もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


98 ◆TSElPlu4zM氏  『機動戦士ガンダムSEED bloom 』

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 ブリッジでレジスタンス達との話し合いの最中、キラがアムロの戦闘データを見たいと申し出た為、アークエンジェルのパイロット達はνガンダムの前へと来ていた。
 そこにストライクの修理作業の指示を出していたマードックが加わり、アムロを先頭に男五人がνガンダムのコックピットへと入って行く。

「キラ、シートに座れ」
「コンソール、いいですか?えっと……」

 アムロはシートの脇に立ち、座る様に言うと、キラは頷いてシートに腰を下ろしコンソールの起動スイッチを探すが、下手に押して大事があってはと躊躇も重なり、その手が宙を彷徨う。

「スイッチはここだ。パネルはコンソールモニターと一体型に成っているから、そこでコントロールを。データはスクリーンモニターに個別にも表示は出来る」
「相変わらず、凄いよな」
「……うわっ、すげー!コックピットの造りがストライクと違うんだ」

 見兼ねたアムロが、一つ一つ丁寧にキラに教え始めていると、前に一度、コックピットに入った事があるムウと、始めて入るトールが声を上げた。
 特にトールは始めて見たνガンダムのコックピット、特に三六〇度全周囲モニターに圧倒され興奮した様子だった。
 レクチャーを受けていたキラは、コンソールパネルを弄くりながらアムロに言う。

「……OSが共有出来るなら一番良いんでしょうけど、やっぱり無理そうですね」
「流石に元が違うからな」
「やろうと思ったら、システム解析とかも必要だろうし、どの位時間が掛かるか分からないですね」

 アムロは頷いて答えると、キラは少し困った様子で頭を掻いた。
 キラの頭の中では泡良くば、νガンダムのデータをストライクへと転送して、プログラムに組み込み機動効率を上げられないかと考えていたのだが、予想通りそれは不可能となった。
 時間と人員があれば、いずれは可能には成るだろうが、今のアークエンジェルでは到底不可能に近い話しだった。
 そうしているとムウが何か思いついたのか、アムロに声を掛けて来た。

「なぁ、アムロ。νガンダムはキラでも動かせるのか?」
「動かすだけなら問題は無いだろうが、サイコミュの調整が俺専用してあるからな、戦闘となる難しいだろう」

 アムロは少し考える素振りを見せるが、すぐにムウに向かって答えた。
 そのアムロの口から出て来た聞いた事も無い単語に、マードックは不思議そうな表情で聞き返す。


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「サイコミュ?なんですか、そりゃ?」
「そうだな……、パイロットの脳波を駆動系に直接フィードバックして、ニュータイプの持つ能力を最大限に引き出す素材とでも言えば良いかな。
 バイオセンサーだけでは無く、サイコフレームも搭載した事で、更に機体の運動性、操作性が格段に向上している。後はファンネルの操作もそれに含まれるな」

 アムロは改めて技術の違いを感じ、なるべく噛み砕く様にして説明を始めるが、やはり固有名詞が出て来てしまう為に、マードックには些か分かり難かった様だったが、言っている事はなんとなくだが理解出来た様子だった。
 そのマードックは、自分にも分かるファンネルの事を聞いてみる事にした。

「えっと、ファンネルって……、確か前にあの放熱板みたいのをフィン・ファンネルって言ってましたね?壊れている物を装備しても邪魔だ。とか言ってたじゃないですか、あれも武器なんですか?」
「あの板ぺらみたいのがか?」
「ああ、そうだ。……例えれば、メビウス・ゼロにガンバレルが装備されているだろう。あれの無線式ビーム兵器だと思ってくれれば早い」

 マードックの問い掛けに反応する様に、ムウが格納庫の片隅に置かれているフィン・ファンネルの事を思い出して聞くと、アムロは『板ぺら』と言う言葉に苦笑いを浮かべながら答えた。
 フィン・ファンネルがビーム兵器だと思わなかったムウは、目を丸くしながらも少し羨ましげに言う。

「へぇ、ガンバレルと同じ様に動かせるなら、俺のにも組み込みたいもんだがなぁ」
「……フラガ少佐がモビルスーツ乗るならνガンダムみたいのが良いかもしれねえですね」
「まあ、今の時点で、俺はモビルスーツ動かせないんだから無理だけどな」

 マードックは顎を摩りながら言うと、ムウは両手を軽く挙げておどける様に応えた。

 そうしていると、一応、アムロのレクチャーで使い方を大方飲み込んだのか、キラがアムロに声を掛けて来た。

「あの、アムロさん。……これで良いですか?」
「ああ、悪い。今見れるのは、ほとんどが宇宙での戦闘記録だが、それで良いのか?」

 アムロはコンソールを確かめる様に脇からチェックをしながらも、νガンダムの運用が宇宙に限られていたのもあり、キラに聞き返した。
 その最中も、シートに座るキラと言う少年が、νガンダムのプログラムが違う世界で作られたにも関わらず、その全容を把握する早さや能力が高い事にアムロは関心していた。

「ええ、構いません。アムロさんの戦い方は参考になります」
「そうか。それなら好きに見てくれ。俺はそろそろ休ませて貰うが良いか?」


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 キラは問いに対して言い切る様に答えると、アムロは軽く頷き、ムウに顔を向けて言った。
 昨日の早い時間からキラやムウの代わりに待機していた為、アムロは満足に休息すら取れていなかった。
 その事を思い出したムウが、頭を掻きながら少しバツが悪そうに応える。

「……そういやアムロ、長時間待機だったもんな。ゆっくり休んでくれ。二人の面倒は俺が見とくわ」
「済まない。二人の事を頼む」

 アムロは頷くと少し疲れた様子で、その場にいた全員に声を掛けてコックピットを後にした。
 νガンダムのコックピットは四人だけになり、しばしの沈黙が支配するが、徐にマードックが口を開いた。

「……νガンダムも完全な状態に出来ると良いんだけどな。まあ、仕方無いか。さて、俺も修理に戻るとすっかな。坊主、壊すなよ!」
「はい!ストライクをお願いします」
「俺も済まんね。おろし立てを被弾させちまって」
「仕方無いですよ。それじゃ!」

 マードックの言葉にキラが頷き、ムウが被弾させたスカイグラスパーの事でやんわりと謝罪をして来る。
 当のマードックは苦笑いを浮かべて答えると、そのままコックピットから出て行った。
 また一人減ったコックピットの中で軽く息を吐いたムウは、キラに向かって声を掛ける。

「……さて、モビルスーツとアーマーじゃ違うが、レクチャーくらいは出来るからな。それに俺もアムロの戦い方を参考にしたい。キラ、始めてくれ」
「はい」
「あの、僕も良いですか?」

 キラは頷き、コックピットを密閉する為にスイッチを押そうとした瞬間、トールがムウに声を掛けて来た。

「あー……お前、やる事あるだろ?」
「ええっ!?あぅ……」

 戦闘記録の方に気が行っていてトールの事を気にしていなかったのか、ムウはシミュレーターをやりに行けと言わんばかりの口調で答えると、トールはあからさまに肩を落としてうな垂れた。
 その様子を見たムウは頭を掻き毟ると、異常とも言える程、真剣な表情で口を開いた。

「……仕方ねえな……。ただし、ここで見た事は一切、他言無用だ。誰にも言うんじゃねえぞ。なんつっても軍事機密よりもヤバイ代物だからな」
「……分かりました。誰にも言いません」
「……それじゃ、始めます」

