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83 ◆T6gGtxaJhA氏  『ガンダムSEED D NT's』

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第3話「ニュータイプ」(前編)


「ロアノーク大佐」

連合軍艦ガーティ・ルーのブリッジに入って来る連合軍大佐ネオ・ロアノークに、同じく小佐にしてガーティ・ルーの艦長でもあるイアン・リーが気付いて声を掛けた。

「どうした、イアン?」

ネオの被る仮面――いや、兜と言った方が正しいのかもしれない――で表情は見えないが、彼の声は明るい。
色々と計算外の事態こそあったものの、アーモリーワンにおける新型MSの強奪作戦は概ね成功であったと言える。
ネオの機嫌も良くなるというものだ。自身も肩の荷が降りた事を実感しながらイアンは頷いた。

「スティング達三人の『調整』が終了しました。大佐に会いたがっていますよ、特にステラが……」
「ああ、そうか。じゃあ行って来るよ。悪いが、しばらく頼むぞ」
「了解しました。三児の父は大変ですな」

冗談混じりに言葉を交わし、イアンは敬礼の姿勢をとった。
 第81独立機動群、通称「ファントムペイン」の一隊を率いるネオには、常に少なくない心労が掛っている。
ファントムペインのスポンサーとも言える「ブルーコスモス」、そしてその母体である軍需産業複合体「ロゴス」のプレッシャー然り、これから会いに行く愛すべき問題児達もまた然り。
 ネオは自分の頬が緩んでいるのを感じた。
ファントムペインをファントムペインたらしめている彼等にこうも愛着が湧くとは思っていなかったが、馴染んでしまえば可愛らしいもので、こうして会いに行くのが楽しみになっている。
今頃は大好きなバスケットボールでもしているんだろう。

「ネオっ!危ねぇ……」

ネオの予測は的中した。ただし、顔にボールをぶつけられるというおまけ付きで。

「あっちゃ〜……悪い、ネオ」

仮面のお陰で若干衝撃は和らいでいるが、それでも痛いものは痛い。彼等――「エクステンデッド」の投げたボールなら尚更。

 「エクステンデッド」――。彼等はブルーコスモス、及びロゴスの所有する養護施設の出身であり、戦争の為の英才教育を受け、精神操作を中心とした「強化」を施された人間である。


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エクステンデッドの前身である「ブーステッドマン」と比べて身体能力は落ちるものの、比較的精神は安定し、より軍事的行動に従事し易くなっている。

「痛いぞ、アウル」

言葉と裏腹に気分は軽い。ボールをぶつけた水色の髪の少年、アウル・ニーダも悪いとは言いつつもニヤニヤと笑っている。

「ネオ〜!!」

続いて飛び付いて来た金髪の少女。ガーティ・ルーに乗る三人のエクステンデッドの中で、最もネオに対する依存が強いステラ・ルーシェだ。
 自分にくっついて離れないステラの頭を撫でていると、娘を持つ父親とはこんな気分なのか、と思わされる。

(イアンが「三児の父」だなんて言う訳だ)

片手にボール、片手にステラの頭という体勢のままで周囲に目をやる。すると、ゆっくりとこちらへ向かって歩いて来る緑色の髪の少年を見付けた。

「やあ、スティング。」

ボールをアウルに投げてやり、空いた手でスティングに手を挙げた。

「やあ、じゃねーよロリコンオヤジ」
「なっ?!俺はロリコンじゃないしオヤジでもないぞ!」

スティング・オークレーの暴言に反論しつつも反射的にステラの頭を撫でる手を離す。
が、気付いた時にはスティング、アウルの白い目が、そして急に頭を撫でる手を離されて気持ち良さそうに細めていた目を潤ませてこちらを見上げるステラが。

「……」

嫌な沈黙が漂う。しかし。

「……ぶはっ!!」

堪えきれなくなったのか、アウルが吹き出した。

「……くっくくく……はははは、あはははは!!」
「ぶはははは、あっはははははは……あーおっかし……」

堪えきれず大声で笑うスティングとアウル。何故二人が笑っているのか分からずきょとんとしているステラ。呆れ半分、楽しさ半分で仮面の下で苦笑いするネオ。

「ネオ、スティング、ステラ!2on2やろうぜ!」
「何?俺もか?!」

俺には仕事が、と言いかけたネオを尻目に、三人の少年少女は駆けていく。そこには年相応の――戦争に関わっていなければ当たり前に見られた筈の――笑顔があった。


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少し長い話になります。そう前置きしてカミーユが話し始めたのは、カミーユが「こちらの世界」にどうやって来たかという事だった。


「……ふぅ。」

第二次ネオ・ジオン抗争が終結してから二週間後、月面都市フォン・ブラウンのとあるアパートの一室で、カミーユは溜め息を吐いて目頭を押さえた。

「カミーユ、そろそろ休憩したら?もうずっと勉強し続けてるじゃない」

カミーユに優しく声をかけたのは彼の幼馴染みのファ・ユイリィである。
 第一次ネオ・ジオン抗争が終結とほぼ同時期にカミーユの精神が回復して以来、カミーユとファは医師を目指して勉強していた。
 とは言え彼等の家族はグリプス戦役の初期に亡くなっているので、自分達で生きていかなければならなかった。二人は力を合わせて生きていく事を決め、お互い昼間は働き夜は勉強という過酷な日々を送っていた。
 そんな過酷な毎日の中では貴重な休日。カミーユとファは午前中に買い物を済ませ、それからずっと勉強していた。

