もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら まとめサイト


98 ◆TSElPlu4zM氏  『機動戦士ガンダムSEED bloom 』

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 アークエンジェルのブリーフィングルームにはマリュー、ムウ、アムロ、キラが、その反対側にはバルトフェルド、アイシャ、ダコスタが腰を下ろしている。
 最初はまだ和やかな雰囲気だったのだが、この戦争の討論を始めた辺りからピリピリとした空気が漂い始めていた。
 その為か、両軍指揮官達は極力冷静に努めていたが、そうは上手くは行くものでもない。
 この中で特にヒートアップしてしまったのが、ムウとダコスタであり、その二人の罵り合いに近い遣り取りをアイシャは頬杖を着きながら可笑しそうに見ていた。

「――キラや他の協力的なコーディネイターならまだしも、プラントのコーディネイターを信用しろなんて、すぐに出来る訳無いだろっ!」
「そんな事はありません!クライン議長は地球側との話し合いを行い戦争を止めようとしています。歩み寄ろうとしないのは地球側じゃないですかっ!」
「そのクラインがNジャマーなんてもん落としたんだろうが!あれでどれだけの人間が死んだと思ってるんだよっ!」
「地球軍はユニウス・セブンに核兵器を使ったじゃないですかっ!」

 この二人の罵り合いを、何度も止めに入ったマリューは諦めた様に項垂れていた。その反対に座るバルトフェルドの顔には、この建設的で無い罵り合いが「何時まで続くのか」と言った呆れ返った表情が浮かんでいる。
 勿論、バルトフェルドもマリューと共に止めに入り、一度は収まったのだが再びこの様な結果と相成ったと言った所だ。

「罵り合いをしても仕方ないだろう!ムウ、抑えろ!」
「ダコスタ、止めないか!」

 業を煮やしたアムロがムウに自制する様に目を向けると、バルトフェルドもそれに乗り再度止めに入った。

「……分かったよ」
「……申し訳ありませんでした」
「お二人とも冷静にお願いします。……はぁ」

 ムウとダコスタはバツの悪そうな顔で謝罪をすると、マリューが疲れた顔を見せて溜息を吐いた。
 そのマリューの様子を目にしたアイシャは、同じ女性と言う事もあって同情的な態度を見せる。

「苦労してるわね。もう一杯どう?」
「……ありがとう。ここで罵り合っても何も解決しないものね」
「そうね」

 少し儚げに微笑むマリューに、アイシャは頷きながら空のカップへとコーヒーを注いだ。
 その二人の遣り取りを目にしたムウが、首の後を片手で摩りながら口を開く。

「……だから悪かったって。言い合うつもりは無かったんだけどさ」
「私も申し訳ありませんでした……」
「この話は止めにしようぜ。それにしても、砂漠の虎はホント良い趣味してるぜ。済まないけど、俺にももう一杯もらえるかい?」


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 ダコスタも謝罪をすると、ムウが話を切り替え空になったカップを前に差し出した。
 アイシャは軽く頷き、ムウのカップにコーヒーを注ぎ込む。それを見ながらバルトフェルドがムウの方に顔を向けた。

「せっかく地球にいるんだ。誰だって楽しみたいと言う物が一つくらいあるだろう」
「彼には良いのか?」
「いいえ、私は結構です」

 水を啜るダコスタを見てアムロがバルトフェルドに顔を向けるが、当のダコスタは首を振ってバルトフェルドの代わりに答えた。
 雰囲気が戻った事で笑みを見せるバルトフェルドは、背凭れに体を預けるとアムロの問いに答える。

「ダコスタ君はコーヒーが苦手らしいからな。この味が分からないとは勿体ないと思うんだがね」
「そんなに良い物なんですか?私は苦味が苦手で……」
「でも人の味覚なんてそれぞれだからな。苦手なら苦手で良いんじゃないの?」
「そうですよねぇ」

 コーヒーの事で主張をするダコスタを、意外な事にムウがフォローする。
 先程の事があるとしても戦争以外には相容れない訳では無いと言う主張を実践する様に頷くダコスタに、バルトフェルドは苦笑いを浮かべてマリューの方へと顔を向ける。

「まあ、そう言う事だな。エンデュミオンの鷹殿の言う様に、この話はここまでって事で一つ聞きたい事があるんだが」
「何ですか?」
「ラクス・クラインが乗っていた民間船に攻撃したユーラシア艦艇の事さ。君達が討ったんだろう?」
「どうしてそれを!?」

 マリューは事の内容に目を剥いた。
 ユーラシア艦がモニターしていたアークエンジェルやストライクの戦闘記録を、ザフト軍は完全に引き出しているからこそデータがあるのだ。だが、こうなってしまった以上、今更な事でもあった。
 それにザフト軍がユーラシア艦艇との戦闘を知っていると言う事は、アークエンジェルがユーラシア連邦側に逃げる算段が着かないのを知っているのと同義であって、この時点で北に逃げる様に見せるルートが消えた事になる。
 その事でアムロは苦渋の表情を浮かべた。
 ただでさえ連携の上手く行っていない連合組織の内情に、バルトフェルドは口の端を吊り上げてマリューへと答える。

「ああ、味方がユーラシア所属艦を拿捕したそうでね。そうでなければ、この船の名前も知らないままだったさ。差し詰め、君達は正義の味方とでも言えば良いのかな」
「あれは……」
「理由はどうあれ、そのお陰で歌姫が無事だったんだ。重ね重ね感謝に絶えんよ」
「その……ユーラシア艦に乗っていた者達は?」
「さあ、僕には分からないね」


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 マリューが眉を寄せてユーラシア艦の乗組員の事を聞くと、バルトフェルドはただ首を横に振るだけだった。
 その時、突然扉が開き、アークエンジェルの警備兵に伴われたザフト兵士が入って来た。

「失礼します!」
「ん、どうした?」

 バルトフェルドが顔を向けると、兵士は警備兵から離れて歩み寄り一枚の紙を手渡した。

「……何だと、こんな時にか!?」

 紙に書かれている内容に目を通したバルトフェルドは、顔を顰めつつも呆れた様な声を上げた。
 マリューがその様子を見て、不安気に聞いた。

「あの、何か……?」
「ああ、レジスタンスが動いた。彼らには呆れて物が言えん。申し訳無いが、これで失礼させてもらう」
「はあ」
「……そうそう、言い忘れたが、レジスタンスがこの艦に攻撃をしてくる可能性も考えられる。そちらの準備もお願いしたい」

 ザフト軍一行はブリーフィングルームを後にする為に席を立つと、バルトフェルドが思い出した様にマリューに告げた。

「共同戦線ですね……。分かりました」

 マリューは腰を上げ眉間に皺を寄せながらも頷いた。
 アークエンジェル、レセップス両艦は停戦協定に基づき、一時的に共同戦線を張る事となった。


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 レジスタンス“明けの砂漠”のリーダーであるサイーブは、エドルを始めとする、暴走してしまった一部のメンバー達を追い掛けていた。
 サイーブにしても、暴走した彼らの気持ちは分からないでは無いが、“明けの砂漠”に取って停戦終了後の地球軍との共同戦線は、ザフト軍を追い出すまたと無いチャンスなのだ。それを見す見す逃す訳には行かない。
 遥か前方を砂を巻き上げながら疾走する一団を、サイーブは歯軋りをしながらバギーを走らせる。そこにもう一台のバギーが後方から近付いて来た。
 サイーブは近付く車両に目を向けると、来るはずの無いカガリ、アフメド、キサカの三人の顔が揃っている事に表情を歪めて怒鳴った。

「――お前達!?どうして着いてきた!?」
「当たり前だ!私も一緒に戦う為だ!」
「馬鹿な事を言うな、戻れ!」
「嫌だ!」

 バギーの助手席に座るカガリはその金色の髪をなびかせながら、サイーブに対して思い切り怒鳴り返した。
 するとカガリの後ろにいるキサカが、サイーブに向かって声を張り上げた。

「サイーブ、このままでは全滅するだけだ!奴らをどうやって止めるつもりだ?」
「――!?キサカ、何を言ってるんだ!」
「カガリ、状況を見誤るな!策も無いのに勝てる訳が無いだろう!無駄に命を散らすだけだ!」
「――だからって!」

 自分の腹心がそんな事を言うとは思っていなかったカガリは、振り返ってキサカを睨み付けた。

「あれだけの数だ、そう簡単には止められん!何か無いか?」
「この状況ではな!」

 カガリを無視したサイーブは、この状況で唯一頼りになりそうなキサカに向かって何か策が無いかと問うと、キサカは苦々しい表情で首を振った。
 その答えにサイーブは顔を歪めて舌打ちをするとアクセルを更に踏み込み、スピードを上げた。
 自分達を引き離そうとするサイーブに向かって、カガリが興奮した表情で怒鳴った。

