もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


83 ◆T6gGtxaJhA氏  『ガンダムSEED D NT's』

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第3話「ニュータイプ」(中編)


「ニュー……ガンダム……?」
「ええ、RX-93νガンダム。アムロ大尉の乗機ですよ。同型機ではなく、正真正銘のね」
「アムロさんの……じゃ、じゃあ、アムロさんは?!」
「さあ……そこまでは。我々は連邦軍が回収したこの機体を修復、調整する様依頼されただけですので。
なにぶん損傷が酷かったんですが、まあ何とか修復は出来ましたよ。ただ、連邦軍がこの機体を回収した時、コクピットは空っぽだったらしいです」
「空っぽ……」

カミーユは愕然とした思いだった。アムロが行方不明。それも宇宙空間で。ほとんどの場合、それらが指す事実は……

「アムロさん……じゃあ、やっぱり……」
「今はマニピュレータの調整をしてるんです。ほら、向こうのラックにバズーカやらシールドやらあるでしょう?
今はビームライフルを持たせてるんですけど、各武装を持たせてそれらの重さを……」

呟くカミーユに全く気付かないオクトバーは勝手に話を進めていく。

「……後はビームサーベルを抜かせてみたり、色々な動作を試さないと。
そもそもこのνガンダムがこちらに回されて来た時にはそれはもう酷い状態でしてね。
あちこちボロボロだしビームライフルは無いわカスタム・ビームサーベルは無いわシールドは無いわフィン・ファンネルは無いわ……」

カミーユは殆んど聞いていなかった。しかしオクトバーはそれに気付かない。

「残っていたのは予備のビームサーベルとバルカンの弾が少し、後は何処から持ってきたやらビームマシンガンが……」

ここでようやくオクトバーはカミーユが自分の話をロクに聞いていない事に気付いた。

「あの……?」

オクトバーの呼び掛けにも気付いていないのか、カミーユは目の前に佇むνガンダムを一心に見上げている。

「どうかしまし……」
「あの!」

カミーユが突然口を開いた。


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「ど、どうしました?」
「無理を承知でお願いします。あのνガンダムに俺を乗せて下さい!コクピットに入るだけで良いんです!動かしたりはしませんから……」

突然のカミーユの言葉にオクトバーは仰天した。

「それはさすがに……と言うか、無理ですよ!仮にも連邦軍所属のMSなんですから!本当ならこうして民間人の方に見せる事自体が問題なんですよ?」
「それは重々承知しています。でも……」

カミーユがオクトバーに食い下がらんとしている時、黙っていたウォンが不意に口を開いた。

「彼を乗せてやってくれんか?」
「ええ?!」

オクトバーは再び仰天した。何処の馬の骨とも分からない民間人に最新鋭の軍機を見せ、挙げ句の果てにはそれに乗せろと言う。オクトバーの驚きは当然だった。

「ウォンさん……さすがにそれは駄目ですよ。いくらウォンさんの頼みでもこれは無理です」
「彼はニュータイプでね」
「え?」

ニュータイプ。
ジオン・ダイクンの唱えた「人類の革新」である。その存在は一年戦争等を通して実証され、その最たる青年が今ここにいる。

「ニュータイプ……まさかフィン・ファンネルの調整を?!そんな事……」
「そういう事ではない。それに彼はMSに関しても素人ではない。かのZガンダムの基礎設計をしたのは彼なのだからな」

かつてのグリプス戦役で、エゥーゴの象徴として最前線で活躍したMSである。
その後はZプラスシリーズ、ZZ、リ・ガズィ等といった派生機を生み出し、連邦系の「エースパイロットの乗機」としての地位を確立した機体である。

「カミーユ、君はあの機体に何かを感じるのだな?」
「はい、はっきりとはしませんが……」

ウォンはもう一度、オクトバーに向き直った。

「さっきも言った通り、彼はMSに関しても素人ではない。そう無茶はせんだろう。すまんが、頼む」

オクトバーはしばらくの間黙りこくっていたが、やがて盛大に溜め息を吐いた。


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「いいですか、今さっき火器管制をロックしました。でも、絶っっっっっっ〜〜〜〜〜対に妙な所を触らないで下さいね?!
あなたが言った通り、リニアシートに座るだけですよ?!良いですね?!!」

