もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


98 ◆TSElPlu4zM氏  『機動戦士ガンダムSEED bloom 』

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 プラント本国を出撃したヴェサリウスを中心とする艦隊は、一路、月の地球連合軍プトレマイオス基地へと向かっていた。
 静かな船旅だが、地球軍のシルバーウインドへの不当な攻撃と、その事件で犠牲になったアイドル、ラクス・クラインの報復と相まって、士気は高かった。
 ヴェサリウスのブリッジでは、この作戦の指揮官を任されているクルーゼが、今回の攻撃目標である、月のプトレマイオス基地から衛星軌道上に向かって、敵の艦隊が出撃した事の報告を受けていた。
 椅子に座り、報告を受けたクルーゼは、その仮面の下に笑みを湛えていた。

「敵艦隊が巣を出てくれたか」
「ええ。これで襲撃しやすくなります」
「と言っても、地球軍の宇宙での拠点なのだ。守備隊も残っていよう。強固な事には変わらんがな」

 ヴェサリウス艦長のアデスの言葉に、皮肉を言うかのようにクルーゼは水を差した。
 アデスは少し表情を強張らせながらも、慎重に口を開く。

「しかし、もしも本当に落とす事が出来れば、後の戦いが楽になります」
「落とせなくとも、ダメージを与えれば楽にはなるさ」

 クルーゼは、アデスの言葉から、彼が心の一部で作戦に懐疑的に思っていた事を見抜きながらも、更々、腹を立てる気にはならなかった。
 クルーゼ自身が、この作戦を自ら立案しなければ、アデスと同じ考えをしていたかもしれない。
 しかし、計画通り事が進んでいる事に、成功への予感を感じ取ったのか、続けるように言葉を繋ぐ。
 
「艦隊基地としての機能を徹底的に叩けば、当分の間は使い物にならなくなる。分からないか、アデス?」
「……敵艦が修理、補給が受けられなくなると?」
「それは、副産物でしかない」
「と、言うと?」

 アデスは、クルーゼの狙いが解らず、尋ねるように聞き返すと、クルーゼの笑みが消え、真剣な表情へと変わる。
 クルーゼは、立ち上がりモニターに映る宙域図を見据えると、低い声で言う。

「地球衛星軌道上から月までの制空権だ」
「……なるほど!我々が、自由に動き回る事が出来ると言う事ですか」
「そうだ。月へのパイプラインは我々が押さえたも同前になる。月に工場はあっても、いつまでも補給無しでは、いずれは限界が来る」


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 喜々とした表情のアデスに、クルーゼは頷きながら答えると、思う処があったのか、アデスは感じた疑問をぶつけてみた。

「しかし、長期戦では我々が不利ですが?」
「長期戦にならぬようにするのが、我々の役目だろう。今回は、港と修理用ドック、迎撃兵器を攻撃目標にし、徹底的に破壊する」

 クルーゼは、モニターから視線を外すと、顔をアデスの方に向け細かい攻撃目標を伝えた。
 アデスもクルーゼに視線を合わせると、進言も兼ねて自分の考えを伝える。

「それならば、修理資材が集まる工場区画も破壊しておいた方が良いのでは?」
「早々、工場区画まで入り込めると思うか?」
「……いや、しかし……」

 クルーゼは表情を変えぬまま答える。
 基地の中でも、工場区は深い位置にあると思われ、そこを強襲するのは現実的に難しい考えだった。
 アデスも、クルーゼの言う事は解ってはいるが、長期戦を望めぬザフト軍には不利になる要素を少しでも減らそうと思い進言をしたのだが、クルーゼは違う考えを口にする。

「その後は、数週間に一度、どこかの隊に襲わさせれば、修理など滞るだろう」
「……な、なるほど」
「その間に、我々は地球に向けて降下部隊を降ろせばいい。……まあ、ここまでが、一先ずのシナリオだ」

 クルーゼは、言い終えると不敵に微笑むと、アデスはクルーゼを静かに見据えた。
 クルーゼとアデスの関係は決して短くはないが、アデスには上官であるクルーゼが何を考えているか理解が出来ない事が多々あった。
 アデス自身、クルーゼの事を信頼はしているが、表情は仮面に隠れ、見えない事も含め、謎が多すぎた。
 その、謎多き上官であるクルーゼが椅子に腰を落とすと、再び口を開く。

「だが、私としては、予測される以上の戦果を上げたいと思っている」
「……壊滅ですか?」
「そうだ。うまくいけば、我々は英雄として称えられる事になるな」

 クルーゼは、英雄などに興味も無いが、自らを茶化すように微笑んだ。
 
「しかし、どうやって……?」

 アデスは思考を廻らすが、守りも固いであろう敵の重要拠点であるプトレマイオス基地を壊滅に追い込めるのか、想像もつかなかった。


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 困惑するアデスを尻目に、クルーゼは口を歪ませるように静かな笑みを湛えた。

「港と修理用ドックには、破壊兵器に変わる物があるだろう。解らないか?」
「破壊兵器に変わる物……?」
「その為には、港口を塞ぐ必要がある。一隻でも多く、敵艦を基地内に封じ込めなければならない」