「いくらでも戦い様はあるだろう!」
「お前は今まで何を見てきた!?この行動がどんな結果を生むか、想像が着かないのか?」
「やりもしないで想像だけで物を言うな!仕掛けなら使うはずの物があっただろう!」

 諌める様にキサカが言うと、カガリは振り返り顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
 本来ならば地球軍のモビルスーツを餌にして、ザフト軍のモビルスーツを纏めて葬り去るはずの仕掛けがあったのだが、餌であるストライクが自分達の事を無視した為に、仕掛けは使う機会さえ無かった。
 そのカガリの言葉に、運転するアフメドは同意し頷きながら言う。

「そうそう、あれをでモビルスーツを吹き飛ばしてやる!」
「餌も無いのに上手く行くと思うのか?」
「うるさい!」


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 キサカが二人に向かって厳しい視線を向けると、カガリは怒鳴りながら後ろにあったロケットランチャーを両手に抱えた。
 一方、先に行ったサイーブはどうにか暴走する一団へと取り付き、先導しているエドルのバギーへと併走させていた。

「エドル、引き返せ!死にたいのか!」
「うるせえ!腰抜けはとっとと帰りやがれ!」
「この馬鹿がっ!どうしてお前は、あいつらの停戦を上手く使おうと考えない!」

 サイーブはアクセルを踏み込み、エドルの乗るバギーの前に出ると暴走を止める為にブレーキを踏んだ。

「――っつ!あっぶねぇだろうが!殺す気か!?あんたはどっちの味方してんだよ!」

 目の前でサイーブのバギーがブレーキを掛けた事で、エドルは慌ててハンドルを切ってギリギリの所でかわして停止すると、睨みつけながら吐き捨てて再び走り始めた。
 結局、暴走を止める事の出来なかったサイーブは、慌ててアクセルを踏み込む。

「エドル、待て!」
「サイーブ!不味いぞ、このままでは地球軍艦の前に出る事になる。下手をすれば両軍から攻められる事になり兼ねんぞ!」
「くそっ!あいつら先走りやがって、死ぬぞ!」

 そこへ、ようやく追い着いたキサカが叫ぶと、サイーブは苦々しい表情で吐き捨てた。
 暴走するエドル達が向かっている先は、ザフト軍の戦闘母艦レセップスのある方角なのだ。ましてやそれは、アークエンジェルまでもが停泊している場所でもある。
 そこに攻撃を仕掛けて、リーダーであるサイーブの言う通り、万が一でも生きて帰って来れる見込みなどありはしなかった。
 二人の遣り取りを耳にしたカガリが、心底腹立たしい顔で怒鳴った。

「キサカもサイーブも、やりもしないで決めつけるな!」
「……ならばカガリ、その結果がどうなるのか、自分の目で確かめて見ろ」

 キサカはカガリを一瞥すると、厳しい顔付きで前方を見据えながら言った。
 灼熱の砂漠はその目に見える風景を歪ませていた。


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 アークエンジェルの格納庫は再び慌しく動き、各機の出撃準備が行われ始めていた。
 パイロット達は各々、自分の機体へと向かって行く。その中、マードックと整備兵の一人がアムロへと歩み寄った。

「大尉さん、本当に出るんですか!?」
「いや、まだ分からない。レジスタンス次第だ」
「……あんまりνガンダムに無茶させないでください。そろそろ、右腕の駆動系がそろそろ限界に近付いてるんですよ」

 νガンダムへと向かうアムロが二人に答えると、マードックは神妙な面持ちで言った。
 その言葉にアムロは歩みを止め、眉間に皺を寄せて聞き返す。

「……どのくらい持ちそうだ?」
「あの……内容次第なんではっきりは言えませんが、指折り数えるくらいとしか……。出来れば、右腕でサーベル振るうのは止めた方が良いです」
「左腕は……まあ、まだマシって感じですけど、いずれは……」

 整備兵が言い辛そうに答えると、続けてマードックが髪を掻き毟りながら言った。
 νガンダムはシャアとの戦い以降、パーツ交換すら出来ずにいる。加えてヘリオポリスからの連戦を鑑みれば、その消耗度合いにアムロは納得せざる応なかった。
 しかし、アークエンジェルは安全圏に到達した訳でも無く、孤立無援の上に敵のど真ん中なのだ。停戦が終了すれば戦闘は再び再開される事は明白であり、そこでνガンダムが使えないとなれば戦力は大きく減り、更に辛い戦いを余儀なくされる。
 アムロは現状で対応策が無い事に少しの間顔を顰めるが、仕方ないと言った様子で頷く。

「そうか……。とにかく、今はまだ大丈夫なんだな?」
「ええ、無茶しなければですけれどね」
「了解した。二人とも面倒を掛けて済まない」
「いいえ、こんな珍しい機体いじくらせてもらってますからね」

 目の前の二人を労うかの様にアムロは礼を言うと、整備兵は首を横に振って答えた。
 その様子にアムロは苦笑いを浮かべてνガンダムへ乗り込む為に踵を返した。

「大尉さん、頼みますよ!――お前ら、モタモタすんなよ!」

 マードックはアムロの背中に声を掛けると、すぐに近くの整備兵達に向かって怒鳴り声を上げた。
 そして数分の後、アークエンジェルのパイロット達は、それぞれの機体のシートへと腰を下ろして発進準備を完了させる。

「スカイグラスパー、OKだ!いつでも出れるぜ」
「ストライクの準備完了しました!」
「νガンダム、出撃準備完了した。指示を頼む」
「……各機とも現状のまま待機をお願いします」

 各パイロットがブリッジへと報告すると、若干いつもよりトーンの低いミリアリアの声がコックピットに響いた。
 今回、スカイグラスパー二号機のパイロットであるトールは、同一号機の複座へと身を沈めている。
 それはムウの意向でもあり、モビルアーマーから見た戦場を経験させる為でもあったのだが、その事が原因でミリアリアは声を落としていたのだった。だが、そんな事を気に掛ける暇などありはしない。
 キラがストライクのコックピットで呟く様な声で聞いた。

「あの……本当にやるんですか?」
「いざとなれば、やるしかないだろうな」
「奴ら何を考えてんだか、全く……」
「生身の人間相手に……僕は……」


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 アムロとムウからの通信が返って来ると、キラはνガンダムの戦闘記録を見た時にモビルスーツの手に因って、握り潰されて死んだパイロット――ケーラ・スゥの事を思い出し、躊躇いがちに言った。
 モビルスーツやモビルアーマーではなく、生身の人間相手に戦闘経験の無いキラは戸惑いを隠せない様子だった。

「キラ、まだ、やり合うと決まった訳じゃない。だが、やる事になれば生身の相手だとしても、気を抜けば命取りになるぞ」
「そうそう、人間死んじまったらお仕舞いなんだから、全力でやって生き残れ。今は下手な事を考えるな」
「……はい」

 先輩パイロットであるアムロとムウの言わんとする事は理解出来るし、アークエンジェルを守る為には必要な事なのだが、自分達がネオ・ジオンのモビルスーツと同じ様に生身の相手を殺さなければならない事にキラは声を落とした。
 だが、その様な甘い考えに付き合っていられる様な時間は、この船に乗る者達には無い。
 アムロは判断を仰ぐ為に最高責任者であるマリューに声を掛ける。

「ラミアス艦長、どうするつもりだ?」
「あっ、はい。今は、成り行きを見守るしかないでしょうね」
「レジスタンスが攻撃して来ないにしても、もし、仮にアンドリュー・バルトフェルドから要請が来たら、どう対応する?」
「……気は引けますが、こちらの姿勢をザフト軍にも見せなけば怪しまれますし、応じる以外は無いかと思います」
「なら、砲塔上げといたら?レジスタンスも迂闊に近付かないだろ」

 マリューはアムロの問いに苦慮する様子で返答すると、ムウがアークエンジェルの主砲であるゴットフリートを威嚇の為に上げておく事を提案して来た。
 するとムウの提案に対して、ナタルは硬い口調で異を唱える。

「しかし、今の段階で上げてしまうとザフト側に不信がられる可能性もありますし、ゴットフリートを本当に撃つ事になれば、この狭い戦場ではザフト軍機に当たりかねません。それにレジスタンスとは言え、我々に取っては脱出時の戦力となる可能性もあります」
「……そうね。停戦終了後の事を考えるとね……」
「だがな、レジスタンスの連中、自業自得なんだぜ。虎の奴は警告してたんだし、勝手に全滅しても文句は言えん立場だろ?それにこっちだって、要請が来たら断る訳にはいかないんだ。分かり切った事じゃないか」

 艦長であるマリューはいかにも困ったと言う感じで言うと、ムウが少し呆れた様子で言った。
 ムウとてレジスタンスを殺したい訳でも無いし、ザフト軍の味方をしたいとも思っている訳でも無い。
 だが、レジスタンス達はアンドリュー・バルトフェルドからの提案を蹴って尚、攻撃をして来るのだから、敵とは言え同じ軍人であるムウからすれば、彼らの行動は自業自得としか言い様が無く、呆れる程馬鹿な事と言えた。
 ムウの言う様にレジスタンスの迂闊な行動に対しては同意しながらも、アムロは今朝、脱出ルートを検討した際に自分の意見を尊重してくれたナタルを庇う。

