地球衛星軌道上で、智将ハルバートン率いる地球軍第八艦隊とザフト軍特務隊FAITH隊長であるユウキが率いる艦隊が戦闘を行っていた。
地球軍第八艦隊は、敵機動兵器であるモビルスーツと自軍の主力攻撃機であるモビルアーマーの性能差は明白ではあったが、その差を数で補い、現状の戦況は有利に動いていた。
その反対に、ザフト軍は臨時編成された艦隊ながらも、シルバーウインド号の一件もあり、将兵の士気は高く、モビルスーツの性能を生かし数的不利を覆そうと奮戦していた。
その中、地球軍第八艦隊旗艦メネラオスのブリッジでは、ハルバートンが戦況を見つめていた。
「――第一次攻撃隊のメビウス、損耗率、三五パーセント超えました!」
「……やはり性能の差が出ているか」
オペレーターの伝える報告に、ハルバートンはモビルアーマーではモビルスーツに対して不利であると言う、現実を目の前に苦い思いをしながら呟いた。
ハルバートンの呟きを聞いたホフマンは、神妙な顔つきで聞いて来た。
「第二攻撃部隊の出撃、いかがいたしますか?」
「出せるか?」
「既に整っております」
ホフマンは軍人らしい返事を返した。
その時、オペレーターの声が響く。
「――敵艦より新たな機影!数、三〇以上!ザフト軍第二陣の攻撃部隊かと思われます!」
「この数、本命が来おったか!」
「第二攻撃部隊、出撃させます!」
「うむ」
「――第二次攻撃部隊、出撃!」
ハルバートンが頷くと、ホフマンが声がブリッジに響き渡る。
号令と共に、発進体勢に入っていたメビウス攻撃隊の第二陣が続々と艦を発進して行く。
ハルバートンとホフマンが、飛び去って行くメビウスを見送る中、続々と報告の声が上がる。
「――敵モビルスーツ、識別!ジン、多数!先鋒の艦隊、砲撃戦開始しました」
「――先方の艦より入電。敵軍に新型のモビルスーツが投入されているようで……えっ!?」
「――どうした?」
「――は!失礼しました!どうやら新型のモビルスーツのようです!ただ、該当する機種データがあったので……」
「――はっきりせんか!」
ハルバートンは、煮え切らない返事をするCICの将校に対して、苛着いたように怒声を浴びせる。
怒鳴られた将校は座ったまま背筋を伸ばすと、すぐに報告を始める。
「――は!該当機種、地球連合軍GAT-X一〇二 デュエル、GAT-X三〇三 イージスです!」
「「――!」」
「識別信号はザフト軍の物となっております」
その報告に、ハルバートンは息を飲んだ。
ザフト軍と引き離されたしまった、機体性能での戦力差を逆転させる為、自らが中心となって推し進めた来た計画で完成した機体を奪われてしまうとは、悪夢でしかなかった。
それを知るホフマンが、苦汁の表情を浮かべながら口を開く。
「――な、なんとした事か!」
「――くっ!……よりにもよって、ザフトの手に落ちているとは!」
「閣下、どういたしますか?」
「――敵の手に落ちたとなれば、敵である事には変わりない!撃ち落とせ!」
本来、味方であるはずのGATシリーズは、PS装甲を装備している以上、メビウスを主力としている地球軍には、今までのモビルスーツ以上の脅威だった。
しかも、敵の手に渡ってしまった以上は、やはり敵でしかない。
ハルバートンは、ホフマンの表情以上に鬼気迫る表情で、腹の底から声を上げると、ブリッジの空気が震えたかのように響き渡った。
月の地球連合軍プトレマイオス基地を眼前に見据え、クルーゼが指揮を執るザフト軍艦隊は、ブリッツを単機出撃させると、再び慣性飛行でプトレマイオス基地へと近づいていた。
エンジンを停止させ、慣性飛行をしているとは言え、流石に巨大な鉄の塊である戦艦が見つからない訳は無い。
イザーク・ジュールが乗る、ブリッツを出撃させてから、二十分程の時間が経過していた。
クルーゼは、一度、時計を見るとニヤリと微笑み、静かに口を開く。
「……そろそろ、いい頃合いだな。モビルスーツ隊の発進準備をさせろ。艦隊は最大加速で地球軍月基地へ向かえ」
「――は!全艦、発進せよ!」
アデスの口から号令が響くとヴェサリウスの船尾に一瞬、青白い炎が見え、船は一気に加速し始める。
ヴェサリウスを追うように他の艦も、船尾に炎の尾を引きながら加速して行く。
クルーゼは、モニターを見据えながらも冷笑を浮かべながら、アデスに言い聞かせるように静かに口を開く。
「アデス、敵も馬鹿ではないだろうから、我々が着く前に迎撃機を出して来るだろう。通常装備のジンとバスターを出せるようにしておけ。D装備の機体は後からでかまわん」
「――は!」
クルーゼはアデスの返事を聞き流し、受話器を手に持つと回線を開いた。
「ディアッカ、準備は出来ているか?」
「隊長、待ちくたびれましたよ」
「――ふっ。それは悪い事をしたな。ディアッカ、分かって居ると思うが抜かるなよ」
受話器から響くディアッカの声は、待っていたとばかりに喜々とした物だった。
ディアッカの言いようにクルーゼは苦笑いを浮かべつつも、淡々と上官としての責務を勤める。言うべき事を伝えると受話器を置き、再び視線を眼前にある地球軍基地へと向ける。
そこに吸い込まれるように艦隊から次々にモビルスーツが発進して行った。
アークエンジェルの格納庫では、間もなく始まるであろう戦闘の為に、所狭しとメカニックのスタッフ達が動き回っていた。
キラも同様に、ストライクのコックピットの中でキーボードを叩き続けていた。
本来なら、もうプログラムの調整は終わっていてもおかしくはなかった。しかし、キラはそれ以外のプログラムにも手を加えた為、時間を費やしていたのだった。
「間に合え、間に合え……」
「――キラ、ストライク、発進準備完了してますか?」
「――まだ……もう少しだけ待ってください!」
キラが呪文のように呟きながら、素早いキーパンチをしていると、スピーカーからミリアリアの声が響いた。
一瞬、視線をコンソールに向けると、切羽詰まったように声を上げて、再びキーボードを叩き始める。
ミリアリアは、キラの声から切羽詰まっているのを感じたのか、少し言い淀みながらも声を出す。
「……分かりました。――アムロ大尉、νガンダム、発進準備お願いします」
「了解した」
既に出撃準備を済ませていたアムロは、シートの後ろに引っ掛けておいたヘルメットを取ると、何時ものように被った。
そして、コックピットを閉じようとコンソールのスイッチに手を伸ばそうとした時、マードックが覗きこむように顔を見せた。
「大尉さん、フィン・ファンネル取り付けなくていいんですね?」
「壊れて使えない物を装備しても返って邪魔だ。離脱する場合は、取りに戻るか、放出するかを指示する」
「分かりました。……坊主には言わなくていいんですか?」
