もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


98 ◆TSElPlu4zM氏  『機動戦士ガンダムSEED bloom 』

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 アークエンジェルの甲板上でνガンダムはストライクと共に片膝を着き佇んでいた。その様な状態にあっても、νガンダムの持つアグニは常に戦場へと向けられ、いつでも発射は可能な状態であった。
 νガンダムのコックピットでアムロは目を瞑り、ハルバートンからの通信を待っていたが、やがて、モニターにアークエンジェルを介して、映像が送られて来た。
 モニターに映る地球連合軍の制服を着た男性が口を開くと、スピーカーから声が響く。

「――私が第八艦隊司令、デュエイン・ハルバートンだ。今までストライクとアークエンジェルを守ってくれた。礼を言う」
「いいえ。私は、たまたま通信を傍受し、結果的にそうなっただけの事です」
「だとしても、君が我が軍の最新兵器を守ってくれた事には変わりない。心から感謝する」
「恐縮です」

 ハルバートンからの礼に、アムロは慎重かつ丁寧に答えた。
 何と言っても、相手は艦隊を指揮する人間なのだ。ましてや、アムロは、ここでは何の身分を証明する事が出来ない。
 ハルバートンの機嫌を損ねぬ様に、話を続けるのが得策と判断する。

「それでだが、君の名前は?」
「名乗るのが遅れまして申し訳ありません。アムロ・レイと言います」
「いや、構わん。そのストライクに似た機体の形状からして、君はモルゲンレーテの者なのだろう?ヘリオポリスがあの様な事になり、私としても甚だ遺憾である。
 地球連合軍を代表し、モルゲンレーテの開発協力に感謝の言葉と、オーブ国家に対し、ヘリオポリスでの被害に遭われた方々の速やかな回復と被災からの復興を祈念する」
「いえ、私は――」

 アムロはオーブの人間では無いのにも関わらず、その様な言葉を贈られた事に戸惑い、思わず言葉を詰まらせた。
 そして、ナタルの言った事を思い出す。
『――提督はνガンダムがモルゲンレーテの物だと思っておいでです』
 ハルバートンの話す姿を見る限り、アムロの事をオーブの人間だと勘違いをしているのは明らかだった。それなら、その勘違いに乗るのも手ではある。
 アムロはハルバートンに対して、慎重な面持ちで口を開く。

「……それは、私ではなく、国の方にお伝え頂けますでしょうか」
「うむ。そうさせてもらうつもりだ。今回の件では、君個人にも感謝している」
「いいえ。私としても、あの様な状況でアークエンジェルに乗せて頂き、感謝しています」
「いや、構わぬ。時に君は、ストライクに乗っているキラ・ヤマト君と同じコーディネイターなのかね?」

 ハルバートンの勘違いに乗る事にしたアムロは丁寧に受け答えをしつつも、ハルバートンからの問いに、この世界のナチュラルとコーディネイターと言う対立がここまで激しい物なのだと実感した。


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 アムロは、一瞬、ストライクに目を向けると考える。
 ――モルゲンレーテは、ナチュラル用にストライクを造ったはずだ。それなら、νガンダムがナチュラル用だと思っていても可笑しくはないか……。
 アムロは、再びハルバートンの映るモニターへと顔を向ける。

「……私は――。……ナチュラルですが……」
「――そうか!モルゲンレーテは良い物を造ってくれた!これで我々はプラントに対して、兵器的にも対抗出来ると言う物だ。君達の尽力に心から感謝する!」
「……ありがとうございます」

 アムロの言葉を聞いたハルバートンの喜びようは、真面目な表情をしながらも興奮を見て取れる程、異様とも言えた。
 それ程、ナチュラルがモビルスーツを動かせると言う事実は、この世界では重要な事だった。
 ハルバートンの姿を見たアムロは「それ程の事なのか」と、戸惑いを憶えつつも一応として礼で答えた。
 すると、ハルバートンは表情を硬くすると口を開く。

「それでだが、アークエンジェルは地球に降りる事となる」
「……地球に!?」
「そうだ。そこでだが、引き続きアークエンジェルの警護をお願いしたい。ちなみに君は軍籍を持っているのかね?」

 ハルバートンの申し出はアムロに取って、都合の良い物で、受けるつもりではいたが、軍籍の事まで問われるとは思わなかった。
 この世界では通用こそしないが、地球連邦軍の軍籍を持っているのも事実で、軍証も持っている。

「ええ。まあ、一応……ですが……」

 地球連合に入る事は今でなくとも可能だと考えたアムロは、今は下手に拘束を受けるよりも、今後の選択肢を増やす為の選択を選んだ。
 アムロの返事を聞いたハルバートンは、残念そうな表情を浮かべた。

「そうか……。勿論、君がオーブの軍人である以上、強制は出来ん。君自身が決める事だが、どうかね?私としても、恩を仇で返すつもりは無い。勿論、都合が悪ければ離艦は認めるつもりだ」
「……ありがとうございます。私はアークエンジェルと共に地球に降りようと思っています。その間は今まで同様に協力させていただきます」
「――そうか!それはありがたい!これを機にオーブと協力関係を結べれば、我々としては有り難いのだがな」
「それは、一個人では何とも言えません。私としては先程言った通り、船を下りるまでは協力させていただいきます。そこでお願いがあります。
 現在、アークエンジェルでの立場なのですが、私は地球軍大尉と言う事になっています。一時的な措置とは言え、それをお認め頂きたい」