「ムウの言う事は最もだが、ナタルの言う様に脱出時の戦力も欲しいのも事実だ。……俺達がレジスタンスに対して攻撃をすれば、停戦終了後の協力すら白紙になる可能性の方が高いな」
「ええ、その場合は仕方ないと思いますけれど……」
「レジスタンスが馬鹿な事をしてくれたばかりに……」
「だけど、何か方法があると思うんです……。回避する方法が……」

 頷くマリューの言葉にナタルがレジスタンスを非難すると、キラの声が苦悩を現す様に小さく響いた。
 今のアークエンジェルは、アンドリュー・バルトフェルドの要請があれば受けなければならず、完全な板ばさみとなっていた。
 キラの呟きに、アムロは少し考え込むと徐に口を開いた。

「方法か……。レジスタンスを逃がすだけなら、方法が無い訳じゃないんだが……」
「アムロ大尉!?何か方法が?」
「ああ、だが上手く行くとは限らないし、無駄な努力になるかもしれない。それに逆に全滅させてしまう可能性さえある。上手く行ったとしても、恐らくレジスタンスとの停戦後の協力は得られなくなるぞ」

 ナタルが聞き返すと、アムロ自身があまり良いアイデアでは無いと思っているだけに、念を押すかの様に言った。
 だが今の状況では、解決の糸口すら見えない。どんなアイデアでも喉から手が出る程欲しいと言うのが全員の本音だった。


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「それでアムロ大尉、どんな方法なんですか?」
「どうと言う事は無いんだが、正攻法で討って出てレジスタンスを追い返す。彼らが早めに逃げてくれれば、それだけ生き残る率も高まる」
「だけどさ、奴らがこっちの意図に気付くとは思えないんだがな。それに下手にやって虎の奴にバレやしないか?」
「本当ならザフトよりも先に出る事が出来れば何とかする事も出来たのだろうが、もうこの段階では無理だ。こちらがあからさまにやれば流石に気付かれる。最悪の場合はレジスタンスを討つ事になるだろう」

 事の内容を聞いたムウが、その事で停戦が不意になる事を心配すると、アムロは頷いて最悪の事態を回避する為の方法を口にした。
 今後を考慮に入れ、なるべくレジスタンスの損害を最小限に食い止めたいマリューは難しい表情を見せる。

「一芝居打つとして、レジスタンスへは後日、説明と言う訳にはいかないわよね……」
「そりゃそうだろう。それに俺達がそこまでやる義理は無いんだしな」
「俺自身も上手く行くかは見当もつかないからな。この際、レジスタンスは切り捨てるべきなのかもしれないな……」
「だけど、後々の事を考えれば、この地域のザフト軍への抵抗勢力が無くなってしまうのは、連合に取って大きな損失になり兼ねないのも事実なのよね……」

 ムウとアムロの言葉に、どうすれば良いのかとマリューは頭を抱えた。
 何時までも話が纏まらないままではどうしようも無い。と、言った感じでムウは全員に問い掛ける。

「そんで、どうするよ?」
「賭になりますね……。ただ本当に上手く行くかどうか……。フラガ少佐の言われる通り、我々にそこまでの義理はありませんし、それに生き残ったレジスタンスが本艦を狙って来る可能性も否定出来ませんね」
「レジスタンスがアークエンジェルをですか……?」
「最もそうなれば敵って事だ。ぶっ倒す以外には無いだろう」

 ナタルの言う事にキラはまさかと言った表情を浮かべるが、ムウは平然とした口調でさも当たり前の様に答えた。
 そうしている間にもレジスタンス達は近付いて来ているのだから、時間を掛ける事などは出来ない。
 アムロは最高責任者の判断を仰ぐ為にマリューに問い掛ける。

「どちらにしてもこの現状では、そう選択肢は多く無い。艦長であるマリューに決めてもらうしか無いが、どうする?」
「……このまま見ていても、レジスタンスが何か言って来る事は明らかでしょうね。それなら艦の安全を優先してやれるだけやってみる。と、言う事でどうでしょう?あくまでもザフト軍にばれない様にですけれど……」
「もしヤバくなったら、レジスタンスを討って見せて知らぬ存ぜぬを推し通すって事で良いんだよな?」
「仕方ないですが、そう言う事です」
「了解!んじゃ、一丁やるとしますか。指示頼んだぜ!」

 問いにマリューは割り切った様に頷くと、ムウは大きく頷いた。
 全員が示し合わせた様に準備に入ると、マリュー慌てた様子でムウ達を呼び止める。

「あっ……、ちょっと待ってください!」
「ん、どうした?」
「あの、今回はただの戦闘ではありませんし、それに……一芝居打つ為にモビルスーツの細かい連携やタイミングの問題もあります。出来れば今回は、フラガ少佐かアムロ大尉に指揮をお願いしたいんですが……。良いでしょうか?」
「それは構わないけど」
「……それじゃ、お願いします」

 ムウが気にしない顔で言うと、マリューは小さく息を吐いてから戦闘指揮権をムウに託した。
 ヘリオポリスからの事や停戦などの折衝などを考えれば、心労が祟っていても可笑しくは無いが、今から戦闘が始まろうとしているこの時に、上官の覇気と言うのは多いに戦闘に差し支える。
 眉を顰めながらもムウはマリューを叱咤する。


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「おいおい、艦長がそんな自信無さ気でどうすんの?胸張って戦闘指揮を任せるって言ってくれりゃ、それで良いんだって!」
「……済みません」
「謝るなよ。マリューは何でも背負い込もうとし過ぎだぜ。……ったく、今は後回しだ。俺よりも適任なのはアムロだと思うんだけどさ、なあ、イメージ出来てるんだろ?」

 ムウは苛付いた様子で髪を掻き毟り、指揮の話しに戻すとアムロに問い掛けた。

「ああ。だが良いのか?」
「スカイグラスパーは全体を見渡すには良いかもしれんが、移動しっぱなしになるからな、地上戦だと流石にキツイ。それにあれだけの事をやって来てるんだ、アムロになら俺は任せられるぜ」
「大尉は経験豊富ですし、私も異論はありません」
「僕も無いです」
「俺もです」

 ムウが自信を持って答えると、ナタルとキラ、そしてトールも続く様に同意した。
 戦闘指揮を執る者が決まった所で、マリューがアムロに対して口を開いた。

「大尉……よろしいでしょうか?」
「……分かった。ラミアス艦長、今回の指揮権をもらえるか?」
「はい、お願いします」
「了解した」

 今戦闘の指揮権を託されたアムロは静かに頷くと、指示を出す為に再び口を開いた。
 現在、DNA鑑定の行われている医務室のある区画を除いた艦内にアムロの声が響き渡る。

「アムロ・レイ大尉だ。この戦闘は俺が指揮を執らせてもらう。全員、気を引き締めてくれ。各員、所定の位置へ着け。各員の奮闘を期待する」

 アムロはそこで艦内向けの言葉を区切り、個別に指示を出して行く。

「ナタル、君にはミサイルでの牽制を担当してもらう。場合に因っては主砲を撃ってもらう事になる。準備を頼む」
「了解しました、お任せください!」
「ムウとキラはカタパルトデッキにて待機。ストライクはバルカン砲が使えれば良い。ランチャー装備で出撃準備を」
「了解了解!」
「了解しました!」
「俺はアグニにケーブルを繋げたらブリッジ上で待機する。ブリッジ、俺が上に上がったら、ザフト軍に回線を開いてこっちに回してくれ」

 指示を出したアムロは、νガンダムの操縦桿を握りペダルに力を込める。

「νガンダム、出るぞ!」

 アムロの声と共にνガンダムの目が光り、その四肢が動き始めた。


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 窓の外には当たり前の如く砂漠が広がり、大気が熱で揺らめいていた。
 バルトフェルドはレセップスのブリッジで、その光景に目を細めながら呟く。

「レジスタンスには警告はしたんだがな、全く……。彼らは余程、死にたい口らしいな」
「――距離、約四〇〇〇、敵車両数、多数!このままだと、約六〇〇秒後に地球軍艦アークエンジェルの前方約八〇〇で戦闘が行われる事になります!」
「隊長、バクゥと戦闘ヘリで対応します」

 近付くレジスタンスの報告と共に、素早くダコスタがその対応をした。
 バルトフェルドは軽く頷いて見せるとダコスタは歩み寄り、周りに聞こえない程の声で言う。

「あの……隊長、どうするんです?あの少尉とラクス様の……」
「ダコスタ、あの二人をどうするって?レジスタンスと関係無いだろう」
「……済みません」

 事の内容にバルトフェルドは一瞥すると、ダコスタは謝ってから一歩引いた。
 シーゲル・クラインを信じている訳では無いバルトフェルドに取って、ラクスの事などはどうでも良い事だった。だが、クラインを盲信するダコスタに取って、ラクスの事は一大事である。引いてはプラントの将来にも大きく関わる事なのだ。

