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第0話
「ここは何処だ…?」
呟いた所で現在位置が判明する訳ではない。朦朧とする意識の下から辛うじて声を引っ張り出し、それを耳に入れる事で意識の覚醒を図ったのだ。
幸いその方法は効を奏した様で、徐々に意識がはっきりとし、視界も広がってきた。
「一体何が…?」
我知らず握り締めていた操縦桿。目の前には様々な計器類。そしてその向こう、漆黒の闇に点々と光る星。そう、今自分はMSのコクピットに座っており、宇宙を漂っているのだった。
(どうしてこうなった…?一体何故宇宙を漂っているのだ…)
記憶を辿ると思い浮かぶのは、青く美しい地球。そしてそこへ落ちていく小惑星。男は記憶を辿るにつれ、高笑いする男とそれに反発する男、二人の男の声が部分的にフラッシュバックした。
『…暖かさがいずれ…それを分かるんだよ!…』
『…だったら…を見せなくてはならないんだろう!…』
聞き覚えがある。そこまで考えて男は笑った。聞き覚えがあるも何も、片方は自分の声ではないか。
一気に記憶が蘇る。霧が晴れるような感覚に、一種の快感さえ覚えた。
「アクシズはどうなった…?いや、それよりここは…?」
男は座標を確認した。が、どうも計器が狂っているらしい。男は舌打ちをひとつすると、近くに友軍のMSでもいないかとレーダーを見た。すると、狙いすましたかの様なタイミングで一機のMSがやってくる。そのMSを確認するや、男は声を上げて笑いだした。
「まさか…まさかお前が来るとはな!何をしに来た!笑い物にでもしに来たのか?」
男は噛み締める様に、そしてまるで親友を呼ぶかの様な声で接近するMSに乗っているであろうパイロットの名を呼んだ。
「随分と長らく会っていなかった様な気がするな………アムロ!」
男の名は、キャスバル・レム・ダイクンと言った。
第1話「デジャヴ」
彼は困惑していた。突然光に包まれたかと思えば、目の前には激戦を繰り広げるMS達。
「何なんだよ…何なんだよ、これは!」
自分が知っているMSに良く似た、そして確実に別物のMS同士がが戦っている、既視感を感じながらも違和感を感じる気持ちの悪い光景。
まるで質の悪い夢の様だ。
それに輪をかけて質が悪いのは、落ちていく小惑星。
「そんな、まさか…。いや、アクシズであろうとなかろうと関係無い!」
空を落とす訳にはいかないんだ。彼はそう呟くと、MSを駆って落ちていく小惑星へと向かった。
シン・アスカはうんざりしていた。いかにカスタム機であっても結局は旧型。目の前に立ち塞がるジン・ハイマニューバ(以降ジンH)に苦戦している自分が信じられない。
出撃してからもカガリ・ユラ・アスハとのやりとりのせいでイライラしていた所へ、不意を突く形で現れたテロリスト。「ヤキン・ドゥーエの英雄」達が確実に連携を取って敵機を撃墜しているのに、最新鋭の機体に乗る自分は何と無様な事か。
「アンタ達に構ってる暇は無いんだッ…!」
ビームライフルを手放し、ビームサーベルを抜きつつ敵に殺到する。ジンHのばらまく突撃銃の弾をVPS装甲に少しだけ受けつつも、フォースインパルスは瞬く間に距離を詰め、散々手こずらせてくれたジンHを両断した。
「よし…早く、メテオブレーカーを!」
現在ユニウスセブンの破砕作業を行っているのは数機のザク、そこにレイ・ザ・バレルやルナマリア・ホークもいる。そして「あの」アレックス・ディノ――もとい、アスラン・ザラも。
「レイ!状況は?」
「まだテロリスト共の妨害が激しい。ここは俺達に任せて、シンはテロリストの相手をしてくれ。撃墜は出来なくとも、こちらに近付けさせなければそれで良い」
シンの急き込む様な問いかけ対して、レイは実に冷静に返す。二人はザフトのエース「赤服」であり、親友であり、アカデミー時代はトップの座を取り合ったライバルでもあった。
「はっ!心配しなくても全部まとめて落としてやるよ!」
シンは勢い込んで怒鳴るとインパルスのスラスターを吹かし、光の尾を残して瞬く間に飛び去った。
「あんた達ってホント仲良いわよねぇ…」
シンやレイと同じ、赤服のルナマリアが呟いた。
「ルナマリア、今は任務中だ。無駄口を叩くな」
ルナマリアはレイにたしなめられ、口をつぐんだ。
(それで何故か私には厳しいのよね…)
『何故分からぬか!』
「?!」
アスランは通信機から聞こえる声にギョッとした。
『我等コーディネイターにとって、パトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものだという事を!!』
「何を…!」
押されている。前大戦からのブランクがあるとは言え、あちらは旧型、こちらは新型。
「くそっ、情けない…!」
『何やってんですか!』
「君は?!」
突如アスランの耳に入ったのは、戦艦ミネルバで自身の恋人たるカガリ・ユラ・アスハにつっかかっていった少年の声。
『シン・アスカです!援護します!』
「済まない…」
シンが援護に入った事で安心したアスランだったが、更にこちらにやってくる二機のジンHを確認して顔を強ばらせた。
「一体何機いるんだ……シン・アスカ!まだ二機来るぞ!」
『分かってますよ!それより、そんな調子で戦えるんですか?』
生意気な。
不意にアスランの頭にそんな言葉が過ぎったが、先程までの醜態を考えればそう言われるのも無理は無い。
「心配は要らない。」
『ホントですか?…まあ良いや。俺が全部落としてやる!』
『ディアッカ、メテオブレーカーはあと何基残っている?』
通信機から聞こえる声に、ディアッカ・エルスマンは浮かない声で答えた。
「さあな…ここから見える限りじゃまだ五、六基転がってるが、流れ弾食らって死んでるのもあるだろうし、何基使えるかは分からん」
『チッ…仕方がない、手当たり次第にやるぞ。全く、テロリストめ!!』
(そうがなるなっての…)
ディアッカは苦笑した。すぐに癇癪を起こすのはイザーク――イザーク・ジュールの悪い癖だ。以前はその短気に煮え湯を飲まされた事もあったが、最近は幾分丸くなってきた。以前のイザークならメテオブレーカーなんて放置してテロリストと闘いに行ってしまっただろう。
「了解、隊長さん」
そう返事を返して、ディアッカは手近なメテオブレーカーに機体を向けた。
「まずいっ!」
アスランは正面の敵に対処するのに必死で、背後に回り込んだ敵機に気付くのが遅れてしまった。
シンもそれに気付いたが、シンはシンで相手の捨て身の攻撃を防ぐので手一杯になっている。
――やられる。
アスランがそう思った時、視界にMSらしき白いものが映った。
(なんだ、あれは)
MSらしき白い何かの手元が光った。すると、アスランの背後のジンHが幾筋かのビームに機体を貫かれ、爆散した。
(なんだ、あれは)
「それ」は突然味方がやられた事に驚いて動きを止めたジンHに殺到した。ジンHのパイロットが慌てて機体を下がらせようとするも、「それ」は既にビームサーベルを引き抜き、抜き打ちでジンHの腰から肩にかけてを切り裂いた。
(なんだ、あれは)
「それ」はスラスターを吹かしてインパルスの側面に移動すると、インパルスに対して猛攻を続けるジンHにビームライフルを連射。一発目は左足、二発目は肩に、三発目は胸部を撃ち抜き撃墜した。
(なんだ、あれは)
僅か十数秒の間の出来事である。我知らず、アスランは叫んでいた。
「なんだ、あれは!!」
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