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 アムロは、アークエンジェルの警護の見返りに条件を出した。それは、この先、もしも地球連合に所属する事になった場合、少しでも実績が有れば良い条件で入隊する事が出来る。
 それ以外にも、ハルバートンにはオーブの軍人と思われてはいるが、それは嘘でしかなく、この世界での自分の身分を証明する物が無い。それを作るチャンスでもあった。
 ハルバートンは、一瞬、考え込む様な素振りを見せ、アムロを見据える。

「……ほう。その理由は?」
「……ラミアス、フラガ両大尉と話し合い、その様な事となりました。……乗組員は私の事を地球軍の人間だと思っています。
 事が事だけに、私の正体がばれますと、この様な戦局では艦内の士気にも影響すると思われます。それを防ぐ為にも、出来れば艦内で私の身分を証明する物を頂きたいのですが……」

 言った以上、アムロも引き下がる訳にはいかない。これ程のチャンスは無い。口から出任せではあるが、冷静に理由を口にした。
 それを聞いたハルバートンは、モニターから目線を外し、腕組みをすると少し考え込んだ。

「……なるほどな。……分かった、認めよう。少年達の物も作らねばならぬからな。特別措置として、君が我が軍の者であると言う証明出来る物を、至急、作らせるようにラミアス大尉に伝えておく。
 私としては、そのまま地球軍に籍を置いて欲しいくらいだがな。どうかな?」

 ハルバートンは頷くと、目線をモニターに戻してアムロの出した要求を飲む事を了承した。
 アムロは、その言葉に安心した表情を浮かべ、ハルバートンに向かって頭を下げる。

「ありがとうございます。軍籍の事は考えさせていただきます」
「――はっはは!そうか!それでは引き続きアークエンジェルを頼んだぞ、アムロ・レイ大尉!」
「――了解しました」

 返答を聞いたハルバートンは、社交辞令的な言葉と分かっていながらも嬉しそうに笑い、仮初めではあるが、地球連合軍の階級でアムロの名を口にした。
 アムロは頷き、ハルバートンに向かって敬礼をした後にモニターを切った。

「……慣れない事をすると疲れるな……。とにかく上手く行ったと言う事だな」
 
 アムロは、シートに体重を預けると大きく息を吐いた。そして、ヘルメットを被り直す。
 身分を証明する物が手に入るとは言え、まだ戦場に居るのだ。アークエンジェルが沈んでしまっては何の意味も無くってしまう。
 ヘルメットのバイザーを下ろすと、閃光が瞬く場所へと目を向けた。


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 地球軍プトレマイオス基地ドック内では、戦艦の爆破作業に入っていたザフト軍モビルスーツ達が、戦艦の残った砲塔から攻撃を受ける事態が起こっていた。
 勿論、それ以外にもバズーカなどの兵器を使う地球軍将兵からの攻撃を受けている。

 一機のジンが、戦艦からの攻撃を巧みに避けながら砲塔へと距離を詰める。

「――ナチュラルが――!」

 ジンのパイロットは叫ぶと、一気に砲塔へと降り立ち、サーベルを突き立てた。
 砲塔は小爆発を起こすと沈黙する。
 そこに、ブリッツに乗るイザークからの通信が入る。

「そっちは済んだか?」
「――ああ。これでデカイ攻撃は来ないはずだ」
「残りの作業はどうなっている?」

 砲塔を潰したジンのパイロットが辺りを確認しながら返事をすると、スピーカーから再び、イザークの声が響く。
 恐らく、爆破作業を行っている他の機体に作業の進行状況を聞いているのだろう。

「――現在、進行中!間もなく終了する!」
「早く済ませろ!」

 スピーカーから爆破作業を行っているパイロットの声が響くと、イザークの怒鳴り声が再び響く。
 赤服と呼ばれるエリート達は、年齢が下であろうが立場は上だった。多くの中から選ばれた一握りの人間なのだから、当たり前なのだ。
 勿論、全ての赤服がそうではないが、それでも、ブリッツのパイロットの物の言い方は、どうにか成らない物かと感じる。
 同じ隊の者には悪いが、つくづく、ブリッツに乗るパイロットと同じ隊に所属していなくて良かったと彼は思った。
 気を取り直すと、湧いて出て来る地球軍兵士をどうするか考える。奴らは、バズーカやらを抱えて出て来るのだ。流石にモビルスーツと言えど、生身の人間相手に重装備の機体では対処はしにくい。
 彼は作戦の都合上、爆薬の誘爆を避けなければならず、今は地球軍兵士をミサイルやビームの大型火器で吹き飛ばす訳にもいかない。かと言って、このまま何もしない訳にも行かないのだ。
 その事で頭を悩ませながらも、彼は攻撃して来る地球軍兵士の対処を始めるのだった。


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 眼前に地球軍プトレマイオス基地を見ながら、自軍のモビルスーツと敵であるモビルアーマーの戦闘が行われている。光が瞬いては、爆発が起こり、また一つの命が散って行く。
 ザフト軍の攻撃は、ブリッツの基地内部への突入を皮切りに、一部予想外の事があったとは言え、予想よりも順調と言える。
 作戦の指揮を執るクルーゼは、プトレマイオス基地攻撃艦隊の旗艦であるヴェサリウスのブリッジで戦況を静かに見守って居た。
 その中、プトレマイオス基地の外で戦うディアッカから通信が入る。

「――ヴェサリウス、状況を教えてくれ!中に突入したイザークはどうしてる!?」
「――現在確認中だ!気にせず、ディアッカは予定通りに敵を倒せ!」
「――ちっ!分かったよ!」