マードック頷くと、νガンダムの隣のハンガーに立つストライクに目線を向ける。同じようにアムロもモニター越しにだが、ストライクに視線を向けた。
本来なら、世話になったキラに艦を離れる可能性が有る事を告げてもいいのだろうが、アムロ自身、どうすればいいのか判断が就かない以上、不用意にこの事を告げ、動揺させるのは得策では無いと思っていた。
アムロは目線をストライクからマードックへと移すと、口を開く。
「……もし、俺が離脱したとしても、事情を知っているキラが恨み言を言うと思うか?」
「……いいや。やられないで下さいよ!――νガンダム、出るぞ!」
マードックは、アムロの不器用さに苦笑いを浮かべながら首を横に振りながら答えると、コックピットを離れ、下に居るスタッフ達に向けて、声を上げた。
アムロは操縦桿を握ると軽くペダルを踏み、νガンダムを前へと進ませ、格納庫の一角に置いてある三二〇mm超高インパルス砲をνガンダムに握らせた。
その間にも、ムウの乗るメビウス・ゼロにも出撃の準備が進められて行く。
「――フラガ大尉、メビウス・ゼロ、発進準備お願いします」
「了解、了解!」
ミリアリアの声に、ムウは軽い調子で答えた。
すると、メビウス・ゼロが固定されいる台座ごと前に押し出され、オレンジの機体がカタパルトデッキへと向かって進んで行く。
先に発進準備に入っていたアムロは、背後のエアロックが閉じて行くのを感じながらミリアリアに声を掛ける。
「――ブリッジ、ハッチを開けてくれ!それから、エネルギーケーブルの準備を!」
「――了解しました。エアロック閉鎖確認。二番カタパルトデッキ開放します」
スピーカーからミリアリアの声が響くと、閉じていたハッチが開き目の前に暗い宇宙空間が現れる。その先では、星が瞬くように所々で爆発が起こっていた。
アムロは、バイザーを下ろすと軽くスロットルを開き、νガンダムを甲板へと発進させた。
「あー、こちら、ゼロ。一番カタパルトデッキにて発進態勢で待機する」
「――了解しました」
メビウス・ゼロもカタパルトデッキに固定され、いつでも出撃態勢に入っていた。
ムウもミリアリアに報告を終えると、ストライクへと通信回線を開き、キラに声を掛けた。
「キラ、まだ掛かりそうなのか?」
「――あ!はい!済みません!」
「ああ。いいって!」
「本当に済みません。すぐに済ませます!」
キラは相当焦っているのか、慌てたように答えた。
ムウは、発進態勢にも入れていないキラを焦らせてしまったのを取り繕うように口を開いた。
「いや、焦っても良い事ないんだから、しっかりやってくれれば構わないさ。あー、それから、同じチームなんだ、俺の事もアムロと同じようにムウで構わねえよ。邪魔して悪かった」
「……いいえ!ありがとうございます、ムウさん」
キラは、一瞬、戸惑いながらもムウの気遣いに感謝すると嬉しそうに礼を述べ、通信回線が閉じられた。
少し肩の力を抜いたキラは、再びでキーボードを叩き始めた。
アークエンジェルの厨房は完全に火が落とされ、静まり返った食堂は戦闘態勢に入った事を感じさた。
アークエンジェルがザフト軍との戦闘に入る事を知らなかったラクスがその事を知ったのは、厨房での仕事を終え、部屋に戻る途中の事だった。
ブリッジに向かおうとしたラクスを、厨房のスタッフ数人が引きずるように部屋の前までやって来た。
「お願いします!私を艦長さんの所に――!」
「あなたは、部屋で大人しくしていなさい」
「――お願いします!」
両脇を男性スタッフに固められ部屋の前に立つラクスは、女性スタッフに向かって懇願するかのように声を上げた。
女性は両脇を固めているスタッフに対して「離して」と言うと、ラクスは開放される。
ラクスの両脇を固めていた男性スタッフはブリッジへの通路を塞ぐように立ち位置を変えた。
女性はラクスに対して、目線を外さずに告げる。
「あなたの気持ちがどうあれ、アークエンジェルは地球軍の軍艦なの」
「しかし、私なら――」
「――思い上がらないで!」
「――!」
ラクスは「――戦いを止める事が出来るかもしれません」と続けようとしたが、言う事を聞かないラクスに対して業を煮やしたのか、女性は怒鳴りつけた。
怒鳴りつけられたラクスは、驚き言葉を続ける事が出来ず、ただ息を飲んだ。
厨房スタッフとて、ラクスのプラントでの立場を知らない訳ではない。マリューの命令があったとは言え、仕事を手伝ってくれるラクスに信頼を置き始めていた矢先でこの出来事だ。
女性はラクスを見据える。
「あなたがプラントでどれ程の立場だとしても、ここでは、ただの民間人です。あなたにアークエンジェルや戦場を、どうこう出来る権利は無いのよ」
「――!」
ラクスは、女性から告げられた言葉に息を飲んだ。そして自ら置かれた立場を改めて自覚し、無力さに俯く他なかった。
「早く部屋に入りなさい」
女性は部屋に入るよう促すが、ラクスは俯いたまま肩を震わせ、目尻にかすかに涙を溜めていた。
「……分からないの?……それなら」
動かないラクスに、女性は眉間に皺を寄せると腰のホルスターの銃を抜いた。そして、スライドを引き、弾を薬室に送り込むとラクスに対して銃を構えた。
今まで銃など向けられた事など無いラクスは、顔を上げると目を見開く。
「――!」
「あなたと同じコーディネイターの彼も出撃するわ。こんな事を言いたくないけど、あなたがブリッジに行って迷惑を掛けている間に、彼や私を含め、アークエンジェルのみんなが死ぬ事になるかもしれないのよ」
「……キラや……みなさんが……ですか……?」
女性は強張った表情で告げると、ラクスは途切れ途切れに呟きながら、再び俯く。
ラスクは、自分を受け入れてくれたキラやアークエンジェルの乗組員に死んで欲しくはなかった。
「そうよ。だから、大人しく部屋に入りなさい。お願いだから、私にこんな真似をさせないで」
「……はい……」
女性の言葉にラクスは力無く頷いた。
それを見た女性は息を吐く。本当は銃など向けたくはなかったのだろう。ほっとした表情で引き金から指を外した。
すると、通路を塞いでいたスタッフ達の背後から、黄緑色の鮮やかなロボット鳥が飛んで来た。
「トリィ」
人工的な合成音の声を上げながらロボット鳥は、ラクスの肩に舞い降りた。
「……ロボット鳥ですか?」
「トリィ?」
ラクスは肩にちょこんと泊まるロボット鳥に驚きながらも、手の平を出してみる。すると、ロボット鳥はラクスの手に跳ねるように跳び移った。
女性が銃をホルスターに収めながらラクスに言う。
「このロボット鳥、彼のじゃない」
「……彼?……キラの……ですか?」
「ええ。何度か見たわ。銃を向けて悪かったわね。早く部屋に入って」
「あ、はい……」
女性に促され、ラクスは部屋に入ると扉が閉じられる。電気を点けていない部屋は暗い。
