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83 ◆T6gGtxaJhA氏  『ガンダムSEED D NT's』

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第3話「ニュータイプ」(後編)


「それで?」

怒りを隠そうともしないタリアの声に、カミーユはギクリと肩を震わせた。
 カミーユは困っていた。第二次ネオ・ジオン抗争の事を話した以上、「シャア・アズナブル」と「キャスバル・レム・ダイクン」の名を出すのはまずい。
かと言ってもう「クワトロ大尉」とは呼びたくない。

「ええと……この人は俺の、いえ、僕の世界の人間でして」

阿修羅と化したタリアの顔に恐怖したカミーユ。思わず言葉遣いを改め、一言一言細心の注意を払って言葉を選ぶ。
 一方、脱出ポッドから出てきた男――「ジオンの赤い彗星」ことシャア・アズナブルは、赤いザク・ウォーリアに夢中だった。
その様子を一瞥し、タリアは怒鳴りたいのを堪えて低い声でゆっくりと言葉を紡ぐ。

「で、あなたは?カミーユの知り合いなのよね?」

低い声に振り向いたシャアはにこやかに微笑むと、カミーユの肩に手を置いた。

「ええ、カミーユからグリプス戦役の事は聞いておられますか?」
「聞いていますが」
「それは良かった。私もグリプス戦役をカミーユと同じ部隊で戦っていました」

(よくもまあぬけぬけと)

渋い顔をするカミーユを尻目に、シャアはそのままの体勢で語り続けてタリアに話す隙を与えない。

「……というのも私もMSパイロットでしてね、まあ自慢出来る程の腕ではありませんが」
「あ……あの……」
「それにしてもあのザクは素晴らしい。しかしこちらの世界にもザクがあり、それが最新鋭の機体とは凄いですな……失礼、何でしょう?」

タリアはややげっそりとしながらも、ようやく話を止めたシャアに向き直った。

「カミーユにも色々と聞いてはいるのですが、改めて話を伺いたいので艦長室までお願いします。プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルがお待ちですので」

その言葉にカミーユが周りを見回すと、いつの間にかデュランダルがいなくなっている。どうやらカミーユがνガンダムに乗って出ている間に引っ込んでしまった様だ。

「グラディス艦長、僕も同行してよろしいでしょうか?先程の返答をしそびれてしまったので」
「構わないわ」
「ありがとうございます」

(まあ、あの人の話の内容もカミーユとそう変わらないでしょうね。アーサーにはブリッジにいてもらおうかしら)

タリアはアーサーにブリッジを任せ、再び艦長室へと足を向けた。


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「……シャア・アズナブル?」

言ってしまった。四つも名前を持っている癖に最も言うべきでない名前を言ってしまった。
 第二次ネオ・ジオン抗争の事を自分が議長達に話した事も予想出来たろうに、言えば間違い無く危険人物扱いされる事も分かっていただろうに。

「それって確か、小惑星を地球に落とそうとした人の名前じゃないかしら?」

恐る恐る、といったタリアの言葉もどこ吹く風、ええ、と軽い調子で頷くシャアにカミーユは頭を抱えた。
 どこか楽しそうなシャアとデュランダル、頭を抱えるカミーユとタリアといった妙な構図が出来上がったが、二人は意に介さずそのまま話し込んでいる。
 すると、シャアがおもむろに口を開いた。

「議長閣下、私をザフト軍パイロットとして雇って頂きたい」
「……ほう?」

カミーユは薄々感付いていた。シャアと二人でアムロを助ける。どんな状況からどうやって助けるのかは知らないが、自分をこちらの世界へ連れてきたあの声は確かにそう言っていた。
 自分がパイロットに復帰すると決めた以上以上、間違い無くシャアもパイロットとして戦うのだろうと思っていたのだ。

「先程聞いた所によれば新型MSの強奪、更にはテロリストによるコロニー落とし等状況は非常に不安定です。経験の豊富なパイロットは一人でも多い方が良いかと」
「ほう、あなたは余程場数を踏んでこられた様だ。これは頼もしい」