 通信を受けた男性のオペレーターは、プトレマイオス基地に突入した部隊の確認作業に追われている為か、余分な作業を増やすなとばかりにディアッカをあしらう。
 それを耳にしたディアッカは、舌打ちをすると怒鳴って通信を切った。
 クルーゼは、オペレーターの口からディアッカの名が出た為、何事かと声を掛ける。

「ん?バスターがどうしたのか?」
「あ、いえ。ブリッツはどうしたのかと通信が入りまして……」
「そうか。ならば、私に回線をまわせ」
「了解しました」

 指示に頷いたオペレーターは、回線をクルーゼへと回すと、再び確認作業へと入った。
 クルーゼは椅子の肘掛の所にあるパネルのスイッチを押すと、バスターへの回線が開く。
 するとディアッカは、先程のオペレーターからの通信だと思ったのか、怒鳴り声が響いた。 

「――言われた通り、やってんのに何だよ!?」
「ディアッカ、そう、カリカリするな」
「――隊長!?済みません!」
「フフッ……。構わんよ。イザークなら、今頃、中で指揮を執ってるはずだ。それは知っているだろう。少しは信じてやれ」
「……分かりましたよ。了解!」

 クルーゼからの通信だと思わず、怒鳴り声を上げたディアッカは、恐縮する様に謝罪の言葉を口にするが、その様子を察してか、クルーゼは鼻で軽く笑い、人の上に立つ者らしい言葉をディアッカに掛けた。
 声を掛けられたディアッカは、クルーゼのらしくない言葉に毒気を抜かれたのか、答えると直ぐに通信を切る。
 それを皮肉るかの様に、クルーゼは再び軽く鼻で笑う。

「――フッ。人とは面白い物だな」
「――は?」
「いや、なんでもない。中の状況は、どうなっている?」


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 クルーゼの言葉を聞いたアデスが不思議そうに聞き返したが、当のクルーゼは軽い苦笑を浮かべ、オペレーターに基地内部の報告を求めた。
 すると、突入部隊の確認作業をしたいた男性オペレーターが、一瞬、クルーゼに顔を向けると、再びモニターへと目線を向け、淡々と報告を始める。

「はい。……どうやら、基地中枢に繋がる隔壁を閉じられたようです。それから、突入した部隊の数機が反撃に遭い、撃墜されている様です」
「そうか」

 クルーゼは報告を受けると、納得した様に頷いた。
 アデスも同様らしいが、クルーゼよりも若干厳しい表情でモニターを見詰めながら口を開く。
 
「やはり敵基地だけあって、一筋縄では行きませんな」
「それは始めから分かっていた事だ。しかし、最低限の仕事をこなしさえすれば、ザラ委員長閣下の面目も立つと言う物だろう?」

 クルーゼは、マスクの下に冷笑を称えながらアデスに向かって答える。
 本当の真意など知らないアデスは、「本当にそれでいいのか?」と言わんばかりの表情でクルーゼに目を向ける。

「……まあ、それはそうですが、現状では隊長のお考えが遂行されませんが……」
「欲を掻いた所で、我々がやられてしまっては笑い者になるだけだからな。作戦の立案者でもある手前、最低限の仕事が出来ればかまわんよ。今の所、隔壁を下ろされた事意外は、巧く行っているのだからな」

 クルーゼは苦笑いを浮かべると、淡々と基地を見据えながら答えた。
 本来ならこの作戦は、アークエンジェルの帰艦するべき基地を破壊するのが目的だったにも関わらず、タイミング的にラクス・クラインの弔い合戦としての意味合いが強く成り過ぎた為でもあった。
 それは言わば、自ら提案した作戦がいつの間にか、パトリック・ザラの支持集めの為の報復攻撃へと変貌していたと言う事だった。
 クルーゼ自身、その可能性は十分に有りうる事だと提案時に納得はしていた。尻込みするクライン派が、地球軍基地に直接攻撃など、早々掛ける訳も無い。
 タイミングを上手く利用し、攻撃を仕掛けると匂わせたパトリックの面目を立たせるだけならば、攻撃した事実さえあれば、それでプラントの人達は十分納得する。
 それはクルーゼに取っても、失敗さえしなければ決してマイナスには成らない。だからこそ、この作戦を進めたのだ。
 自ら目指す物の為には、若干の予定を変える事も時には必要と成るのだ。


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 地球衛星軌道上での戦闘で、ザフト、地球、両軍の激突は続いていた。
 しかし、その戦いも両軍が徐々にだが引き始めた為か、会戦当初に比べれば激しさは納まりつつあった。
 互いの先鋒がぶつかり合う宙域でもそれは変わらないが、悩みを抱え、それが原因で動きを鈍らしていたアスランに取っては、攻撃が薄くなった分だけ幸運な事ではあった。
 そこに、支援の為に遣って来たデュエルから通信が入り、イージスのコックピットにニコルの声が響いた。

「――アスラン!無事ですか!?」
「――ああ!新型艦は!?」
「……逃がしてしまいました。それに……僕を残して全機……やられてしまいました」
「……そうか」

 ニコルは、アークエンジェルを逃してしまった事と、共に攻撃に参加したジンが全滅したのを悔しそうに告げるとアスランは複雑そうな表情を見せた。
 アスランは戦闘宙域外から現れたアークエンジェルに早々、護衛機が着くとは思えず、戦力がヘリオポリス当時と変わって無いのならば、脅威に成り得る機体はGATシリーズに似た機体のみだったと記憶していた。
 そのGATシリーズに似た機体にしても、確かにパイロットの腕は素晴らしい物だが、たった一機で組織的に戦う相手に戦艦を守りながら戦える物なのかと思う。
 それに、PS装甲を持たないモビルアーマー相手なら、アークエンジェルを簡単に取り逃がす事は無い。あの大きなアークエンジェルを守るには、それなりに数が必要と言う考えに至った。
 ――ニコルや他のパイロットが新型艦を攻撃に行って取り逃がしたと言う事は、キラがモビルスーツで出て来たと言う事なのか……?
 アスランは頭の中で湧いて来た疑問を確かめる為に、ニコルへと問いかけた。