 淡々と話すクルーゼの言葉に、アデスは呆気に取られるが、すぐに頭を働かせた。
 ――戦艦を封じ込めならなけえばならない理由……。破壊兵器に変わる物……。
 確かに無い訳ではない。ただ、基地を壊滅させる程の物となると、かなり限定される。アデスは、脳内を働かせると考えを導き出す。
 ――まさか、戦艦に搭載している核融合エンジンを基地内部で爆発させ、誘爆を誘発させようと言うのか……。
 敵基地を破壊できる物は、これ以外ありえない。それを実際に作戦としてやった人間は、恐らくいないだろう。ましてや、敵軍の戦艦を爆弾代わりに使おうと言うのだ。
 改めてクルーゼを見つめると、その考えに恐怖を感じた。確認するように、躊躇いがちに口を開く。
 
「……まさか」
「恐らく想像通りだ。その為のブリッツ投入なのだからな」

 クルーゼは笑みを讃える。その姿に、アデスは自分がコーディネイターである事と、クルーゼが味方である事に感謝した。
 しかし、未だ机上の空論で事がうまく運ぶとは限らない。成功した処で、他の地球軍基地が動き出す可能性も高い。
 アデスはその事が気に掛かり、クルーゼに問いかけてみた。

「そうなれば、他の地球軍基地が黙っているとは思えませんが……」
「地球軍組織が一枚岩ではないのが救いだな。奴らが危険を冒してまで出て来るとは思えんし、出てきた処で間に合わんよ。いずれは相手にしなければならないが、まだ先の話しだ」

 クルーゼは頷きながらも、淡々と答える。
 アデスは、クルーゼの考えに被っていた帽子を取ると額の脂汗を擦った。

「……これは、思ってた以上に意義深い戦いになりそうですな」
「ああ。クライン議長閣下とアスランには悪いが、我々は、この機会を与えてくれたラクス嬢に感謝せねばな」

 クルーゼは、アデスの言葉に頷くと、眼前に広がった暗い宇宙空間を見つめた。


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 アークエンジェルの格納庫から居住区に続く通路は静かな物で、訓練を終えたキラとアムロが肩を並べ歩いているだけだった。
 いつもならキラとアムロの他にもムウも居るのだが、今回は休息の為に途中で訓練を切り上げていた。
 アムロは手でモビルスースの動きを表しながら、キラに向かって言う。

「あのような状態での戦闘では、直線的に動くんじゃ駄目だ」
「回り込むように回避しながら攻撃ですね」
「そうだ。キラ、よく寝ておけ」

 キラは、アムロと同じように右手で自機を、左手で敵機に見立てて位置関係を確認すると、右手を左手の回りを移動させながら頷いた。
 アムロは出来の良い弟子の言葉に頷くと、満足したのか背を向け、自室に向かう。

「はい!ありがとうございました!」

 キラは、アムロの後ろ姿に頭を下げると、訓練で高ぶった気持ちを落ち着ける為に展望デッキへと足を向けた。
 展望デッキは暗く、灯り等は点っていない。重力制御されていないのか、体が宙に浮いた。
 キラは慣性に任せ、窓際へと流れると、視線を窓の外へと向けた。外は暗く、そして星が輝く宇宙空間が広がっている。
 
「ふぅ……流石に疲れた……。僕にアムロさんみたいな戦い方が出来るのかな……」

 キラの口から溜息と共に言葉が零れ落ちた。
 いつもは訓練自体はシュミュレーターが軸だが、今日は実機を使った訓練を行い、アムロのνガンダムの動きに着いて行く事が出来ずに四苦八苦するしかなかった。
 改めて、師事したアムロの実力が遥か雲の上にある物だと実感してしまった。
 ――いつになったら追い付く事が出来るのかな……。
 そんな事を思っていると、後ろから声が掛けられた。

「あら、キラ様。訓練が終わりましたの?ご苦労様です」

 キラは振り向くと、ラクスが入り口から体を浮かせながら流れて来た。
 ラクスは、キラの前まで来ると、足を少し前へと振って慣性の動きを止めるようとする。
 キラは手を差し伸べると、ラクスは微笑みながら、その手を取り動きを止めた。

「ありがとうございます」
「――あ、うん。ラクスさんも終わったの?」
「はい」

 ラクスは厨房での手伝いを終えた後らしく、始めて出会った時のように髪を結ってなかった。
 アークエンジェルでの生活に満足しているのか、表情は生き生きとして美しい物だった。


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 キラは、ラクスに見とれながらも労いの言葉を掛ける。

「……お疲れ様、ラクスさん」
「キラ様もお疲れ様です……フフフ」
「……ハハハ」

 キラは、ラクスの微笑みに心が暖かくなる感じがして、釣られるように笑みが零れた。

 二人は笑い終えると、視線は自然と窓の外へと向いた。
 人類の歴史が始まる前から輝く、幾多の輝きが見える。この宇宙空間に二人だけしか存在していないような気にも思えた。
 