カミーユはシャアとデュランダルのやりとりを見ながら、もしも扉の外でこの会話を聞いている者がいたら独り言に聞こえるんだろうな、等と思っていた。
 その一方、タリアはタリアでシャアの事は議長と自分とアーサー、そしてカミーユの胸の内に留めておこうと思っていた。

(アーサーとカミーユには口止めしなくちゃならないわね)

タリアはまたも溜め息を吐いた。



『何故分からぬか!我等コーディネイターにとって、パトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものだという事を!!』

アスランの頭の中に響く声。

「どうかしてる」

アスランが呟いた。ミネルバ艦長、タリア・グラディスの計らいであてがわれた部屋の中である。


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「?どうしたんだ、アスラン?」

アスランの呟きに反応したのは、弱冠18歳にしてオーブ代表首長を務めるカガリ・ユラ・アスハである。

「いや……なあ、カガリ。もしも、もしもまた戦争が起こったら」

アスランは一度言葉を切った。自分を見つめる金色の双眸を覗き込むと、切った言葉を再び繋ぐ。

「オーブは、中立を貫くんだよな?」

それがオーブの理念だという事は百も承知でアスランは訊いた。そして、返って来た返事は考えていた通りのそのままだった。

「当然だろ?オーブの理念は『他国に侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』だ。もしもまた戦争が起きてもオーブは中立を貫く」

戦争なんて起こらないに越した事無いけどな、と呟くカガリ。そんなカガリから視線を外すと、アスランはまた思考の中に意識を沈めた。

『アスハ代表。ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。議長がお話があると申しているのですが、艦長室に来て頂いてもよろしいでしょうか』

各部屋に備え付けられたモニターからの声。アスランは立ち上がり、モニターの正面に立った。

「代表?」
「ああ、すぐ行く」

アスランは頷き、モニターの向こうに返事を返すと一度大きく頭を振った。

グリップを握って通路を行く。艦長室はそう遠くはない為、すぐに到着した。

「わざわざ来て頂いて申し訳ありません、姫」
「あんな短い距離だ、構わない。が……」

デュランダルは背が高い。カガリは顔をぐいと上げると、少々睨みを利かせた。

「姫というのはやめてもらいたい」
「おお、これは失礼致しました、アスハ代表。それで、お呼び立てした用件なのですが、我々の不手際でアーモリーワンよりこの宙域まで、アスハ代表を引っ張り回す様な結果になってしまいました。」

カガリは顔を上げたままで聞いている。首が痛くならないだろうか、とアスランは思った。


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「それで、御詫びと言っては厚かましいかもしれませんが、どうでしょう。私はこれよりプラント本国へ戻らねばなりませんが、このミネルバでアスハ代表をオーブまでお送りするというのは」

カガリは僅かな間考え込んだ。出来る限りデュランダルに貸しは作りたくないが、今回は相手が自分に過失があると言っている。

(まあ、問題無い……かな?)

カガリはデュランダルの申し出を受ける事にした。



「『赤服』か……」

自分には似合わない。カミーユが最初に抱いた感想はそれだった。

「赤……この軍服、気に入った」

隣では赤が大好きなネオ・ジオン総帥、シャア・アズナブルが赤服を着込んでいる。どちらかと言えば連邦の制服よりもジオンのものに近いそれはシャアに良く似合う。

「パイロットとして復帰するんですね」
「ああ、さっき言った通りだ。しかしカミーユ、君は大丈夫なのか?長い事MSに乗っていなかったのだろう?」

お陰様で、と皮肉を言いたいのを堪え、カミーユはずっと聞きたかった事を尋ねる事にした。

「どうして……どうして、地球潰しなんかやろうとしたんです」

シャアはその質問が来るのを予測していたらしく、さして驚く事も無かった。

「連邦の高官共は自分の立場にしがみついて、自分自身が地球の重力に縛りつけられている事も分かっていなかった。私は彼等に絶望したのだよ、カミーユ」
「だからって!あんな事をしても仕方ないでしょう!」
「誰かがやらねばならなかったのだ。それに地球を潰そうとしたのではない。ちょっと休んでもらうつもりだったのさ」
「あんな物を落として、それが地球を休ませる事になるものか!」