「……ニコル……お前、もしかしてキラと逢ったのか?」
「……」
「ニコル、どうなんだ!?答えろ!」
「……アスラン、必要以上の交戦は避けろと指示が出ています。もうすぐ、この戦闘も終わります。僕達も引きましょう」
「――ニコル!キラと逢ったのか教えてくれ!どうなんだ!?」

 アスランは、答えようとしないニコルに怒鳴るように問いただした。
 ニコルは、キラへの未練が断ち切れないアスランに怒りを覚えたのか、捲くし立てる様に怒鳴り声を上げる。


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「アスラン!いい加減、目を覚ましてください!あの人は敵なんですよ!味方が犠牲になっているんです!あなたが、いくら信じても駄目なんですよ!僕は聞いたんですから!」
「――ニコル!お前、一体――」
「――だから、キラさんに直接聞いたと言っているんです!あの人は、もう、あなたの友達なんかじゃ無いんです!諦めてください!」
「――!……そ、そんなの事……あのキラに限って……あるはずが――!」

 ニコルの口から出て来る言葉に、アスランは息を飲み、首を振りながら呻くように言葉が漏れる。
 アスランは、そのまま操縦桿を握り直すとイージスを敵の本体方向へと向け、敵の後方に控えるアークエンジェルへとバーニア噴かしていた。

「――アスラン!?」

 ニコルは、アスランの行動に驚き、声を上げるが、その声はアスランの耳には届いてはいなかった。
 アスランは呟きながら、敵先鋒艦隊の突破を計ろうとするが、メビウスが邪魔をする。

「……キラは……、キラは、そんな奴じゃないんだ!――ちっぃ!邪魔だ!」

 アスランはスロットルを全開に開き、メビウスを振り切ろうとするが、直線移動ならば圧倒的にモビルアーマーに分があった。メビウスはイージスの後方に取り付くと、イージスを追いかける。
 それを見たニコルは、すぐにスロットルを全開にし、メビウス同様にイージスを追った。
 そうしながらもデュエルは、イージスに攻撃を加えようとするメビウスに後方から狙いを着け、アサルトシュラウド右肩部装甲に搭載された一一五ミリレールガン"シヴァ" を数発、発射する。
 後方からの攻撃に、メビウスは呆気無い程簡単に爆発を起こすが、ニコルは撃墜よりもアスランの方が気になり、視線をすぐにイージスへと向けた。

「――アスラン、戻ってください!」

 ニコルは、小さく見えるイージスに向かって大声で叫ぶが、イージスは引き返して来る素振りなどは全く見えない。
 デュエルは、地球軍の攻撃を切り抜けながら、再びバーニアを噴かすとイージスの後を追い始めた。


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 地球衛星軌道上の戦闘が終盤に差し掛かった中、指揮を執るユウキはモニターを見詰めつつも、敵である地球軍の動きに気を配っていた。
 敵方も後退を始めている以上、作戦上、攻める理由は無い。
 自らの指揮が間違っていない事に安堵しながらも、必要以上の消耗に気を配っていた。

 その最中、一人のオペレーターの声が響き渡る。それはユウキにとって、思いがけない事であった。

「――イージス、敵先鋒突破!後方のアークエンジェルに向かって行きます!」
「――何だと!?命令は伝わっているのか!?」
「――あ、はい!確かに全機に伝えましたが――」

 ユウキは予想外の事に眉を顰め、副官を睨むが、その睨まれた副官は、強張った表情で答えた。
 副官の返答を聞いたユウキは苦い表情を浮かべ、モニターを睨みつける。

「――命令無視か!?どうしてイージスだけが向かう!?」
「――そ、それは、分かりません!」
「――くっ!アスラン・ザラ、功を焦ったか!?……嫌、原因はラクス・クラインか?婚約者であろうと、身勝手な復讐の為だけに部隊が全滅させられては話しにならん!今すぐ、呼び戻せ!」

 ユウキは苛立ちながらも、アスランの身勝手な行動に腸を煮え繰り返していた。
 両軍共、これまでに無いタイミングで引き始めた矢先の事だ。一つ間違えれば、殲滅戦に成りかねない。
 婚約者こ殺されたのだから、アスランの気持ちは分からないでも無いが、もしも、それで全滅と言う事になれば、代償は余りにも大き過ぎる。
 ユウキは額に汗を浮かべ、モニターを睨みつけていると、続けてオペレーターからの報告が届けられる。

「――続いてデュエルも突破しました!」
「――何だと!?モビルスーツを何機か向かわせろ!連れ戻せ!」
「――は!」

 寄りにも寄って、作戦を立案したクルーゼの部下が立て続けに命令違反を起こしている事は、余りにも皮肉にしか思えなかった。
 ユウキ自身、教官時代に命令違反を犯して良いとは、一度たりとも告げた覚えは無い。
 ましてや、アスランやニコルは、身勝手な行動を取る様な者達でも無い事をユウキ自身、良く分かっているつもりだった。
 背を丸めながら顔を覆う様に片手を当てると、ユウキは目の前の戦場を睨みつけた。