「マーチン君、野暮な事考えてると馬に蹴られるわよ」
「……はぁ」

 アイシャが微笑を見せながらからかうと、難しい顔をしていたダコスタは、毒気が抜かれた様に溜息を吐いた。
 そうしている間にも状況は動いて行く。バルトフェルドはアークエンジェルとの連携を取る事を想定して、オペレーターに向かって指示を出す。

「一応、アークエンジェルに教えてやれ」
「了解しま……、待ってください!アークエンジェルの……アムロ・レイ大尉から通信が入っています」
「何だ?……繋いでくれ」
『こちらは、地球軍第八艦隊所属アークエンジェル、アムロ・レイ大尉だ。こちらの戦闘指揮は私が執る事になった。よろしく頼む』
「エース自ら指揮とは、こちらとしても心強いな。対応を感謝する」

 レセップスのスピーカーにアムロの声が響くと、バルトフェルドは口元に笑みを見せた。

『アンドリュー・バルトフェルド、買い被りはやめて欲しいな。それでだが、こちらは既に迎撃体勢に入った。いつでも攻撃可能だ』
「早いな……。今の段階で、貴艦が攻撃を行かなければならない理由は無いはずだが?」

 アークエンジェルの対応の早さにバルトフェルドは感心しながらも、些か何か引っ掛かったのか質問を返した。


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『こちらが動けないのは知っているだろう。的になる事は避けたいが、今はそちらとの協力関係を優先する。レジスタンスへは先日、警告してある上でこれだからな。牽制も兼ねて、こちらから攻撃の口火を切る事にしたい。了承してもらえるか?』
「ほう……。それは有り難いが、それでは確実に攻撃される事になるぞ」
『近付けさせなければ問題は無い。それに守ってもらえるのだろう?こちらからは主に狙撃と空爆での支援となる。当たらない様に相手との距離を取って迎撃してもらいたい』

 今は一時的な協力ではあるが、元来は敵であり、あれだけの戦闘をするパイロットが狙撃をするのだから、心強いのだが、それを口実に自軍のモビルスーツを落とされたら堪った物では無い。
 眉間に皺を寄せたバルトフェルドは、アムロを問い質す。

「こちらのモビルスーツを狙い撃つつもりじゃないだろうな?」
『そんな真似をして、停戦を不意にするつもりは無い。少しは信用をしてもらえると有り難いがな』
「……分かった、先制攻撃は任せる。協力を感謝する」

 状況を考えれば、アムロの言う様にアークエンジェル側が停戦を破棄する様な真似をしてくるとは考え難く、バルトフェルドは眉間の皺を緩めて、一応納得したように返答をする。
 それから二、三、遣り取りをすると地球軍側との通信を切った。

「あー、全員良く聞け。この戦闘は地球軍艦アークエンジェルとの共同作戦となった。それに伴い、地球軍モビルスーツ、モビルアーマーによる先制及び、支援攻撃が行われる。レジスタンスとは距離を保ち迎撃を行え。
 それからだが、停戦協定上、ラクス・クライン嬢が乗ってる事もあって、アークエンジェルを守らなければならない。レジスタンスがアークエンジェルを攻撃した場合は最優先で守れ。一応だが、地球軍の動きにも注意はしておけよ!」

 自分の部下達に向かってバルトフェルドは大声で指示を出すと、隊は活気付いた様に再び動き出した。
 太陽の光は益々強くなり砂漠を白く染めて行った。


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 灼熱の砂漠に風とともに砂塵が舞い上がり、それと同時にアークエンジェルのブリッジには声が響いた。
 モニターには拡大して尚小さく見える、砂を巻き上げながらレセップスに向かおうとするバギーの一団が映し出された。

「――来ました、レジスタンスです!距離、二〇〇〇!」

 アークエンジェルのブリッジ上で待機するνガンダムが左膝を着き、右膝を立たせた状態でアグニを構える。
 アムロは間髪を入れずに、スカイグラスパーで待機するムウへと回線を開いた。

「スカイグラスパー発進良いか?ムウ、レジスタンスに対して空爆での牽制を頼む」
「当てなきゃ良いんだよな?」
「そうだ。その上でレジスタンスが撤退を始めたら追跡に入ってくれ」
「追跡?……それで、どうすればいい?」

 追跡と言う選択肢が出て来るとはムウは思っていなかった様で、どの様な行動をすれば良いのか指示を仰いだ。
 アムロは軽く頷くと、その内容を簡単に説明し始める。

「ザフト軍に追跡をされれば全滅の可能性が高い。ある程度追跡した所で、ザフト軍の追撃する気を削いでくれ。やり方は任せる」
「なるほど。要は追跡不可能とか、逃げられたって事にするんだな。もしばれそうなら、さっき決まった通りやっちまって構わないんだろう?」
「ああ、その場合は仕方が無い。こちらの安全を優先してくれ」
「了解した!」

 アムロがハッキリした口調で淀み無く答えると、ムウは力強く頷いた。そして、そのまま自分の後ろのシートに座るトールへと声を掛けた。

「トール、行くぞ。覚悟出来てんな?」
「はい!」

 スカイグラスパーの後部シートに身を沈めていたトールは、腹から声を出して応えた。
 やがてカタパルトデッキに外の光が差し込み、目の前に砂漠が広がる。

「進路クリア。……スカイグラスパー、発進どうぞ!」


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 管制担当であるミリアリアがスピーカーから響き、その声には淀みと些か張りの無さが感じられる。恐らくトールを心配しているのだろ。
 ――どいつもこいつも、全く!少しは集中しろってんだ!
 マリューの弱気発言の事もあって、ムウは苛立った様に心の中で吐き捨てた。

「ムウ・ラ・フラガ、トール・ケーニッヒ、スカイグラスパー出るぞ!」

 ムウが怒鳴ると、スカイグラスパーは瞬く間に大空へと飛び立って行った。
 スカイグラスパーの出撃を確認したアムロは、すぐにキラへと指示を出した。

「キラ、砲撃と同時に出撃だ。こちらに向かって来るレジスタンスの進路をバルカンで遮れ。いいな!」
「了解しました!カタパルトのハッチを開けてください!」
「了解!キラ、少し待ってね。アムロ大尉とタイミング合わせるから」
「分かった、任せるよ!」

 ミリアリアの言葉にキラは頷くと、ゆっくりとハッチが開いて行き外の光が差し込んで来た。
 レジスタンスの一団は、あと数分もすればアークエンジェルの前方に差し掛かる。
 ブリッジの上で待機するアムロは、νガンダムの腕の駆動系に負担を掛けさせない為に、左膝を着けたまま砲身に添えている右手を砲身の下へと移し、右肘を立っている右膝の上に乗せてアグニを構え直させると、レセップスへの回線を再度開いた。

「こちら、アムロ・レイだ。これより砲撃を開始する!」
『了解した。乱戦になった場合は砲撃を中止するなりしてくれ』
「了解している。俺も注意はするが、くれぐれもこちらの砲撃に当たらない様に気をつけてくれ」
『僕の部下も馬鹿じゃない。君に狙われなければ大丈夫だ。さあ、作戦開始と行こう』

 半分おどけた様な口調で言うバルトフェルドの声がコックピットに響くと、アムロは回線を切ってナタルに指示を出した。

「ナタル、ミサイル発射だ!レジスタンスの進路を塞いでくれ!」
「了解しました!スレッジハマーってー!」
「砲撃を開始する!――当たるなよ!」

 ナタルの声がコックピットに響くと、アムロはトリガーを押し込んだ。それと同時にアークエンジェルの艦尾にあるミサイル発射管から四発のスレッジハマーが発射された。
 アグニから走る光は、先頭を走るレジスタンスの車両から五〇メートル程先を遮る様に着弾する。熱量が砂を溶かし、爆発が大量の砂塵を巻き上げた。


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 レジスタンス達がレセップスへと向けて疾走する最中、右手に見えるアークエンジェルから突然ビームが走ると、車両の数十メートル先の砂を溶かし行く手を遮った。
 ビームは爆発を起こし、それによって舞い上げられた大量の砂が彼らに襲いかかって来た。

「――なっ!?地球軍が撃って来ただと!?」

 エドルは絶句しながらハンドルを切って、降り掛かる砂から逃げようとした。
 他のレジスタンス達も同様で慌てた様に旋回して回避するが、そこへ遅れて飛んで来たスレッジハマーが追い立てるように着弾し、彼らをレセップスから更に遠ざけて行く。
 更に追い打ちを掛ける様に、上空からモビルアーマー――スカイグラスパーからの空爆が彼らを襲った。