オクトバーにこれでもかと念を押され、カミーユはゆっくりとコクピットに入り、リニアシートに座った。

(アムロさん……確かに、ここにいたんですね。けど何だろう。アムロさん一人じゃない、もっと沢山、大勢の人の……とても力強い、暖かい意思を感じる)
「?」

オクトバーが怪訝な顔をした。見ればνガンダムが淡く発光している様に見える。

「νガンダムが……?」

カミーユはコクピットの中で目を閉じた。νガンダムのサイコフレームがカミーユのニュータイプ能力に共鳴し始める。
閉じた視界の中、カミーユは一羽の白鳥を見た。

(あなたは誰ですか?)

白鳥はカミーユの側にふわりと舞い降りた。

(二人を探しているのね)

優しい声だ。

(二人って……アムロさんと大尉を知ってるんですか?)

白鳥が女性になった。同時に光が二人を包む。

(シャアと二人で、アムロを助けてあげて)
(?!どういう……うわっ!)

光はどんどん強くなり、遂に全て真っ白になって何も見えなくなった――。



「核融合炉に、全天周囲モニター……」
「こんな技術、連合にもザフトにもオーブにもないですね」
「オーブはどうか知りませんけどね……まあ少なくとも今まで見た事は無いわ」

デュランダル、アーサー、タリアの言葉である。

「オーブにもこんな技術は無いだろう……しかし、ますます別の世界というのが現実味を帯びてきたな」

タリアの半ば言い掛かりとも取れる言葉にデュランダルは苦笑した。この場にあのじゃじゃ馬姫が居なくて本当に良かったと思う。
そこでカミーユが思い出した様に顔を上げた。

「そう言えば……核融合炉と聞いて驚かれていましたけど、こちらの世界のMSの動力源は何なんです?」
「こちらでは核融合炉は実用化されてなくてね、基本的にバッテリーなんだ」
「なっ……バッテリー?!」


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アーサーの言葉にカミーユはあんぐりと口を開けた。
何しろU.C世界のMSは文字通り全て核融合炉を搭載しており、それ以外の動力でMSが動くなんて考えた事も無い。

「まあ……これで君が別の世界から来たという事もある程度信用出来ると分かった訳だが……君はどうするつもりかな?」

どうする、というのはこれからの事である。

「正直、どうすれば良いのか分かりません」

これはカミーユの本音である。別の世界で自分の戸籍も無い状態では働く事すら難しい。
 デュランダルはその答えが返って来るのを待っていたかの様に、すぐに口を開いた。

「ふむ……。一つ確認したいのだが、このMSは君の機体ではないのだね?」
「ええ、さっき話した通り俺は今軍人ではありませんし、このMSも俺の知人の機体です」
「ならば君はこのMSの事を完璧に把握している訳ではないのだね?」

カミーユはデュランダルの言わんとしている事を理解した。

「解析させろ、という事ですか」

確かにデュランダルにとって、核融合炉を搭載したMSの技術は喉から手が出る程欲しいだろう。しかし。

「俺とこのMSは別の世界のものです。みだりにこちらの世界に干渉する様な事は……」

「ならば君はどうする?」
「どうする、とは?」

デュランダルは穏やかな笑みを湛えているが、カミーユの感覚に引っ掛かるのは利己的、打算的な感情。

(政治家としては当然かもしれないけど……)

「君は戸籍も市民権も持たない、文字通り存在しない筈の人間だ。
君としては一刻も早く元の世界に帰りたいだろう?ならば君がこちらに来る原因となったあのMSを解析してみるのが今すべき事ではないのかな?」

正論ではある。しかし、それではU.C世界の技術がこの世界に流出してしまう。

「あなたの仰っている事、確かに正論ですよ。でもね、あなたは解析した技術を必ず転用するでしょう?そうと分かっていてこの機体を預ける訳にはいきませんよ」


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第一、技術形態が大きく異なるこの世界の技術者が、このνガンダムに使われている技術を解明出来るのだろうか?
 そこまで考えて、カミーユはデュランダルの笑みが大きくなっている事に気付いた。

