をしている。
「いや、なんでもないよ。気にしないでくれ」
「はぁ………」
「あ、シンこんな所に居たー」
 デュランダルの答えに釈然としていないのかシンは間抜けな声を出した。すると、デュランダルの後ろからシンを呼ぶ女性の声が通路に
響いた。二人はその声に振り返るとそこにはシンと同じ赤服を着たルナマリア・ホークの姿があった。
「―――って、議長!?」
「ルナ」
「え、あっ!失礼しました!!」
 ルナマリアはデュランダルとシンが一緒に居るのを見て驚いた。シンが名前を呼んで少し冷静さを取り戻し、先程のシンと同じように混
乱しながらも敬礼するがその目はせわしなく二人を行ったり来たりと動かしていた。特にシンには疑惑の視線を思いっきりぶつけていた。
「それでは私はこれで失礼しよう」
「あ、はい。すみませんでした議長」
「ああ、これからは互いに気をつけよう」
「はい……」
 そしてシンは立ち去ろうとするデュランダルに向けて敬礼し、デュランダルも小さく頷いて歩いていく。その背後、ようやく息が詰まる
空間がなくなったのを安心してルナマリアがシンを横目で睨んで呟いた。
「ねえ、議長と何を話したの?」
「……ルナには関係ないだろ」
「まあ、どうせ格納庫での一悶着でしょ?」
「別にそんなんじゃないよ」
「ふーん」
 シンがぶっきらぼうに答えるとルナマリアもそれ以上は追求しなかった。


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 アナハイムのフォン・ブラウン工場近辺にはマスドライバー施設がある。本来、資材などの荷物を打ち上げて補給するマスドライバーは
今回、全く別の用途に使用されている。
 マスドライバーの線路には一機のモビルスーツが膝を曲げた姿勢で行動範囲の狭いモビルスーツの補助を行なうベースジャバーの上に乗
っている。そのモビルスーツ―――νガンダムのコクピットで最終確認を行なっていたアムロは、オクトバーから連絡を聞いていた。
「衛星軌道上にネオ・ジオンの部隊?ロンド・ベルからの情報か?」
 アムロの言葉にモニターに映ったオクトバーが頷く。
『はい、大尉はこのままネオ・ジオンの部隊の方に向かってくれとの事です』
「陽動と時間稼ぎか……了解した。ラー・カイラムには向かうと伝えてくれ」
『了解しました』
 オクトバーの映像が消えるとアムロの前の補助シートに座っているチェーンが振り返った。
「ネオ・ジオンと戦闘に入るんですか?」
 チェーンの目は少し不安があったが、アムロはスロットルを動かしたり横のコンソロールを軽快に叩いている。νガンダムはそれに連動
して左手が握り拳を作ったり開いたりし、センサー奥のメインカメラが機械音を鳴らして動く。
「ああ、チェーンには悪いがこのまま戦闘宙域に行く」
 アムロの気のない返事にチェーンは少し苛立ったが、戦闘に入るなら話しは別だ。文句を言っても仕方がないので心に留めるだけにした

「よし……」
 アムロはようやく調整を終えて頷いて前を見る。そこに広がるのは月面と宇宙空間、そして丸く浮かび上がる地球。そこは人類が生まれ
た母なる星、宇宙という住処を得ても人類は未だ地球に焦がれている。それはある意味仕方のない事なのかもしれない。人はまだ、地球の
重力に魂を引かれている。それはまだ、人類が進歩していないからだとある男は言った。
「シャア……あの地球を滅ぼしてでも人類を昇華させるつもりか」
 アムロの呟きに近くに居るチェーンも答えなかった。


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 コクピットのモニターを見ていると一瞬何かを幻視した。地球に落ちようとする瓦礫の屑となったコロニー、そこで戦闘を行なうモビル
スーツ、感情と感情が入り乱れた叫びが宇宙に木霊する。その光景にアムロは声を出そうとするが出なかった。
 そして爆発。
 波のように広がる光はそのままアムロを包む。瞬間、コクピットに居た筈が宇宙空間に放り出され、何もない空間から白鳥が羽ばたいて
アムロの下に現れた。綺麗な純白の羽を散らしている白鳥を見てアムロは叫んだ。

「ララァ・スン………ッ!?」

 名前を呼ばれた白鳥は光となって人の姿に変わった。
「アムロ………」
 今も少女の姿をしている彼女は優しく大人となった少年の名を優しく呼ぶ。
「何故君が………!?」
 ララァの姿を見たアムロは叫んだ。何故現れたのだと。その問いにララァが優しく微笑む。
「貴方に伝えにきたの」
「伝えにだと……?」
「そう、これから起こる事は貴方にとってもあの人にとってもとても大切なこと……」
 その言葉の中にアムロは一つの単語が引っ掛かった。
「あの人……シャアか!」
「忘れないで……これは貴方達にとっての運命……」
「どういう意味なんだ!ララァ!!」
 ララァは少しずつアムロから遠ざかっていく。アムロは手を伸ばして叫ぶが届かない。
「忘れないで、アムロ………」
 ララァは何度も繰り返す。アムロに叫びも虚しくララァの後ろから段々と光が広がっていき宇宙を包んだ。


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「―――アムロ!」
「え……?」
 突然の叫びにアムロの意識は覚醒した。寝惚けたような声を出すと目の前で座っているチェーンが睨んでいる。周りを見渡すとそこは先
程まで居た宇宙ではなく、コクピットの中。モニターに映る地球は青く、瓦礫となったコロニーなど見当たらない。
「夢……いや、違うな」
 確信はなかった。何故かララァ・スンが見せた幻は頭に強く残っている。
「運命、か……」
 ララァが言った言葉を呟いた。それには何か意味がある気がするのだ。
 と、思考を巡らせていると視線に気付いた。チェーンは何も言わず、ただアムロを睨んでいる。
「チェーン?」
「なんでもないです!」
 チェーンはそれっきり黙り、アムロは首を傾げる。何を怒っているのだろうと思って問おうとしたがそこでオクトバーから通信が入った

『準備が完了しました。いつでもどうぞ―――って、何かありましたか?』
 オクトバーが問うのも無理はない。通信を入れたらチェーンはノーマルスーツのバイザー越しでもわかるほど膨れっ面になっているのだ
。しかし、当のアムロも原因がわからないのでどうしようもない。二人の男は今までの女性経験から触らぬ神に祟りなしということわざの
通りに触れないことにした。
「今までありがとうオクトバー、他のスタッフにも伝えておいてくれ」
『いえ、大尉も御武運を』
「ああ、それじゃあ行くぞ。チェーンも舌を噛むなよ」
「大丈夫で―――うっ!?」
 チェーンが言い切る前にマスドライバーが作動する。νガンダムを乗せたベースジャバーはマスドライバーの線路に沿って発射され、そ
の時に掛かるGは相当なものだ。既に速度はモビルスーツの出せる速度を超えて、νガンダムを乗せたベースジャバー漆黒の宇宙へと駆け
ていった。

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