「糞っ!地球軍の奴ら、ザフトと手を組みやがって!奴らも敵だ、ぶっつぶせ!」

 エドルの怒鳴り声と共に、一団の右翼にいた四分の一程の車両がアークエンジェルへと向かって走って行く。
 暴走する彼らを追い掛けていたサイーブがアークエンジェルを睨みながら吐き捨てる。

「っ!地球軍は何を考えているんだ!?」
「最悪の展開となったが、今の所被害はゼロの様だ。奇妙だな……」
「あいつらは自分の身を守る為に、ザフトと手を組む様な卑怯者なのが分かったか、キサカ!」

 サイーブの乗るバギーに併走する、もう一台に乗っているキサカが地球軍からの攻撃を見て眉を顰めると、同乗するカガリが怒りを顕わにしながらアークエンジェルの行為を罵った。
 次々と襲い掛かるビームとミサイルに、彼は散り散りになりながらも一矢報いようと必死に走り回る。
 やがて彼らの本来の敵である、ザフト軍のモビルスーツと戦闘ヘリが姿を現し攻撃を仕始めると、アークエンジェルの方から何かが射出され大きな物が着地する振動音が聞こえて来た。
 キサカはその音に反応して、アークエンジェルの方へと顔を向けると表情を一変させた。

「モビルスーツ!?アークエンジェルからもストライクが出て来ただと!?」
「不味いぞ、このままじゃ本当に全滅し兼ねん!地球軍めっ!」

 サイーブは顔を歪めるとハンドルを切り、他の車両の方へと走って行った。
 ザフト軍モビルスーツからの発射された何かが、カガリ達の乗るバギーの近くで爆発する。

「――くっ!」
「――うっ!?私達も攻撃するぞ!アフメド、近づけるか?」
「任せろ!行くぞっ!」

 乗っているカガリ、アフメド、キサカの三人は顔を一瞬歪めるが、すぐにカガリは手にしているランチャーを肩に担いでアフメドに顔を向ける。少年は自信たっぷりに頷いて見せた。
 あまりにも無謀過ぎる行為キサカは厳しい視線を向けて怒鳴りつけた。

「やめろ、カガリ!」
「うるさい!」

 カガリは前方で仲間達に攻撃をしているザフト軍の攻撃隊に対してランチャーを向けると、キサカの言葉に対する返答を一言怒鳴り、ランチャーのスコープを覗き込んだ。
 そうしている間にも時は刻み続けるが、レジスタンス達はアークエンジェルからの砲撃が行く手を阻み、実質的な被害を与えているザフト軍攻撃隊の元まで辿り着けずいた。
 ハンドルを何度も左右に切って攻撃を回避して行くエドルは、焦りからか苛つきを隠せずにいた。


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「――くそっ!奴らめ!」
「エドル、早く引き返せ!全滅するぞっ!」
「今さら、引き下がれるか!」

 サイーブのバギーが近付いて来て引き返す様に言うが、等のエドルは一瞥して吐き捨てた。
 ザフト軍のモビルスーツがミサイルを一斉に発射すると、続く様に戦闘ヘリからもミサイルが発射された。

「馬鹿が――不味い、ミサイルが!?」

 自分達の方に向かって飛んで来るであろうミサイル群を目にして、サイーブとエドルは顔を顰めてすぐにアクセルを踏み回避に入ろうとした。
 その瞬間、一条の光の帯が走り、サイーブ達の目の前からミサイル郡の一部を消し去った――。

「……た、助かった……だと!?」
「……地球軍が……!?どう言う事だ?」

 エドルとサーイブは突然の出来事に目を丸めて驚きの声を上げるが、ビームが打ち消したミサイルは約半数だけであって残りは全て着弾し、多数の車両が爆発に巻き込まれていた。
 その光景はサイーブ達と離れた場所にいたキサカ達の目にも映っていた。

「……ミサイルを打ち消した!?……まさか!?」

 キサカはアークエンジェルのブリッジ上で狙撃をするモビルスーツ――νガンダムを驚愕の表情で見詰めた。
 地球軍は攻撃こそして来る物の、その攻撃での戦死者はほぼ皆無に等しく、レジスタンスへの直接攻撃と言う意味ではザフト側がほとんどだった。
 ――地球軍はわざと外している!?もしや、これは……。
 キサカの心中に地球軍の行動に対する答えが徐々に浮かび始めた。
 だが、他のミサイルの着弾により仲間達の死を目にしたカガリには、そんな事など関係は無かった。

「こんなの偶然だ!アフメド、行くぞ!」

 カガリは怒りに顔を歪め、両軍の行為に対して吐き捨てる様に怒鳴った。
 三人が乗るバギーはザフト軍のモビルスーツ群へと向かって疾走して行った。


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 目の前には砂が舞、痛い程の陽射しが照りつけている砂漠が見えている。
 カタパルトデッキでキラの乗るストライクは、今や遅しと言った状態で出撃を待っていた。

『キラ、作戦開始よ。気をつけてね。ストライク、発進どうぞ!』
「キラ・ヤマト、ストライク行きます!」

 ストライクのコックピットにミリアリアの声が響くと、キラはスロットルを開いて勢い良くカタパルトから飛び出して行く。
 キラはスラスターを軽く噴かしながらストライクを着地させると前方へと目を向けた。
 そこにはνガンダム、アークエンジェル、そして先に出撃したスカイグラスパーからの空爆に加え、ザフト軍モビルスーツ、バクゥと戦闘ヘリが合流し、蜘蛛の子を散らした様に逃げ惑うレジスタンス達の姿があった。
 しかし、レジスタンス達はまだ攻撃を諦めていない様子で、レセップス、そしてアークエンジェルへと向かおうと走り回る。

「……来た!そんな装備で無駄だって事を、どうして分からないんだ!」

 キラはアークエンジェルへと向かおうとするレジスタンスの一部の車両に向かってトリガーを引いた。
 ストライクの右肩に装備された一二〇ミリ対艦バルカン砲が火を噴き、何とかバギー達は蛇行する様にして回避して行く。

「早く……早く逃げてよ!」

 諦めの悪いレジスタンスに向かって、キラは苛立ち隠そうともせずに再びトリガーを押し込んだ。
 そこへ、アークエンジェルの守りの為に移動して来た一機のバクゥから通信が入る。

『ストライク、援護する!』
「――っ!……ありがとうございます!」

 今はザフト軍との連携を取っている為に無下にする訳にもいかず、キラは一瞬顔を顰めながらも、悟られない様にバクゥのパイロットに礼を言った。
 バクゥの攻撃は容赦無く、レジスタンス達を追い立てる。既に数台が餌食となり、破壊された車両からは炎が上がっていた。
 キラはストライクを前方へとジャンプさせると、眼下で走り回るレジスタンス達を睨み付ける。

「……どうして……早く逃げろって言ってるだろっ!」


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 ストライクは着地すると、既に破壊され引っ繰り返っているバギーを砂と共に蹴り上げた。宙に舞ったバギーは部品をばらまきながら、近付く車両の前方へと激しい音を上げて落下して行った。
 キラはその車両に向かって追い立てる様にイーゲルシュテルンを放つと、そのうちの数台がアークエンジェルへの攻撃を諦めて、主力に合流する者と逃げる者とに別れて行く。

「そうだ、それで良いんだ……」

 素直に逃げて行くバギー達を見据えながらキラは呟くと、諦めの悪い車両へと目を向けた。

「あなた達は――!」

 キラは怒りの声を上げながら一二〇ミリ対艦バルカン砲を発射した。
 そうして粗方の車両がアークエンジェルの近くから離れて行くと、コックピットにアムロからの新しい指示が飛び込んで来た。

『これ以上の狙撃は無理だ!キラ、前へ出ろ!』
「了解!」

 キラは頷き、目線をレジスタンスの主力が占める方へと向けた。
 ザフト軍のモビルスーツと戦闘ヘリが徐々に前に出始め、レジスタンスはその数を明らかに減らしていた。
 いくらアムロと言えど、両者が近付けばアグニの熱量では双方にダメージを与える事になり兼ねなず、狙撃をするにも限界が来たと言った状況だった。
 ストライクを戦場へと正対させると、キラは援護のバクゥへと回線を開いた。

「済みません、僕は前へ出ます!アークエンジェルをお願いします!」
『了解した、守りは任せろ!』

 バクゥのパイロットからの返答が返って来ると、キラはスロットルが解放してペダルを思い切り踏み込んだ。
 ストライクは砂を巻き上げ、その巨体を舞い上がらせた。


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 一方的な戦況を見詰めるバルトフェルドは、如何にも「面白い物」を見せてもらっていると言う表情を浮かべていた。
 バルトフェルド自身、別にレジスタンスを一方的に倒して行く展開が楽しい訳では無い。その「面白い」と思う対象は共同戦線を組んでいる地球軍の事だった。
 いや、地球軍の特に狙撃による支援を行っている、νガンダムのパイロット、アムロ・レイが面白いと言えば言いのかもしれない。
 先日の戦闘で途轍もないの能力を見せ付けたアムロが、今はレジスタンスを直接狙うのでは無く、明くまでも足止めに徹している様にバルトフェルドには見えた。
 しかし今の所は確証は無く、感と言う奴がそれを告げてるのだ。
 だが、それだけで停戦協定を不意にする訳にも行かず戦闘を見守っていると、レセップスのブリッジにアムロの声が響いた。