「……星が綺麗ですね」
「うん」
「……」

 ラクスの言葉にキラは頷くと、静かに暗闇に輝く星を見つめ続けた。
 暖かな沈黙が支配する中、キラは、ラクスの境遇を思い出し、聞いてみた。

「……ねえ、家、帰りたい?」
「……はい。でも、この船の皆さんは、とても良い方々ばかりで……」

 星を見つめ続けるラクスの横顔が、少し寂しそうな感じに見えた。
 ラクスは民間人とは言え、プラント最高評議会議長の娘で、地球軍基地に着けば囚われの身になるかもしれない。
 キラは、何でこんな事を聞いてしまったのかと、深く後悔をした。

「……ごめん」
「キラ様の所為ではありませんから、お気になさらないでください」

 謝罪の言葉に、ラクスは視線をキラへと向け、優しく語りかけた。
 キラは、それでも居た堪れないのか、言葉を濁す。

「……でも」
「この船の方々の所為でもありませんから。私は助けて頂いて、大変感謝しています。それに、皆さんに良くして頂いて、楽しいです」

 ラクスは顔をゆっくりと横に振ると、優しくキラに微笑む。
 キラは、ラクスの優しさに心から感謝をした。


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「……ありがとう」
「いいえ。私の事で、キラ様が辛そうなお顔をしているのは、私も辛いですから」
「――あ、あり……がと……」

 キラは、ラクスの優しさが自分に向けられた事に嬉しく感じたが、こそばゆく感じ、顔を赤らめた。
 ラクスは、そんなキラを見て不思議そうに首を傾げる。

「キラ様?」
「――あ、あの……」

 キラは赤面した顔で、あたふたと取り繕うと口を開くが、何を言ったら言い物かと、言葉が続かずに微妙な沈黙が支配する。
 そんなキラの表情を伺いながらも、ラクスは優しげに返事をする。 

「……はい?なんでしょうか?」
「……えっと、あ、あの……キラ様って、恥ずかしいから……」
「お嫌ですか?」

 キラは言葉に詰まりながらも恥ずかしそうに伝えると、ラクスは少し寂しそうな顔を見せる。
 キラ自身、『キラ様』と呼ばれ、嫌な訳では無く、逆に騎士になったようで誇らしい位の気持ちなのだが、照れが先に来てしまう。
 ラクスの少し寂しそうな表情を見たキラは、更に困ったのか、取り繕うとする。

「そ、そうじゃなくて、あの、恥ずかしいって言うか、こうやって知り合えたんだし……みんなが呼ぶみたいにキ、キラで……いいですよ」
「まぁ!……それでは、私の事はラクスとお呼びください」
「――え!?……う、うん」

 ラクスは胸の所で両手を組むと、嬉しそうな表情を見せた。
 キラは、ラクスの言葉とその微笑ましい表情に、首をカクカクと縦に振ると、ラクスの名前を口にする。

「――ラ、ラクスさん」

 ラクスは、キラの呼んだ自分の名前に、不満そうに頬を少し膨らます。

「キラ、それでは前と変わりませんわ。ラクスさんではなく、ラ・ク・ス、ですわ」
「う、うん!……ラ、ラクス」
「はい!」

 キラが慌てながらも、恥ずかしそうにラクスの名を口にすると、ラクスは嬉しそうに微笑みながら返事をした。
 キラは嬉しそうに微笑むラクスを見て、恥ずかしさを誤魔化す為か、片手で頭を掻いた。


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 微笑むラクスは、とても可愛く、同時に何とかして助けたいとキラは思った。
 
「あ、あの、ラクス……も、もしもだけど……プラントに戻れなかったら、僕や……みんなと一緒に――」

 キラは、ラクスを助けたい一心で、必死に言葉を口にしたが、ラクスの微笑が少しだけ崩れるのを見逃さなかった。
 宇宙で敵に襲われ、助かったと思えば、敵艦の中なのだから、普通なら希望など有りはしない。
 キラは、また、やってしまったと大きく後悔をして、謝罪の言葉を吐き出した。

「――ご、ごめん!」
「……ありがとうございます。……私の事をお気に掛けて頂いて、うれしいですわ……」

 ラクスは微笑を保ちながらも、少しだけ瞳を潤ませる。
 少女なりに抑えていた感情が少しづつ零れ始めたのか、俯くと肩を震わせた。
 キラは、ラクスの言葉とは裏腹に、心の中は罪悪感で一杯になり、先程よりも更に深い後悔をする。
 
「……こんな話ししちゃって……本当にごめん……」
「……キラ……」

 俯くラクスの肩にそっと手を伸ばすと、ラクスの体はキラの腕の中に流れ込み、抱きしめるよう形になった。
 キラは戸惑いつつも、ラクスの事を離す事はしなかった。
 ラクスは顔を伏したまま、キラの胸に額を預けた。
 