 トールは喜々とした表情を浮かべながら頷いた。
 その二人の遣り取りを見ていたキラは、スイッチを押してνガンダムのコックピットカバーを下ろすと、コックピットは暗闇に包まれた。


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 レジスタンス達との話し合いの中、ラクスとミリアリアはパイロット達を追い掛ける様にブリッジを出て来ていた。
 ラクスはアークエンジェルの中では行動範囲が制限されている為、可能な範囲でキラの事を探しては見たのだが、一向に見つける事が出来ずに途方に暮れていた所だった。
 探し疲れるには些か時間が早過ぎるが、かなりへこんだ様子のラクスの呟きが通路に小さく木霊する。

「キラはどこに行ったのでしょう……」
「……ここを探して居ないとなると、やっぱり格納庫かなぁ?」
「……私は立ち入るのを許されておりませんわ……」

 ミリアリアがぽつりと口にすると、ラクスは肩を落とした。
 出撃前に医務室での出来事があったとは言え、突然、キラに避けられている様な気が仕始めて、ラクスは時間が経つ事に気分が落ち始めていた。
 そんなラクスの姿を見たミリアリアが心配そうな顔を向ける。

「……キラに急ぎの用なの?」
「……いいえ。ただ……」
「……ただ?」
「……私、キラに……避けられてる様でして……」

 言葉を止めたラクスを繰り返す様にミリアリアが小首を傾げると、ラクスは言葉にするのに躊躇いがあるのか、弱々しい声で答えた。
 戦闘の後に停戦交渉があったりと忙しかった為に、そう言う事を感じる暇さえ無かったミリアリアは驚きの表情を見せる。

「そうなの!?あんなに仲良さそうだったのに?」
「……はぁ」
「何かあった?」
「ふぇ!?……あ、いえ……その……」

 ミリアリアは大きな溜息を吐くラクスの両肩に手を掛けると、真剣な表情で問い掛けた。
 それに驚いたラクスは、目をぱちくりとさせながら何を言えば良いのか分からず、もごもごと言い淀んだ。

「……吐いちゃいなさい。楽になるわよ……」
「ほぇ!?ミ、ミリアリア!?」

 良くは分からないがミリアリアの顔と声には迫力が感じられ、ラクスは思わず脅えた様に後退った。
 だか、ラクスの両肩にはミリアリアの両手を掛けられている為に逃げる事すら出来ない。その光景は、まるで肉食獣に脅える小動物の様に見えた。
 容赦無いミリアリアの追求がラクスに迫る。

「さあ……言いなさい」
「あうぅぅ……、あの、あのぅ……キラに……えっと……」
「……キラに?」

 ラクスの視界はほぼミリアリアの顔で埋まり、少しでも前に動けば、今度はミリアリアとキスをする事になるくらいの距離になっていた。
 別にミリアリアにその気がある訳では無く、そこまで明るい話題が無い艦内において、久々のゴシップネタなのだから興味も引かれると言う物だ。

「あうぅ……キ、キスを……されて……しまいましたのぉ……」

 頬を朱に染め、おどおどと答えるラクスは、難なくミリアリアの追求に陥落したのだった。


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 モニターの下には地球が青い輝いていた。前面には巨大な――アクシズと言う名の隕石。
 回りは宇宙空間中に有りながらも赤く照らされ、大気圏に突入している事が一目で理解出来た。
 それは、νガンダムが実戦に投入されてからの紛れも無い事実が映し出され、キラ、ムウ、トールの三人は、その事実、アムロ達、ロンド・ベルの戦いに息を飲み、誰もが目を離す事すら出来ずにいる。
 何故その様な光景を目にする事になったと言えば、実に単純で、当初はヘリオポリス辺りの記録を見ようとしていたのだが、キラ自身の操作にミスにより、νガンダムが始めて実戦投入時よりの戦闘記録、そして、音声記録までもが再生されてしまったのが原因だった。
 次々と敵を落として行くνガンダム。敵に捕まり犠牲になった女性パイロット。機体を捨ててまでアクシズ内に入っていった、この機体の持ち主、アムロ・レイの記録がそこには記されていた。
 そして、ついにはνガンダムが自ら隕石を押し出そうとしている場面まで進み、どこから現れたのか、νガンダムを支援するかの様に、次々と味方のモビルスーツがアクシズを押し出そうと取り付き始めてた。

『――なんだ!?どう言うんだ!?……やめてくれ、こんな事に付き合う必要は無い!下がれ、来るんじゃない!』
『なんだ!?何が起こっているんだ!?ええい、完全な作戦にはならんとは!』

 モニターにはパイロットであるアムロの姿こそ映ってはいないが、キラ達にも分かる聞き慣れたアムロの叫び声が、他のモビルスーツへと向けられた。
 その直後、先程まで戦っていた赤いモビルスーツに乗っていた男性――シャア・アズナブルの声がキラ達の耳に入って来る。
 アクシズに取り付き、押し返そうとするモビルスーツの数はまだまだ増えて行く。モビルスーツ達は背中のテールノズルから幾重のも光の尾を美しく伸ばしていた。
 その光景にキラは目を大きく見張り、口からは震える声が零れた。

「モビルスーツが集まって来る……」
「……モビルスーツで……こんなのを押し出そうって言うのか!?」

 以前にアムロから話は聞いてはいたし、前にも記録の一部を見た事はあったが、その時はここまで見る事は無かった。
 しかし、それが目の前で流れているのだ。その圧倒的な迫力、そして、その行為にムウの声が震えた。
 そうしていると、取り付いて行くモビルスーツの一機から、νガンダムへと通信が入る。

『ロンド・ベルだけにいい思いはさせませんよ!』
『しかし、その機体じゃ!』

 アムロはその味方のモビルスーツに向かって叫ぶが、その機体は離れる気など全く見せる事は無く、光の尾を伸ばして必死に隕石を押し返そうとしている。
 しかし、無情にもアクシズは落下を止める事は無かった。その中、信じられない事に先程まで戦っていた敵のモビルスーツまでもが、隕石に取り付き始めた。

『ギラ・ドーガまで!?無理だよ、みんな下がれ!』
『地球が駄目になるかならないかなんだ!やってみる価値ありますぜ!』
『しかし、爆装している機体だってある!』

 アムロの声が、アクシズに取り付く全てのモビルスーツ達に向かって下がる様に吠えるが、ギラ・ドーガと言われるモビルスーツのパイロットの声は、一縷の望みに掛けるを告げた。
 だが、それを拒み各パイロット達を心配するアムロの声がコックピットに響いた。

「……て、敵まで協力して押し出そうとしてる!?どうして?」

 トールには先程まで隕石を落とそうとしていた敵が、どうして共に阻もうとするのか分からず声を上げた。
 だが、誰もそれに答える事も出来るはずも無く、刻一刻と時間は進んで行く。

『駄目だ!摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだぞ!』

 アムロの叫び声が響くと、摩擦熱に耐える事の出来なかった一機のモビルスーツが爆発を起こして散って行った。


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「ああっ!」

 キラはその光景に目を見開いた。
 摩擦熱に耐え切らなくなったモビルスーツが徐々に弾き飛ばされ始めるが、どの機体もアクシズから離れるのを拒み、一部の機体は近くの機体へと必死に手を伸ばし共に押し出そうとしていた。
 三人は奥歯を噛み締め、その場にいたならば共にアクシズを押し出したい気持ちでいた。しかし、それは叶う事は無い。