『アンドリュー・バルトフェルド、そちらの機体が突出して来ている。正面への砲撃を中止して、代わりにこちらはストライクを前面に押し出す!』
「……了解した。正面はこちらに任せてもらおう。ストライクは援護と言う事で頼む」

 バルトフェルドは一度、肩を竦めて腰に手を当て苦笑いを浮かべて答えた。
 この戦闘自体、始まって五分程も経っていないが、数度の砲撃のうち少なくとも一度は、ザフト軍側から打ち出されたミサイルの約半数を撃ち落としている。そして、二度目はミサイルの四分の一だけと言う絶妙に難しい事をやっているのだ。
 バルトフェルドは苦笑いが止まらない様子でぼそりと呟く。

「……参ったな。もしかしたら、これは欺かれたのかもしれんなぁ」
「アムロ・レイは面白い事するわね」
「ああ、打ち消したミサイルを全弾を撃ち落とした言う訳でも無いからな、判断に苦しむ。恐らくあそこで戦ってるパイロット達は、連携が合って無い程度としか思って無いだろう」
「しかもこのタイミングで、ストライクの彼を前線に送り込むんですものね」
「三度目があったら見過ごす事が出来なかったが、それを上手い具合に逸らされた感じだ」

 アイシャが目を細めて笑みを見せると、バルトフェルドはアムロの技量と判断に感心した様子でモニターへと目を向けた。
 モニターには、逃げ回りながらも必死に反撃を試みるレジスタンス達が映し出され、人はどこまで無謀になれるのかと、バルトフェルドはレジスタンス達の行動に改めて呆れ返った。
 戦闘の成り行きを見続けるバルトフェルドの顔をアイシャが猫の様に見上げながら覗き込む。

「ねえ、攻撃目標を切り替える?」
「……いいや。あれだけでは、ただの偶然と言われても可笑しく無いからね。それに実際、向こうがレジスタンスに攻撃しているのは事実だ。下手に言い掛かりを付ける訳にも行かないだろう」
「フフフッ、そうね」

 バルトフェルドは笑みを浮かべて問いに答えると、アイシャは寄り添うかの様に少しだけ体を近付けると、笑みを湛え窓の外に目を向けた。

「さて、乱戦になって来た以上、僕達は僕達でやらせてもらうとしよう。――残りのレジスタンスの掃討に掛かれ!」

 モニターへ目を向けていたバルトフェルドは、アイシャの腰に片手を回すと軽くウインクをしてから、部下達に向かって声を張り上げた。


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 カガリ達の目の前を再び光の帯が通り過ぎて行く。νガンダムから発射されたビームは、飛来するミサイルの一部を打ち消した。
 キサカはこのミサイルを打ち消す行為が、二度目であることに益々地球側に何らかの意図があるのではと確信を深めた。
 ――が、その時、遅れてザフト軍機から発射された一発のミサイルが飛来して来た。

「――ちっ!――不味い!」
「――あっ!何を――」

 キサカはカガリが構えるランチャーを奪って放り捨てると、片腕でカガリを抱えてバギーを飛び降りた。
 カガリを庇う様にしてキサカは体を丸めて砂丘を転がり落ちて行く。
 やがて砂丘の向こう側から激しい爆発音と振動、そして舞上げられた大量の砂がキサカの背中に降り注いだ。

「……うっ……」

 砂とは言え、それだけの量が降り注げば痛みもする。キサカはカガリを守る為に痛みに耐える。
 大量の砂の雨が降り止みキサカが急ぐ様に体を起こすと、カガリは恨めしそうな表情をちらりと見せる。

「……うっっ……。キサカ、何を……!?」

 カガリが体を起こし周りを見ると先程まであった砂丘は吹き飛び、アフメドが運転していたであろうバギーが引っ繰り返った状態で炎に包まれたいた。

「……アフメド!?……おい、嘘だろ!?」

 想像もしなかった事にカガリは両手を着いて、ただ呆然と燃え盛るバギーを見詰める。そして、その頬に涙が流れた。
 二人の傍に一台のバギーが砂を巻き上げて停車した。

「――キサカ、乗れ!」
「サイーブ!?無事だったか!」

 キサカは呆然と泣くカガリを引き摺る様にしてバギーに放り込むと自らも飛び乗った。


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「早く脱出するんだ!」
「ああ!」

 サイーブはキサカの言葉に頷くと、すぐにアクセルを踏み込んだ。
 走り始めたバギーの上で、目を真っ赤にしたカガリが怒鳴った。

「お前達、何を言ってるんだ!?アフメドが、仲間がやられているんだぞっ、悔しく無いのか!?」
「まだ分からないのか、カガリ!何も考えずに先走った結果がこれだぞっ!」
「だからって!――っ!」

 キサカの言葉に、カガリは怒りを抑える事無く言い返そうとした――。
 その瞬間、ザフト軍の戦闘ヘリから撃ち出されるバルカン砲の弾丸が彼らの乗ったバギーに向かって襲い掛かって来た。

「「――っ!?」」
「――うわぁー!」

 キサカは息を飲み、サイーブは回避する為にブレーキを踏んでハンドルを切った。カガリの悲鳴が響くと、三人を大きな振動が襲った。
 バギーを大きな影が覆い、弾丸を弾く様な音が響く。

「……えっ!?死んで……無い……!?」

 目を瞑っていたカガリが目を見開き、泣き腫らした目で、呆然と影の正体を見上げた。
 そこには片膝を着いたストライクの姿があった。


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 キラはペダルを踏み込み着地体勢に入った。
 そこへ一台のバギーを眼下に捉える。運が悪い事にストライクの着地地点に入っている。しかもザフト軍の戦闘ヘリが、そのバギーに攻撃しながら接近して来ていた。

「――何で、そんな所に!?そこのヘリ、退いてください!」

 慌てたキラは戦闘ヘリに向かって回線を開き回避する様に怒鳴ると、ストライクは砂を巻き上げて着地する。そして体勢を崩す様に左膝を着いた。
 一度、発射した弾は戻る事などは有り得ない。当たり前の如く、戦闘ヘリがバギーに向けて発射した弾丸はストライクの装甲へと当たり、弾かれて行った。
 ストライクの正面のモニターには、カガリ達の姿を捉えていた。

「――ちっ!」

 キラは舌打ちをすると、コンソールパネルのスイッチの一つを押した。
 ストライクの右肩のガンランチャーが音を立てパージされる。それは彼らを逃がす為の時間稼ぎでしかない。
 外されたガンランチャーがゆっくりと砂の上に落ちて行く。そして、ガンランチャーの底辺が砂に埋もれると、そこを支点に横に倒れ、風圧が砂を舞い上げた。

「どうして君達は、ラクスの、みんなの努力を無駄にしようとするんだ!なんで分からないんだよっ!」

 モニターに映るレジスタンス達に向かって、キラは怒鳴りながら右手の操縦桿を思い切り引いた。
 ストライクは片膝を着いたままの体勢で、バギーに向かって拳を振り上げる。

『――!アクセルを踏め!』

 大柄な男性――キサカの声を外部マイクが拾うと同時にストライクは拳を振り下ろした。
 間一髪、三人が乗ったバギーは走り出し、その後にストライクの拳が砂へとめり込む。
 キラは遅れてストライクを立たせると、疾走して行くバギーに向かってイーゲルシュテルンを発射した。

「お、おい、大丈夫か!?」

 トリガーを引くキラに向かって、ザフト軍戦闘ヘリのパイロットから慌てた様子で通信が入って来た。

「はい、大丈夫です」
『こっちは当てる気は無かったんだ!本当に済まない!』

 戦闘ヘリのパイロットからは、不意で当ててしまった事で停戦が後和讃になってしまってはと言う感じで、必死に謝っている様子が伺えた。
 元は敵とは言え、彼らとて必死にこの停戦を無事に終わらせようとするのが伝わって来る。

「いいえ、割り込んでしまって済みませんでした。早く掃討に掛かりましょう」
『ああ、了解した!』

 キラは首を振って答えると、ヘリのパイロットは安心した声を返して来た。
 ストライクと戦闘ヘリは、それぞれの役目を果たすべくその場で別れた。


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 アークエンジェルから見える限り、レジスタンス達は約半数近くを失い撤退を始めていた。
 逃げ遅れたレジスタンスの者達は狩られる事になるだろうが、それは自らが招いた結果であり仕方の無い事でもあった。
 収束へと向かい始めた事を確認したアムロは、ブリッジに仕上げの指示を飛ばす。