「……ごめんなさい……少しの……少しの間だけ……泣かせて……ください……」
「ラクス……本当に……本当にごめんね……」

 キラは、自分の胸で涙を流すラクスを守ってあげたいと心から思い、優しく抱きしめた。
 二人は輝く星々を背景に展望デッキの中を漂う。


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 アークエンジェルのブリッジでも平穏が続いていた。変わった事と言えば、少年達が交代制でストライクの追加装備のプログラムを組んでいる事だった。
 作業状況に関しては、クルーやプログラムの知識を持つメカニッククルーの協力も有り、意外な程に順調に進んでいた。
 丁度、交代の時間なのか、ミリアリアと一緒に作業をしていたトールが、ブリッジにやって来たサイとカズイにモニターを見せながら説明をしている処だった。

「こんな感じだからさ、サイ、ここから頼む」
「分かった。二人共、お疲れ!」
「サイ、カズイ。後は宜しくね」
「うん。ミリアリアもお疲れさん!」

 一通り説明を終えると、それぞれ挨拶をして席を譲る。
 トールは席を離れる立ち上がると、ミリアリアに声を掛けた。

「行こう、ミリアリア」
「うん」
「それじゃ、失礼します!」
「失礼します」
「ああ、御苦労。ゆっくり休め」

 トールとミリアリアは、艦長席に座るナタルに敬礼をすると、ナタルは労いの言葉を掛け、敬礼で返した。
 ナタル自身、気付いてはいないが、他のクルーからは、雰囲気が柔らかくなったと、裏ではそんな話が飛び交っている。
 そのせいか、トールとミリアリアはナタルに笑顔を向ける。
 以前のようにピリピリとした雰囲気ではなく、程良い緊張感がメリハリと活気を与えていた。
 二人がナタルの横を通り過ぎる時にと、他のクルーが声を掛ける。以前なら、こんな事すら出来なかったかもしれない。

「お疲れー」
「はい!お疲れ様でした、失礼します!」

 トールは扉を出て行く前に振り返り、クルーにも挨拶をしてミリアリアと共にブリッジを後にした。 
 サイは、トールがさっきまで座ってた席に腰を下ろすと、カズイに声を掛ける。

「さて、カズイ、始めるか」
「うん」


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 カズイが頷くと、サイは作業の進行状況の確認をする為にキーボードを叩く。
 カズイもアークエンジェルのコンソールに慣れたのか、意外な程に素早い。
 
「今、どれくらい組み上がってる?」
「八割くらいかな……。残りは、ほとんどは操縦系だからね」
「操縦系は、キラに見て貰わないと無理だからな……」

 サイは、カズイの言葉にキーボードを叩く指を止めると、別ウィンドウで操縦系のプログラムを呼び出し、確認をする。
 カズイが画面を確認しながら言う。

「操縦するのはキラだからね。調整もして貰わないと」
「ああ。キラが調整するだけで済むように早めに組んでおこう」
「うん。そうだね」

 サイの言葉に、カズイは頷きながら、キーボードを叩き始めた。
 パルがカズイの手元を覗き込みながら、感心したような顔つきでいた。
 ナタルは進み具合が気になるのか、席を立ち、サイの方へとやって来て声を掛ける。

「アーガイル、進み具合はどうなんだ?」
「はい。今の処は順調だと思います」
「うまくいけば、一応、今日中くらいには組み上がりそうですよ」 
「調整がテストが必要だから、実際は、もう少し時間が掛かると思います。メカニックの人達が手伝ってくれなければ、こんなに早く出来ませんでしたよ」

 カズイが続くように言うと、サイが嬉しそうな表情を浮かべながら補足する。
 少年達ばかりでなく、アークエンジェルに居るプログラムに精通した人間や、プログラムを組めなくても、他の事で支える人達が居た事で、ここ数日でさらに強い一体感が生まれていた。
 
「そうか。お前達は、この状況下で良くやってくれている。このまま作業を続けてくれ」
「「はい」」

 ナタルが感心したように頷くと、サイとカズイは返事をして、再びキーボードを叩き始めた。
 もしかしたら、この作業は、キラの、アークエンジェルの運命を左右するかもしれない。
 未来など分からないからこそ、友と生き、生き残る為に少年達は必死にキーボードを叩き続けた。


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 ブリッジを後にしたトールとミリアリアは、次の交代までの間、休息の時間となったので自分達の部屋へと向かっていた。
 ミリアリアが歩きながら思い切り体を伸ばした。

「んー!流石に同じ姿勢で居ると、体が固まるわね」
「ああ、なんせ、デスクワークだもんな」

 トールが、肩をグルグルと回しながら苦笑いを浮かべると、ミリアリアは微笑みながら頷く。

「でも、これでキラが助かる事が出来るなら安い物ね」
「ああ。だけど、本当は一緒に戦えれば一番なんだろうけどなぁ」
「トール……」

 誰も自分の好きな人が危険な戦場で戦うなど、喜びはしない。ミリアリアもそれは同じで、トールには戦闘機やモビルスーツには乗って欲しくはないと思っている。
 トールの言葉を聞いて、ミリアリアの表情が不安を含んだ物へと変わり、自分の隣を歩く、彼氏へと目線を向けた。
 
「――ん?なに?」
「……ううん。なんでもない……」

 トールは、ミリアリアの思いに気付く事など無く、ミリアリアは寂しそうに俯くと、首を横に振った。
 ミリアリアの素振りに気まずく感じたのか、トールは話題を変えようと口を開く。