ラクスは、瞳を潤ませながら手に乗るキラのロボット鳥を宝物のように見つめる。そして、戦闘を止める事の出来ない胸の内を呟く。
「誰も助ける事の出来ない……私は……どうすれば良いのですか……?」
「……トリィ?」
ロボット鳥はラクスを覗き込むように見上げながら首を傾げた。
今のラクスには、キラとアークエンジェル、そして、戦場に居る全ての者の無事を祈る事しか出来なかった。
地球軍第八艦隊の猛攻の中、ザフト軍モビルスーツ隊は獅子奮迅の働きを見せていた。
モビルスーツ一機に対してモビルアーマー五機分と言われるが、ザフト軍は決して戦力的には負けている訳では無い。しかし、一気に襲い掛かられれば、やはり絶対的な物量差は脅威でしかなかった。
そのような戦いを強いられる中で、これだけ持ち堪えているのは、アスランにとっては皮肉にも士気を上げる原因にもなったラクスのお陰でもあった。
アスランは戦場を見回し、自軍のモビルスーツの展開が薄い場所を見分けると、援護に向かう為にスロットルを開いた。
「両翼の展開が薄いか!ニコル、俺は左翼の敵を叩く」
「分かりました。僕は右に展開します」
アスランの通信に応えるようにニコルが返事をすると、二人はそれぞれのポイントへと向かわせる。
その中、ジンとは明らかに違う新型の機体の為か、執拗に狙われる。
「このイージスを狙って来ているのか!?チョロチョロと!」
アスランはハエのように集るメビウスに吐き捨てると攻撃を避けた。
攻撃して来たメビウスをビームライフルで狙うが、攻撃を阻止するかのように他のメビウスが、すぐにイージスを攻撃して来た。
「――ちっ!」
舌打ちをすると、直ぐに回避行動に入り、反撃をする。撃ち落すが数が多く減ったと言う気がしなかった。
これだけの物量差を見せ付けられると、本当に生き残れるのかと思ってしまうが、PS装甲を搭載した最新鋭機とは言えど、隙を見せれば死に繋がる。泣き言は言ってられない。
「――地球軍め!数だけは多い!」
再び攻撃をして来たメビウスを叩き落すと吐き捨てる。終わりが有るのかと思える程、次々とイージスに襲い掛かるメビウスに、アスランは苛立ちを見せ始める。
その時、味方艦からの通信回線が入って来る。
「――北天側が抜かれました」
「――展開している部隊は何をしているんだ!」
内容を聞いたアスランは腹立たしげに言葉を吐くと、通信回線を開いた。
その間にも操縦桿を動かしながら敵の攻撃を避ける。
アスランは、戦闘管制担当のオペレーターに捲くし立てるように口を開き、北天側へと機体を向ける。
「――こちら、イージス!両翼に部隊を割いてくれ!北天には俺が向かう!あと、状況を教えてくれ!」
「――既に北天側には、中央の数機がカバーに回っています」
「突破した敵機は!?」
「突破した敵機は艦から迎撃機を出します。イージスは第一次攻撃隊のジンと交戦中の敵艦を叩いてください!」
「――っ!了解!」
アスランは新たな命令に舌打ちをすると、指示の通り、第一次攻撃隊と合流する為にイージスの向かう先を変える。
最も砲火が激しい宙域に向かって、イージスはバーニアを噴かし飛んでいった。
アークエンジェルのブリッジからも眼前で行われている戦闘の光が確認出来る程の距離に来ていた。
最大船速での移動の為、戦闘の光は見る見るうちに大きく見えるようになる。その光の中にアークエンジェルは、この後、飛び込まなければならない。
マリューは、その光景に息を飲みながら報告を待っていた。
「――あと三六〇秒程で、目的ポイントに到達します。現在、戦闘が行われています」
チャンドラが報告の為、声を上げるが、報告が無くとも見れば目の前で戦闘が行われている事を確認は出来る。
マリューは目で見て分かる事よりも、第八艦隊の戦況が気になった。
「戦況は分かる?」
「流石にそこまでは……。ただ、電波がかなり入り乱れていますから、規模は大きいですね」
「ええ。引き続き、分かる事が出て来たら報告を!」
分かる事しか報告出来ないのは理解出来るが、マリューが欲しい情報は何一つ無い。
マリューは、少し苛立たしげにチャンドラに言うと、顔をノイマンへと向ける。
「――エンジンの方はどう?」
「今の処は問題はありませんが……、ローエングリンを撃つのは無理だと思ってください」
マリューは、こうなる事は分かってはいたが、再度、確認するかのように顔をナタルへと向けた。
「他の兵装は?」
「イーゲルシュテルン、コリントス等の兵器は問題はありませんが、ゴットフリート等のビーム兵器を多様するのは危険かもしれません」
「……アグニに回して、エネルギーは問題は無いの?」
「ゴットフリートに比べれば消費量は少ないですから、問題はありません。むしろ、ゴットフリートを使用するより、アムロ大尉の射撃の方が遥かに撃墜率は高いはずです」
マリューは、ローエングリン以外の兵器にも支障を来たす可能性がある事に眉間に皺を寄せるが、ナタルは、その事をあまり心配をしていないのか、軽く首を振ると真っ直ぐにマリューを見据えた。
「ええ。……だとしても、武器をフルに使用出来ないのは心許ないわね」
マリューは頷くが、ナタルには、アムロが離脱する可能性がある事を伝えていない。
その事を知らないナタルがアムロを当てにしているは分かるが、アムロが離脱すればアークエンジェルの戦力は半減しする事は明らかだった。
マリューは、ムウにアムロに、離脱の事を伝えて貰った事を後悔はしてはいないが、せめて、この戦闘が終わるまでは残ってくれる事を願った。
マリューの言葉を聞いたノイマンが、目の前に広がる宇宙空間を見据え、艦の操舵をしながら呟く。
「どこかのタイミングで、エンジンを休ませる事が出来れば、持ち直す事も出来るんだけどな……」
「……今は仕方ないわね。みんな、頼むわね」
ノイマンの呟きを聞き取ったマリューは、険しい表情を浮かべながらもブリッジの全員に聞こえるように言った。
アークエンジェルは、白い船体を滑らせるように光の尾を引いて、目の前の光の中へと進んで行った。
地球連合軍プトレマイオス基地では、ザフト軍の突然の来襲に慌てふためいていた。
基地に居る者は、誰一人として、地球連合軍の宇宙の要であるプトレマイオス基地を攻撃して来るとは思っていなかった。
基地内の司令部は状況報告が続々と入って来ていた。
「――ザフト軍艦隊及び、敵モビルスーツ隊、接近中!」
「ここを攻撃するつもりか?迎撃態勢に入れ!メビウスを出撃させろ!」
「――は!」
「コーディネイターめ!何を考えている!?」
基地司令である壮年の男は指示を出すと、モニターに映る敵を睨みつけながら、予想外の来襲に吐き捨てた。
慌しく士官たちが動く中、司令官が声を上げて新たなる指示を出す。