「……戻って来たら修正が必要だな」

 背を丸め、ぼそりと言葉を吐いたユウキの姿は、誰から見ても鬼気迫る物だった。
 そのユウキの姿を尻目に、地球衛星軌道上では誰もが望まない戦いが繰り広げられようとしていた。


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 地球軍側はハルバートンが後退を指示したのを皮切りに、徐々にだが損耗率が減っていた。それはザフト軍側の後退も有り、誰もがこの戦いの終局を予感していた。
 しかし、それを裏切るかの如く、地球連合軍第八艦隊旗艦メネラオスのブリッジにオペレーターの声が響く。

「――Xナンバー、接近!」
「――何だと!?……アークエンジェルを落とすつもりか!?ビームを使うんだ!落とせ!」

 オペレーターの報告を聞いたホフマンは、敵艦隊が引き始めたのを気に留めつつ、更にモビルスーツを進めて来る理由がアークエンジェルに有ると思い、直ぐに迎撃命令を出した。
 その直後、別のCICオペレーターがハルバートンに向かって、声を上げる。

「アークエンジェルより、リアルタイム回線!」
「……なんだ?」
「閣下。補給を中止し、本艦は艦隊を離脱、直ちに降下シークエンスに入りたいと思います。許可を!」

 突然の事態にハルバートンが顔を向けると、許可が有る前にマリューの声が、ブリッジに響き渡った。
 アークエンジェルとて、補給のみを受けていた訳では無い。広域レーダーを使い、逐一状況を察知していた。
 地球降下を目的とするアークエンジェルに取っては、この戦場に長く残るよりも、早々に降下を始める事の方が重要で有り、それを妨害される事の方が任務達成の邪魔になる。
 マリューの凛とした言葉を聞いたハルバートンは、驚いた様に声を上げる。

「なんだと!?」
「自分達だけ逃げ出そうという気か!?」
「機械系の物資は既に搬入済みですし、食料にしても、これ以上の補給は必要有りません。このまま補給を続けていたのでは、動けない本艦は恰好の的です!このままでは落とされてもおかしくはありません!」

 ホフマンが、ハルバートンに続く様にマリューに対して怒りの声を上げるが、そのマリューは真っ直ぐハルバートンとホフマンを見詰め、降下開始の指示を仰ぐ理由を口にした。
 それを聞いたホフマンは反論出来る余地が無いのか、息を詰まらせるかの様に言葉を出すことが出来ずに居た。

「アラスカは無理ですが、この位置なら、地球軍制空権内へ降りられます!突入限界点まで持ち堪えれば、敵モビルスーツは振り切る事も可能です!閣下!」

 マリューはホフマンからの異論が出ない事を確認すると、ハルバートンに対して理由を捲くし立てた。
 ハルバートンは、一瞬、眉を顰めるが納得したしたか、自らの教え子に向かって不敵に微笑む。
 
「ぬぅ……。マリュー・ラミアス。ふん!相変わらず無茶な奴だな」
「……部下は、上官に習うものですから……」
「いいだろう。アークエンジェルは直ちに降下準備に入れ。限界点までは、きっちり送ってやる。送り狼は一機も通さんぞ!」
「――はい!」

 マリューの言い分を聞き、ハルバートンは大きく頷くと、モニターに映るマリューは敬礼で返答をする。
 こうして地球降下準備に入ったアークエンジェルのブリッジは、一段と慌しく成り、補給が中止される事となった。


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 イザークを始めとする突入部隊は、プトレマイオス基地で地球軍兵士達の必死の抵抗を受ける中、ようやく敵戦艦の爆破作業が終わろうとしていた。
 その時、地球軍プトレマイオス基地内、ドック第二層で爆破作業を行ってた部隊から通信が入る。

「――第二隔壁が動き始めたぞ、急げ!こちらの作業は既に終了した。俺達は撤退を始める!」
「――隔壁が動いているだと!?」
「ああ。閉じる速度が遅いが、ゆっくりはしてられんぞ!」

 入ってくる通信にイザークは苦々しい表情を浮かべ、声を上げた。
 通信の相手は逼迫した状況なのを口にすると、イザークは大声で答え、ドック第三層に残る味方機に通信を開く。
 
「――分かった!先に脱出しろ!――隔壁が動き始めたぞ!役目の終わった機体は先に脱出しろ!設置はまだか!?」
「――これが最後だ!」

 爆薬の設置をしていたジンが、イザークの声に答える。その間にも、役目を終えたジンが脱出して行く。
 残るは指揮を執るイザークが乗るブリッツ、そして護衛機と設置作業をしていたジン二機、計三機のモビルスーツだった。
 隔壁が閉じ行く中、どの位の時間を待たなければいけなかったのかと、イザークは心が焦る。このまま閉じ込められれば、死んだも同然なのだ。一秒でも早く脱出しなければならない。
 そう思っていると、スピーカーから設置終了の声が響いた。
 
「――爆薬設置完了だ!脱出しろ!」
「――よし!脱出するぞ!」

 イザークは、大声で脱出を促し、バーニアを噴かそうとした。
 その時、護衛をしていたジンが背後から敵将兵の攻撃を受け、声を上げた。

「――うわっ!……まずい、バーニアをやられた!飛べない訳じゃないが、手を貸してくれ!」
「――何だと!?まだ反撃をして来ると言うのか!?貴様は手を貸してやれ!」
「――了解!」