『もういいんだ、みんな止めろ!』

 アムロの必死の声が周りの無事な機体に向かって大きく響くが、それでもモビルスーツ達は数を減らしながらも必死に食らい付く。
 その時、再びシャアの声がνガンダムのコックピットに木霊した。

『結局、遅かれ早かれ、こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのだ!ならば人類は自分の手で自分を裁いて、自然に対し、地球に対して贖罪しなければならん。アムロ、なんでこれが分からん!』
『離れろ!……ガンダムの力はっ!』

 しかし、アムロの声はそれを無視し、愛機に想いを込めた言葉が三人の耳に響くと、モニターには緑色とも見れる暖かい光の幕が広がって行く。
 その幻想的な光景は理解し難く、正に奇跡としか言いようがなかった。

『こ、これは、サイコフレームの共振!?人の意思が集中しすぎてオーバーロードしているのか?なのに、恐怖は感じない。むしろ温かくて、安心を感じるとは……』

 シャアの戸惑いの声が響くと、光の幕に弾かれる様に無事なモビルスーツ達が次々と跳ね飛ばされ、コックピットに映し出されていたモビルスーツ達は全てが幕の向こうへと消えて行った。

「な……なんなの!?」
「な、なにが起こったってんだ!?」

 人知とも知れぬ事を目にし、突然の出来事にキラとムウは目を見開く。それは声にせずとも、トールも同じだった。
 そして、その場にはνガンダムと、シャア・アズナブルの脱出ポッドがアクシズに減り込むように残っていた。

『何も出来ないで!おあっ!?』

 アムロの呻き声と共にモニターは大きく揺れ、その衝撃の大きさを三人に知らせていた。
 そして、シャアの悟った様な声がアムロに向けられる。

『そうか!しかし、この温かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それを分かるんだよ、アムロ!』
『分かってるよ!だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!』

 キラには聞き覚えのある言葉がそこにはあったが、それを口にする者同士の戦いの光景に、キラは息を飲む他無い。
 スピーカーからは、アムロに対して小ばかにする様なシャアの声が響く。

『ふん、そういう男にしてはクェスに冷たかったな、え?』
『俺はマシーンじゃない、クェスの父親代わりなどできない!……だからか。貴様はクェスをマシーンとして扱って!』
『そうか、クェスは父親を求めていたのか……。それで、それを私は迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな!?』
『貴様ほどの男が、なんて器量の小さい!』
『ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!そのララァを殺したお前に言えたことか!』


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 シャアの言葉に、キラは一瞬、体が震える。

「――!」

 キラの心の中にアムロが自分に向けて言った言葉が思い出される。
 『ラクス・クラインはハロを持って居た。何かしらの関わりが有っても可笑しくは無い。今は民間人だとしても、この先、敵対する可能性が無い訳では無いだろう』
 『嫌な言い方になるが、全てに可能性が無い訳じゃ無い。戦っている以上、敵である事には間違いないのだからな』
 『考え過ぎかもしれないが、キラに取っては、アスラン・ザラがシャアに当たる人間なのかもしれない。気をつけた方が良い』
 もしかしたら自分を含めたラクスやアスランが、そうなる可能性があるかもしれないと言う事にキラは息を飲み、アムロの『ああ、キラは僕では無いからな。……同じ事になるとは限らないさ』と、自分に言ってくれた言葉に縋り付きたくなった。

『お母さん……ララァが!?うわっ!?』

 アムロから零れる言葉と共に、光と衝撃がコックピットを襲うと、その後はアムロの声は聞こえて来なくなった。
 持ち主であるアムロ自身が、地球がどうなったのかさえ知らないと言っていた事を考えれば、恐らくこの場面で気を失い、それ以降、記録をここまで確認していなかったのだろう。その続きが、そこにはあった。
 光の向こうに見えるのは、徐々に離れて行く地球とアクシズのみ。それも光に因って徐々に輪郭を失って行く。
 恐らくアムロ達は地球を救ったのだろう。と言う確信を持ちながらも、三人はモニターがホワイトアウトして行くのを見ていた。
 そして完全に光に包まれると、キラは思い出した様にスイッチを押して戦闘記録を停止させた。
 コックピットにはアークエンジェルの格納庫の様子が映し出される。
 ムウはしゃがみ込むと、吐き捨てるかの様に口を開いた。

「……なんなんだ……なんなんだよ、この戦いは……」
「……シャアって人は、本当にアムロさんと決着を着ける為に隕石を……」
「地球への贖罪だ!?母親だ!?ふざけるな!こんなんで隕石なんかを落とすのかよ!シャアって奴は何を考えてんだ!」

 呼応するかの様にキラが呟くと、ムウは見た事も無いシャア・アズナブルに対して怒りを顕わにした。
 そして、アムロの事に対して何も知らないトールが悔しそうな顔を見せて呟く。

「……俺達がヘリオポリスで暮らしてる間に……地球じゃこんな事が……こんな事が起こってたのかよ……」
「それは……」

 キラが言いかけるが、事実を告げる訳にも行かず、言葉を止める他無かった。
 事実を言う事が出来ないのはムウも同じで、見せてしまった以上、今は勘違いさせておく以外は無い。
 ムウは立ち上がり、トールに向かって真剣な顔を向けた。

「……トール、いつか本当の事を教えてやる。それまで、この事は絶対に誰にも喋るな」
「……分かりました」
「……しかし、参ったな……。アムロはこんな奴らを相手に戦いを繰り返して来たって言うのかよ……」

 トールが真面目な表情で頷くと、ムウは髪を掻き毟りながら呟いた。
 ムウに取っては、地球にNジャマーを落とされている事を考えれば他人事では無かった。そして、地球を救ったアムロが味方でいる事を心の中で感謝した。
 キラはνガンダムを労る様な手付きで操縦桿に右手を添えると、俯きながらも真剣な表情で言う。


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「……アムロさんに言われたんです。この世界を良い方向に導くのは僕達の役目だって……。何をすれば良いのか分からないけれど、アムロさんがそう言うの、なんだか分かった気がします」
「……ああ、そうだな」
「でも、どうすれば良いのか……大き過ぎて、見当も付かなくて……」
「それなら、今は俺達にやれる事をやるしかないだろ」
「……そうですね」

 ムウは腰に手を当て真面目な声で答えると、キラは顔を上げ頷いた。
 二人の遣り取りを黙って聞いていたトールが、何か決意したのかの様に力強い言葉でムウへと告げる。

「……知らない間にこんな事が起こってたなんて……。俺、シミュレーターやってきます」
「……ん?あ、ああ」
「……トール?」

 ムウは呆気に取られた様に応えると、キラがトールの顔を見詰めた。
 トールは少しだけ笑みを零すと、キラに向かって答える。

「フラガ少佐が言ったじゃん、やれる事をやるしかないって。アムロ大尉が地球を守ってくれて、この世界を良い方向に導くのは俺達の役目だって言ったんだろ?
 今はアムロ大尉やフラガ少佐みたいには成れないけどさ、俺だってやれる事があるなら、アムロ大尉の言う事に応えなきゃ」
「……そうだな。トール、行くぞ!」
「お願いします!」

 ムウも少しだけ笑みを湛えると頷き、トールはムウに元気良く頭を下げた。
 キラがスイッチを押してコックピットを開放すると、二人は外へと出て行こうとする。その途中、ムウが振り返ってキラに言った。