「守備隊は迎撃態勢に入れ!出撃可能な艦艇は出撃させろ!何としても近付けさせるな!」
その命令により、迎撃用の砲台が生えるように迫上がり、砲身がザフト軍へと向けられる。
あとは、司令官の号令一つで火蓋が切られるのを待つばかりだった。
ハルバートン率いる地球軍第八艦隊は、戦闘を多少なりとも有利に進めてはいるが、それは僅かに天秤がこちら側に傾いているだけでしかない。
いつ形勢を反されるか分からないだけに、ハルバートンは気を抜く事などは無かった。
その中、旗艦メネラオスのブリッジに報告の声が伝えられた。
「――戦域外に所属不明艦、出現!針路からすると、こちらに向かって来る模様」
「――新手か!?」
予想外の事にハルバートンが眉を顰めた。
もし、敵新型艦であれば簡単に戦況など反されてしまうかもしれない。
ホフマンはCICオペレーターに確認するかのように声を掛ける。
「どこの艦か分からんのか?」
「――分かりません!認識コードを持って無い模様です」
「どう言う事だ……?もしや、アークエンジェルか!?」
「判りかねます」
報告にハルバートンは、この所属不明艦がアークエンジェルではないかと微かに期待をするが、ホフマンは険しい表情のまま、首を横に振った。
そして、戦況を見据えながら報告を待った。実際、待ったのは、ほんの数分なのだろうが、それ以上に長く感じた。
「――艦特定!艦籍、地球連合軍アークエンジェル級です!」
「――アークエンジェルか!」
「――なんと、無事だったのか!」
ハルバートンは報告に喜々とした表情を見せると、隣のホフマンは驚きの声を上げた。
アークエンジェル級艦は、正しくアークエンジェルのみがロールアウトされているだけで、報告にあった艦は確実にアークエンジェルを指していた。
ハルバートンは逸る期待を隠せぬようで立ち上がると、確かめるようにオペレーターに声を掛ける。
「――アークエンジェルから連絡は!?信号は出していないのか?」
「――ノイズが多い為、上手く聴き取れません!」
「……もしや、イージス、デュエル同様にザフトに……」
ホフマンの言葉通り、可能性として無い訳では無い。むしろ、イージス、デュエルが敵の手に落ちている以上、可能性が高い。
ハルバートンは少し考え込むと、ホフマンを見据えながら口を開く。
「……可能性が無い分けではないな。こちらからアークエンジェルに呼びかけろ!その上で反応が無いなら、敵と判断する!」
「――は!」
ハルバートンの指示にホフマンが頷く。
――この状況でのアークエンジェルの出現が戦いの鍵になるのかもしれない。
ハルバートンは胸に秘めつつ、行われている戦闘に目を向けた。
地球連合軍プトレマイオス基地を強襲中のザフト軍第二次攻撃隊は、前哨戦として基地より出撃したメビウスと戦闘を行っていた。
その中には、バスターで出撃したディアッカの姿があった。
「――遅い!」
ディアッカがトリガーを引くとバスターの右腰に装備されている電磁レールガン、三五〇ミリ ガンランチャーが火を噴く。
弾頭が散弾のように広がると、二機のメビウスに直撃し、モビルアーマーを鉄のゴミへと変えて行った。
「よえーよ!ったく、数だけ多いだけで手応えが無いな」
ディアッカは、本当にここが敵軍の宇宙での要なのかと疑いたくなり、吐き捨てる。しかし、まだ前哨戦でしかなく、本当の反撃がこれからなのも分かっていた。
そうしている間にも、再び、メビウスがバスターへと襲い掛かる。
「――食い物に集るハエみてえに!こっちはお前達に構ってらんないんだよ!」
ディアッカは攻撃を避けながら毒づくと、狙いを着けてトリガーを引いた。
また一機、撃破するとプトレマイオス基地へと視線を向け、バスターを向ける。
「さて、とっとと、砲台を潰しちまうか」
バスターに続くようにジン後を追いかけ、基地へと向かって行く。
ディアッカの視線の先にあるプトレマイオス基地周辺では、先に出撃した同僚であるイザーク・ジュールがどこかで息を潜めている。
「イザークの奴、上手くやってくれよ。頼むぜ」
ディアッカは呟くと、迎撃を開始した砲台をジンと共に潰しに掛かった。
しかし、プトレマイオス基地からの砲撃は凄まじい物で、容赦無くジンを叩き落として行く。
ここにプトレマイオス基地攻防戦の幕が上がった。
ユウキを指揮官として臨時編成されたザフト軍艦隊は、第八艦隊に押され気味の戦いを強いられていた。
元々、編成された艦は、ほぼ全てが違う隊に属していたのだから、満足に連携など取るのは容易では無い筈で、逆に言えば良く戦っていると言える。
臨時編成されたザフト軍艦隊の当初の目的は、地球軍基地から主力艦隊を引き離す事にあって、その任を果たしたとも言えたが、通常なら引く事も出来ただろう。
しかし、ラクス・クラインの弔い合戦と言う意味合いが強く、プラントでの戦意高揚の為にも、負けると言う事だけは避けなければならなかった。
その中、ザフト軍も所属不明艦をレーダーで捕捉した事が、戦闘中の各モビルスーツへ伝達されたのだった。
「――所属不明艦!?」
戦闘宙域右翼に展開したニコルは、デュエルのコックピットでスピーカーから聞こえて来る情報に耳を澄ました。
そこへ、メビウスの編隊が攻撃を仕掛けて来る。
「――っ!」
スピーカーに気を取られていた為か、一瞬、反応が遅れるが、シールドで初弾を防ぐと、デュエルはバーニアを噴かして回避行動に入り、すれ違い様に狙いを合わせ反撃に転じる。
ニコルは、回避行動の遅れた一機のメビウスにビームを直撃させると、二機目に狙いを合わせ、トリガーを引いた。
右翼に展開している味方のジンも同様にメビウスに対して攻撃を仕掛けている。
「――ふう……。危なかった……。油断しないようにしないと……」
ニコルは息を吐くと、機体を動かしながら戦場を見回した。
やはり、地球軍の攻撃機が多く、数では圧倒されているが、数分前に比べればこの宙域の敵の数も減ってきてはいた。
そこへ、通信回線が入り、スピーカーからアスランの声が聞こえてきた。
「――ニコル!所属不明艦が現れたのを聞いたか?」
「あ、はい!聞いてます!しかし、いったい――」
「――戦闘中の各機!所属不明艦は、ヘリオポリスで取り逃がした地球軍新型艦と同型と一致。恐らく、逃走した艦が現れたと思われる!各機、注意されたし!所属不明艦の進行ポイントは――」
「「――!」」
ニコルがアスランに返事をしていると、新たな通信が入り、ヘリオポリスで自分達が取り逃がしたアークエンジェルである事が分かった。
二人は、その事実に息を飲んだ。
「……僕があの船に一番近い場所に居るのか……」
ニコルは呟いて、アークエンジェルの居る方向に目を向けた。
――あの艦が現れたと言う事は、アスランの友達であるキラさんも来ている!?