「……そう言えば、アークエンジェルに乗って、二人きりになるの久しぶりだよな……」

「う、うん……そうね」
「……ミリィ」

 ミリアリアの頭の中ではトールへの心配事が渦巻いていたが、突拍子も無く話を振られた為、少し慌てながらも内容が内容な為、頬を赤く染める。
 トールは、ミリアリアの肩に触れると体を引き寄せ、キスをすると、ミリアリアも瞳を閉じて受け入れる。 

「……う……ん……トール……」

 長いようで、短い時間だったのかもしれない。
 ミリアリアは、トールの唇が離れると頬を染めた。


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「必ず、生きて帰ろうな」
「……うん」
「……行こうか」
「……うん」

 トールの言葉に頷くと、彼の手を取りくっ付くように歩いて行く。その姿は、とても幸せそうな物だった。
 二人は並んで、右手に曲がる通路を通り過ぎて少しすると、後ろから男性の声が聞こえた。

「……いやぁ、若い若い!若いって、いいねぇ」
「……フラガ大尉……悪趣味ですよ」
「「……えっ!?」」

 トールとミリアリアが驚いて振り返ると、ムウとマリューが立っていた。
 マリューは、ムウに対して呆れている様子で、ムウは、「見つかっちまったか」と、でも言う表情で頭を首の後ろの辺りを摩っていた。

「悪い悪い!覗くつもりは無かったんだわ。いやー、ブリッジ行こうと思ったら、通路でラブシーンしてるとは思わなくてなぁ」
「――こ、これは!」
「気にするんなよ。付き合ってんだろ?キスぐらい可笑しくないさ。ただ、軍規上、問題あるから、やるなら部屋でにしとけよ」
「――は、はい!」
「……」

 トールは、ムウの言葉に顔を赤くながらも、慌てるように答える。その傍で、ミリアリアは顔を真っ赤にして俯いていた。
 その様子を見兼ねたのか、マリューが口を挟む。

「……フラガ大尉、それくらいにしてあげてください」
「ああ。二人共、悪かったな。そんじゃ、ゆっくり休めよ」

 ムウは頷くと、笑いながらトール達が来た方向にマリューと共に歩いて行った。
 トールは、どれくらい呆然としていたのか、思い出したようにミリアリアの方に顔を向ける。

「――!ミリアリア、先に戻っててくれるか?」
「……えっ!?」
「すぐに戻るからさ」
「……うん……先に行ってるね」

 ミリアリアは不安が的中するのではないかと、心配そうな表情を向けながらも頷き、ゆっくりと自分の部屋へと歩き始める。その後姿は寂しそうに見えた。
 トールは、ミリアリアの後姿を少しの間見つめると、もう見えなくなったムウを追いかけて、通路を全力で走り出した。


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 通路を曲がりブリッジへのエレベーターに乗ろうとするムウとマリューを見つけ、大声で呼び止める。

「フラガ大尉ー!」

 ムウとマリューは何事かと、エレベーターに乗り込むのを止め、駆けてくるトールが来るのを待っている。 
 トールが二人の前で立ち止まり、息を思い切り吐き出しと、ムウが声を掛ける。

「どうした?」
「えっと、俺、じゃなくて……僕も一緒に戦いたいんですが!」
「はぁ?」

 ムウは、真剣な顔で話すトールの言葉に間抜けな声を上げた。マリューも同様で、マジマジとトールの顔を見つめた。
 トールは少し視線を落とすと、心の中で思っていた事を口にする。

「……俺……キラに戦わせてばっかりだから……あいつの力になりたいんです」
「……気持ちは分からんでもないが、戦場はそんな甘い場所じゃないぞ。それ以前に、肝心の機体が無いからな……」

 ムウは片手で髪を掻き毟りながら、トールを見据える。
 トールが友達思いなのは知っているが、キラのように現状で訓練を受けている訳でも無い。MAはベテランが乗っても動く棺桶と変わらないのだから、素人が戦場で乗れば、即、あの世行きなのは間違いない。
 マリューも、ムウと同じ考えなのか、トールに説得するような口調で話し始める

「この船に乗せてしまった私が言える事では無いけれど、あなたが戦って何かあれば、彼女や御両親、他にも悲しむ人が大勢いるのよ。よく考えたの?」
「……それは、キラも同じです!同じなのに、俺達を守る為に戦ってるんです。だから――!」
「だけどね……」

 マリューは、トールの真剣な表情を見つめながらも、何とか説得をしようと言葉を切り返そうとした。
 しかし、その時、ムウが大きく溜息を吐くと、文句を言うように口を開く。

「はぁ……。ったく!お前は……余計な手間ばかり、増やしやがって」
「スミマセン……」
「えっ!?」


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 ムウの言葉を聞いて、肩を落として謝るトールをだったが、マリューの反応は違っていた。
 マリューは、ムウが「余計な手間ばかり、増やしやがって」と言ったのをトールとは違う意味で捉え、驚きの声を上げた。
 少なくとも、この艦に来て、トールはムウに手間を掛けさせるような事をしたと言う話は誰からも聞いてはいない。それなら、これからと言う意味でしかなかった。
 ムウは項垂れるトールを呆れ気味の表情で見ていたが、やがて真剣な表情で言った。