「……そうだ。キラ、お前は病み上がりなんだし、あんまり寝て無いだろ?程々にしておけ」
「はい」

 キラが頷くと、二人はνガンダムを離れて行った。
 コックピットを再度閉じると、キラは呟く。

「僕のやれる事か……」

 キラは再びコンソールを操作し始めた。
 自分達の良き未来へと繋げる為に、何をすれば良いのか分からなくとも、考えてやれる事に全力を尽くす。それが、今出来る最大限の事だった。


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 格納庫を後にしたアムロは居住区の通路を歩いていた。
 流石にザフト軍の攻撃後である事と、それに付け加えレジスタンスが来訪している事もあって、通路を行き交う乗組員の数は多かった。すれ違う者達は皆、敬礼をしては各々の行くべき先へと向かって行く。
 その中にレジスタンスとの話し合いを終えて、自室へ向かおうとするナタルの姿があった。

「バジルール中尉、レジスタンスとの話しは終わったのか?」
「ア、アムロ大尉!?気付かずに申し訳ありません!」

 アムロに声を掛けられたナタルは疲れの為か、一瞬驚いた様子ではあったが、すぐに駆け寄って来て敬礼をした。
 その姿を見たアムロは気遣う様子で言った。

「いや、気にしないでくれ。疲れているようだな」
「いいえ、その様な事はありません」
「……ナタル、休息に入るのだろう?そこまで気を張る必要は無いさ」
「も、申し訳ありません……」

 アムロは力を抜く様に言うと、ナタルは以前、『君はチャーミングなんだ。その方が、もっと魅力的に見える』と言われた事を思い出し、頬を染めた。
 そんな事をナタルが思い出しているとは思わぬアムロは、少々不思議そうな顔をしながらも、ブリッジでのその後の事を聞いた。

「……それでレジスタンスは?」
「あ、はい!今の所は一先ずと言った所です。一応ですが、停戦終了後にザフト軍による攻撃が当艦に行われた場合、協力すると言う事で概ね合意しています」

 ナタルは慌てて表情を正すと、すぐに事の報告を始めた。
 アムロ達がブリッジを立ち去った後、レジスタンス側に居た大柄な男性――キサカが交渉役として出て来た為、思いの他スムーズに話しは進み、口約束ではあるがザフト軍との停戦が終了するまで、互いに協力は求めないと言う事になった。
 レジスタンス側の代表であるサイーブは、停戦終了後、直ちに協力関係を発動し、ザフト軍を攻める事を要求したがではあったが、マリューはアークエンジェルへの攻撃が来なければ意味を成さないと拒否をした。
 しかし、これをキサカが上手く纏め、停戦終了後、ザフト軍からアークエンジェルへの攻撃があった場合のみ、直ちに協力して共に戦うと言う事にし、一応の決着を見る事となった。
 実際問題、カガリ、サイーブは不満を漏らしこそしたが、両軍を相手にするよりはマシだと言うキサカの説得に屈した形になっている。

「そうか。上手くは行ったと言う事か」

 事の内容を聞いたアムロは、他の者達の邪魔にならない様、通路の壁に背を預けると頷きながら言った。
 ナタルも同様に、アムロの隣で壁に背を預けながら顔を向ける。

「ですが、所詮はレジスタンスです。ザフトと同様、安易に信用して良い物かどうか」

「少なくとも彼らの敵は我々では無いからな。それに利害が一致していると思ったからこそ、話し合いに来たのだろうし、こちらのモビルスーツを戦力として当てにしていると言う事だろう」
「正直な所、レジスタンスが戦力になると思いますか?」
「無い物強請りは出来ないが、レジスタンスだとしても戦力が多いに越した事は無いさ」

 大した兵装を持たないレジスタンス達の代わりにアークエンジェルが矢面に立つ必要があるのか、と言うのがナタルの実際の本音だった。だが、アムロの言う通り、アフリカ大陸を脱出するには戦力は多いに越した事は無い。

「……そうですね」

 ナタルは少し考えると、アムロに対して頷いた。
 アムロは話しに一応の落ちが着いた事を悟ると、壁に背を預けたままで腕を組み、戦闘中に起こった疑問を口にした。


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「それにしても、戦闘中にラクス・クラインが良く申し出たな」
「理由は私には分かりません。それにラミアス艦長も、この様に成るとは予想して無かった様です」

 ナタルはブリッジであった事を踏まえつつも、分かる事だけを言った。
 それを聞いたアムロは、バルトフェルドが再戦を望む事を口にした時に、ラクスが『命の恩人に対して、その様な事、私は許しません』と言っていた事を思い出した。

「あの様子だと恩返しのつもりなのだろうが……。それに助けられたのも事実だからな。それはそうと、艦の被害状況はどうだ?俺があの四つ足に攻撃した時、装甲にダメージが行っただろう」
「ええ、ですが装甲を焦がした程度です」
「……その程度で済んでいるのは分かってはいたが、あの時は、ああするしか無かったからな」

 アムロは戦闘時にブリッジ上でラゴウに対して、アグニを発射した事を憂慮していた。

 勿論、火力を考慮してトリガーを引いたが、一つ間違えれば自らアークエンジェルを落とし兼ねない行為だったのだから、反省もすると言う物だった。
 だが、アムロの表情を見たナタルは、反省する必要は無いと言わんばかりに、少し肩の力を抜きながら言う。

「私も、あそこで撃つとは思いませんでしたけれど、アムロ大尉がああしなければ、きっと我々は落とされていました。お気になさらないでください」
「そう言って貰えると助かるよ。次はもう少し上手くやる様にする」
「はい。ブリッジ要員の何人かは、顔を青くしていましたから」
「それは彼らに悪い事をしたな」

 ナタルは頷いて普段よりも柔らかい笑みを浮かべると、アムロは雰囲気を察して冗談に応えるかの様に肩を竦めながら言った。
 二人の間に少しだけ笑みが零れると、アムロが労うかの様に口を開いた。

「それにしても、お互い長かったな。それで、僕は眠る前に軽く食事でもしておこうと思ったんだが、一緒にどうだ?」
「……寝る前にですか?」
「流石にあれから食事を摂って無かったからな。軽くでも胃の中に入れて置いた方が良く眠れるだろう」
「ですが……」

 ナタルはアムロと同様、長時間に渡りほぼ休み無くブリッジに詰めていた為、かなりの空腹ではあるが、寝る前の食事となると些か迷いが生じた。
 その表情を見過ごす訳も無く、アムロは左手で首の裏辺りを摩りながら口を開いた。

「無理にとは言わないが……。やはり女性は気に……」
「あの、大尉……」
「……あ、いや、デリカシーの無い事を言って済まない」

 ナタルは困った様な目をしながら言い掛けるが、アムロはすぐにそれを遮って自分の失言に対しての謝罪を口にした。
 アムロの見せた意外な一面に、ナタルは困った様な表情を崩し少し微笑む。

「……いいえ。あの……お食事、お付き合いさせてください」

 そう答えたナタルにアムロは軽く頷くと、二人は肩を並べて歩き始めた。


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 νガンダムのモニターには、格納庫のいつもの光景が映っていた。
 そこに映る整備兵達は慌しく動き回り、ストライクやスカイグラスパー、そして、アークエンジェルのスラスターの修理に追われている。
 キラは一人になった後もコックピットに残り、アムロの戦闘データを参考に自分の戦い方を模索していた。
 だが、戦闘と言う物はそう長く行われる物でも無く、データも粗方見終わり、一息吐いている所にコックピットの外から自分の事を呼ぶミリアリアに気付き、キラはコックピットを開放する。