そんな事をニコルは考えていると、再び、スピーカーからアスランの声が聞こえてくる。
「――そっちから来るぞ!注意しろ!」
「――分かってます!」
ニコルはアスランに返事をするとコンソールの通信ボタンを押し、後方に控える艦隊へ通信回線を開き、戦闘管制担当オペレーターへと繋げた。
「こちらデュエル!ニコル・アマルフィです!所属不明艦に対しての指示をお願いします!」
「――援護を向かわせた!右翼に展開中の部隊は、戦線を維持!援護が到着次第、デュエルはジンと共に所属不明艦の攻撃に向かってください!」
「――了解!」
ニコルは指示に頷くと回線を閉じ、アスランへと通信を繋ぐ。
「アスラン!僕が迎撃に向かいます!」
「――ニコル!俺も――」
ニコルはアスランが言いかけた処で、強制的に通信を閉じた。アスランの言いたい事は大体分かったし、彼をキラの所に向かわせたくはなかった。
援護のジンが来るのを待っているのも、もどかしい位で、早くキラを説得しなければと心が焦る。
「……何としても、アスランと戦わせませんよ」
ニコルは宇宙空間を見ながら自らの決意を確かめるように呟いた。
やがて、増援が来ると、ニコルは五機のジンと共にアークエンジェルへと向かって行った。
イザークの目の前では、地球軍プトレマイオス基地の守備隊と、自分が所属するザフト軍モビルスーツ部隊との激しい戦闘が繰り広げられていた。
集中砲火を浴びる味方機を見て、今すぐにでも飛び出して行きたい気持ちだが、作戦上、それはまだ出来なかった。
――それも、もう少しの辛抱だ。待っていろよ……!
イザークは顔を歪ませると自分に言い聞かせる。
ブリッツは隠蔽機構"ミラージュコロイド"を展開させ、月の地表伝いに移動し、敵基地内の味方の攻撃の薄い場所を移動していた。
このように隠れて戦うのは、イザークの性に合わなかった。しかし、これも作戦であり、この機体に自ら志願して乗っているのだから、仕方ない。
勿論、味方の攻撃を喰らい、笑い者になるつもりは毛頭無い。それも、あと数分で終わる。
やがて、港口が見えてきた。侵入をさせない為にか、隔壁は全開にはなっておらず、僅かに戦艦が一、二隻程が出られる位にしか開いてなかった。
そこから、メビウスが出て来るのは、中にモビルアーマーを搭載していた空母なり、戦艦がまだ待機しているからであろう。
「――フッ!ナチュラルどもが、俺がここに居るとも知らずにな――!」
イザークはブリッツのPS装甲を展開させ、ミラージュコロイドを解除し、近くにあった砲台を五十ミリ高エネルギーレーザーライフルで次々と破壊して行く。
そうしていると、一部の砲台がブリッツに対して攻撃をして来た。
「――動けもしないそんな物で俺を落とせると思うな!」
イザークは吐き捨てるとバーニアを噴かし、砲撃を避けながら次々に狙い撃つ。やがて、ブリッツの周りにあった砲台は全てが沈黙した。
視線を港口に向けるとザフト軍艦隊を攻撃する為か、戦艦の船首が港口から生えるように出て来るのを確認する。
数隻の戦艦が出ている以上、内部に突入した時に戦艦が残って居なければ、クルーゼの作戦に意味は無くなってしまう。
「――戦艦か!?出させるか!」
イザークは、ブリッツのバーニアを噴かし、港口から出きっていないドレイク級戦艦のブリッジの前へと飛び出した。
――ここで艦橋を叩き潰せば、座礁させる事が出来る!
「――沈めっ!」
ブリッツは、左腕に装備されたグレイプニールを発射し、その爪で戦艦のブリッジを貫いた。
グレイプニールを引き戻すと、ドレイク級戦艦はコントロールを失い、船体半ばを隔壁に引っ掛けるように座礁した。
イザークは、そのままブリッツを基地内へと向けバーニアを噴かす。
ドック内部は、ドレイク級戦艦が座礁した事で、後に続く艦艇が支えていた。それを無効化して行くように内部に移動しながらレーザーライフルで攻撃して行く。
「――こちらブリッツ!敵基地内に入った!」
イザークは通信回線を開き、怒鳴るように伝えると、そのまま内部へと向かう。
プトレマイオス基地内部に突入したブリッツを追うように、拠点攻撃用重爆撃装備を施したD装備のジンが次々と突入して行った。
アークエンジェルは戦闘宙域に差し掛かり、ブリッジは緊迫した雰囲気になっていた。これが味方である地球軍の戦況が分かっていれば、また違うのかもしれない。
CICの席に座り、トノムラが必死に通信をしているのだが、戦闘の為か電波状況が悪く、なかなか地球軍旗艦を確認出来ないでいた。
「――メビウス・ゼロ、発進どうぞ!」
ここまで来れば、何時攻撃されてもおかしくはない。
ミリアリアの声がムウに発進許可を伝えると、カタパルトからメビウス・ゼロが宇宙空間に飛び出して行った。
メビウス・ゼロは旋回して戻ってくると、ぴたりとアークエンジェルの横を並ぶように飛行する。
マリューはメビウス・ゼロに視線を向けると、丁度その時、トノムラが声を上げる。
「――地球軍第八艦隊のようです!」
「――第八艦隊!こちらからも呼びかけて!」
マリューは、すぐに指示を出すと、味方の艦隊が第八艦隊であった事で、更に安心したのか、ほっとした表情を見せた。
ナタルも報告を聞き、表情を緩める。
「艦長、やりましたね」
「ええ、一先ずはね」
マリューは頷くと前方を見据えながら、一度だけ大きく息を吐いた。
そうしていると、再びトノムラが声を上げる。
「――繋がりました!」
「こっちに回して!」
「――どうぞ!」
「こちら地球連合軍大西洋連邦所属艦アークエンジェル!マリュー・ラミアス大尉です!ハルバートン提督を――」
マリューは受話器を手に取ると、必死に呼びかけを始めた。
すると、すぐに返答があり、モニターにノイズ混じりだが、ハルバートンの姿が映る。
「――アークエンジェルか!ヘリオポリス崩壊の知らせを受けた時は、もう駄目かと思ったぞ。良く生きていた!」
「――ありがとうございます!お久しぶりです、閣下!」
マリューは腰を上げ、そのまま敬礼をする。
ハルバートンもアークエンジェルが無事だった事に安堵したのか、嬉しそうな表情を見せた。
「うむ。だが、今は戦闘中だ。悠長に挨拶をしている時ではない。ザフト軍の中にX-ナンバーが二機、混じっている。どう言う事か説明をしてくれ」
「――は!我々はヘリオポリスでザフト軍に襲撃を受け、四機のX-ナンバーを奪取され、その時、艦長以下、多数の戦死者が出ました。しかし、一機は無事に収容してあります。それからですが……」
「……そうか、分かった……もういい。良くここまで艦と残りのGを守ってくれた」
「……申し訳ありません」
マリューは、ハルバートンの労いの言葉を受け、逆に四機のGATシリーズを守れなかった事に肩を落としながら謝罪の言葉を口にした。
しかし、その姿を見たハルバートンは、状況が状況だっただけに仕方が無いと言った感じで口を開く。
「何を謝る?確かに残ったのがG一機と言うのは心許ないが、君達はここまでアークエンジェルと、その残りの一機を守ってきたのだろう?」
「しかし……」