「訓練だけはしてやるよ」
「――えっ!」
「……やっぱり」

 諦めかけたトールは驚き、ムウを見つめる。
 マリューは悪い予感が的中したかのように表情で、額に手を当てて息を吐いた。
 そんなマリューを尻目に、ムウは、トールに対して厳しい視線を向ける。

「だが、機体も無いし、乗せた処で落とされるだけだ。一端になるまでは戦場には出さない。それが条件だ。中途半端な覚悟でやるなら、ぶん殴る。覚えておけ!」
「――あ、ありがとうございます!」
「彼女が待ってんだろ。早く行ってやれ。そうだな……起きたら、俺は格納庫に居るはずだから、連絡をくれ。そうしたら、俺の部屋の前で待ってろ。ちゃんと寝ておけよ!」
「――は!失礼します!」

 トールは嬉しそうな表情をしながらも、その目には強い意思が宿ったように見える。ムウに敬礼をすると、踵を返し、ミリアリアが待つ部屋へと駆けて行く。
 トールの後姿を、苦笑いをしながら見つめるムウに、マリューが言った。

「……いいんですか?」
「キラをストライクに乗せてんのに、自分で言い出した奴をやらせない訳にもいかんでしょ?それに、あいつが実戦に出る頃には、この船、とっくに月基地に着いちまってるよ」
「だと、いいんですが……はぁ……」

 マリューは不安なのか、眉間に皺を寄せると大きな溜息を吐き、項垂れた。
 ムウは、マリューに同情しながらも、色々と抱え込もうとする彼女を心配する。

「おいおい、そんなんじゃ胃に穴が空いちまうぞ。もう少し、気楽に考えればいいじゃないか」
「……フラガ大尉がうらやましいです……」

 マリューは、ムウの心遣いに感謝しながらも、ムウのような言動が羨ましく、本音を漏らした。
 艦長として、アムロやラクスの問題を抱えるマリューは、神に祈りたい気持ちになった。


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 ザフト軍の臨時に編成された艦隊が地球衛星軌道上に続々と終結しつつあった。その中には、レイ・ユウキ率いる捜索隊とユン・ロー隊、合流したガモフの船体も見受けられた。
 合流した処です、艦隊の責任者にザフト軍特務隊FAITHの隊長であるユウキが任命され、すぐに編成が行われた。
 GATシリーズはプラント本国から来た艦隊により、ガモフに移された。それに伴い、アスランもガモフへと移動する事となった。
 目の前には、ジンと共にGATシリーズの機体が二機並んでいた。奥にある一機は見慣れた自分の機体、イージスだった。しかし、もう一機が聞いた話とは違っていた。

「これは……追加装甲か?追加装甲装備のデュエル!?ニコルではなく、イザークが来たのか!?」

 アスランは、デュエルを見上げる。前に見た時は、デュエルはもっとスマートな印象があったが、明らかに鎧のような装甲を着け純重そうに見えた。
 いつの間にこんな物を造ったのかと思ったが、データなども揃っていた事や、自分が休んでいた時間を考えれば、不思議では無いと思えた。
 そんな事を思っていると、キャットウォークの方から声が聞こえたような気がした。

「アスラーン!」
「ニコル!?」

 ユウキの話通りニコルが来ては居るが、専用機のブリッツが見受けられなかった。アスランは謎に思いながらも、キャットウォークから軽い引力に任せて、宙をゆっくりと降りてくるニコルに目を向けた。
 ニコルは優雅に着地すると、笑顔を見せた。

「お疲れ様です、アスラン」
「ニコル、デュエルがあると言う事は、イザークもこっちに来ているのか?」
「違いますよ。イザークは月に向かってます。ブリッツとデュエルを交換したんです」
「えっ!?」

 アスランは、イザークが機体を交換した事に素直に驚いた。
 ニコルもアスランが驚くのは予測済みだったのか、少し楽しそうな顔をしていた。

「イザークが自分から申し出たんですよ」
「イザークがか!?……良くイザークが申し出たな……」
「……ええ。イザークからは、壊すなって言われてますから、傷を付けるにはいきませんよ」

 ニコルの言葉に、アスランは「信じられない」と、言わんばかりの表情になった。
 アスランが持っているイザークのイメージからすると、大抵、自分の機体を誰かに貸すなど、考えられない事だった。
 イザークに対して、見方を変えた方がいいのかも。と、少し思った。
 そんなアスランを他所に、ニコルは交換する原因が自分にあった事を伏せておいたのは言うまでもなかった。


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「それよりも、使えるのか?」
「問題無いですよ。基本的に変わりませんし、デュエルはベーシックな機体ですから」
「……そうか」
「分かっているとは思いますけど、イージスも直ってますよ」
「……ああ」