「ねぇ、キラ、いい?」
「なにかあったの?」

 自分の事を呼び掛けるながらコックピットを覗き込むミリアリアに、キラは何事かと聞き返した。
 ミリアリアは一度後ろを振り返り、落ち着かない様子で中に入って来た。
 それは先日、トールがパイロットになった一件の折り、ミリアリア自身が格納庫で問題を起こした為に、多少なりとも整備兵達に対して後ろめたい気持ちがあっての行動だった。
 νガンダムのコックピットに目を丸くしながらも、ミリアリアは本題を告げる為にキラの方へと顔を向けて言い放つ。

「えっとね、私が言うのも何だけど、キラ、男らしくないわよ!」
「えっ!?……な、なにが?僕、ミリアリアに何かしたかな……?」

 キラはミリアリアの言い様に困惑した様子で聞き返した。

「私じゃなくてラクスによ。彼女、キラに避けられてるって、へこんでるわよ」
「あっ……、それは……」

 ミリアリアは少し怒った様子でラクスの事を告げると、自分のした事を思い出して口篭った。
 その様子にミリアリアは呆れた様で、少し冷たい視線を向ける。

「……キラが何したかは聞いてるわ。あのね、キラからしておいて、急に手のひらを返した様に無視されたら、ショック受けるのは誰だって当たり前でしょ。フレイの時はそんな素振り見せなかったから、キラがそう言う風な人だと思わなかったわ」
「な、なんでフレイが出て来るの!?」

 ラクスの話しで手一杯のキラは、更に初恋の女性であったフレイの話しを持ち出され、しかも自分の気持ちがばれていたとは思わず、思い切り慌てふためいた。
 だが、キラに取っては無情な事に、ミリアリアはさも当たり前の様に平然と聞き返す。

「だって、フレイの事、好きだったんでしょ?」
「そ、それは……」
「……キラ、見え見えだったしね。それよりも、今はラクスの事よ!」
「えっ!?え、えっと……、何と言うか……」
「……単純に恥ずかしいとか?」

 顔を赤くして口篭るキラに、ミリアリアは首を傾げて聞き返した。


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「……それもあるけど、……それだけじゃなくって……」
「なに?」
「それは……」
「……はぁ。キラ、はっきりしないわねぇ」

 恥ずかしそうに口篭るキラに対して、ミリアリアは思い切り溜息を吐くと呆れた様子で言った。
 キラはどうして、その様に言われなければならないのか、訳も分からずに慌てながらも反射的に言った。

「ご、ゴメン!」
「私に謝られても仕方ないでしょ。謝るのならラクスに謝りなさいよ。それで、キラはラクスが嫌いになった訳じゃないんでしょ?」
「う、うん。それは勿論」

 キラはミリアリアの言葉に顔を赤くしながらも頷いた。
 ミリアリアは納得したのか、その口ぶりは先程よりも柔らかい物へと変化する。

「……そう。それなら、ちゃんと後で謝ってあげて。ラクス、もうすぐプラントに帰っちゃうかもしれないんだから、こんな別れ方、キラだって嫌でしょ?ラクスだって可哀想よ」
「……そう……だよね……」

 ミリアリアの言う通り、ラクスはプラントに戻る事になる。それは変え難い事実で、一生再会する事さえ出来ないかもしれない。
 そう思ったキラは、頷きながらもラクスを避けると言う子供っぽい行動を取った事を恥じた。
 そんな心中に気付く様子も無いミリアリアは、事は万事解決と判断したのか、少し軽い口調で言う。

「それにしても、キラは大変ねぇ。ラクスってお嬢様だし、プラントって物凄く遠いでしょ。頑張らないとね!」
「えっ!?……あ……、ラクスは……婚約者が居るから……。それに、僕の事、好きとは限らないし……」
「えっ、そうなの!?」

 ラクスに婚約者がいる事を知らなかったミリアリアは、驚いた様子で聞き返して来た。
 それに対してキラは、ただ頷くしかなかった。

「……うん」
「私はラクスが、キラの事を意識してる様に見えたけどなぁ……。でも、婚約者か……。キラ、どうするのよ?」
「どうするって言われても……、僕にはどうしようも無いから……。それにラクスは、プラントに戻った方が良いと思うんだ。このままアークエンジェルに居たら、軍に捕まるだけだし……」
「……そう……よね。それに、もう戻るの決定した様な物ですものね……」
「うん……」

 行き詰った二人の話しはそこで止まり、仕方なくミリアリアはキラにラクスにちゃんと謝る事を約束させると、その場を後にした。
 一人残ったキラは、大きく溜息を吐いてシートに体重を預けた。そうして数分経ち、こうしてても仕方ないと思ったのか、気分転換にコックピットから出て行った。
 キラがνガンダムの足元まで降りた所で、思わぬ事態が待っていた。


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「ああっ!」

 ブリッジでの話し合いを終えたレジスタンス達の一人、金色の髪の少女、カガリがキラを見つけ声を上げた。そして、キラの前まで駆け寄って来ると鋭い目付きで睨み付けた。
 その異様な雰囲気に周りにいた者達も気付き、何事かと顔を見合わせる。

「……お前……お前が何故、あんな物に乗っている!?」

 カガリがキラに向かって、そう叫ぶと拳を振り上げた。

「えっ!?」

 キラは咄嗟に拳を片手で受け止めると、何故、目の前の少女が殴り掛かって来たのか分からず、怪訝な表情を浮かべた。
 拳を受け止められたカガリは悔しそうな顔に変わりながらも、再びキラを睨み付ける。
 表情、髪、雰囲気。
 キラはモルゲンレーテで自分がストライクに乗る前にシェルターの中に押し込んだ少女である事を思い出し、目を見開いた。

「あっ!?君……あの時……モルゲンレーテに居た……」

 あれから一月も経っては居ないが、キラには遠い昔の事に思えた。
 キラが感慨に耽っている間にも、カガリは掴まれたままの拳を振り払おうと身を捩る。

「っえぃ……離せこのバカっ!」
「うっ!」

 カガリが身を捩りながら振り払おうとした反対の手がキラの頬へと当たる。
 キラは瞬間的に手を離して後退った。
 そこへ、シミュレーターでトールの指導をしていたムウが、見兼ねた様子でキラとカガリの間に割って入って来た。

「おい、なにやってんだ!」
「うるさい!お前には関係無いだろ!」

 カガリは邪魔するなと言わんばかりに、ムウに対しても鋭い視線と罵声を浴びせた。
 ムウは自分達の状況も分かっていないのかと呆れながら、目の前で凄むレジスタンスの少女に告げる。

「……あのな、お嬢ちゃん。ここは軍艦なんだ。お前達が手を出せば、どうなるか分かってやってるのか?虎にも言われただろう」

 ムウの言う事は停戦調印の折に明記されており、カガリ達がアークエンジェルが手を出した場合は、レジスタンスはザフト・地球両軍から攻撃を受ける事は確実な物となっている。