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 イザークは、この土壇場で必死の抵抗を見せるナチュラルに脅威を感じながらも、爆薬の設置を終えたジンに指示を出した。
 爆破作業を済ませたジンは、バーニアをやられた護衛のジンに近づくと、手を差し出した。護衛のジンが、その手を掴むと残りのバーニアを噴かし、脱出の為に上昇を始めた。
 イザークはミスが無いこと確認するようにドック内を見渡し、脱出の為にバーニアを噴かした。
 その間にも地球軍兵士は、攻撃を仕掛けて来る。

「――フッ!ナチュラルどもが無駄な事を!」

 既に上昇を始めたブリッツのコックピットで、イザークは地球軍兵士の無駄な足掻きを嘲笑う。
 イザークはスロットルを一気に開き、全速力で脱出を開始した。
 そして第三隔壁を越えた頃、前方に先に脱出して行った二機のジンをモニターに捉えた。

「貴様ら、遅いぞ!」

 イザークは予想よりも二機のジンの速度が遅いことに声を上げると、無事なジンに引っ張り上げられている機体へとブリッツを併走させ、ブリッツの手をジンの腰の装甲へと差し込んだ。
 ブリッツは、ジンを押し上げる様にしながらバーニアを再び噴かすと、ジンのパイロットがイザークに声を掛ける。

「――す、済まない!」
「――黙ってろ!ペラペラ喋っていると舌を噛むぞ!」
「――あ、ああ」

 イザークは閉じ行く第二隔壁を確認すると怒鳴り声を上げる。ジンのパイロットは頷くと、言われた通りに口を噤んだ。
 隔壁は速度こそ遅いが、既にモビルスーツ三機分程の幅まで閉じかけていたが、動いているのは一組も隔壁のみで、三機を水平飛行させれば、一機分の隙間でも脱出は可能だった。
 しかし、隔壁までの距離とスピードを考えれば、隔壁を抜けるのはギリギリが良いとこだった。
 「……間に合うのか!?」と呟きながらイザークは、ひたすらバーニアを噴かし続ける。
 距離が近づくにつれ、その隔壁の口は閉じて二機分以下となって行く。

「――糞、間に合え――!」

 イザークは叫ぶと三機は水平に近い状態で、僅か一機分ギリギリの閉じ行く隔壁の間に機体を滑り込まそうとする。
 間に合わなければ、死が待っているのだ。当然、イザークは、ここで死ぬつもりは毛頭無かった。


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 アークエンジェルの格納庫では補給作業が中止され、カタパルトデッキに残されたコンテナをそのままにハッチが閉じられた。
 その所為でメビウス・ゼロは出撃する事が出来ず、更にムウを苛立たせていた。

「――総員、大気圏突入準備作業を開始せよ」

 格納庫、ゼロのコックピットに大気圏突入準備に入る事を知らせる声がスピーカーから流れた。
 艦内放送を耳にした格納庫に居る者達は、更に急かされる様に忙しく動き始めた。
 その中、ゼロのコックピットでムウが毒づく様に吐き捨てると、ブリッジで指揮を執るマリューへと回線を開く姿があった。

「降りるぅ?この状況でか!?――おい!これじゃ、発進出来ねえよ!Gが二機居るんだろ!?何とかしてくれ!」
「フラガ大尉、今からの出撃は無茶です!」
「でも、来てるんだろ!?」
「本艦は降下シークエンスに入るんです!むざむざ死にに行く様な物です! 無茶言わないでください!」

 怒鳴るムウにマリューは、気持ちは分かりながらも必死に説得じみた言葉を言い続けた。
 この状態でゼロを出撃させた所で、ほんの数分の戦闘でアークエンジェルに戻る事も出来なくなる可能性も有り、下手をすれば、重力に引かれて焼け死ぬ事に成りかねない。
 その事はムウ自身も良く分かってはいたが、外でキラとアムロがアークエンジェルを守っているのだ。あまりにも補給のタイミングが悪すぎた。
 少なくとも、カタパルトデッキのコンテナを退かすのにも時間は掛かる。それだけの時間があれば戦闘など終わってしまっている。

「――ちっ!分かったよ!」

 ムウは吐き捨てると回線を切り、怒りをぶつけるかの様にヘルメットを脱ぎ捨てた。
 そしてゼロのコックピットを開放すると身を乗り出し、コンテナを運ぶメカニックマン達に怒鳴りつける。

「――カタパルトデッキのコンテナ、邪魔だ!モビルスーツが入れねえだろ!味方を殺す気か!?」
「あ?……やれやれだぜ。――おい!お前ら、とっととコンテナ奥に突っ込め!これじゃ、モビルスーツが帰ってこれねえぞ!早くしろ!」

 ムウの言う事は最もで、カタパルトデッキがあのままでは外の二機のモビルスーツは艦内に戻る事は出来ない。
 身を乗り出して怒鳴るムウを見たマードックは、呆れた様に溜息を吐いて苦笑いを浮かべると、忙しなく動く自分の部下に怒鳴り声を上げるのだった。


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 補給を中止したアークエンジェルのブリッジでは、大気圏突入の為の準備が着々と進めら手居た。
 降下手順の再確認をする為に、マリューの号令がブリッジに響く。

「降下シークエンス、再確認。融除剤ジェル、噴出口、テスト!」
「降下シークエンス、チェック終了。システム、オールグリーン」
「修正軌道、降下角、六.一、シータ、プラス三」