「では、このMSを解析してもその技術を軍事的に転用する事はしないと誓おう。誓約書を書いても良い」
「?!それは……いや、それより軍事的にというのは?」
「アスランから『ニュートロンジャマー』(以下Nジャマー)の事は聞いているかね?」

聞いている。核分裂を抑制する兵器であり、それを地上に投下したプラントの軍事作戦によって地球の国々が深刻なエネルギー不足に陥り、膨大な死者が出たという。

「ええ、聞いています」
「そうか。Nジャマーが抑制するのは核分裂であり、核融合は抑制出来ないのだよ。つまり……」
「核融合炉の技術をエネルギー問題の解決に、そしてそれを外交カードとして使えるという事ですか」

ゆっくりとデュランダルは頷いた。
 本来こちらの世界に干渉するという意味で考えれば、あらゆる面での転用を何としても避けたいところである。
しかし、エネルギー問題の解決ともなればそれは人助けにも繋がり、この男は形はどうあれそれをしようとしている。

(しかし、信用して良いのか?)

「そして、君の身分もザフトにおいて保証しよう」

この一言に、カミーユはおろかタリアやアーサーまでもが反応した。

「ええええ?!」
「議長、それはどういう……」
「タリア、彼は前大戦の英雄やアカデミーを出たばかりとは言え最新鋭の機体に乗ったザフトレッドを苦しめたテロリストを圧倒したのだろう?」

少なくとも私はそう聞いている。デュランダルはそう言うと、カミーユに向き直った。

「私にとっては君の機体も魅力的だが、MSパイロットとしての君の腕も魅力的なのだよ。
どうだね、カミーユ・ビダン君。もちろんそれなりの待遇はさせて貰うし、MSもこちらで用意しよう」


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カミーユはもうパイロットをやる気は無かった。しかし、その気が無くとも他の選択肢も無い様だった。少なくとも目の前の男は他に選択肢を用意していない様に感じられる。
 分かりました、やりますよ。カミーユがそう言おうとした時だった。

カミーユの脳裏に閃光が疾る。

『艦長!』
「何、どうしたの?」
声がしたのはテレビモニターである。映っているのはメイリンだ。

『たった今、MSの脱出ポッドらしきものを確認しました。光学映像、回します』

そこに映っているのは確かにMSの脱出ポッドである。
 突然、カミーユがνガンダムに向かって行った。

「ちょっとあなた!」
「回収してきます!俺はまだザフトじゃないんですから、命令を聞く必要は無いでしょう!」

タリアは絶句した。まさかこうも利かん気が強いとは思っていなかったのだ。こんな人間が新しく自分の部下になるかもしれないと思うと頭が痛い。
本来、軍艦の中で民間人が勝手な行動をとる事は許されない。しかし、この世界に存在しない筈のカミーユはその「民間人」の範疇にすら当てはまらない。
 タリアは恐らく人生の中でも最大級と思われる溜め息を吐くと、腹筋に力を込めた。

「MSが出るわ!退避して!」



カミーユはνガンダムでゆっくりと脱出ポッドに近付いていく。

(この感じ、まさか)

その時、通信機から懐かしい声が聞こえた。

『まさか……まさかお前が来るとはな!何をしに来た!笑い物にでもしに来たのか?』
(間違い無い、あなたは……)

『随分と長らく会っていなかった様な気がするな……アムロ!』
「……」

カミーユは通信機越しにも聞こえる様に思い切り溜め息を吐いた。

「残念でしたね。違いますよ」
『?!』

カミーユと比べて微弱ではあるものの、この男――シャアもニュータイプである。とは言え、声を聞くまでアムロだと思い込んでいた辺りはどうしようもなく間抜けだが。

『まさか……カミーユ?!カミーユ・ビダンか!』
「こんな所で何やってるんです、クワトロ大尉……いや、シャア・アズナブル」

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