「――敵モビルスーツ、こちらに向かってきます!機数、七!距離六〇〇――!」
マリューが口を開くと同時に、チャンドラ二世が敵機の報告の声を上げた。
すぐにマリューは、言葉を飲み、ナタルに指示を出す。
「――!迎撃用意!ナタル、少しの間、任せるわよ!」
「――は!各ミサイル発射管、全門開け!バリアント両舷起動!アンチビーム爆雷、発射用意!――ゴットフリートは使えるか?」
ナタルは頷くと戦闘準備の声を上げ、ノイマンに声を掛けた。
ノイマンは顔をナタルに向けると真剣な表情で答える。
「――この状況では、あまり使って欲しくないです!」
「ストライクはまだか?」
「――はい!もう少し掛かるようです!」
ノイマンの言葉にナタルは頷き、すぐにミリアリアに確認を取ると、ミリアリアは頷いて、ストライクの出撃に時間が掛かる事を報告した。
ナタルは、すぐに通信回線を開くとアムロに繋いだ。
「――アムロ大尉!ゴットフリートを多用出来ません。申し訳ありませんが、お願いします。あと、ストライクの出撃にもう少々掛かるようです」
「――了解した。状況報告はこっちにも流してくれ」
「了解しました」
アムロの声が、ナタルの耳び響くと頷いた。
その間にもマリューは、ハルバートンから指示を受けていた。
「我々は、今、アークエンジェルとGを失う訳にはいかん。頼んだぞ」
「――は!了解しました!」
マリューは敬礼をすると通信回線は切れ、モニターからハルバートンの姿が消える。
艦長席に腰を下ろすと、マリューはノイマンに指示を出す。
「ノイマン曹長、指示のあったポイントに向かって!補給を受けるわ。敵モビルスーツを何としても振り切って」
「――了解!」
アークエンジェルは地球軍第八艦隊旗艦メネラオスの後方に控える補給艦と合流すべく、進路を変更する。
しかし、確実に敵のモビルスーツが接近しつつあった。
イージスは、第一次攻撃隊の生き残りのモビルスーツと共に敵戦艦の攻撃に回っていた。
第一次攻撃隊と言っても、生き残ったのは片手で数えられる程で、実質、一次、二次の混成部隊となっている。
アスランは、アークエンジェルが現れた事で、戦闘管制担当のオペレーターに自分を向かわせるように要請したが却下され、今に至っていた。
「あの艦が現れたんだ……キラが来ていると言うのに……!」
悔しそうに言葉を吐きながらもアスランは、イージスをコントロールし続ける。
そうしなければ、いつ撃ち落されてもおかしくはなかった。
「――くっ!」
イージスは敵艦からの飛来するミサイルを避けると、機体を翻し、近付くメビウスを撃ち落とした。
アスランは、母親がユニウス・セブンで核攻撃で殺されて以来、これ程、地球軍を憎いとは思った日は無いかもしれない。
地球軍が無ければ、母は死ぬ事は無かったし、きっと自分やキラもモビルスーツなんかに乗る事は無かったかもしれない。そして、ラクスやフレイだって平和に暮らして居たに違いない。
「お前達が居なければ――!」
アスランは叫ぶと、地球軍ドレイク級戦艦のブリッジの目の前まで距離を一気に詰め、イージスの左腕を振り抜いた。
ブリッジの正面をイージスの腕が突き破る。
アスランは、イージスの腕を引き抜く為に、船体を蹴ると腕が抜けると同時に、ブリッジの中に充満していた酸素と、まだ生きているであろう地球軍兵士の体が、イージスの開けた穴から、一気に流れ出て来た。
そして、宇宙空間に放り出された地球軍兵士が死ぬ瞬間を目の当たりにした。
何度も戦いで人を殺しているのに、何故だかアスランは自らの行為に恐怖した。体を震わせ、何度も顔を横に振る。
「――っ!俺は――、俺は――!」
――こんな事をしたいんじゃない!
と、自らの八つ当たりに対して、言い訳染みた言葉を出そうと声を荒げるが、自らの行為に言葉が続かず、「くそっ!」自分に対して吐き捨てた。
地球軍兵士の亡骸がイージスにぶつかり、そのまま流れて行く。
――これはみんなを守る為の戦争なんだ……これが戦争なんだ……仕方がないんだ……。
アスランは、自らを納得させるように言い聞かせながらも、更に体の震えが酷くなった気がした。
補給を受ける為に、逃げるアークエンジェルを追って来たザフト軍モビルスーツを退ける為に、メビウス・ゼロに乗る、ムウ一人が奮闘していた。
ストライクは未だ出撃出来ず、援護は、アークエンジェルの砲台代わりになっているνガンダムの狙撃と、アークエンジェルからのミサイル攻撃のみ。
しかし、既に、アムロの狙撃でジンを一機撃墜していた。
「――ちっ!援護があっても一人で六機は辛いぜ!しかも、内一機はデュエルかよ!」
ムウは機体を逸らすと、ジンからの攻撃が横を通り抜けて行った。口からは、吐き捨てるような愚痴が零れた。
アークエンジェルから援護のミサイルが飛んで来た事で、敵機は回避行動に入る。
ムウは、それを狙い済ましたように、一機のジンに対してガンバレルを展開させた。
「――甘いんだよ!」
ガンバレルからの集中砲火がジン右腕を吹き飛ばすと、畳み掛けるようにリニアレールガンを発射すると、ジンのボディに直撃し爆発した。
ムウは、ガンバレルを戻すと、全力で回避運動に入るが、メビウス・ゼロを追うようにジンが迫って来た。
「――ヤバイか!?」
「――そこ!」
νガンダムからの狙撃が、メビウス・ゼロを攻撃しようとしていたジン見事に捕らえ、一瞬にしてジンは溶けて行った。
ムウは肝を冷やしながらも回避運動を続け、確認するように声を上げた。
「――アムロか!?」
「大丈夫だな?」
「ああ!まだ追っかけっこの最中だが、残り四機に減ったぜ。援護頼む!」
「分かっている!こちらの攻撃に当たるな」
「――了解!――そこ!落ちろよ!」
ムウは前にジンを捕らえるとトリガーを引き、リニアガンを連射した。
一発がジンの頭部に当たると、一瞬、動きが止まる。そこをすかさず、リニアガンでコックピットを直撃させる。
「――おっしゃ!アムロ、キラはまだか?」
「出撃体勢に入った!」
アムロの声を聞くと、攻撃を回避しながら後方を確認する。マークするようにデュエルが付いて来ていた。
「早くしてくれ!ゼロじゃ相手に出来ないのがいるんだ!」
メビウス・ゼロではGATシリーズの機体を相手にするのは、あまりにも分が悪すぎる。
ムウは苦々しい表情を浮かべると、スロットルを全開にして回避運動に入った。
地球連合軍プトレマイオス基地司令部では続々と報告の声が上げられていた。見るからに状況は芳しくない。
突如、姿を現したブリッツの攻撃とドックへの侵入で、最悪の状況も想定しなければならない程だった。
「――艦座礁!港口隔壁、閉まりません!敵モビルスーツ、多数、基地内に侵入!」
「――くっ!どこに隠れていたと言うのだ!」
司令官が鬼気迫る表情でモニターを見つめながら言葉を吐く。
座っていたオペレーターが司令官へ顔を向けると、困惑気味の表情で報告を始める。
「……侵入した新型機種特定しました……。地球連合軍……GAT-X二〇七 ブリッツです」
「――な、なんだと……!?」
司令官は愕然とした表情になった。