 各クルーは確認するの為に声を上げ、マリューに報告する。
 マリューは、その声が一頻り終わると頷き、ハルバートンへと通信回線を開く。

「閣下!」
「うむ。アークエンジェル、降下開始!」
「降下開始!機関四〇%。微速前進。四秒後に、姿勢制御」

 ハルバートンはモニターの向こうで頷くと、アークエンジェルに向かって号令を出した。
 その号令に合わせ、ノイマンが操舵を開始する。

「メネラオスより、各艦コントロール。ハルバートンだ!本艦隊はこれより、大気圏突入限界点までの、アークエンジェル援護防衛戦に移行する。
厳しい戦闘であるとは思うが、彼の艦は、明日の戦局の為に決して失ってなぬ艦である。後退を掛けつつも陣形を立て直せ!第八艦隊の意地に懸けて、一機たりとも我らの後ろに敵を通すな!地球軍の底力を見せてやれ!」

 モニターは切られ姿こそ見えないが、スピーカーからは地球軍将兵に奮起を促すハルバートンの声が響き渡る。
 アークエンジェルの船体は、ハルバートンの声に後押しされるかの様に徐々に降下して行く。

「降下シークエンス、フェイズワン。大気圏突入限界点まで、七分!」
「――イージス、デュエル、先陣隊列を突破!メネラオスが応戦中!」

 ノイマンの声が大気圏突入降下シークエンスに入った事を知らせるが、そこに重なるタイミングでパルが最悪の報告の声を上げた。
 しかし、降下を始めたアークエンジェルは戻る事は出来ない。その白い船体は味方を信じ、地球へと降りて行く。


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 地球軍プトレマイオス基地ドック脱出の為にイザーク達は思わぬ脱出劇の主役と成った。
 閉まろうとする隔壁の僅か一機分の隙間に機体を通さなければ、待っているのは自分達で戦艦に仕掛けた爆薬で死ぬ事となる。
 ブリッツとバーニアを破損したジンを押す様に、もう一機の無事なジンは破損したジンを引っ張り上げるように飛行し、今、正に隔壁の隙間を通り抜ける所だった。
 手を引っ張っていたジンは、ギリギリ無事に隔壁を抜けるが、ブリッツは左手でバーニアを破損したジンの腰を支えていた為、一機分以上の幅を取っていた。
 その為、続くブリッツは左肩を、バーニアを破損したジンはボディの正面を擦りつけ、加速のベクトルを殺す事となった。

「――うっ!まずい!?」

 ブリッツの左肩の先を隔壁に引っかけ、イザークは声を上げた。
 衝撃からか、ブリッツの左肩の関節が軋みを上げる。そして、次の瞬間、ボディからごっそりと左肩が千切れていた。
 それでもイザークはバーニアを噴かす。ブリッツは隔壁にボディを擦りつけ、火花散らしながらも隔壁を抜けようとした。
 機体を挟み込む様に閉じようとする隔壁。イザークとて恐怖を感じずはいられなかった。
 次の瞬間、ブリッツのボディがギリギリ隔壁を抜け出るが、脚部はまだ抜けてはおらず、擦る様に装甲から火花を散らす。既に、隔壁は脚部を挟み込もうとしていた。
 イザークはバーニアを噴かし続けるが、隔壁との摩擦で速度は思うように上がらず、膝が抜けた辺りで、再びコックピットを衝撃が襲い、肩にシートベルトか食い込んだ。

「――うわっ!」

 ブリッツは脛の辺りを隔壁に挟まれ、動きを止めていた。その左隣には、ジンが同様に膝をに隔壁に挟まれていた。
 無事に隔壁を抜けたジンが引っ張り上げようするが、既に焼け石に水の状態だった。

「――だ、頼む!た、助けてくれ!」

 ジンのパイロットは脚部を隔壁に挟まれ、身動きが取れずに恐怖の余り、助けを求める声を上げた。
 隔壁の向こう側からの振動と爆発音が伝わって来た。

「――い、いやだ!お、俺は、し、死にたくないぃぃ!」
「――くっ!うるさい!こんな所で死んで堪るか!」

 爆発音を耳にしたジンのパイロットは、更にパニックを起こた。
 イザークは悲鳴が耳障りなのか、思い切り怒鳴るとバーニアを噴かして抜け出そうとするが、隔壁に挟まれたブリッツの脚部は抜ける事は無く軋みを上げる。
 モニターで挟まれた脚部を確認し、脱出不可能だと判断すると、イザークはサーベルのスイッチを入れた。


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「――うおぉぉぉ!」

 ブリッツは機体の稼動可能な関節部分をフルに動かして、無理やり左側に位置するジンの太ももを切断する。
 ジンの切断された箇所は軽く爆発を起こす。パイロットは突然の事に声を悲鳴を上げた。

「――うわっ!?」
「――こいつを連れて早く行け!」
「――わ、分かった!」
「――す、済まない!」

 イザークはジンの太ももの切断に成功したのを確認すると、無事なジンのパイロットのに怒鳴りつけ、脱出を促す。
 ジン両機のパイロットは頷くと、バーニアを噴かして脱出して行った。
 取り残されたブリッツのコックピットで、イザークはジンと同じ事をしなければ脱出出来ないと覚悟を決める。

「……こうなれば!ニコル、済まん!」

 イザークは、ブリッツの本来のパイロットであるニコルに心から謝罪をすると、ブリッツは左足膝関節の辺りをサーベルで自ら切断し始めた。
 左足が切れると軽い爆発を起こし、残った右足が隔壁から受ける圧力で軋みを上げる。
 その間にも、ブリッツの足の下から次々と起こる爆発音と振動は大きく響いて来ていた。
 イザークは焦りからか、知らぬ間にペダルを踏み込んでいた。当然、ブリッツのバーニアが噴き始める。
 その推進力で更に脚部が軋みを上げ、ブリッツの残った脚部は不自然に曲がり、機体が右側へと傾き始め、それに気付かないまま、イザークはブリッツの右足を切断した。
 