「くっ……!貴様達はあんな卑怯者と手を組んで、恥ずかしいとは思わないのか!恥を知れ!」


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 カガリは親の仇を見るかの様に、憎しみを込めた視線でムウを睨み付けながら叫んだ。
 格納庫に息が詰まる様な緊迫した空気が張り詰める。
 ここで揉め事を起こすのは得策でないと判断したレジスタンスのリーダーであるサイーブが、今にも殴り掛かりそうなカガリに向けて怒鳴りつけた。

「カガリ!」
「サイーブ!?」
「さっきまでの交渉をを無駄にするつもりか?」
「キサカまで!くっ……」

 組織のリーダーであるサイーブの声にカガリは顔を向けると、その隣に立っていたキサカが近付いて来て咎める様に言った。
 カガリは渋々引き下がるが、怒りは消えていない様で、ムウとキラを睨みつけていた。

「申し訳なかった。無礼を働いた事を詫びさせてもらう。少年、怪我は無いか?」

 キサカはムウとの前に歩み出て、レジスタンスとは思えぬ毅然とした態度で侘びを入れると、キラに声を掛けた。
 大したダメージでも無かったのか、怪訝な顔をしながらもキラは頷いた。

「……ええ、大丈夫です」
「全く、威勢の良いお嬢ちゃんだ……。こっちは虎との停戦が優先されてるからな。繰り返す様だが、下手な事をすれば分かってるだろ?」
「それは心得ている。重ねて詫びさせてもらいたい」

 ムウが呆れた様に言うと、キサカは静かに頷いて頭を下げた。
 例え子供が仕出かした事でも、今のレジスタンスに取っては大事に成り兼ねない出来事であり、最悪の場合、ザフト・地球両軍から攻撃、そして停戦終了後の協力関係すら不意になる可能性もあるのだ。
 キサカの対応に、ムウはキラに向かって顔を向けた。

「だってよ、キラ」
「……僕は気にしてませんから」
「少年、感謝する。……それでは失礼させてもらう。行くぞ、カガリ」

 キラは首を横に振って答えると、キサカは再度、頭を下げて踵を返した。
 カガリは怒りを隠さぬまま、一度キラ達に鋭い視線を浴びせるとキサカと共にサイーブの乗るバギーへと戻り、アークエンジェルを出て行った。
 キラはただ、唖然としながらレジスタンス達を見送った。


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 プラントでは朝を向かえ、市民達は自分の生活、そして家族を守る為に、各々の職場へと向かい働き始めている時間となっていた。
 コロニーの中にも関わらず、その光景は地球上とそう大して変わらず、清清しく感じられる。
 だが、そんな光景が信じられない程、つい先程から開始された評議会では、早々に重苦しい空気が支配していた。
 理由は、ザフト軍が地球軍月本部基地の奇襲を成功させたこの機に、地球側との交渉を行うべきだとシーゲルが言い出した為であった。
 確かにシーゲルが言う様に、地球側も立て直す時間は欲しがるだろうが、既にプラントの世論はシルバーウインド号の一件もあり、大方が交戦を支持し、更に作戦を成功させた事で民衆は勢い付き、徹底抗戦を叫ぶ者達も増え始めていた。
 シーゲルの意見を聞き終わり、パトリックは眉間に皺を寄せると議長席へと目を向ける。

「……クライン議長、本気でその様なお考えをなされておいでですか?」
「うむ。先程言った様に、地球側も今回の事で立て直しの時間を欲しがる。交渉に持ち込むのであれば、私は今しか無いと思うが」
「今まで地球側は、どの様な状態であっても、プラントに対しての姿勢を変えた事など無かったでしょう。もし、交渉に失敗すれば民衆は議会に対して不信を抱くでしょう。有利に事を運ぶのであれば、更なる軍の展開を待ってからでも遅くは無いと思いますが?」

 シーゲルが自分の意見を繰り返すと、パトリックは淡々と反対の意見を唱えた。
 パトリックの言う事は、今までの事を振り返れば最もであり、評議会の議員達は判断に苦慮している様子だった。

「他の皆さんは?」
「……私は議長の案に賛成します。今回の作戦成功で、地球側も柔軟な姿勢を見せざるおう無いと思います」

 シーゲルが他の議員達に意見を求めると真っ先に発言したのは、アイリーン・カナーバだった。
 アイリーンとは前日に連絡を取り合った際、既にこの事は話しており、予定通りの行動と言える。

「私は反対です。今までの事を振り返りますと、現状で良い条件を引き出せるとは思えません。時期尚早かと思います」

 シーゲルの思惑を遮る様に、エザリア・ジュールが反対意見を唱えた。
 元々、パトリックに近い事もあるが、今作戦で息子であるイザークが活躍し勲章を授与されるのだから、軍部、そしてパトリックの意見に傾倒するのも当たり前と言えた。

「……他の方々はどうですかな?」

 シーゲルは一瞬、眉を顰めたがすぐに他の議員達へと意見を求めた。
 しかし、誰もが派閥などを考慮しながらも、プラントに取って正しい道はどちらなのかと考えている様子で、意見は出て来る事は無かった。
 一行に議題が進まない事に意味は無い、と言わんばかりの表情をパトリックは見せる。

「議長、このままでは埒が明きますまい。この議題が次回に持ち越しては?」
「待ってください。休憩を取り、考えを纏める時間を頂けませんか?」
「……分かりました。長くは取れませんが、一度、休憩を挟みます」

 アイリーン以外のクライン派の議員の一人が、自分達のリーダーに気を使うかの様に発言すると、シーゲルは頷きしばしの休憩に入った。
 この短い時間の中で自分の意見を出すことが出来なかった者達は、集まり話し合いを始めている。
 クライン派の者達の中でも、プラントの世論を考慮し反対の意見に入れたい者もいる様で、困った様な表情を見せている者も多かった。
 議会が再開されると、すぐにパトリックはシーゲルに向かって言った。

「議長、ここは挙手でどうでしょう?」


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 シーゲルは頷くとそのまま採決に入るが、先程よりは手を挙げる者が増えこそすれ、どちらも半数には至らなかった。
 気付かれぬ程小さな溜息を吐いたシーゲルが、どちらにも手を挙げる事の無かった議員に向かって口を開いた。

「挙手をされなかった議員の方は、どの様なお考えですかな?」
「……議長のお考えも分かるのですが、反対票を入れた方々の言う事も最もだと思うのです。しかし、かと言って、このまま軍事行動を強く推し進めれば、互いに引く事も出来なく成る可能性もありますし……」
「あなたは誤解をされている様だ。私とて全面戦争など望んでいる訳では無いのですよ。交渉に持ち込むには早いと言っているのです。ただでさえ物量で圧されている我々が、有利に展開出来る機会なのだ。今は圧して、彼らに不利である事を自覚させなければ成らないのです!」

 議員の一人がどっち付かずの曖昧な返答をするが、内容が軍事方面に対して危惧する内容だった為にパトリックは不満げに反論すると、全ての議員が沈黙し耳を傾けた。
 その中、ニコルの父であるユーリ・アマルフィは、クライン派である為にシーゲルの案に対して、一応賛成と言う態度は見せてはいるが、その全てに対して同意している訳では無かった。
 特に今回はニコルの一件もあり、地球側の予想される対応と今後のプラントの事を思えば、パトリックの方が正しく聞こえ、ユーリの心中は大きく揺らいだ。
 そして、誰もが沈黙する中、ユーリが重苦しい顔つきで口を開いた。