GATシリーズは地球連合軍の切り札となるはずの機体だった。それがこうして、プトレマイオス基地を攻撃しているのだから、無理もない。
そこへ、再び、追い討ちを掛けるように別のオペレーターが報告の声を上げる。
「――基地上空の敵新型機、GAT-X一〇三 バスターです!」
「……ハルバートンの計画が仇となったか!とにかく、ここをやらせる訳にはいかん!打ち落とせ!最深部、工場区、火薬庫に繋がる隔壁は全て閉鎖しろ!」
報告を聞くと、その険しさが更に険しい表情へと変わって行くと、オペレーターが凍りついたように見つめていた。
司令官は、すぐに大声で指示を出すとオペレーター達が再び動き出した。
「第八艦隊はどうしている?」
「現在、地球衛星軌道上で交戦中のようです」
「――ちっ!地球の馬鹿どもが、ザフトの幼稚な作戦に掛かりおって!その皺寄せがこれかっ!第八艦隊にこの事を知らせてやれ!癪だが、月の各基地に支援要請だ!」
司令官の隣に立つ副官が第八艦隊の状況を答えると、腹立たしさを隠さないまま、新たな指示を出した。
その間にも、続々と報告が上がり、そしてオペレーター達によって処理されて行く。
「――ドック第二層隔壁閉まりません!敵モビルスーツ、ドック第三層侵入!」
「――ちっ!……このままでは、ユーラシアの連中を増長させる材料にもなりかねん……」
新たな報告に、司令官は舌打ちをすると、誰にも聞こえない程の声で呟いた。
決断を下さなければ壊滅の危険性も有る。司令官は最終手段として、完全な守りに入る事を決定した。
「下ろせる隔壁は全て下ろせ!対核用の隔壁もだ!場合に因ってはドックは破棄してもかまわん!」
司令官の声がフロアに響き渡ると、オペレーター達が動揺したような表情を見せる。
プトレマイオス基地は、元々、大西洋連邦の宇宙での要となる基地で、ドック、火薬庫、工場区、司令部などは核攻撃などにも耐えうるだけ強固な造りをしている。
対核用の隔壁は通常の三倍近い厚みを持ち、特殊合金製を使用している為、早々突破は無理な代物なのだ。
「――!し、しかし、それではドック内に残された味方が!」
副官がオペレーター達の動揺を代弁するかのように声を上げた。
それを睨みつけるように司令官は口を開く。その顔は鬼のような形相だった。
「隔壁を下ろさずに基地内で艦船を爆発してみろ!この基地とて、唯では済まん!犠牲は已む得ん!」
「――りょ、了解しました!」
司令官の言葉を聞き、副官は顔を青ざめさせた。
何があっても、このプトレマイオス基地を落とされる訳にはいかない。それは、地球連合宇宙軍内での覇権争いで大西洋連邦の敗北を意味する。
敵はコーディネイターばかりではないのだ。
キラの目の前には宇宙空間が広がっていた。その先には光が瞬き、そして消えて行くのを繰り返している。
既に、アムロもムウも出撃し、アークエンジェルの外でザフト軍との戦闘に突入していた。
キラは予想以上に掛かったプログラム調整を焦りながらも終わらし、ようやくカタパルトデッキにストライクを進めた処だった。
背中にストライカーパックが装備されると、暗いストライクのコックピットにミリアリアの声が響く。
「――ストライク、どうぞ!」
「――キラ・ヤマト、ストライク行きます!」
キラの声と共に、ストライクはアークエンジェルを飛び出して行く。そのままバーニア噴かし、アムロのνガンダムへと通信回線を開く。
「アムロさん、アークエンジェルをお願いします!」
「分かっている!キラこそ援護の砲撃に当たるなよ!」
「はい!」
アムロの声を聞くと、アークエンジェルから五〇メートル程離れてアグニを構えるνガンダムを確認する。
キラはバーニアを噴かし、ムウの援護へと急ぐ。
戦闘はアークエンジェルから、それ程離れていな宙域で行われていた。すぐにコンソールの画面で敵機の数を確認する。数は四機。
ムウに通信回線を開くと同時にPS装甲を展開させ、一番近くに居たジンへと攻撃を仕掛ける。
「ムウさん、遅れました!援護に入ります!」
「ようやく来たか!とっとと倒して補給を受けようぜ!」
「はい!」
ジンもストライクに気付いたのか、メビウス・ゼロからストライクへ攻撃対象を変え、ライフルで反撃して来た。
キラは、ジンをイーゲルシュテルンで距離を取りながら出方を窺う。しかし、ジンは一気に距離を詰めて来た。
「――今だ!当たれ!」
キラは、すかさずストライクの右肩に装備されたガンランチャーに装備された一二〇ミリ対艦バルカン砲のトリガーを引いた。
しかし、ジンは易々と攻撃を避け、反撃へと転じる。
「――外れた!?狙いが甘かった!?――くっ!――機体が重い!?」
キラは、エールパックにガンランチャーを装備している為か、機動性が落ちているように感じた。
ジンの攻撃を何とか回避すると、再び距離を取る。キラは、アムロに教えてもらった事を反復するかのように回避行動を取りつつ、距離を詰め始めた。
最初の攻撃が失敗したのは、マニュアルに切り替えるタイミングがうまく行かなかなかったのが原因だった。
「――今度こそ!」
マーカーがジンを捕らえると、キラはタイミングを見極めながら砲撃をマニュアルに切り替え、操縦桿を細かく動かす。そして、トリガーを引いた。
バルカン砲が再び火を噴き、ジンの左肩からボディの上部を削って行く。頭部が吹き飛ぶと同時にジンは爆発を起こした。
「やった!次は!?――ムウさん!?」
キラは、すぐに機体を旋回させるとメビウス・ゼロの位置を確認して、バーニアを噴かした。
メビウス・ゼロはデュエルとドックファイトを繰り広げていた。追加装甲アサルトシュラウドのを装備したデュエルのスピードは予想以上に素早い。
ムウはレールガンを叩き込んだが、PS装甲の上に更に装甲がされている為、完全なお手上げ状態だった。
「――糞!やっぱゼロじゃ、こいつは辛いぜ!」
「その機体は僕が相手をします!もう一機をお願いします!」
「すまん!こいつは頼んだ!」
キラからの回線にムウは答えると、機体を大きく逸らしてデュエルの攻撃をかわす。
そこへ、狙ったようにアムロの援護の攻撃が入ると、デュエルはメビウス・ゼロを追うのを止め、今度はストライクへと向かって行った。
キラは、デュエルが接近するのを確認すると、一度、牽制でバルカン砲を放ち、ビームライフルを構えながら回避行動に入る。
「――追加装甲を装備しているからって!」
何故だか知らないが、デュエルは追いかては来るが攻撃はして来ない。
キラは、ストライクをデュエルの下へと回り込ませると、デュエルの動きを封じ込める為に、三二〇ミリガンランチャーのトリガーを引いた――。
「――えっ!?」
発射されるはずのガンランチャーが発射されず、再度、トリガーを引くが、やはり、ガンランチャーは発射されなかった。
「――プログラムミス!?――まずい!」
キラは目の前に迫るデュエルを回避しようとするが、デュエルはストライクを捕まえようと手を伸ばした。
デュエルがストライクを捕らえたのか、揺れがキラを襲う。
「――うわっ!」
「――攻撃をやめてください!キラ……キラ・ヤマトさんですよね?」