「ブリッジ、主砲を!レジスタンス達が逃げる方角より、やや右へずらして撃て!逃げ遅れたレジスタンス達の前方を通過させて追撃を遅らせろ!」

 アムロの指示は逃げ遅れた者達を囮にして、既に脱出した者達を確実に逃す為の物だった。
 もっと早い段階でレジスタンスが撤退をしていれば、もっと多くの命が助かったのだろうが、この段階になってしまっては仕方の無い選択とも言えた。
 指示を耳にしたマリューが、ナタルへと顔を顔を向ける。

「ナタル!」
「了解!ゴットフリート左舷起動!一〇時方向へ向けろ!距離一二〇〇、パワー半減発射準備!」

 ナタルは頷くと、声を張り上げて指示を飛ばして行く。
 アークエンジェルの左舷ゴットフリートが迫上がると砲塔がやや左へと旋回し、砲身は逃げ遅れたレジスタンス達の前方へと向けられた。

「――ゴットフリート、ってー!」

 ナタル声と共にゴットフリートから光が放たれた。
 ビームは誰もいない空間へと走って行く。そして逃げ遅れたレジスタンス達の前方を遮ると、遥かその先に着弾して大きな爆発と共に大量の空へと砂を舞い上げた。
 その効果があってか、ザフト軍の攻撃隊の動きが一時止まり、その上空をスカイグラスパーが既に逃げたレジスタンスを追う様に飛んで行った。

「ムウ、頼んだぞ」

 スカイグラスパーの動きを確認したアムロは、機体を見詰めながら呟いた。
 逃げたレジスタンスの追跡に入ったムウとトールは、約二キロ程先に砂煙を確認すると、レセップスへと通信回線を開いた。

「あー、こちら地球連合軍所属、ムウ・ラ・フラガ少佐だ。レセップス、聞こえるか?これよりレジスタンスの追跡に入る」
『あー、こち――セップス、聞こえている。――は了解した。無理の無いて――に追跡をして欲しい』
「了解!」


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 バルトフェルドの声がノイズ交じりで聞こえて来ると、ムウは少し軽い口調で返答した。
 軽くスロットルを開けたスカイグラスパーは、「早く逃げろよ」と言う意味も込めて、レジスタンス達の後方から近付き始めた。
 レジスタンス達は時折ランチャーで攻撃して来るが、距離がある為に簡単には当たる事は無い。『エンデュミオンの鷹』と呼ばれるムウを、素人に毛の生えた程度の者達が撃ち落そうと考えるのが間違いなのだ。
 ある程度飛んだ所で、後部シートに座るトールが報告の為に声を上げた。

「後方、約三〇〇〇、ザフト軍の戦闘ヘリが追跡して来ます!」
「……こりゃ、不味いな。あの馬鹿ども同じ方向に逃げてやがる。追手が来てるってのに、散りながら逃げろってんだよ」
「どうするんですか?」

 ムウは一瞬、遥か後方を飛ぶ戦闘ヘリへと目を向けて確認をすると、トールがどう対応するのかと聞いて来た。
 その瞬間、再びスカイグラスパーに向けてレジスタンスからのランチャーが発射される。
 ムウは軽く操縦桿を倒して機体を真横に倒して攻撃を回避する。トールは徐々に慣れて来たのか、悲鳴を上げる事も無かった。
 体勢を戻したムウは軽く上昇させると、眼下にレジスタンスを見ながら口を開いた。

「あんな物で俺を落とせる訳無いのになぁ……。こりゃ、ミサイルの一発もお見舞いした方が良いかもな」
「撃つんですか?」
「いつまでも追跡してる訳には行かないし、やるしかないでしょ」

 トールの問いに、ムウはおどけながら答えた。
 ここまで来ればアムロの作戦は成功したも同然なのだから、勿論ムウは彼らを殺すつもりなどは無い。後はレジスタンス達が追跡され難い様に逃げてくれれば良いだけなのだ。

「さてと。お前ら、もう一発おまけしてやるから、とっとと散って逃げろってんだよっ!」

 ムウはスカイグラスパーを少し降下させると操縦桿のボタンを押し、レジスタンスの一団へ向けてミサイルを二発発射した。


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 砂漠に横たわる数多くの破壊された車両からは、炎と煙が舞い上がり、逃走したレジスタンス達を除く反抗者の掃討は完全に終了していた。
 ザフト軍は一応、ラクス・クラインがいる事もあり、モビルスーツと戦闘車両等などには戦闘の後始末を行わせている。
 しかし目の前の戦場での出来事が終わっただけであって、未だ逃走したレジスタンスは健在であり、隊長であるバルトフェルドは、追跡に向かわせた戦闘ヘリからの報告を待っている所だった。

『こちら、スカイグ――パー、ムウ――ラガだ。聞こ――てるか?』

 レセップスのブリッジにスピーカーを通して、逸早くレジスタンスの追跡に入ったムウの声がノイズ交じりに響いた。

「こちら、レセップス。アンドリュー・バルトフェルドだ」
『レジスタ――は北東の方角へ向かっ――るが、散開し――げ始めた。これ――追跡は不可能だ』

 バルトフェルドはインカムを耳に当ててムウの声に応じると、追跡の報告が返って来た。
 一瞬、眉を寄せたバルトフェルドはダコスタへと顔を向ける。

「……ヘリはどうした?」
「地球軍モビルアーマーの後方、約三〇〇〇を追跡中です」
「連絡して確認しろ」

 ダコスタの代わりにオペレーターがヘリの所在を報告すると、ダコスタがオペレーター確認する様伝えた。
 一分程経って戦闘ヘリからの報告が纏まると、ダコスタがバルトフェルドにその確認内容を告げる。

「どうやら連絡の通りの様です」
「ほう、そうか……。まあ、そうなら仕方あるまい。ヘリに帰艦命令を出せ。それから、エンデュミオンの鷹殿にもご帰艦いただけ。感謝の言葉を忘れるなよ」

 報告を聞いたバルトフェルドは、微かに苦笑を浮かべて指示を出した。
 アイシャが少し可笑しげにバルトフェルドに顔を向けた。

「アンディ、どうするの?」
「ん?協定もあるからね、今は何もしないさ。それに彼らのお陰で残りは殲滅出来たのだから、その辺りは感謝しなくてはね」
「益々やりたくなっちゃった?」
「ああ、勿論だとも。それも停戦が終わるまで我慢すれば良い事だ」


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 バルトフェルドはアイシャの問いに笑みを浮かべて頷くと、そのままレジスタンスが逃走した方角へと目線を向けて、再び口を開いた。

「だがその前に、悪い子にはきっちりお仕置きをせんとな」
「そうね」

 アイシャは軽く微笑んで頷いた。
 そうして窓の外を見続けていると、後ろから一人のオペレーターがやって来た。

「隊長、本国よりの命令が届いています」
「ん、分かった。……ほう、連合事務次官の娘を助けていたとはな。これでは人質交換だな」

 オペレーターから薄い紙の束を二つ受け取り、数枚捲って内容を確認すると、バルトフェルドは命令を皮肉るかの様に口元に笑みを浮かべた。
 そして、もう一つの命令書の紙束を捲り始める。

「――!?……おいおい、これは冗談か何かのたぐいか?」

 バルトフェルドが手にしている命令書がその握力に寄って折れ曲がった。
 一瞬ブリッジに緊張が走り、その場にいた全員がバルトフェルドに目を向けた。明らかに砂漠の虎が見せているのは怒りでしかなかった。

「隊長……?」
「見てみろっ!」

 何事かとダコスタが声を掛けると、バルトフェルドは手にしている紙束を乱暴に突き出した。

「これって……本当ですか!?」

 紙を受け取り、目を通すダコスタは目を丸くして声を上げた。
 そこにはバルトフェルドに取っては多いに不満であろうが、この土地を好きにはなれないザフト兵に取っては最高の命令が記されていたのだった。


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 何とか追っ手を振り切り生き残ったレジスタンスの者達は、自らの前線基地とも言える本拠地へと無事に生還を果たしていた。
 だがその損害は大きく、無謀な行動に賛同して戻って来た者の数は半分にも満たない。
 そして今、その行動を先導したエドルが全員の前で組織のリーダーであるサイーブに殴り飛ばされていた。

「――馬鹿野郎がっ!」
「――あぐっ!」
「エドル、お前が勝手に煽って先走った結果がこれだ!」
「……なんだとっ!?地球軍の野郎どもがザフトと手を組んだ所為だろうが!」
「自分で煽っておいて、ふざけた事を言ってんじゃねえ!」

 サイーブは口元の血を拭って反論をして来るエドルを見下ろしながら罵声を浴びせた。
 それを見ていたカガリが止めに入るべく、サイーブに向かって怒鳴った。

「やめろ、サイーブ!奴らがザフトと手を組まなければ……アフメドや他のみんなだって死なずに済んだかもしれないんだ!」
「……それは無いな。あの場で地球軍が先に攻撃して来なければ全滅していただろう。お前達は気付かなかったのか?」