「……議長、私も反対に入れさせて頂きます。今、公にこちらから交渉に入ったとなれば、気運に水を注し、民衆の反発は必至と思います。その様な事態は避けるべきでは無いでしょうか?ザラ国防委員長の言う様に、時期を見てからでも遅くは無いと思います」
「……むぅ」

 シーゲルは先程まで賛成に回っていたユーリが、突然手のひらを返し反対するなど予想もしていなかった為に、苦々しい表情で小さく呻いた。
 そのシーゲルとは対照的に、クライン派の一部が自分に賛同した事で、パトリックは口元に細い笑みを浮かべる。そして、勝ち誇った様子でシーゲルへと顔を向ける。

「他の方々は?このまま纏められないのであれば、意味を成さないと思いますが。議長のご判断は?」
「……どなたか意見は?」

 シーゲルは苦々しい表情のまま、他の議員達へと視線を向けた。
 挙手をする事が無かった議員達の一人、タッド・エルスマンが徐に口を開いた。

「クライン議長、私はどちらにも反対をしている訳ではありません。かと言って、賛成と言う訳でもありません。確かに民意を汲み取るのであれば、ザラ国防委員長の言う様にここは様子を見るべきと思います」

 タッドはどちらでも無い事を告げると、一度言葉を切り、周りの議員達を見回してから再び口を開いた。

「だが、チャンスがあるのであれば、外交チャンネルは開いておいた方が懸命ではあります。民衆を刺激するのが不味いのであれば、あくまでも下交渉と言う形で非公式に行えば良い。公の場に固執する事も無いと思いますが」
「……なるほど。それならば民衆を刺激せずに下準備を進める事も出来ますな。それに選択肢が多いに事に越した事は無い。私も非公式と言う事であれば賛成いたします」

 新たな案が飛び出て来た事で、どっち付かずだった議員達がタッドの案に乗り始めるが、それを牽制する声がパトリックの口からタッドへと向けられた。

「しかし、その場合、軍の動きはどうすれば良いとお考えですかな?我々は遂行中、または予定の作戦が後に控えているのですぞ」
「……非公式で行う以上、軍は今まで通りに動けば良いのでは。あくまで下交渉であって、今、軍を退かせる事は、有効なカードを使わないのと同じです」

 タッドの口調は、あくまでも慎重でありつつも毅然とした態度で答えた。

「……なるほど、分かりました。議長」


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 あくまでもタッドの発言が、軍の動きを抑止する物では無い事を確認したパトリックは小さく頷き、シーゲルへと顔を向けた。
 当初の思惑とは違うが、シーゲルは非公式であったとしても交渉を行えるのならばと言う、安心した顔つきで頷く。

「……それでは、再度、決を採りたいと思います」

 シーゲルが全議員の顔を見回して採決を採る事を告げると、突然、扉が開き、ザフト軍の制服を着た男性がパトリックの所へと駆け寄った。
 その光景に、他の議員達は何事かと小さくざわめいた。
 耳打ちで報告を聞いたパトリックは、確認するかの様に小声で聞き返す。

「……それは本当か?未だ確認は取れて無いのだな?」

 パトリックはメモを受け取り、姿勢を正すと力強い声で全議員に向かって告げる。

「……失礼しました。採決の前に報告があります。未確認ですが、ラクス・クライン嬢らしき人物が地上にて確認されたとの報告が上がってまいりました」
「――そ、それは本当か、パトリック!?」

 パトリックの報告を聞き、ラクスの父親であるシーゲルは思わず席を立って、興奮した顔で聞き返した。

「未だ詳しい事は分かってはおりませんが、どうやら地球軍の新鋭艦に救助された模様で、現在、地上部隊が地球軍艦と一時的に停戦を結び、こちらの時間で今夜、DNA鑑定を行う予定となっております。怪我も無い様で、ほぼラクス・クライン嬢と判断して良いとの報告です」
「……ああ、ラクス」

 続けられるパトリックからの報告に、シーゲルは涙を流して娘の無事を喜んだ。
 死んだと思って諦めていた愛娘が生きていのだから、そのシーゲルの様子に議員達は、それぞれ涙を流したり、シーゲルに歩み寄り声を掛けたりと喜びを表している。

「それから報道ですが未確認の為、身柄の確保が出来次第、発表と考えております。軍としましては、早急に身柄確保の為に全力で対応する所存です」

 それを冷ややかな目で見つつも、パトリックは言葉を続け言い終えると「無事で良かったですな」と事務的にシーゲルへ告げた。
 だが、この興奮状態の中、誰もがそんな素振りに気付く事は無かった。

「……パトリック、娘を……ラクスの事を無事に……よろしく頼む」
「……分かっております」

 シーゲルが頭を深々と下げると、パトリックは事務的ながらも力強く頷いた。
 その後、最高評議会はタッドの案を採択して閉幕すると、再び議員達はシーゲルに喜びの声を一言掛けてから議場を後にして行った。
 他の議員達が出て行った、その場にはパトリックとシーゲル、二人だけが残された。

「……パトリック」
「議長、なんでしょうか?」
「重ね重ね、ラクスの事をよろしく頼む。何としても助けてやって欲しい」

 シーゲルはパトリックに歩み寄ると、手を取って再び深々と頭を下げた。それは評議会議長と言うよりも、娘の無事を願う一父親としての姿であった。
 パトリックは片手でシーゲルの肩を叩くと、古い友人としての一面を見せる。


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「……分かっている。アスランの嫁でもあるのだ、私に取っても他人事では無いからな。我々も全力を尽くす、心配するな」
「……済まない」

 シーゲルはパトリックの言葉に目を赤くしながらも頷いた。
 パトリックはそれ以上、馴れ合うつもりは無く、議会で決まった地球側との交渉について口を開いた。

「……それよりも、地球側との交渉はどうするのだ?極秘裏に行うのであれば、マスコミに知られる訳には行くまい」
「ああ、交渉は私が自ら行おうと思う。マスコミには何とでも理由を吐けるさ」

 シーゲルは内容が内容だけに、父親から評議会議長の顔へと表情を一変させた。
 議長の立場にありながら、下交渉に自ら出向くなどと言うシーゲルに、パトリックは呆れながらも、内心で余計な護衛を出さなければならない事に眉を寄せた。

「……自ら出向くならば、少数ながらも守りも必要になるな」
「……それは、ユウキ君に頼もうと思う。パトリック、構わないか?」

 シーゲルはシーゲルで、内心、この交渉を足掛かりに停戦、または休戦を結ぶと言う目的があり、自分に取って都合の良い者達を揃えようと考えおり、ユウキを使う事を公言するかの様にパトリックに聞き返した。

「元々、FAITHは議長直属のだろう。先日は力を借りたが、本来は私がどうこうの出来る訳では無いからな。最もユウキが出るのならば、他の隊に出番は無い。私は軍本部に戻る。それではな」

 旗色の良いパトリックに取っては、シーゲルやユウキなどどうでも良く、今はラクス・クラインを救出し、民衆の支持を得て更に勢いに乗る事が議長の椅子への近道だった。
 その為にはシーゲルやユウキよりも、アマルフィ家にいる連合事務次官の娘の方が使えると言う物だ。
 パトリックは口元を歪ませる様に冷たい笑みを湛え、踵を返し議場を後にした。