「――うわぁぁ!」

 バーニアを噴かしたままのブリッツは、当然の如く、弾かれたかの様に隔壁を一気に離れる。
 しかし、コントロールが効かなかったのか、そのままの勢いで右肩をドックの壁面に擦り付け、火花を散らしながら第一隔壁の辺りでようやく止まった。

「――ハアハア……助かったのか!?」

 コックピットの中はアラームが鳴り響き、コンソールには機体に異常を示す赤いランプが点っていた。
 ブリッツは既に両足と左腕を失い、右腕もダメージで駆動系が壊れたらしく、ただぶらさがっているだけの状態だった。幸運な事にPS装甲はまだ落ちてはいなかったが、そう持ちそうもない。
 まだ辛うじて生きているメインカメラを通して第二隔壁に目を向けると、皮肉にも予定通りに内部で戦艦が大規模な爆発を起こしたか、先程まで足を挟まれていた隔壁が飴の様に盛り上がって来るのが見えた。


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「――くっ!頼む、動けよ!」

 イザークは宇宙へと繋がる第一隔壁の戦艦二隻分程しか開いていないスペースを目指してスロットルを開いた。
 ブリッツはバーニアから炎を吐き、壁面から弾かれた様に飛んだ。

「――間に合えー!」

 ブリッツはバーニアを全開にしながら突き進み、外へ出る為に機体を右方向へと旋回させる。
 すると目の前には暗い宇宙と味方の艦隊が見えた。外まで、もう二〇メートルも無い。コンマ何秒かで、到達出来る。

「――よしっ!」

 しかし、後方から爆発の炎が迫り、今にもブリッツを飲み込もうとしていた。
 ブリッツは炎を振り切る様にバーニアを噴かし、基地の外へと向かう。

「――こちらブリッツ、脱出せ――」

 機体が半ば隔壁を抜けた所でイザークは声を上げる。
 しかし、無情にも炎は、そこで黒いブリッツのボディを飲み込んだ――。
 地球軍プトレマイオス基地港口から暗黒の宇宙に向かって爆炎が吹き上げる。その様をザフト軍の将兵達は歓喜の声を上げ目撃する事となった。


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 降下を始めたアークエンジェルの甲板上で、膝を着いていたストライクとνガンダムのメインカメラは、常に戦場へと向けられている。
 当然の如く、地球軍第八艦隊先鋒艦隊を突破し、第八艦隊旗艦メネラオスと交戦しながら侵攻してくるイージスを捉えていた。
 アムロがνガンダムが立ち上がると、続く様にキラはストライクを立ち上がらせ、アムロへと通信回線を開いた。
 
「来た……!?アムロさん、どうします?」
「このタイミングでか!?このままでは的になるだけだ!落とすぞ!」

 アムロは、モニターに映るイージスを最大望遠で確認すると、アークエンジェルのエネルギーケーブルをある程度引っ張り出し、移動に必要な余裕を持たせた。
 キラもアムロと同様に、イージスをカメラで確認する。
 ――アスランの狙いは僕……のはずだ!
 アムロの言葉にキラは頷くと、バーニアを軽く噴かし、慣性に任せストライクを軽く飛び立たせた。

「――待ってください!」
「……多分、イージスは僕を追ってきますよ。だから……ストライク、迎撃に出ます!」

 ストライクとνガンダムの行動を見たマリューは、二人を止める為に声を上げた。
 しかし、キラはイージスを見詰めたまま、呟く様にマリューに答えるとPS装甲を展開させ、スロットルを開いた。

「――キラ君!?」
「――ケーブル、最大まで引っ張るぞ!」


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 バーニアを噴かし、アークエンジェルを離れたストライクを見て、キラの言葉の真意を分からぬまま、マリューは叫んだ。
 それと同時にアムロの声がブリッジに響き、νガンダムもストライクの後を追う様に飛び立つと、マリューは、それでも尚、二人のパイロットを止めようと声を上げる。

「二人とも待ってください!私達は、ストライクを失う訳にはいかないんです!」
「――やられたら、終わりなんですよ!それに、カタログスペックではストライクは単体でも降下可能です!」
「だけど!」

 説得するかの様に、ブリッジにキラの声が響くが、マリューは反論の声を上げようとした。
 その時、ナタルがマリューの前に歩み出て、真剣な表情で口を開く。

「艦長!本艦は今、落とされる分けにはいかないのです!フラガ大尉も出る事が出来ないのです!やるしかありません!」
「……分かったわ!」

 ナタルの言い分にマリューは苦い表情を浮かべるが、状況が状況だけに落とされる訳にも行かず、仕方ないとばかりに頷いた。
 そして、迎撃へと向かったキラとアムロに回線を開き、声を掛ける。

「ただし、フェイズスリーまでに戻って!スペック上は大丈夫でも、やった人間は居ないの!高度とタイムは常に注意して!アムロ大尉、キラ君の援護、お願いします!」
「――分かりました!」
「――了解した!」

 キラとアムロは頷くと、再びイージスへと視線を向けた。
 アムロに取っては、一年戦争当時を思わせるタイミングで有り、余りにも似通っていた。しかし、ここまで来て、アークエンジェルを落とさせる訳にはいかない。
 それは、キラに取っても同様だった。
 二人のパイロットは、それぞれの願いと役目を完遂しようとバーニアを噴かし、イージスへと向かって行った。

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