突然、聞こえて来た声にキラは驚き、どうして自分の名前を知っているのかと戸惑った。
モニターにはデュエルの腹部が映っていた。
「――え!?……君は?君は誰?」
「僕は、ニコル・アマルフィと言います。アスランの友達です」
「――アスランの!?」
「……はい。それからフレイ……フレイ・アルスターも友達です」
久々にフレイの名を聞き、更に驚きが増す。
アークエンジェルでの多忙な日々で、頭がフレイの事まで回らなかったが、好きな女性なのだから、忘れる筈も無い。
「――フレイ!?どうしてフレイ・アルスターを知ってるの!?」
「アスランがへリオポリスで助けて仲良くなりました。今はプラントに居ます」
「アスランが!?フレイは無事なの?」
「はい。元気にしてますよ」
ニコルの話を聞いたキラは、アスランがフレイ助けた事を、自分が知っている昔の彼らしく優しい行動だと思った。そして、同時にフレイが無事だった事に安堵する。
しかし、それだけの理由で敵であるニコルが、声を掛けるはずなどありえない。
「そう……良かった……。それで、僕に何の用?」
「アスランもこの宙域にいます。アスランは、あなたとは戦いたくないんです。あなたが居れば、戦わなければいけなくなる……。だから、戦うのを止めてください!お願いします!」
ニコルは、思い詰めるような感じでキラに自分の願いを話した。
キラは、その話を聞き、アスランの為に一生懸命になれるニコルも優しい人間なんだと感じる。
しかし、ニコルの願いを聞くと言う事は、一度決めた自分の覚悟を捻じ曲げる事になる。それは、友達やアークエンジェルの人達を裏切る事だった。そして、ニコルが言っていたフレイの事が引っ掛かり始める。
「……僕だって、アスランと戦いたくないよ!でも、みんなを傷つけて、僕達の帰る場所を壊したのは君達じゃないか!――もしかして、フレイはその為の人質なの!?」
「――違います!フレイとは本当に友達なんです!人質なんかに取りません!信じてください!」
「……信じていいんだね?……嘘なら許さないから!」
ニコルは取引に為に、フレイの事を話したのではないと必死に弁明しようとする。
キラも、ニコルの必死さを感じ取ったのか、頷くと、釘を刺すように言葉を付け足した。
キラの言葉に答えるように、ニコルは口を開くと、自分の想いをぶつける。
「――はい、嘘じゃないです!……へリオポリスの事は、確かに僕達に非はあります。だけど、あなたとアスランは友達なのに戦うなんて、おかしいですよ!それに、あなたはコーディネイターなんでしょう?」
「――おかしい?僕とアスランが戦うのがおかしいの?ナチュラルだからコーディネイターだからなんて関係無い!僕は友達や大切な人達を守りたいから戦ってるんだ!」
「――!」
キラは、ニコルの言葉で火が着いたのか、捲くし立てるよに言うと、ニコルはショックを受けたように、一瞬、言葉を失った。
そして、しばしの無言の後、泣きそうな声でキラに怒りをぶつけるように言葉を吐く。
「……それじゃ、アスランは友達じゃないんですか!?アスランを傷つけるんですか!?」
「……今だって友達だって思いたいし、傷つけたくないよ!でも……アスランがアークエンジェルに居るみんなや友達を攻撃するなら、僕はアスランでも許さない!僕は、みんなを守る為に戦うって決めたんだ!」
「……そうですか……。どうしてもアスランの敵になると言うんですね!――それなら、僕はアスランの為に戦います!」
キラの言葉は、ニコルを絶望させる。
ニコルは憎しみが分かる程、力のこもった言葉を吐き、ストライクを睨みつける。
キラと言う人間は、ニコルにとって、本当の意味で敵になった。
そのような状況の中、νガンダムはアグニの砲身はデュエルに向けられているが、ストライクが密着している為、撃つに撃てないでいた。
ストライクとデュエルが絡まったまま動かない事に、アムロが声を上げる。
「ムウ、キラが止まっているぞ!何があった!?」
「キラの馬鹿野郎!なに止まってんだよ!アムロ、ジンは頼んだ!」
「分かった!キラを頼む!」
「了解!」
残り一機のジンに軽微なダメージを与えた処で、ムウがストライクを確認すると、旋回してストライクへと向かった。
勿論、ムウが相手をしていたジンは急旋回をすると、メビウス・ゼロを追い始める。
アムロはその間に、アグニの狙いをデュエルからジンへと変え、狙いを定める。
「――当たれ!」
アムロはトリガーを引くと、アグニから光の束が走り出し、メビウス・ゼロを追うジンの側面にビームを直撃させる。
ジンはビームに飲み込まれ、溶けると同時に爆発を起こした。
密着した状態のストライクとデュエルは睨み合ったまま、動かない。
キラもニコルも互いがどの様に動くのか分からない為、動くに動けないでいたが、その均衡をニコルが崩す。
デュエルは、ストライクを抱えるようにしていた左腕を解くと持っていたシールドで突き飛ばし、右手に持ったライフルを捨て、ビームサーベルを握った。
「――覚悟してください!あなたをアスランには近付けさせません!」
「やられる!?」
「――くっ!逃がしませんよ!」
キラは咄嗟に、バルカン砲のトリガーを引き、デュエルに向かって乱射をしながら回避行動はと入った。
デュエルはシールドで防ぎつつ、回避しながらもストライクに近付こうとしていた。
そこへ、メビウス・ゼロがデュエルの側面からストライクの援護に入る。
「――馬鹿野郎!何やってんだ!」
ムウは叫びながらガンバレルを展開させ、デュエルに向けて攻撃を放つ。
その攻撃は。デュエルに直撃し、コックピットのニコルは激しい揺れに襲われた。
「――うわ!?」
ムウは、すぐに回避運動に入り、ストライクの方へと向かう。
その隙に、ストライクはバーニアを噴かすと、一気にデュエルから距離を取った。
「ムウさん、済みません!」
「とっとと、体勢を整えろ!一度、後退するぞ!」
「――はい!」
キラが頷くと、メビウス・ゼロはストライクから離れ、アークエンジェルへと向かう。
ストライクも続こうとするが、デュエルがしつこく追いかけて来た。
そこへ、アムロの援護が入る。
「――!」
辛うじてデュエルは回避するが、続けて二射目が来る事を注意してか、回避運動に入るが、それでもストライクを追おうとした。
ストライクはバーニアを噴かすとデュエルを引き離し、アークエンジェルへと向かった。
その途中、前方に六機のメビウスを確認すると、その一機から通信が入った。
「――新型か!あれは俺達が抑える。お前は早く下がれ!」
「――はい!」
キラは、返事をすると更にペダルを踏み込む。
メビウス編隊とのすれ違いざまに再び通信が入った。先程の通信とは全く違う人物のようだ。
「おい、新型の!戦いが終わったら、酒の一杯も奢れよ!」
「――はい!みなさん、援護ありがとうございます!」
キラは少し可笑しそうに笑うと、援護に来てくれた彼らに感謝し、アークエンジェルへと帰艦する。
アークエンジェルは補給の為、地球軍第八艦隊旗艦メネラオスの後方に控える補給艦へと向かって行った。