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 砂漠は既に月が昇り、もうすぐ深夜と言われる時間に差し掛かっていた。
 アークエンジェルの一室、キラの部屋では夜中にも関わらず明かりが点り、ベットの上で膝をつき合わせる様に正座で座るキラとラクスの姿があった。
 何故、こんな事になってしまっていると言えば至極簡単な事で、キラがラクスに謝る事をミリアリアと約束をしたにも関わらず、その機会が今の今までやって来なかった為だった。
 結局の所、業を煮やしたラクスが押し掛けて来たと言う訳だ。
 寝ていた所を叩き起こされたキラは、Tシャツ姿で身を小さくしながら俯き気味に言った。

「……えっと、ラクス」
「はい、何ですか?」

 ラクスはニコニコと笑みを浮かべて小首を傾げるが、その視線は決してキラの顔を外す事は無かった。
 常に突き刺さる視線にキラはドギマギしながら、顔を背けながら口を開く。

「……だから……そんな、見詰められても……」
「キラ、お話をする時は目を見て話す物ですよ!」

 ラクスはキラの言い様に笑みが固まると、キラの事をビシッと指差してお説教するかの如く声を上げた。
 迫力は無いのだが笑顔は消え、明らかに不満そうな表情を見せているラクスの変わり様に、キラは思わず姿勢を正した。

「……は、はい。ご、ごめんなさい……」
「それでですね、どうして私を避けていたのですか?」
「いや、だから、それは……」

 ラクスが問い質すと、キラは再び同じ様に顔を逸らした。
 何度言っても同じ事を繰り返すキラに業を煮やしたラクスは、両手をキラの頬に添えると無理矢理、自分の方へと向けさせて言った。

「ですから、目を逸らさないでください!」
「ぅわっ!?ゴ、ゴメン!」

 両手で顔を掴まれ、プリプリと怒るラクスの目の前にして、キラは慌てながらも再び謝った。
 が、怒りは収まらないのか、ラクスはそのままの体勢で静かに自分の想いを口にする。

「……私、少し怒ってますの。キラ、分かりますか?私を避けていた理由を仰ってください」
「は、はい。……ご、ごめんなさい!だ、だから、えっと……」
「むーぅ!謝ってばかりで、誠意が感じられませんわ!どうして理由を教えてくださらないんです!本当は私の事が嫌いなのですか!?」

 窄む様に言葉が出て来なくなるキラに、ラクスはとうとう頬を膨らますと、顔を挟んだままの両手を、まるでイヤイヤするかの様に左右に振りながら叫んだ。
 正座をしている上に、頭を振り回されるキラは堪った物では無く、突然の事に悲鳴を上げる。


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「あわっあぁぁ……!ラ、ラクス、お願いだから、嫌いじゃないから!ちゃんと話すから手を離して!」
「……本当ですね?」
「はぁはぁ……う、うん」
「……分かりました。それでは理由を教えてください」

 息も絶え絶えのキラは詰問に頷くと、ラクスは両手を離し背を正してジッとキラを見詰めた。いや、睨んだ。
 キラは一度、深呼吸をするとゆっくりと口を開く。

「……ふぅ。えっとね、ぼ、僕はラクスに……あ、あんな事をし、しちゃって……それで……」
「だから、お顔を逸らさないでください!何度言ったら、分かってくださるんですか!」

 言う事に顔を赤く染めるキラは、やはり言葉が窄んで行き、ラクスは足元のベッドをボフボフと叩いて再び怒った。
 そんな事が数回繰り返され、キラの言いたい事が途切れ途切れではあったがラクスへと伝わり、お説教の様な雰囲気がようやく払拭された。

「……えっと、それは……キラは私の事を好きでいてくれてると言う事ですか?」

 きょとんとした表情で小首を傾げたラクスは、聞いた事を頭の中で整理すると、顔を真っ赤にしたキラに聞き返した。

「う、うん!」
「私、嬉しいですぅ!私もキラの事が大好きですわぁ!」

 キラは顔を真っ赤に染めながらカクカクと頭を動かして頷くと、先程の事が嘘の様に、ラクスは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
 ちゃんと自分の気持ちが伝わっているのかキラ心配になりながらも、もう一つの有るべき事実を口にする。

「あ……ぼ、僕もだけれど……、ラクスにはアス……婚約者が……」
「アスランですか?……私、アスランも大好きですけれど、お友達と言った感じで……ちゃんとしたキスは……キラが初めてですわ……」
「そ、そうなの!?」
「はい!」

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに答えるラクスの言葉に、キラは目を丸くして驚くと、目の前の少女は屈託の無いはにかんだ笑みを湛えて頷いた。
 事実、プラントに居る時、アスランは挨拶程度のキスばかりで、ラクスに対してそれ以上の事をしなかった。
 どう言う形であれ、キラが直接的な行動を取った為に、ラクスはアスランよりもキラに男性を感じたと言う事と、アークエンジェルに助けられ、意外にも充実した日々を送り、その中の触れ合いでキラの優しさを知ったと言う事も要因ではあるだろう。
 ラクスはキスをされた時の事を思い出しな、再び頬を染めた。

「最初は訳も分からなかったですけれども……キラが私をおいて行ってしまわれた時には……」
「……あの時は本当にごめん。みんなも大切だから……」
「分かっています。……キラ、私、アスランと会いましたら、この事を正直にお話をするつもりでいます」
「ええっ!?ほ、本当に……?」


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 予想もしなかったラクスの発言に、キラは思わず狼狽えた。
 まさかキラが、そこまで狼狽えるとは思っていなかったのだろう、ラクスの顔からは笑みが消え、不安そうな表情が浮かんでいた。

「……もしかして、お嫌ですか?」
「……ううん。ごめん、そんな事無いよ。だから、そんな顔しないで」

 自分の態度が目の前の少女から笑顔を消し去ってしまったのを悟ったキラは、精一杯の笑顔を作りながら答えた。
 そして、キラの言葉を聞いたラクスは笑顔を取り戻すと頬を染め、真っ直ぐ見詰めながら頷くと、女性なら一度は夢見る願いを口にする。

「キラ、お願いがあります。あの……戦争が終わりましたら、私を……私を迎えに来てくださいますか?」
「ええっ!?」

 キラは再び狼狽えると、ラスクの顔からは笑顔が消え、その瞳が潤み始めた。
 高々、キスをしただけで、ここまで話しは飛ぶとは思いもキラも思わなかっただけに、狼狽えるのも当たり前ではあったが、今にも泣き出しそうなラクスを見て、そんな事も思っていられなくなった。そして、ラクスの頬を涙が伝うと、何故、あの時キスをしたのかを思い返した。
 確かにアスランに対しての嫉妬と言うのもあったが、自分自身がラクスの事を手に入れたいと思ったのは事実だった。ましてや、目の前の少女に好意を抱いてなければ、あの様な事はしない。

「……あっ!……駄目だ、僕はこんな時に!」

 己の甲斐性の無さに、キラは髪を掻き毟りながら自分の事を責めた。
 キラがそうしている間にも、ラクスの涙は流れ続ける。
 自分の想いに覚悟を決めたのか、キラは突然ラクスを抱きしめると捲くし立てる様に告げた。

「泣かしちゃってごめん!必ず、絶対に迎えに行くから!だから、それまで待ってて!」
「ふぇ!?……ほ、本当ですか!?」
「うん、絶対に迎えに行くから!」
「……はい。お待ちしていますから……必ず生きて……私を迎えに来てください」

 キラの腕の中で、ラクスは声を震わせながら喜びの涙を流した。

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