 全員の目がカガリに向けられるが、その言葉を否定する様にキサカが歩み出て来た。
 カガリは一瞬絶句するが、怒りを募らせキサカを睨んだ。

「なっ!?なんだと、キサカ!?」
「あの攻撃の当初、地球軍が一発でも当てて来たか?」
「実際にザフトと手を組んで攻撃をして来たし、あの時だってストライクが私達を押し潰そうとしたのをキサカだって知っているだろ!」
「ストライクに一度は助けているんだぞ」
「あんなのは偶然だ!」

 反論するカガリにキサカは諭す様に言うが、当のカガリはそれを認めようとはしなかった。
 戦場での事を逐一思い出しながら、キサカは自分なりの推論を導き出す。

「あのストライクの動きは、私達を逃がす為の時間稼ぎだ。そうでなければ、バルカンがあると言うのにパーツを切り離してまで殴りに来る理由が無い」
「……ああ、癪な話しだが奴らに助けられたな」


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 キサカの言葉にサイーブは顔を歪めて苦々しげに頷いた。
 納得出来ないカガリは声を張り上げて二人を怒りをぶつける。

「ならどうして、奴らはザフトを討たない!?」
「カガリ……お前は俺達とあの軍艦に行って話しを聞いただろう。地球軍はザフトの勢力下で停戦している上に、しかも船は動けないと来てる。理由は明白だ。迂闊な行動が、どう言う結果を招くか分かったか?」
「……し、しかし、地球軍は元々ザフトの敵じゃないか!あの時ザフトを倒してしまえばアフメドが死ぬ事は――」
「――ふ、ふざけるなっ!あんな連中が俺達を助ける様な真似をする訳無いだろっ!俺は間違ってねえ!」

 キサカの言葉に反抗する様に、カガリは犠牲になった少年や仲間達を死へと追いやった原因を必死に説こうとするが、それを遮る様にエドルが立ち上がって怒鳴った。
 結果的にキサカが放った言葉は、カガリだけではなく、エドルやその行動に乗った者達へも突き刺さっていた。

「お前が自分のやった事を棚に上げて言うんじゃねえ!……分かってんだろうな?こいつを連れて行け!」

 サイーブは再度殴り飛ばすと、先程の戦闘に参加する事の無かった者達が倒れたエドルの両脇を固める様にして基地の奥へと引き摺って行く。
 引き摺られて行くエドルはサイーブに懇願するかの様な声を上げた。

「お、おい!?嘘だろ、サイーブ!?」
「サ、サイーブ!?」
「この土地の者じゃないカガリには関係の無い事だ、黙ってろ!」

 余りの事に慌てたカガリは困惑しながら止める様にの目を向けるが、それがサイーブの怒りに火を着けた。
 元々、カガリもキサカもこの土地の人間では無い。サイーブ達からすれば、このレジスタンス組織に協力と支援をしてくれているからこそ置いているだけであるのが本音なのだろう。

「だ、だけど!?」
「サイーブの言う通りだ。我々が口を出す事では無い」

 食い下がろうとするカガリの肩に、キサカは手を添えると首を振って諭した。
 何者であれ、土地以外の者が介入する事を嫌うと言う、古来よりの考え方があるからこそ、このレジスタンスのが成り立っている理由でもある。
 サイーブの言う通り、この土地の者で無いカガリには決定権は無く、これ以上の介入は許される事は無かった。


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 アークエンジェルの医務室の扉が空気の抜ける音と共に横へと開いた。
 扉の両脇に立つ警備兵二人がそろって顔を向ける。

「ふわぁ……。私、疲れてしまいましたわぁ……」

 扉からはDNA鑑定を終えた疲れからか、体をしならせる様に伸びをするラクスの姿があった。
 少しばかり間抜けな光景に、警備兵の緩い視線が淡いピンク色をした髪の少女に向けられた。

「……あらぁ。……えーっと、お仕事ご苦労様ですぅ」

 伸びを終えたラクスは誰かに見られると思っていなかった様で、目をぱちくりとさせると笑顔を作って誤魔化す様にお辞儀をした。
 警備兵は呆気に取られながらも、その緩さに釣られてか少しばかり頭を下げると、ラクスはそのまま「失礼すますぅ」と言って、まるで逃げるかの様に小走りで医務室を後にした。
 そうして曲がり角まで来て医務室が見えなくなると、ラクスは自分に宛がわれている部屋へと向かって歩き出した。

「……途中、外が騒々しかった様な気がするのですが、何かあったのでしょうか……?」

 ラクスは検査の途中、外が慌しかった事を思い出して呟くが通路には窓など無く、外の様子を確認する事など出来ない。
 自室か展望デッキで外の様子を確認すれば良いかと思い直して歩みを進めていると、前方からアムロとキラが歩いて来るを見つけた。

「ご苦労様です!あのぉ、キラ、何かあったのですか?」

 足早に二人の元へと駆け寄ると、ラクスは挨拶をしてキラに外で何か起こったのかを聞いた。
 シャワーを浴びたばかりの為、髪が乾き切っていないのキラは、その様子から外の事を知らないのを知ると、ラクスが血生臭い事を知る必要は無いと思い、笑顔を見せて答える。

「うん、ちょっとね。でも大丈夫。もう済んだし、ラクスが心配する様な事じゃ無いから。それよりも今、終わったの?」
「はい!ついさっき終わったばかりですわ」

 ラクスは満面の笑みを浮かべて頷いた。
 その若い二人にお喋りにアムロは微笑ましい物を感じるが、昨日、キラに「ラクスと関わり過ぎるな」と言った事もあって、神妙な顔を見せた。

「俺は行っているぞ」

 アムロはブリッジに向かう為に、キラに一言声を掛けると返事を待たずに歩き始めた。
 慌ててキラは返事をすると、思い立った様にアムロを呼び止める。

「あ、はい!……あのアムロさん、待ってください!」
「なんだ、キラ?」
「……あの……」

 アムロは数歩歩みを進めた所で顔を向けると、キラは言い淀みながらラクスへと視線を向けた。

「ん?」


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 キラの目線の先を追う様にアムロもラクスへと目を向けると、当のラクスは心配そうな表情を浮かべて傍らに立つキラを見詰める。
 昨日、アムロに言われた事もあって、最初に認めてもらわねばとキラは思っていた。

「……あ、あの、アムロさん。ラクスと関わり過ぎるなって言ってましたけど……、僕はラクスの事が好きで……、それで……」

 目線をアムロへと戻し、恐らく反対するであろう自分の師匠に意を決した様に、キラはラクスへの想いを告げた。

「私もキラの事が大好きですの!」

 ラクスは一瞬目を丸くするが、傍らに立つ恋人となった少年の行動が嬉しいのだろう。心からの笑みを見せると、自分の腕をキラの腕に絡めて幸せそうな表情をアムロに見せた。
 その二人の行動にアムロは呆気に取られるが、若い二人を見て若さと言う物を感じ、改めて自分が歳を取った事理解して苦笑いを浮かべる。

「……そう言う事か。自分達で決めた事なら僕が反対をする必要は無いさ。僕とキラが同じ目に合う訳でも無いだろうからな。二人とも、これから大変だろうが頑張れ」
「「はい!」」

 思わぬエールを送られ、二人は嬉しそうな顔を見せて頷いた。特にキラは反対されるであろうと思っていただけに、その喜びようは一入の様だった。
 笑顔を見せる若い二人を見て、親心の様な物が働いたのかアムロはキラに告げる。

「……キラ、今日はゆっくり体を休めろ」
「えっ、良いんですか!?」
「立て続けに戦闘があったばかりだぞ。流石に体を休めないと持たないだろう。それに野暮な真似はしたく無いからな」

 キラが驚いて聞き返すと、アムロはキラの肩を軽く叩いてそのままブリッジへと歩いて行った。
 残された二人は、アムロの言葉に顔を赤く染めて寄り添いその背中を見送った。
 アムロが通路の向こう側に消え、キラは緊張が切れたのか軽く息を吐いた。

「ふぅ……良かったぁ」
「ええ。まるでアムロ大尉はキラのお父様の様ですね」
「……色々教えてもらってるし、父と言うより面倒見の良い兄みたいな感じかな。アムロさんが長男なら、次男がムウさんで。……昨日はラクスに関わるなって言われたから反対されると思ってたんだ。だからアムロさんにラクスとの事、認めてもらえて驚いてる」
「キラは地球軍の所属ですし、私はプラントの人間ですもの。それだけ心配していたんでしょうね」
「……うん。本当に認めてもらえて良かったよ」

 笑顔で言うラクスの言葉に、キラは実感が湧いて来たのかしみじみと頷いた。
 横顔を見詰めるラクスは、絡めた腕の力を緩めるとキラの正面へと回る。

「キラ……私、うれしかったですわ」

 ラクスは愛らしい笑みを見せると爪先立ちをしてキラの唇にキスをした。

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