 アスランはニコルに言われるがままに、視線を奥にあるイージスへと向け、少し悲しげに頷いた。
 イージスを見て、あの機体でキラと戦ってしまったんだと思うと、辛かった。それに、イージスに乗ってからと言う物、ラクスの事も含め、色々と嫌な事ばかりが多かった気がしてない。
 そう言う意味では、自分の専用機であるイージスには悪いが、余り好きになれそうもなかった。
 ニコルは、アスランの浮かない顔色を見て、遣る瀬無さそうな表情になる。

「……アスラン、今回の事で辛いとは思いますが……」
「ニコル、その事は何も言わないでくれ……」
「……はい」

 悲壮な表情を浮かべるアスランに、ニコルは黙る他無く、回りのメカニックマン達の話し声や機械の音などが、耳に響いた。

「……父上やクライン議長は、どうして、このような判断をしたんだ……。こんな事をしても、ラクスが喜ぶとも思えないのに……」

 どのくらいの沈黙だったのか、アスランが口を開く。
 悲壮な表情には変わらないのだが、吐き出される言葉には、悔しさや悲しみが含まれていた。
 ニコルは、そんなアスランの言葉を聞いて、誰かの為に一生懸命になれる彼は、やっぱり優しいと感じる。
 しかし、軍人である以上、命令は絶対なのだ。あえて、事務的に答える事にした。

「……仕方ないですよ。プラント市民の反応が凄い物でしたから」
「それは俺も同じだが、これでは無駄に犠牲者を増やすだけだ。こんな事をしても、ラクスを悲しませるだけだ!」
「……でも、僕達は軍人で、これが仕事なんです」
「――それは……分かっているが……」

 淡々と話すニコルの言う事は、軍人として正しかった。
 しかし、アスランは何かが間違っていると言いたかったのだが、その確信に自信が持てず、言葉を続ける事が出来ずに口を閉ざす他無かった。
 ニコルは、真っ直ぐアスランの目を見つめる。その表情には、言い知れぬ迫力があった。


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「アスランは……ラクスさんを殺されて、地球軍が許せないんですよね?」
「――!ラクスは、まだ――」
「――アスラン、現実を見てください!ラクスさんが脱出ポットで発見さたとしても、既に酸素も尽きている時間なんですよ!もう、間に合わないんです!」
「――!」

 ニコルの悲痛な叫びに、アスランは息を飲んだ。
 ニコルが言う通り、無事に脱出ポッドで逃げていたとしても、既に酸素が切れている時間は、当の昔に過ぎているのだ。
 アスランは体が固まったように動けなくなり、見開いた目から涙が零れ落ちた。
 ニコルは俯き加減に視線をアスランから床へと移し、自らの目からは、今にも涙が溢れんばかりだった。

「……アスランは、大切な人を奪われて、憎くないんですか?」
「……お、俺だって……だけど――」
「……僕はナチュラルが……憎い訳じゃありません。……それに……僕だって、本当はこんな事、言いたくないんです……」

 固まったまま、涙を流すアスランは、搾り出すように声を出すが、ニコルが遮るように言葉を吐いた。
 その表情は苦しんでいるかのようだった。ニコルは、そのまま言葉を吐き続ける。 

「……でも、同じコーディネイターで……敵になってる人がいるくらいなんですよ……。言って分からない相手なら、倒すしかないじゃないですか!」
「――ニコル、お前!」

 アスランは、ニコルの言葉にプラントでフレイとの別れ際に、扉の所でニコルと鉢合わせをしたのをの事を思い出した。
 ニコルの言う、コーディネイターはキラの事を指しているのを確信し、アスランは固まった姿のまま、右手の拳を握り締めた。
 ニコルは、視線を再びアスランへと戻し、真っ直ぐ見つめる。
 
「僕が信頼出来る地球側の人間は、今の処、フレイだけです。分かって貰えない相手なら、僕の大切な人達を守る為に、誰であろうと倒しますよ」

 ニコルは、普段は見せない強い意思を剥き出しで、告げると、踵を返してアスランの元を去って行った。
 アスランの握り締めた拳は行く宛など無く、アスラン自身、どこに向けていいのかも分からず、ただ立ち尽くす他無かった。


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 アムロは、いつか見た闇と光が交錯する世界に居た。体は宙に浮いたような感覚で、まさしく宇宙に抱かれているかのような感じだった。
 一番最初にこれをみたのはいつだったか、と言えば、まだ一年戦争の頃まで遡る。最近では、シャアとの戦いの合間に自室で寝ている時に見たのが最後だった。
 目の前を白い物が飛んで行く。それは、いつか見た白鳥だった。

「……白鳥!?ララァ……ララァ・スンか!?」

 白鳥は光を帯び、女性の姿に変わって行く。
 ララァ・スン。自らの手で殺してしまった女性。殺してはいけなかった女性だった。
 アムロは、自分の身に起こった事をぶつけるかのようにララァに向かって叫ぶ。