「うーん……、そうだな。ファも休めよ」
「そうね、じゃあそうするわ。何か飲み物飲む?」
「いや、良いよ。俺、ちょっと散歩してくる。足伸ばしたいしさ」

カミーユは立ち上がった。長い事座りっ放しだったせいで、膝が痛い。

「そう。あんまり遅くならないでね」

笑って送り出してくれたファを背に、カミーユは部屋を出た。

フォン・ブラウンの街並みを眺めながら、いつもと変わらない散歩道を歩く。10分程歩いた頃、カミーユは人波の中に懐かしい顔を見た。

「あれ……ウォンさん?!ウォンさんですよね?」

見付けたのはアナハイム・エレクトロニクスに勤めるウォン・リー。
 エゥーゴに対して出資をしていたアナハイム・エレクトロニクスはエゥーゴの戦艦アーガマに彼を乗せ、出資者としての立場から色々と注文をつけては煙たがられていた。
そんな彼にあまり良い思い出は無い。彼に窮地を救われた事もあるが、カンフー仕込みの彼の拳を嫌と言う程浴びた事もある。
 しかし、数々の戦友と死別し、エゥーゴを離れた今となってはそれすら懐かしい。高圧的な人物ではあったが、今のカミーユはウォンに対して悪い感情は持っていなかった。


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「……まさか、カミーユ・ビダンか?回復していたのだな」
「はい、お久しぶりです。その節はご心配をおかけしました。ところで、お仕事中ですか?」

ウォンは尊大な態度で頷いた。

「ああ、そうだ。あの頃は言い訳がましいガキだと思っていたが……挨拶位は出来る様になったのだな」

少し柔らかくなった。カミーユは今のウォンをそう評した。カミーユにはウォンの尊大な態度が彼なりの照れ隠しに見えたのだ。
そのウォンが、はっとした様に口を開いた。

「そうだ……今、時間は空いているかね?」

奇妙な質問だった。空いていると言えば空いているが、ウォンの方こそ仕事中であると本人が認めているにも関わらず、何を言っているのか。

「ええ、空いてはいますが……」

余り遅くなるとファが心配する。そう分かってはいたものの、ウォンの奇妙な質問に好奇心をそそられ、気付いた時にはそう答えていた。

「そうか。実は見せたい物がある。偶然とは言えこうして会ったのだからな」
「……?」

カミーユはウォンに手招きされ、車に乗り込んだ。車中、ウォンが呟く様に語り始めた。

「クワトロ大尉が――いや、シャア・アズナブルが起こした第二次ネオ・ジオン抗争、あれがどうやって終わったか知っているかね?」
「どうやって……ですか?」
「うむ、シャア・アズナブルがアクシズを落として地球寒冷化を図ったのは知っているだろう」
「ええ」

カミーユは頷いた。正直な所、カミーユとしては信じたくなかった。しかし、現実にシャアは連邦政府を騙してアクシズを落とそうとし、ブライト・ノアやアムロ・レイといったロンド・ベル隊が孤軍奮闘していた事も確かなのだ。

「なんで……あんな事をしなければならなかったのでしょうか?」
「さて、な。あの男が何を考えてあんな事をしたかは分からん。が、どうやって終わったかなら知っている」
「……」

何故?カミーユはその言葉を飲み込んだ。次にウォンが語るのは核心の部分、カミーユを何処かへと連れて行こうとする理由だ。
カミーユが知っているのはアクシズは結局地球に落ちなかった事と、アムロとシャアが行方不明である事。


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最近テレビでは盛んに「伝説のニュータイプ戦士アムロ・レイ、地球を守って命を散らす」とか「連邦最強のニュータイプ戦士がジオンの野望を阻む」などとのたまっている。
しかし結局二人が「どうなった」かについては、死んだかうやむやにされるかのどちらかで、どうも要領を得ない。

(知っているのか……この人は?)

「じきに着く。そこで説明しよう」
「はあ……あ、そう言えばこの車は何処へ向かってるんです?」
「ああ、言ってなかったな。アナハイムの工場区だ」

やがて車は停止した。
「着いたぞ、付いて来い」

さっさと車を降りて歩き出すウォン。慌てて追うカミーユ。ノーマルスーツを着込んでやって来たのは工場区の一角。

「お待ちしてました、ウォンさん。技術主任のオクトバー・サランです」

一人の男がウォンに頭を下げた。

「ああ、聞いている。ところで、『あれ』は?」
「サイコフレームが非常に不安定です。何か起こるとも思えませんが……ところで、そちらは?」
「ああ、私とアムロ・レイの共通の知人でね。『あれ』を見せてやりたいのだが」
「正直、駄目だと言いたい所ですが……」
「分かっている。この事は他言無用で頼むぞ」

カミーユはまたも違和感を感じた。この男は一体何を見せようとしているのか?

「ウォンさん?」

ウォンは何も言わず、そのままオクトバーに付いて行く。やがて辿り着いたのは一枚の扉。オクトバーがパネルを操作し、軽い音を立てて扉が開く。

「この中です」

何が?と聞きたくなるのを抑え、扉の中を覗き込んだ。そこにあったのは――

「ガ……ガンダム?!」

そう、そこに佇んでいるのはかつてのRX-78-2に良く似ている、第二次ネオ・ジオン抗争に現れ奮迅の如き働きを見せ、挙げ句の果てにアクシズをも押し戻したMS。


ええ、とオクトバーが誇らしげに言った。

「RX-93、νガンダムです」

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