カミーユは大きく息を吸い込み、シャアを睨みつけた。

「ブレックス准将があなたにエゥーゴを託して、全世界の前で自分の正体を晒して、あんな演説までして!
あの戦争で死んだ人達は俺達に未来を託したんだぞ!エゥーゴを率いて戦ったあなたのして良い事じゃない!」

激昂するカミーユに、シャアも平静を保てなくなってきていた。



「それにしても、あの人達何者なんだと思う?」

シン、レイ、ルナマリアがミネルバの通路を行く。


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「さあな、そんな事は艦長に聞けよ」

シンの返事はそっけない。アカデミー時代には「狂犬」とあだ名されたこの少年の頭の中は、これからやりに行くシミュレーターの事で一杯だった。

「あ、そうだ。レイは?議長から何か聞いてない?」

レイには両親がいない。そのため、プラント議長であるデュランダルに引き取られ、彼を保護者として、家族として生活してきた。

「いや、俺もギルと話す時間は無かったし、もうギルも本国に戻らねばならん。残念だが、聞いていないな」
「なんだ、つまんない……あれ、何か聞こえない?」

ルナマリアの耳に入ったのは、何者かが怒鳴り合っている声。

「なんだ、誰が喧嘩してるんだ?」

シンも興味を惹かれたらしい。三人揃って抜き足差し足(とは言っても無重力なので足音も立たないが)、ゆっくりと声のする方へと近付いた。

「グリプス戦役の時でさえ連邦政府は腐敗しかけていたのだ!今の連邦はそれに輪を掛けて悪化しているのだぞ!」
「だからこそあなたは引っ込むべきじゃなかったんだ!大体グリプス戦役の後、あなたは何をしていたんです!俺が長い事療養していたからって、あなたが行方不明になっていた事を知らないとでも思っているんですか!」

ルナマリアが息を飲んだ。

「あの二人って……」
「ああ、何故か赤を着ているな……というより、グリプス戦役なんて戦争、俺は記憶に無いのだが」
「しかも連合じゃなくて『連邦』?大西洋連邦かユーラシアか……?」

ルナマリア、レイ、シンの三人がもう少し近寄ろうと身を乗り出した時、言い争いをしていたカミーユとシャアが同時にそちらを振り向いた。

「うわぁ?!」
「ッ?!」
「あっ?!」

三者三様、驚く三人。

シャアは額を押さえて頭を振り、カミーユは腰に手を当てて呆れ顔をしていた。


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「じゃあ、正式にパイロットに?」
「ああ、まだ正式な手続きは踏んでないけど、よろしく頼むよ」
「私も、この通り赤服となった。よろしく頼む」

それぞれ握手を交わし(シンは若干嫌々だったが)、挨拶が済んだ所でシンが待ってましたとばかりに疑問をぶつけた。

「なあ、さっき言ってた連邦とか、グリプス戦役とかって何だよ?」

シャアとカミーユは顔を見合わせた。それからややあって、カミーユが口を開いた。

「ごめん、今は言えないんだ。いつか必ず話すから、それまで待ってくれないか?」

今話しても信じてもらえない。シャアとカミーユはそう結論付けた。ならば、ある程度信頼を得てから話す。
 シンは余り納得していない様だったが、

「お前が気にしても仕方ないだろう。議長が決められた事だ」

というレイの言葉に渋々ではあったが納得してくれた様だった。
 一方カミーユは、議長が決めた事だ、というレイの言葉に、デュランダルとシャアの話を余り聞いていなかったが一体何を話していたのだろうと思った。

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