「ララァ、これは、どう言う事なんだ!?」
「人の可能性よ」
「人の可能性だと!?」
「そう……、違う未来へ進む為の人の可能性……」
「俺に何をしろと言うんだ!」

 アムロは、ララァの言葉に戸惑いつつも、理不尽さに怒りを込めた口調で言った。
 そのララァは、ただ首を振り、アムロの回りを舞うように飛ぶ。

「……私には分からないわ……。アムロ……それは、あなたが選ぶ事よ」
「選ぶだと!?」
「そう……彼等と共に……。本当は解っているのでしょう……」

 ララァがそう言った処で、光に包まれ目の前が真っ白に染まった――。

「うっ……」

 アムロは光の為、目を細めるが、それでも目を開けていられず、目を閉じる。すると、暗闇が全てを支配した。
 闇から脱出するかのように目を再び開けると、そこは、見慣れたアークエンジェルの自室の天井だった。電気は点けていない。
 すぐに、夢だと言う事は自覚出来た。自覚出来る分だけ性質が悪いとも感じる。
 アムロはベットに横になった体勢で片手を顔に当て、そして額を拭うと大きく息を吐いた。

「はあ……。何だと言うんだ……何を選べと言うんだ……」

 そう言うと、体を起こし片手でスイッチを捜す。ようやく見つかったのか、軽く押すと部屋に明かりが点る。
 部屋を見回すと、ベットから両足を出し、床に足を着ける。


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「こっちに来てから見てなかったと言うのに……僕は、まだ囚われていると言うのか!?」

 アムロは片手で口を覆い隠すようにしながら、言葉を吐きだすが、心底、嫌悪感を込めている感じだった。
 やがて、仕方ないとばかりに立ち上がり、服を着替え始める。
 最近は連合の制服にも慣れては来たが、自分では連邦の方がしっくり来ると思っていた。何となくではあるが、滑稽だなと思い、苦笑いを浮かべる。
 アークエンジェルに居る分には身柄は安全だが、基地に着けば、身の安全の保障など無い。ムウが以前、言ったように、今、考えても仕方が無いのかもしれないが、やはり不安ではあった。
 それを振り払うかのように、アムロは扉を開けると部屋を出てブリッジへと歩き始めた。
 すると、丁度、通路の曲がり角で、誰かとぶつかり、相手は後ろに倒れ込んだのか、尻餅をついていた。

「ア、アムロ大尉!大変申し訳ありません!」

 ぶつかった相手はナタルだった。彼女は慌てたらしく、床に座ったままで恐縮し、身を縮めていた。
 アムロは、ぶつかった相手が女性でもあり、自分を慕ってくれている事も有り、すぐに手を差し伸べ、謝罪の言葉を言うと、ナタル手を掴み立ち上がらせる。

「いや、こっちこそ、悪かった。大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます。私こそ、申し訳ありませんでした」
「こっちの不注意なんだ。気にしないでくれ。それよりも、これから休息か?」
「はい」
「そうか、ゆっくりするといい」

 生真面目に答えるナタルに、アムロは微笑む。
 ナタルは、いつものアムロと違うと感じたのか、心配そうな表情で顔を見つめた。

「……アムロ大尉」
「ん?なんだ?」
「お疲れのご様子ですが……」
「……いや、嫌な夢を見てな。こっちに慣れ始めて、疲れが出たんだろう」

 アムロは、ナタルの言葉にララァの夢を思い出し、一瞬、口篭るが、首を振ると、誤魔化すように笑った。
 ナタルはそれでも直、心配するような表情を変える事はなかった。

「……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。安心してくれ」
「……はい。でも、無理はなさらないでください」


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 ナタルは心配そうな表情をようやく崩し、柔らかく微笑んだ。
 アムロは、ナタルもこのような表情が出来るのを始めて知る。そして、心配事を掛けた礼を言う。

「ありがとう、ナタル」
「いいえ」

 ナタルは、少し嬉しそうに首を横に振った。
 その時、通路の向こう側から、キラがやって来て挨拶をした。

「おはようございます」
「起きたのか?」
「はい。バジルール少尉は、今からですか?」

 アムロの問いに頷くと、キラはナタルの方を向いて言った。
 少し前まで、ナタルを苦手にしていたキラが、ナタルに自分から話しかける事も、アムロから見れば、ナタル同様変わって来たと感じる一つだった。
 ナタルはキラの対して、頷くと、サイの言葉を思い出し、伝える。

「ああ。休ませてもらう処だ。……プログラムだが、完全ではないが、今日中に組み上がるそうだ」
「本当ですか!」
「予想以上に早いな」

 キラは喜びと驚きが入り混じった声を出し素直に笑顔になった。
 アムロも予想以上の早さに驚きを隠せなかった。

「友情と言う物なんでしょうか?……彼らは良くやってくれています」

 ナタルは、アムロの言葉に笑顔で答え、少年たちを褒め称えると、キラに対して真剣な表情を見せる。

「……キラ・ヤマト。彼らは、君の為に必死にやったのだから、何があっても彼らや艦の乗組員の期待に応え、必ず生き残れ」
「はい!」

 キラは頷き、力強く返事をした。その返事にナタルも満足したのか、同様に頷き微笑んだ。
 それを見ていたアムロは、人は変われる物だと実感する。
 もしかしたら、ララァが言いたかったのは、人の変化と信頼。そして、その先の未来なのかもしれないと感じた。

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